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第142話 帰り支度

 チタン合金製の棒を手に取る。

 長さが2mほどあるが、前に硬鞭を作ったときもこんな形の鉄筋を切り詰めて作った。

 突起部として圧着するナットも、おそらくチタン合金製のがある。

 これなら……。


「ミケちゃん、ミケちゃん」


「んー、なんにゃー?」


「これ」

 ミケちゃんに金属棒を渡す。

 訝しげにそれを持つが、強く握ってみたところで耳としっぽがピンッと立った。


「お、お?」

 棒を試すがめす握り、真ん中の部分を持って振り回し。

 棒の片方の先端を床に押し当て、体重を掛けて強度を測っている。


「お、まったく曲がらないにゃ。気に入ったにゃ。でもちょっと長いにゃー、半分……でもまだ長いにゃ。もう一握り切り詰めるにゃ?」

 そう言いながらしっぽを左右に振り、棒を眺めている。

 機嫌が直ったみたいで良かった。


 置き場を見れば、棒はまだたくさんある。

 あと4本ほど貰っていくか、荷物になるがそれぐらいならなんとか持ち帰れる。

 あと、やり残した事と言えば……。


「大サソリの部位証明か……」

 崖上に1体分あるが、どう持ち帰るか。

 鋏一つとっても俺の背丈に近い大きさだ。

 尾の先の毒針の部分はサッカーボール大で、まだ持ち帰れそうな大きさだが。


「あらかた粉砕しちまったよなあ」

 ビッグクーンの掘削ホイールでバラバラだ。


「それでしたら念の為、工作トンネルを覗いてみますか?」

 クーンが提案してくる。

 工作トンネルというのは掘り出した土砂を圧縮整形して、運びやすくする区画のことだ。

 ちょうど俺たちの居る場所の壁向こうなので、覗いてみることにした。





「うぇ……」

「うわぁ……」

 本来、人が入り込む場所ではないらしく、非常ドアを抜けた先には大きなベルトコンベアいっぱいに土砂と粉砕されたサソリの屍骸が乗っかっていた。


「こん中から探すにゃ?」

 ちょっと眉間を寄せながらミケちゃんが視線を向けて来る。


「ああ、なんとか探して持ち帰らないと」


「それでしたらお早く済ませた方がよろしいかと」


「ん?」


「もうすぐ水位がここまで達して来ます。ここは吹き抜けになっていますから……」

 クーンが言うように、ここは土砂を運ぶためにアームから直接ベルトコンベアが通っていて、トンネル上になっている。

 ポチ君がトンネルの端まで見に行くと。


「わ、水すぐそこまで来てるよ!」


「げ、急がないと!」

 それから手分けして大サソリの遺骸を手分けして捜した。

 幸い、大きいために他のサソリとの区別が簡単につくことから、見つけるのは簡単だった。

 関節の部分をハンマーで何度も叩いて砕き、毒針の部分だけを切り離す。

 なんとか3体分切り離したところで水が遂に俺たちの居る本体部分にまで昇ってきた。


 急いで脱出、途中正面入り口に寄って、入り口横のカードリーダーにケーブルを伸ばして、クーンがアクセス。


「大丈夫、閉め忘れはありません」

 ドアや窓のチェックをしていたようだ。

 そのまま荷物を抱えて橋を渡る。

 俺が鉄筋を抱え、三人は毒針の先に触らないように気を付けながら、とてとてと橋を渡っていく。

 対岸に着き、振り返ればビッグクーンが沈みつつあるところだった。

 クーンが静かにそれを見守る。



 ……

 …………

 それから少し時間を潰して、《オアシス》の置いてある所まで水が溜まるのを待った。

 ビッグクーンはその天辺まで完全に沈み、水の奥で黒い影となっている。

 《オアシス》は青く輝き、その下からは急激な水流が流れ落ち、渦を巻いている。


「じゃあ、取るか」

 そう言って稼働中の《オアシス》に手を伸ばすが、ちょっと躊躇う。

 ミケちゃんが前に止めたときはぶっ叩いて止めたそうだが……。

 触っても大丈夫だろうか?

 また、あの強制ログチェックが……。


「何やってるにゃ? さっさとやるにゃ、こうにゃ!」

 ミケちゃんの猫パンチ!

 叩かれた《オアシス》が空中から剥がれる様にして落ちる。


「わっ!」

 水面に落ちる前にポチ君が慌ててキャッチ!

 ミケちゃんがそれを受け取ると、ぞんざいに自分のカバンに投げ入れる。

 宝石大好きなミケちゃんにしては雑な扱いだ。

 そう思い、視線を向けると。


「ん? こんなの、これぐらいの扱いでいいにゃ。なんだったらこのまま沈めても良いんじゃないかにゃ?」

 どうやらミケちゃんの中では《オアシス》は宝石ではなく、危険物としての認識になったらしい。


「まぁ、危険だけど置いていくわけにもいかないし、嫌なら俺のバックパックに……」


「おにいさんは持たなくていいにゃ。あちきが持っておくにゃ」

 そう言うとさっさとカバンの口を閉め、背負い込む。

 どうやら心配されているようだ。

 服の裾を引っ張られ目を向けると、ポチ君が静かに微笑んでいた。


 さて、これでここでの仕事も終わりだと水面に目を向けるが、サソリたちの屍骸も底に沈んでいるはず。

 これ、飲んでも大丈夫なのだろうか?

 この後、新しいオアシスとして使われる予定の地なんだが。


「クーン、サソリたちの毒だけど…」


「多分大丈夫ですよ。水量から見てサソリたちの毒液は数億倍から数十億倍に薄められていますから。

 自然界で一番強力な毒物でも、体重に対して300万分の1に当たる量を摂取しないと効果が発揮されないと聞いたことがあります。

 ここまで薄められたら毒性も出ませんし、おそらく微生物に分解されるでしょうね。

 それよりも鉱物毒の方が怖いですが……、まぁ、露天掘りにされてから100年経つ場所ですし。

 それも大丈夫でしょうかねえ」


「それならいいか」


 今度こそ、これでここの仕事も終わりだ。

 バックパックを降ろし、荷物を括りつけ、カバンの口を開ける。

 そこに3人が押し合いながら乗り込む。


「よっ!と」

 それを背負って立ち上がる。

 さて、帰るか。



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