第146話 帰り道1
前話の閑話で火炎放射器を書き忘れていたので、書き足しました。
「出発する前にこれを着ておけ」
そう言ってジニさんが、マントとターバンを投げ渡してきた。
「お前たちの格好じゃ、いくらもしないうちに熱中症になるぞ」
「あ、すいません」
ありがたく頂くことにした。
クーンはこのままバックパックの中に入っていてもらう予定だから、1つは返す。
「これでいいのかにゃ?」
ミケちゃんが早速身に付けるが、ターバンの隙間から猫耳が出てしまっている。
それを見て、ジニさんがラクダから降り。
「耳は出すな、顔は目以外隠しておけ」
巻き直す。
それを見て、俺とポチ君も身に付けていく。
身に付けた感想は、やや息苦しい。
まだ日が昇り始めたところで肌寒いから、マントは温かくて良いが。
口元まで隠すターバンは呼吸がややしづらく、吐いた息が首筋を温めた。
「やや息苦しいだろうが、慣れろ。息は静かに深く、それが体力を温存する砂漠の渡り方だ。
それじゃ行くぞ」
そう言ってラクダに飛び乗ると、それにランちゃんが続き、ジニさんの後ろに体を寄せた。
ランちゃんは背に旗の様なものを括りつけている。
端午の節句、鯉のぼりのような青い流し旗だ。
「その旗は誘導旗だ。うちのラクダたちはこれについて行くように躾けられている。ほれ」
ジニさんがラクダを少し進ませると、俺たちのラクダもそれを目で追い、その場で足踏み。
背に乗る俺へと振り返り、目線を合わせてくる。
どうすんの?とでも言いたげだ。
それに腹を軽く蹴り、返事を返せば前に進み始めた。
「お前たちの町まであたしが先導してやる」
「あ、すいません。ありがとうございます」
俺が軽く頭を下げると。
「お前はよく頭を下げるな? 男らしくないからそういうの止めた方がいいぞ。
それと恩に着せるつもりだから、気にしなくていいぞ」
「そうですか」
ドライだ、この人。
振る舞いといい俺よりも男らしい気がする。
なんだか自信無くすなあ、とチラリと横を見たところ、ミケちゃんとポチ君がなんとも言えない視線を返してきた。
それから1時間、先行するラクダの旗を追って西へと進む。
砂地を駆けるラクダの速度は意外と速い。
足捌きはゆったりとしているが、その速度は原付よりも早い気がする。
時速40kmぐらいだろうか。
日も上がるにつれ徐々に気温も上がり、空気が熱を持ち始めた。
「暑くなってきたにゃー」
ミケちゃんがターバンに手を掛ける。
「外すなよ、蒸れても直接日光を浴びて頭が茹だるよりかはマシだろう?」
ジニさんが注意した。
そこにランちゃんが続く。
「ミケちゃん、がんば!」
「うー、がんばるにゃぁ」
ミケちゃんが辛そうだが気持ちはわかる。
吹かれる風はドライヤーの様で、服の隙間から入って来て、体温を否応無しに上げてしまう。
冷やそうと浮かび上がる玉の様な汗もみるまに乾いていき、体から水分を奪われているのを実感した。
「あとどれくらいですか?」
「もうすぐだ。ほら、見えてきた」
ジニさんの指す先には、先ほどまでいたオアシス村のような影が遠くに見えてきた。
門番と挨拶をかわし中へ、そのまま村の中心にある事務所へと向かう。
ラクダから降り、轡を引きながら道中について話す。
「今日はここ、カパックで休むぞ」
「もうですか?」
まだ村を出て1時間半と言ったところだろう。
「ああ、昨日言ったようにラクダは1日2時間ほどしか走れないからな。
ここから先は途中に休む所が無い。今日はここまでだ」
「そうですか」
「そんな顔をするな、チェルシーまで4日あれば辿り着ける。あたしはここの事務所に顔を出しておく、後は……ラン!」
「はい!」
「水場の世話と事務所裏のテント、適当に見繕っておけ」
「わかりましたー」
そのまま別れ、俺たちはランちゃんについていく。
メヒコよりも一回り大きい泉で水を分けてもらい、テントへ。
「この辺のは隊員用のテントだから使わせてもらいましょうー」
「俺たちも大丈夫?」
「多分その辺をジニさんがここの隊長さんと話し合ってると思うので、問題ないと思いますよー」
「ありがたいにゃー、早く休みたいにゃ」
ミケちゃんが暑そうに手で仰ぐ。
「そうだね」
端っこに有った2つのテントを使わせてもらうことにして、ラクダをその側に止めた。
地面に杭が打ってあり、そこにラクダを繋げると、早速テントに入ってマントとテントを脱ぐ。
日陰の涼しい空気が気持ちよく、腰を降ろし深く息を吐く。
ミケちゃんとポチ君も水をがぶ飲みしている。
クーンは手持ち無沙汰か、銃器のメンテナンスを始めた。
ラクダにも水を与え、日陰で一眠りしたら食事だ。
その頃にはジニさんも戻ってきており、一緒に食事を取ることにした。
バックパックの中で見られないように食品を召喚し、パンとソーセージを手渡していく。
シチューの缶詰はルーブル節約のために1缶のみだ。
「おー、悪いな」
「ありがとうございます」
そう言って二人が受け取り、シチューにパンを漬けていく。
「ほう! これは手が込んでるな」
口に頬張ると、感心したようにシチュー缶を眺めている。
「うわあ、すごいですね! 西の国だとこういうのいつも食べるんですか?」
ランちゃんも驚き、次々とパンを千切っては漬けていく。
「そうでもないにゃー。あ、でもネザー姐さんのシチューも美味しいにゃ」
「そうだねー。ネザーさんのシチューも少し薄味だけど、ぼく好きだよー」
子供3人が楽しそうに談笑している。
その時、俺はと言うと。
「明日以降の日程はどうなるんです?」
「明日はここから西のハスカウ、都市同盟の都市だ。そこに寄った後、北西のシェルターを目指す」
「シェルター?」
「あたしたちで安全を確保した休憩地のことだ。さっき、ここの隊長に場所を聞いてきた。
そこで休んだら次はひたすら西へ。途中、一泊野営を挟んで進めばチェルシーまで着くはずだ」
「わかりました」
食事を済ませ、食後に板チョコを配ると流石にジニさんたちも驚いていた。
「何だ! この甘さは?」
「甘い! 甘いー♪」
二人が口に入れたチョコに驚く中、ミケちゃんとポチ君はまったりと味を楽しむ。
やや、ミケちゃんの食べる速度が早いか。
食べ終わり、指についたチョコを舐め取ると、こちらへとチラチラと視線を送ってくる。
昨日と同じだ、これは癖になってるなぁ。
が、可愛いので自分の分を分けてあげる。
それに気づいたポチ君もチラチラと視線を送り始めたので、残りを2つに割り分け与えた。
そのやり取りを見ていたランちゃんがジニさんへと、同じように視線を送るが。
ジニさんはガン無視してやり過ごしていた。
その日は早めに休み、次の日。
日が昇るのと同時に旅立つ。
東から登る日の光を背で受け、長く伸びた影を追うように砂地をラクダで走っていく。
20km進んだところで砂が切れ、ごつごつとした荒れ地に。
さらに20kmほど進んだところで遠くに街の影が見えてきた。
「あれがハスカウだ。中には入らないぞ、外の商人たちから水と食料を分けてもらおう」
そう言って向かう先は、街の外に張られたテントの群れだ。
どうやらこれから砂漠に向かう隊商たちが集まっているらしい。
次回で帰ります。
今週の投稿はここまで、次の投稿は金曜日になります。




