第13話 バザー
ミケさんがハゲネズミ狩りをしたいと言うので、そのサポートをすることにする。
と言っても俺がするのは危なくなったときに出るだけだ。
狩りの仕方も生き餌の用意も、そばで見ていたミケさんなら大丈夫だろう。
草原の中で次の狩場となる場所を探す。
今、使ったところは血の臭いが残って警戒されるからだ。
ちょっと歩き、草が生えてない見通しの良い場所を見つけたのでそこにカエルを仕掛けて、俺たちは丈の長い草に隠れる。
カエルは絶望してるような顔をしてるな。
必死に川のほうへ向かってゲコゲコ鳴き出した、ちょっと可哀想だ。
カエルの必死さが呼んだからか、1分もしないうちに近くの草むらが揺れる。
獲物が来た。
ミケさんは、と見れば横に居たはずなのに居ない。
びっくりして辺りを見まわせば迂回しながらハゲネズミの後ろを取ろうとしてるミケさんを発見した。
何時の間に?という気持ちもさながら、ミケさんは俺より早くハゲネズミの接近に気づき行動を開始していたのだろう。
流石ネコの亜人、感覚の鋭さも足音をさせない気配の消し方といい、生まれつきのハンターとでも言ったところか。
技量を見れば、俺では適わないなと思う。
ハゲネズミが警戒しつつもカエルに近づき、噛み付こうと少し足を速めた瞬間、ミケさんは飛び掛り、組み付いた。
左手がハゲネズミの胴に回され、右手が首へと回されている。
右手のナイフは刃を内向きになるように持っており、それで首を切り裂いたようだ。
「ミケさん、凄いですよ!動きが達人みたいでしたよ。」
「おにいさんが狩りかたを教えてくれたおかげにゃ。
囮を使えばこんなに簡単に獲れるなんて知らなかったにゃ。」
聞けば、前にハゲネズミを狩ろうとした時は不意にバッタリ獲物と出会い、そのまま取っ組み合いになったらしい。
その際に噛まれたそうだ。
「これであちきでもハゲネズミを狩れそうだにゃ。
明日からはネズミ肉食べ放題にゃ。」
と、ニコニコ顔で言う。
「武器はあるんですか?」
「こん棒だったら娼館で借りれるにゃ。
今日みたいな狩りだったらこん棒で十分にゃ。
明日は朝からがんばるにゃ!」
ナイフを返してもらい、ハゲネズミを背負うのを手伝う。
ミケさんが2匹も運ぶのは大変だからな。
俺も一匹背負い、ミケさんを娼館まで送る。
別れの際、ミケさんはありがとにゃー、とこっちが見えなくなるまで手を振っていた。
よほどうれしかったんだな、俺もうれしく思う。
ただ、西のスラムを通る際に、いつもカツアゲをしてる連中がこちらを見ていたのが気がかりだ。
さて、自分の分も頑張らないとな。
西の草原に戻り、ミケさんからもらったカエルを仕掛けて3時間粘り、何とかハゲネズミを4匹狩った。
4匹で60kgほどになるが今日は重量軽減のアーティファクトがある。
さっそくバックパックに獲物をしまい、背負う。
おお、かなりの重さだ。
肩に重さをずっしりと感じる。
ここからオブシディアン・タールを範囲指定で使い、バックパックを指定した場合、ちゃんと中身の重さも吸い取るか実験だ。
念じればすぐに重さを感じなくなり、肩には60kgを超えた分の少しの重さしか感じない。
これは楽だ、これなら獲物を背負った状態でも戦えそうだ。
川辺で簡単に食事をとった後、ギルドへと向かう。
食料は後1食分しかない、今日の夜にでもミケさんに教えてもらった北の飲食店にでも行ってみるか。
今日は町中でやることが多いなぁ。
ギルドに行き、おかまさんに挨拶をして獲物を買い取ってもらう。
4匹で200シリング、今の手持ちと合わせて310シリングか。
おかまさんへの挨拶もそこそこに、次はバザーだ。
替えの衣服をそろそろ買わないときびしい。
懐もきびしいが。
バザーは町の外壁内で南門の近くだ。
バザーは大きな広場に露天が建ち並んでおり、一部南門や内壁に近い場所はきちんとした店舗が並んでいる。
食品を売っている屋台もあったので見てみたが、大振りなネズミの串焼きが20シリングもするので躊躇する。
宿代が50シリングなのに串焼き一つに20シリングも出せないだろう、自分の金欠振りに内心焦った。
屋台を見て回ったところ、嗅ぎ覚えのある香ばしい匂いに気づき、匂いを辿ったらなんとコーヒーを出している屋台を見つけた。
この世界では黒茶と言うらしいが、この匂いはコーヒーだ。
1杯10シリングだったので、これぐらいならいいかと購入する。
この世界のコーヒーの味は・・、うーん、結構な深煎りだな、フルシティぐらいか。
酸味がほとんど無く、苦味と香ばしさが喉を通り、コクの余韻が口中に残る。
深煎りのコロンビアかマンデリンに近いと思った。
俺はコーヒーが好きで、自分で焙煎をしたりして楽しんでいた。
一番好きなコーヒー豆はエチオピアのモカだ。
これはうんちくだが、エチオピアはコーヒー発祥の地と言われモカと言う港を通じて、中世のヨーロッパにコーヒー豆が輸出されていたそうだ。
ヨーロッパで流行ったコーヒーはやがて大航海時代を経て、新大陸であるアメリカ大陸に運ばれ、やがて世界中で流行することとなる。
新大陸ではコーヒーの品種改良が盛んに行なわれた為、今残っている原種に近いのは、エチオピアとその近くにあるイエメンぐらいだと言われてるらしい。
俺はその原種に近いエチオピアのモカが好きで、部屋で「ふふ、大航海時代の味がする。」とか独り言を言いながら楽しんでいたものだ。
ちなみに、コーヒー豆はコーヒーの実という果物の種のことで、これを乾燥させたものをコーヒー生豆と呼び売られている、ちょっとややこしい。
エチオピアのコーヒー豆は昔ながらの機械を使わない乾燥方法をやってる農家が今でもあり、これがとてもフルーティな酸味で美味い。
この乾燥方法は収穫したコーヒーの実を干して、ドライフルーツにした後、中の種を取り出すという非常に手間のかかるやり方で、現代では廃れかかってるのだ。
ドライフルーツになる過程で中の種は、実の果汁を吸い込み、良質な果実酸を蓄えるのだ。
これを中煎りのハイローストにし、水出しで淹れるのが非常に美味かった。
苦味がほとんど無く、酸味がフルーティで酸味の層が厚く、少し青っぽいような新鮮なコーヒーの香りがして、紅茶に例えるならグレープフルーツティーの様だった。
コーヒーが南国の飲み物だ、というのがよくわかる味だ。
ただ、モカ100%の水出しコーヒーを市販されているのを見たことが無く、自分で焙煎しなければ飲めないのが残念だ。
あれを飲めば、誰でもコーヒーに対する苦いという先入観が変わると思うのだが。
さて、コーヒーはともかく衣類を扱っている店を探さないとな。
30分ほどうろついた結果、ようやく中古の服を扱う店を見つけた。
欲しいのは上着が3枚にズボンも2枚欲しいのだが、値段を聞くとそこそこ状態の良い上着で100シリング、ズボンも丈夫なのだと150シリングするそうだ。
手持ちは300シリング。
宿代とこの後の食費を考えれば上着2枚でいっぱいだな。
ズボンが無いのは厳しいので、他の店も当たることにする。
他の店も見てみたが、どこも似たような値段だった。
そんな中、南門近くで銃器を扱ってる店を見つけたので寄ってみる。
カウンターの奥に商品が並べられており、直接手にとって見ることはできないようだ、当たり前か。
一番安いハンドガンでも5000シリング、ライフルだと20000シリング、一番高いハンドガンのようなものは20万シリングもする!
スキンヘッドで口の周りにヒゲを生やした店主に聞いたところ、高いヤツはレーザーガンだそうだ。
ここまで小型化した物は現在では作られておらず、遺跡から発掘したものだそうだ。
遺跡は旧世界通貨のクレジットといい、お宝の山だな。
当然、銃器に手は出ないので弾を見ていく。
ハンドガン用の弾が安いので100シリングから並んでいる。
ただ同じ口径に見える弾丸に2種類の値段が付けられてるのに気づく。
ハンドガン用の9mm弾が100シリングと200シリングに分かれているのだ。
店主に聞くと、高いほうが正規品で安いほうがハンドロード弾という、いわば手作りの非正規品だそうだ。
ハンドロード弾は火薬が少なかったり、不発だったりすることがあるので安いらしい。
この店では不発弾は扱っていない、と店主は豪語していたが。
だが、これを見て思うことがある。
正規の9mm弾が200シリングするなら、売ったらいくらで買い取ってもらえるのだろう?
バックパックに30発入りの紙でできた小箱が1つ、腰のグロック17は装弾数17発だったはずだ。
バックパックの30発は売ってもすぐに問題があるわけでもないし聞いてみるか。
「すいません、弾薬の買取はしていますか?」
「ん?してるぞ、何を持ってきた?」
「9mmの多分、正規品だと思うんですけど。」
「見せてみろ。」
バックパックから弾薬の小箱を取り出し、渡す。
店主は1発、1発確認していく。
「確かに正規品だな1発、80シリングでどうだ?」
80シリングかぁ・・、100シリングは越えると思ったんだけどなぁ。
売り渋って、他所の店も回ってみたい、と言ったら「じゃぁ100シリングでどうだ」と引き止められる。
悪くない値段なので了承する。
ついでに聞いてみたら、弾薬も遺跡から出ることはよくあるらしい。
昔の弾薬箱は優秀で、100年経っても中の弾薬が劣化していないらしい。
もし弾薬箱を見つけたら持って来い、高く買うと言われた。
店を出て、南門の外壁に寄りかかりながら、ポケットの中を探る。
今の所持金が3300シリングだ。
SHOPアプリで買えば、9mm弾は1発2ルーブル。
目の前に光明が差した気がした。




