第15話 屋台
銃を構える訓練に集中をしていたら、もう夕方だ。
空が茜色に染まっている、そろそろ夕飯にするか。
まだ日の出てるうちにミケさんに教えてもらった北門付近の飲食店へと行くとするか。
ハンドガンを空の弾倉から弾の入った弾倉に入れ替え、きちんと目視でロックが掛かってるか確認してから腰にしまう。
宿のある西門から北門へと内壁沿いに進む。
北門は初めてこの町に来たときに通った門だ。
あの時と同じように活気のある通りが見えてくる。
活気があるのは飲食店が多いからだろうか?
よく見れば南門ほどではないが空き地に露天が並んでいる。
北と南は種別は違えど商売が盛んなようだ。
ミケさんに教えてもらったのは空き地にある屋台だが・・、見つけた。
のれんにうさぎの模様が書いてあり、店先に皮を剥いだとはいえ、ハゲネズミを吊るしてあるのは飲食店としてどうなのだろうか?と思うが。
この世界、そこら中に放射能があるし意外と雑菌が繁殖しにくいのかもしれないが。
「あら、いらっしゃい。」
のれんをくぐり、目の前に現れたのはうさぎだ。
ピーターラビットをそのまま大きくしたような茶色いうさぎの亜人のおばさんが店主のようだ。
驚かないぞ、ミケさんに紹介してもらった時点で亜人かも?と思ったからな。
「食事いいですか?」
「ええ、うちはハゲネズミとカエル肉専門でネズミ肉の煮込みが評判だよ。」
屋台の天井にメニューの書いた板が吊るしてあったのでその中から適当に頼む。
「じゃあ、その煮込みとパンとカエルの串焼きをおねがいします。」
「あいよ。25シリングだよ。」
代金を渡してすぐに煮込みとパンが出てくる。
カエルは今焼いているようだ。
煮込みはシチューのようだ。
ハゲネズミの味は豚肉に近いかな、大振りに切られた肉が噛み応えがあって食べてるという実感が強くて良い。
スープも少し薄めのシチューで控えめな味だが、それが肉の味を引き立てているように思える。
パンはインドのナンのようだ。
薄く平べったい生地で香ばしく、あまりモチモチはしていないが噛み千切るときに少し伸び、ちょっと抵抗をしてくる。
なかなか顎を楽しませてくれる店のようだ。
亜人さんの店だからかな?
食べながら周りをうかがう。
店はかなり繁盛しているようだ。
10客ほどあるイスはほぼ埋まっている。
犬の亜人と羊の亜人が談笑してる姿もある。
あまり亜人を見かけないがいるところにはいるんだな。
そうこうしている内にカエルの串焼きが来た。
見た目は頭を落としてこんがり焼かれたカエルの姿焼きでちょっと食べるのに勇気がいる。
勇気を出して齧りついてみると以外にも臭みが無く、鳥の胸肉のような淡白だが噛めば噛むほど味が出てくる。
美味いと判ればもう怖いものは無い、あっという間に食べ尽くし、残った骨からきれいに肉をこそぎ取っていく。
満足できる食事だった。
うさぎのおばさんに礼を言い、朝からもやってるか尋ねたら、「やってるよ」との返事を受け、店を出る。
明日の朝も来よう。
宿に戻り、またアーティファクトの検証を始める。
今度は装備に関してだ。
いつも戦闘服の特殊ポケットに入れてるがそれ以外でも発動するかどうかを確かめる。
バックパックに入ってる腰につけるサイドバックに入れてもアーティファクトが起動するかどうか?
腰にサイドバックを付け、クリスタルエッグを中に入れる。
何も起きていないように見えたので今度は装備すると念じてみた。
すると少し光った。
オブシディアン・タールの実験をする時も装備すると念じたときに光った様に感じたのは偶然ではなかったようだ。
続いて、スパークトルマリンを入れる。
これには苦い思い出から緊張したが念じて光ってから体に電気が走らないので成功したのだろう。
戦闘服を今日買った服に着替え、サイドバックを付けて裏庭に行く。
現在、装備しているアーティファクトはクリスタルエッグとスパークトルマリンだ。
クリスタルエッグは放射能を除去するため、スパークトルマリンは疲労の回復効果がある。
この疲労の回復効果を試すためにこれから筋トレをしようと思う。
まずは腕立てだ。
とりあえず30回してみたが疲れを感じない。
腕を曲げてる時に筋肉に掛かる負荷を感じるが腕を伸ばして一呼吸すると腕からじわじわと疲れが抜けていくのを実感できた。
1回するごとに一呼吸を入れて、ゆっくりとやってみたところ、なんと100回しても疲れない!
俺は30回もすれば腕がぷるぷるしだすのだがこれなら何度でもできそうだ。
調子に乗って300回したところで腕が上がらなくなった。
さすがにこれだけやると腕の筋繊維が傷んで限界になったのだろう。
それと少し腹が減った。
さっき食べたばっかしなんだが。
次にスクワットを500回したところで腹が鳴り出したので止める事にする。
スパークトルマリンの疲労回復効果は新陳代謝の超活性によるものだ。
疲労を回復するためのエネルギーは自前のものを使うみたいだな。
また食べに行くかと振り返ったら俺以外にも人が居て、「何だコイツは!?」という目で見てきていた。
井戸で体をきれいにした後、また戦闘服を着てさっきのうさぎさんの店へと向かう。
またうさぎのおばさんの屋台へとやって来る。
「おや、また来たのかい?」
「ええ、またお腹すいちゃって。」
よく食べるんだね、とうさぎのおばさんは笑っている。
今度はネズミの串焼きとカエルの唐辛子炒めとパンを頼んだ。
串焼きは煮込みよりも肉の味が濃く、口いっぱいに広がる肉の旨みに胃が沸き立つ。
カエルの唐辛子炒めはぶつ切りのカエル肉が真っ赤に染まっていてかなり辛く、酒を飲みながらちびちびと食べたいなと思った。
ちなみにこの屋台では酒は扱っていないそうだ。
うさぎのおばさんが言うには揉め事が起こると面倒だからとの事だが、その面倒に亜人の立場の弱さが含まれてる気がする。
まぁ、そこら中の人間が武装している町だ、酔っ払いが銃を抜いたらと考えるとたしかに面倒なのかもな。
代金は30シリングだった。
腹もいっぱいになったし、宿に帰って寝るか。
ただし、アーティファクトを付けたままでだ。
寝てる間に筋肉疲労を治してくれればいいんだが。
亜人をさん付けで呼んだり、呼ばなかったりするのは外国人を外人と呼んだり、外人さんと呼んだりする場合のなんかアレです。