第134話 機関室
「これを動かせるのか?」
俺たちの入り込んだエクスカベーターと言う巨大な掘削機械。
クーンが言うには状態が良いらしいが。
「はい、全身がチタン合金製で作られているらしいので、腐食している箇所も無いでしょうし。
それにこれを使えば……」
クーンがちらちらっとこちらを見てくる。
言いたいことはわかる。
おそらく、あのサソリ対策だろう。
この掘削機には二つのアームが付いており、一つの先が巨大な電動ノコギリの様な形をしている。
刃の形は丸く太みがあり、それで岩を削り、側面に付いたスコップ上の突起で削り足した土砂を掻き出して行くのだ。
掻き出された土砂はアームの上に運ばれ、ベルトコンベアで本体を通り、もう一つのアームに。
もう一つのアームを使って目的の場所に土砂を落とすらしい。
「確かにあの巨大な丸ノコならサソリでも一撃だろうな」
幅500m、深さ100mの大穴を掘り下げるほどの重機の一撃だ。
大サソリが岩の様な甲殻を持っていようが、苦も無く粉砕できるに違いない。
「問題はどう当てるか……」
「それなんですよね……」
サソリたちはこの大穴の側面に開いた小さな坑道の一つに逃げ込んだ。
あの坑道を巣としているのだろう。
巣に入り込まれたままじゃ掘削機を当てることが……、あ!
「巣穴ごと掘り出すか!」
「いいですね!」
「おお……? 良いですにゃ!」
「よくわかんないけど良いんじゃないかなー」
クーンが賛成すると残された二人も、わからないがとりあえず親指を立ててグーサインだ。
後で討伐証明となる部位を掘り出すのが大変そうだが、これで何とかなりそうだ。
「それにしても、あの坑道は何なんでしょうね。ここにある資料だと地下のことまでは書いてなくて」
クーンが言っているのは側面に開いた坑道のことだが、この垂直型の大穴に比べれば小さく、この掘削機で掘ったものには見えない。
2種類の機械が入り込んでいる?
どういうことだろう。
「まぁ、いいか。とりあえず動かしてみよう」
……
…………
それからまず機関室へ。
セキュリティ関連の非常電源は稼動しているが、メイン電源が落ちているのでまずはそれの復旧からだ。
機関室へと続く2箇所のロックされたドアをデュプリケイター先生でこじ開け、中へと入る。
中は正面に大きなガラス窓があり、そこから奥を覗き込めるように、邪魔にならない様に様々な機械や画面が配置されていた。
ガラス窓の向こう側にはこの部屋の数倍の広さで、中心に黒い立方体。
1辺が5m程ありそうな大きなものだ。
それに何十本というケーブルが繋がれていた。
アレがこの掘削機の機関部……、エンジンなのか?
クーンへと視線を向けるが。
「ちょっと待って下さいねー」
クーンは壁に並んだ機械を眺め、操作しようとしている。
「メインを立ち上げる前にサブから……その前にシステム部に配電ですか。それを起こすにもまずは機関部内のシステムの立ち上げから……と。
えっと……、スターターボタンはこれかな?」
クーンが何かのボタンを押すと映像パネルに光が灯る。
画面にはこの掘削機のデフォルメ画像が現れ、その絵の横には……こちらの世界の文字で配電なんちゃらって書かれているな。
「電力の振り分け、とその前に残存電力は……10%ですか」
クーンの手が止まる。
「どうなんだ?」
「メイン動力を立ち上げるには20%必要なのですが、それには足りないみたいです。
ちょっと待って下さい、充電を試してみます」
クーンが制御パネルを操作すると、掘削機のデフォルメ画像の頭頂部が動き始めた。
それに続くように僅かな振動が起こる。
この掘削機の頭頂部は半球のドーム状になっているのだが、それが真ん中から開いて、中からアンテナが出てきた。
「このアンテナが受信機になります。前にシューストカのマイクロウェーブ送信塔に入ったのは覚えていますか?」
「ああ、ギガントから逃げるのに最後に立ち寄ったビルだな」
「ええ、あそこから空の衛星に向かってマイクロウェーブを発信し、衛星を仲介して世界中に電力を振り分けていたのです。
これにはその受信アンテナが付いていますから、衛星が生きていれば電力を分けてもらえるかもしれません」
電力をマイクロウェーブに変換し、受け取る側はそれをまた再変換して電力に変えていたようだ。
「それ、大丈夫なのか?」
「事故が起きた場合が怖いので都市部での受信は規制されていましたが、まぁ、レーザー誘導なので多分大丈夫ですよ。
ちょっとでもズレたら瞬間的に停止しますし」
クーンがパネルを操作していく。
画面には送信中の文字。
どうやら衛星へと通信を試みているようだ。
しばらくその画面が続くが。
「ダメですか……」
画面にはロストと出る。
通信先が見つからないらしい。
「衛星が無い、か」
「はい、戦争で撃ち落されたのかもしれません」
「そうか……」
と、なると後は……
「これは電力で動いているのか?」
「はい、ガラス窓の向こうに見えるのが量子ドットバッテリーで、動力は全て電力ですね」
窓の向こうに見える黒い立方体がバッテリーのようだ。
「これだけ大きいものが全て電気だけで動くのか……」
電圧とか凄まじそうだな。
「ガソリンエンジンはあの時代、二酸化炭素排出規制で下火でしたから。
それにこの国には量子ドット電池を作る技術がありますからね」
「その電池は、何か特別なのか?」
「量子ドット電池は電気を物理的に閉じ込め、貯蔵する最新の技術です」
「物理的に?」
どういうことだろう。
「特殊な合金に電子のサイズぴったりの、ナノサイズの溝を彫り込み、そこに電子を嵌め込める事で蓄電するのです。
わかりやすく説明すると電池の入り口から電子が入り込んできます」
「はい」
「入り込んできた電子はふらふらーっと適当に動く性質があるので、電池内に刻まれた細かな溝。
これが棚状に並んで配置されているのですが、そこへとぶつかると、スッポリと嵌ってしまうのです」
「はい」
「嵌ってしまった電子はそこから抜け出そうとするのですが、ピッタリ嵌ってしまった為に動きが取れず、抜け出せません。
こうやってどんどん電子を溜め込んで行きます、ここまでいいですか?」
「はい」
コンビニやスーパーの棚に、電子と言う名の商品を並べていく様なものだろうか?
「放出する際はこの棚に振動を与えるのです。そうすると揺らされた電子がスポッと抜け出てきます。
そしたら電子誘導体となる、電荷しやすい特殊な金属を使ったナノマシンが出口まで電子たちを誘導していきます。
こうやって放電するのです」
「はい」
コンビニの棚を思い切り揺らして商品を落とし、それを拾って出口まで行くようなものだろうか?
「この電池はバッテリー液を用いず、電子の動きを抑制することから内部での劣化が起こりにくいです。
さらにナノサイズできれいに電子たちを並べ、密集させることで旧来の電池よりも大容量に蓄電できます。
用いている素材が金属だけなので丈夫ですしね。耐久性は100年程度では劣化しませんよ。
ちなみに私のバッテリーにもこの技術を用いています」
クーンが胸を張るよう様に言葉を続けた。
「なるほど、なら……」
後は充電するのみ。
クーンに充電したみたいに、スパークトルマリンで直接充電してみるか。
あけましておめでとうございます。
去年はお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。
書かれている電池技術についてはこれで精一杯なので、これ以上は聞かないでください。
私はこの後、栗きんとんをあてに芋焼酎を飲んでさっさと寝ます。
皆様、良いお年を。
 




