第137話 ヒント探し
《オアシス》の発動は無事済んだが、課題が一つ残る。
地下坑道を埋めるには水量をもっと増やさないといけないが、水量を100倍とかにしたら流石にクーンが耐えられそうにない。
どうするか、そう悩んでいると。
「とりあえずサーバールームに戻りますか? 他の手が見つかるかもしれませんし」
クーンが申し訳無さそうな仕草で提案してくる。
それにすかさず手を振り。
「いや、すまない。そうだな、もうちょっと考えてみるか」
ミケちゃんとポチ君による充電が終わるまで後3時間半はある。
時間内になんとか手を考えねば。
サーバールームに戻り、それぞれ情報探索をする。
俺はコントロールパネルから、クーンはサーバーに直接ケーブルを繋いで操作していた。
サーバーにはまだ俺の流したウィルスが残っている可能性が高かったので、それもデュプリケイターで除去してからだ。
一度流したウィルスにも、自壊信号を送ることで消去させることが出来ることがわかった。
そして中のデータを探っていくが。
「わかったのは会社の名前とココの容量ぐらいか……」
この掘削機、エクスカベーターを所有する会社の名前はタイタン・ディグダグ社。
以前にここで掘っていたのがノーム・コツコツ社だそうだ。
サーバーの容量は今のクーンの1000倍ほどあり、そのほとんどが地質データなどで埋まっている。
「記憶容量が尋常じゃないんだが、昔ってこれぐらいが当たり前だったのかなあ」
「いえ、そんなことは無いですよ。ココの設備が充実している謎が解けました」
クーンの方では収穫があったようだ。
「どうだった」
「どうやらこのエクスカベーターは移動式のデータ庫だったみたいです」
「なんじゃそりゃ」
「このエクスカベーター1つが丸ごとタイタン社の第3工事事業部として登録してあるのですが、それは表向きで。
実際には重要なデータを収めた移動式のデータ庫で、本社の方にはわざとダミーデータを置いてあったりしたみたいです」
「何でそんなことを?」
「どうもサイバー攻撃が盛んだったらしく、それから逃れる為みたいです。
地質データは一般から見ればマニアックな地図情報みたいなものですが、同業者から見ればまさに宝の山ですからね」
「へー」
「乗っ取られるのを恐れてAIを組み込まなかったようで。その為かセキュリティもかなり頑丈に作ったみたいですね。
アクセス権のマスター登録をしようとしたのですが、弾かれました」
「なるほどー」
2時間ほど探索した結果がこれだ。
俺の方からはココの記憶容量が凄いという事。
クーンの方からはここにはAIが無いことの再確認。
コレの記憶容量は凄い、これをなんとか《オアシス》相手に使えれば……。
そう考えていたところ。
「実は私の方からも提案が……」
……
…………
それを聞き、二人で考えたところ、いけそうだと判断した。
後は……、そう考えていたところでサーバールームのドアが開く。
「こっちはどうー?」
ポチ君だ。
暇になって様子を見に来たらしい。
今はミケちゃんが充電中かな。
「サソリをなんとかする方策がついたよ」
……
…………
それから充電が完了するのを待って、行動開始だ。
まずはシステムの掌握。
相当固いプロテクトが掛かっているようだが、デュプリケイター先生の敵ではない。
あっさりと最終プロテクトを破って、マスターアクセス権を取得。
名義をクーンに書き換え、次にコントロールルームへ。
「お、来たにゃ」
コントロールルームではすでにミケちゃんが待っていた。
「ポチ君は?」
ポチ君には外での作業を頼んであったが。
「ポチはさっき出てったにゃ」
サソリが出てこないうちにさっさと行ったようだ。
「それじゃクーン頼む」
「わかりました、任せてください」
そう言ってクーンがコントロールユニットへ。
お腹からプラグの付いたケーブルを出し、それを制御パネルに繋ぐ。
「アクセス……、システム掌握、メインモーター起動」
ユニットの前に設置された画面に映像が灯り、床下から振動が伝わってくる。
「マスター権行使……、これよりこのエクスカベーターを私のオプショナルボディとして登録。
エクスカベーター改め、ビッグクーンと呼称します!」
そう宣言してクーンがガッツポーズを取る。
それに連動するように振動が、画面を見ればこの巨大掘削機の2つのアームも同じようなポーズを取っていた。
「おお、カッコいいにゃ!」
ミケちゃんもガッツポーズを取り……あ、やばい。
横から制御パネルを弄ろうとしている。
「……良し! クーン次だ」
そんなミケちゃんを押し留め、次の指示を。
「はい、ポチさんは……と、居ました。ちょっと待ってくださいねー」
画面上ではポチ君がこの大穴の中腹ほどに居る。
側面に続く螺旋状の坂道をある程度登ったところ、ちょうど真下の底に大きな坑道が開いた場所へと。
そこで紅白の手旗を振っていた。
ピーーッ!……ピーーッ!……
ポチ君がホイッスルを吹き、手旗を前後に振って誘導する。
手旗とホイッスルは工具箱の置いてあった部屋に一緒にあったものだ。
そこに向けてエクスカベーター改め、ビッグクーンがそのアームを伸ばす。
伸ばすのは先に何も付いてない方のアーム、それをクーンが自分の意思で操り、動かしていく。
ポチ君の手前目指して動かしていくが、あとちょっとという所で一旦止めた。
「ここからは手動で操作お願いします。この体にはまだ慣れていなくて細かな動作が難しそうです」
「わかった、俺が……」
そう言おうとしたところで服を引っ張られる。
目を向けるとミケちゃんが、それ違くにゃーい?と言った視線を向けてきた。
「よっしゃー、任せるにゃー!」
ミケちゃんがコントロールパネルに付いたコントローラーを握る。
「お手柔らかにね……」
「任せるにゃ!」
ミケちゃんがビッと親指を立てた。
ちょっと不安だったが難なくアーム位置の微調整を済ました。
ポチ君の目の前ギリギリまで寄せたので、ポチ君が小さく悲鳴を上げて後ずさっていたが。
目の前に止まった巨大アームの先端に向けて、ポチ君はカバンから取り出した《オアシス》を当てる。
「それじゃ、クーン」
「はい、作戦通り少し立ってから水の生成を始めます。では、アクセス!」
クーンの動きが止まる。
無事アーティファクトにアクセス出来たのだろうか。
ここからでは画面上にも《オアシス》の様子が見えない。
と、ここでポチ君がアームによじ登ってきた。
アームの先端に取り付くと、そこから真下に見える《オアシス》を覗く。
手に持ってないということは無事クーンがアクセスし、《オアシス》本体はその場に固定され浮いているのだろう。
ポチ君が手旗を手に取ると、横に向けて手を伸ばす。
そのまま動きを止める。
俺は動きを止めたクーンに近づき、その腹から出たケーブルを掴む。
視線は画面に、ポチ君の動きを注視する。
ミケちゃんも静かに画面を見つめていた。
……
ポチ君が旗を揚げた!
すかさずケーブルを引っ張る、プラグが制御パネルから抜けるのと同時にクーンの体が揺れた。
「クーン、大丈夫か!?」
「大丈夫にゃ?」
俺たちがそのモノアイを覗き込むと。
「は、はい……。ビッグクーンの情報量がパンクする前に戻って来れたようです」
これが今回の作戦の目的だ。
ビッグクーンを仲介にアクセスして、あの強制記憶のログチェックをビッグクーンに引き受けさせたのだ。
画面上ではアームの先端に青い後光が差したかのように、裏側で青い輝きが辺りを照らしている。
ポチ君が慌てて斜めに差し向けられたアームを、滑り台のように滑落してくる。
その後ろで滝の様な水しぶきが立った!