第133話 エクスカベーター
すいません遅れました。
調べ物がいろいろあって。
居住部屋→居住区画に訂正。
クーンに調べ物を任せ、俺たちは居住区画へ。
この機械を動かしていた作業員たちが寝泊りしていた場所で、小さな個室が10に事務室が1つ。
個室は二人に任せ、俺は事務室へと。
中には手前にテーブルに並べられたイス、奥の方にロッカーが立ち並んでいた。
金庫なんかあったらうれしかったんだが、仕方ないか。
ロッカーを次々と開けていく。
中からは作業服にライト、手旗といった作業用具が……お、工具箱を見つけた。
財布とか金目の物は無いが目当ての物は見つけた。
縦長の細いロッカーはどれも似たり寄ったりの内容だった。
最後に角にある大きめのロッカーへと手を掛けるが、カギが掛かっている。
鍵穴があるので電子ロックではないか…、ならば。
ハンマーで一撃!
ロックの掛かった部分が変形するまで叩く。
ドアを大きくへこませ、開いた隙間にハンマーの柄を差し入れこじ開ける。
中身は……と。
中は3段の棚状になっており、ハンドガンが10丁に金属製の警棒も同じだけか。
ハンドガンは9mm口径のもので特に改造とかされていない。
ほとんど使われていなかったみたいで、表面に細かな傷も無く、新品同様のものだ。
ハンドガンの買取は1丁1000シリングからだったな。
状態の良いのは1500で売れたから、これならもっと高値で売れるだろう。
2000ぐらいか?
手持ちの現金が無く、売れるものも持っていない今、こういうのは助かる。
さらに一番下の段には深緑色の弾薬箱が。
しめしめ…と開けようとするが、蓋が動かない。
どうやって開けるんだと注意深く見ると上面にボタンが、押すとランプが点滅して、シューッと空気が吸い込まれていく。
カチッと音がしたので、蓋を手に取ると簡単に開いた。
保存の為に中を真空状態にでもしていたのだろうか。
中からは30発入りの9mm弾箱が10、状態は……どうだろう?
撃ってみないことにはわからないが、薬莢に錆や損傷はない。
キレイなものだ。
後は警棒か。
伸縮式で長さ40cm程の黒い金属製の棒で、手に持ってみると以外に重い、特に持ち手の部分。
持ち手の部分にスライド式のスイッチも付いており、とりあえず動かしてみるが……変化は無いな。
警棒をひっくり返し、柄頭を見ると何かを差し込むような穴が開いてある。
さらに警棒の置いてあった場所の横に、コンセントに差し込むプラグの付いたアダプタ付きケーブルが置いてあった事からも、これは電気ショックを与えるタイプの警棒なのだろう。
スタンバトンとでも言ったところだろうか。
スパークトルマリンを暴走させればかなり強力な電気ショックを与えられるが、手軽に使える予備武器としてならいいかもな。
最後のロッカーは当たりだなと上機嫌で物色していたところ、二人が戻ってきた。
「こっちはどうにゃー?」
「ただいまー」
「おかえり、そっちはどうだった」
「ダメにゃ。服とか布団はあったけど金目の物はなかったにゃ」
成果が無く、ミケちゃんはムスッとしている。
ポチ君の方を向けば、ポチ君も手でバツを作っていた。
「こっちは工具はあったよ。後、コレ」
そう言って銃の入ったロッカーを示す。
「おお! コレにゃ、こういうのが欲しかったんにゃー」
ミケちゃんは銃を手に取ると、いそいそと手持ちのカバンに詰めていく。
俺とポチ君も二人のカバンに武器類のみ詰めることにした。
今回、俺の大きなバックパックには3人が入っているので、これ以上詰めなられない。
二人のカバンは持ち運びの際、俺のバックパックにロープで括りつけるから、持って行けるのはこれに入る分だけだ。
話し合い、今回は金になりそうな武器だけ持っていくことにした。
「リーダー、これも?」
「ああ、その弾薬箱ごと持っていこう」
前にガンショップのおっさんが、昔の弾薬箱を見つけたら持って来いとか言ってた気がする。
ので、一応これも持って行くか。
目当ての物も見つけ、クーンの居るコントロールルームへと戻る。
「おかえりなさい」
「ただいま、工具持って来たよ」
「それは良かったです。こちらもいろいろとわかりました。日誌を見つけたのですが、ここは掘削工事を始めて半年。
その頃に戦争が起きて、そのまま放置されたようです」
「へー、何を掘っていたんだ?」
「目当ての鉱脈が地下深くなので、まだそこに到達するまでの穴を掘っていただけみたいですが。
どうやら地下500m付近にプラチナの鉱脈があるみたいですよ」
「プラチナ!」
金と並ぶ価値の高い貴金属だ、それに思わず声を上げるが。
「それ何にゃ?」
ミケちゃんはわからないらしい。
ポチ君も首を傾げている。
……あれ?
「すごい高い金属だよ、多分」
こっちの世界だとどうなんだろう、クーンに視線を向けるが。
「どうなんでしょうね。私は今の世界の経済はわかりませんから。
金属触媒としてはとても優秀で、高度電子機器に化学薬品の製造に重宝すると思うのですが……」
クーンも言葉を濁す。
一度壊れた世界だからなあ。
今の人類にそういった技術が残っているのかどうか。
「とりあえず、それは今でも掘れそうなのか?」
「今の掘削距離が地下107m、ですから後400m程ですね。
100m掘り進めるのに半年かけたそうです」
「う……、そうかぁ」
「掘ること自体はこの機械のお陰で早いみたいなのですが、土砂を運び出すのに手間取ってたみたいですね。
50トンの大型ダンプカーを常時1000台活用していたようで、こちらが写真になります」
クーンの差し出した写真は色褪せ、白黒となっていたが。
荒れ地を走るダンプや土砂を積む順番待ちをするダンプカーの列といった、当時の光景が写っていた。
「……地面が砂じゃなく、しっかりとしているな」
「ええ、やはり砂漠化が急激に進んだのはここ100年のことらしく。
他の資料にも当時ここはただの荒れ地だったみたいです」
「砂漠化の原因と言うと、かつてあった核戦争しか思いつかないが」
「放射能は殺菌作用が有りますが、強すぎれば生き物も殺しますからね。
土を富ませる菌類が減少すればそれだけ土は痩せ細り、さらに日光や風を遮られれば植物も生きるのは難しいでしょう」
「遮る?」
「はい、まだ確証を持った訳ではないですが。ここまで自然が後退したのは日光が遮られた可能性が高いです。
核爆弾によって巻き上げられた粉塵が空を漂い、分厚い雲となって日光を遮ったのでしょう。
日光を遮られれば地表の温度は下がり、風も弱まります」
「風もか」
「はい、風は空気が日の光で温められ膨張した結果、互いに押し合うことで生まれますから。
風が弱まれば、海の上で生まれた雨雲を運ぶ力も弱まり、世界中が水不足になるでしょうね。
風は熱や水分と言った生物の活動源を運び、世界中で循環させる。
生命を支える原動力です。
それを弱められるのは生物にとって致命傷と言えます」
「なるほど……」
動ける動物なら水のある場所まで移動するなりして、まだ何とかなったかもしれないが。
動けない植物はもろに影響を受けてしまったって事か。
そんな天変地異の冷酷さに思いを寄せていると、クーンがさらに言葉を続ける。
「それで面白いことに気づいたのですよ。そのまま放置されたことと、穴に潜り風雨や爆撃を逃れたことで、この掘削機械。
エクスカベーターと言うらしいのですが、状態が非常に良いです。
多分これ、まだ動きますよ」
 




