第11話 荒野の掟
遺体に関する処理が不謹慎なのと主人公の内面の変化を考慮していないため一部書き直しました。
ギルドへの納品も済み、時間が空いたのでアーティファクト探索をするため西の川辺にまたやってきた。
川は西から東へと流れている。
上流目指して歩いていくか。
川辺にはいつも通り子供たちがカエル獲りをしており、草原ではぽつぽつとこん棒を持った大人たちがハゲネズミを探している。
そんな風景を眺めながら上流へと向かっている最中、俺は荒野の厳しさを知る。
川辺の近くの草むらがガサガサと揺れている。
見ればハゲネズミが何かしているようだ。
アーティファクト探索の予定だったが見つけたなら狩ろうと思い近づくとショッキングな光景を目の当たりにする。
人がハゲネズミに食われてるのだ。
その異様さに心臓が止まる思いで立ち止まる。
生きてるなら助けなければと思うが、どうみてもあれはすでに亡くなっている・・
ハゲネズミはこちらに気づいているようだがそれよりも食事を優先しているようで逃げすらしない。
その姿を見て、不意に怒りが湧き上がり、逃げないならここで殺してやろうか、俺が仇をとってやろうか、と凶暴な思いを抱く。
が、心のどこかでそれは違う、と感じる。
目の前にあるのはおぞましい光景だ。
だが、これが荒野の真実であり、目を背けてはいけない現実だ。
人も動物も荒野では命の価値は同じ、もしくは共に等しく0である。
狩りは人と動物の闘争であり、闘争の天秤は命の価値を量らない。
先に相手を殺したものだけが生き延びる。
そんなシンプルなルールだ。
そんなシンプルなルールを俺は、自分は死なないという思い込みや前の世界に忘れた人権で守られてるだの考えて汚している。
そんな思いが自分の中にあると気づく。
ハゲネズミはとても戦意の高い生き物だ。
自分の数倍ある相手にすら果敢に攻め寄っていく。
その愚直なまでに逃げない姿勢は俺よりもずっとハンターらしいと思える。
目の前のおぞましい光景から目を、心を背けてはいけない。
でなければ俺はハンターとして荒野で生きていけない、そう思った。
思いがけない光景に落ち込み、今日はもう帰ろうかとも思うがまだ今回の探索の戦果をあげていない。
初志貫徹だ!と心を奮い立たせ、そのまま上流へと歩いていく。
今はまだ感情的にハゲネズミを攻撃してしまいそうだからハゲネズミの食事を邪魔はしない、だが向かってくるなら相手をするまでだ。
そこからさらに1kmほど歩いて、ようやくアーティファクト探知機に反応が出た。
腰に下げた探知機を手に取り、左右に振りながら大雑把に方向を探っていく。
反応が出るのはやはり川のようだ。
アーティファクト出現になんらかの法則があるような気がするが今は考えてもわからない。
とりあえず、この川は当たりだ。
出なくなるまで採り尽くしてやる!
俺はその場で濡れてもいいように着替え、川へと入って行く。
相変わらずの放射能反応があり、ガイガーカウンターがガリガリいっている。
俺は腰に付けたクリスタルエッグに感謝しながら、涼しい顔で放射能地帯を踏破。
探知機からひときわ激しい光と放電現象が起き、目の前に電気の檻が現れる。
中の石を取り、いそいで川辺へと戻る。
今回の結果はスパークトルマリンだ。
余ってしまった。
決して要らない訳ではないが1個あれば十分だ。
これは売るのも考えてみるか。
そこからさらに5kmほど歩いてようやく次のアーティファクト反応を見つけた。
どうせ川なんだろう?と思って、川に探知機を向けたらやっぱし川だったんでいそいそと川に入っていく。
サクサクッと放射能地帯を越え、アーティファクトを手に入れ川辺へと戻る。
鑑定した結果、今度のは新しいのだ。
オブシディアン・タール。
見た目は泥状の黒曜石で形が変わる。
伸ばすと伸びるが一定以上は伸びず、ちぎれない。
そんな不思議な石?だった。
性能は重力に作用する力があり、物の重さを60kgまで吸い取ってくれる。
たしか衝撃耐性もあったはずだ。
打撃系の攻撃を和らげてくれるはずだが実際はどうなんだろう?
これがあれば獲物を運ぶとき格段に楽になる。
これは良い物を拾った。
さて、結構歩いた。
日もかなり傾いてきてる。
そろそろ帰らないと夜の川辺を歩くはめになる。
この辺はハゲネズミぐらいしか出ないとしても夜に遭遇するのは勘弁してもらいたい。
暗い中、複数のハゲネズミに囲まれたとしたら万が一がある。
俺はさっき見た光景を思い出し、ぞっとする。
さっさと帰ろう。
途中、ハゲネズミがカエルを捕食しているのを見かける。
やっぱあいつら普段はカエル獲ってたのか。
そして、ハゲネズミが人を食べてた地点に通りかかる。
もう、ハゲネズミは居ないようだ。
ところどころ欠損した遺体がある。
俺は考えた末、遺体を埋めることにした。
スコップが無いので代わりにサバイバルナイフを使い、まず穴を掘り、それを切り崩すようにして広げていく。
そこに遺体を服の端をつまみ引きずりながら穴に落とす。
自分も失敗すれば明日は我が身と思い、死者に祈りをささげる。
埋め終わった頃には日は沈みかけ、夕焼け空となっている。
足早に川辺を歩く。
暗くなればスラムもまた危険かもしれない。
宿に着いた頃には日はすっかり落ち、辺りは暗くなっていた。
今日の宿代50シリングを受付のおっさんに払い、昨日と同じベッドに向かう。
荷物をロッカーにしまった後、裏庭の井戸で体を拭く。
服は洗ってない、そろそろ宿の子に洗濯を頼むべきかもしれないが替えの服が無い。
これもまた用意しないとな。
明日は服を含めた雑貨を買うか。
残金は115シリング。
昼間にしっかり稼いでおかないと厳しそうだ。
俺はベッドに戻り、カーテンで仕切りを作り、食事の用意をする。。
用意と言っても相変わらずのパンとソーセージと水だが。
相変わらずパンは美味い、小麦の味と香りに集中するほどに自分の中の緊張がほどけていく感じがする。
ソーセージの塩気が体に沁みていくようだ。
今日も一日頑張ったんだなぁと思い、水をぐいっといく。
リラックスしたところで今日のことを振り返る。
今日の成果は狩猟で150シリングにアーティファクトを2つ。
あとはミケさんとの出会いか。
そして、あの負けた遺体のこと。
あの時、感じた思いは忘れないようにしよう。
それとアーティファクトがダブったから売るのも考えないと。
スマホを取り出し、画面を見るとステータスチェッカーが起動したままだった。
そのままステータスをチェックするが一つ大きな変化がある。
ステータス
Name サトシ
Age 20
Hp 100
Sp 100
Str 101.0 (+0.5)
Vit 101.5 (+0.5)
Int 92.0 (+2.0)
Agi 106.0 (+1.0)
Cap 2.0 (+0.8)
預金 6ルーブル
全体的に上がっているのだがCapが0.8も上がり、アーティファクトを2個装備できるようになっていた。
今回、暗い話ですがこの物語が目指すのはほのぼの路線です。
そろそろ序盤の山場が近いのですがそこを越えれば能天気な話になります。
拙作ですがこれからもよろしくおねがいします。