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第132話 《オアシス》の扱い

 しばらく横になったところで体調が回復した。

 起き上がる。


「大丈夫にゃ?」


「ああ、膝枕してもらったお陰で頭痛も抜けたよ」


「それなら別にいいけどにゃー」

 横になっている間、ずっと頭を撫でてもらっていた。

 こそばしく、なんだか恥ずかしくも懐かしい気持ちがした。


 立ち上がり、バックパックを漁る。

 中にはさっき放り込んだ《オアシス》が。

 おっかなびっくり、手に取る。

 こうして見る分にはただの大きな青水晶玉にしか見えないが、非常に危険なものだ。

 危険すぎて使いこなせそうに無い。

 とはいえ、せっかく手に入れたアーティファクトを使えないのはもったいないな。


「きれいなのににゃー」

 ミケちゃんが《オアシス》を下から覗き込む。

 日の光を透過して、青い煌きがミケちゃんを照らす。


「うん、そうだね」


「リーダー、これっていつものより凄いやつなの?」

 ポチ君も横から覗いてきた。


「ああ、元のゲームの中の話だと伝説とされたアーティファクトだから、アーティファクトとしては最上位のものだと思う。

 俺たちがいつも使っているのは下位のやつだし、ずっと上のものだね」

 俺たちの持っているアーティファクトはほとんど下位だ。

 唯一、ミケちゃんの装備しているクリスタルゴーゴンだけが上位のものだ。


「なんかもったいないねー」


「そうだね」


「マスター、その事で私に考えがあります」


「ん、クーンどうした」


「人は一度覚えた記憶を忘れることができません。忘れたと思っても奥底に仕舞い込まれるだけですから。

 ですが私たちロボットは違います。記憶を取捨選択して消去することができます」


「確かに機械であればそうかもしれないが、クーンは生命を持ったロボットだろ。

 今使っている記憶域にまでダメージを受けたらヤバいんじゃないか?」


「はい、前のマスターから皆さんとの今日までの記憶を書き換えられたら、私はただの機械に戻ってしまうでしょう」


「なら駄目だ」

「そうにゃ、駄目にゃ」

「危ないのは駄目だよー」

 もちろん3人で反対する。

 ロボットとはいえ、危険性は俺たちと同じだ。


「皆さん……、ありがとうございます。ですが、それについても考えがあるのです」

 クーンが体を前に傾け、話を続ける。


「んー……、考えとは」


「マスターの様子がおかしくなってから水が出てくるまで、タイムラグがありました」


「たしかに、おにいさんが触れてから1分ぐらいしてから水が出てきたにゃ」

「うん、それぐらいだったねー」


 1分か……。

 中での出来事はその10倍以上の時間感覚を受けたが、こちらではその程度なのか。

 クーンが話を続ける。


「その一分が……」


「エーテルを粒子から原子に変換していた時間か」


「そうです。マスターが触れて少ししてからその青水晶が光り始めました。

 そこから1分です。光ってからすぐに手を離せばそれだけ受けるダメージを減らせるのではないでしょうか」


「たしかに……、無理やりにでも手を離せばあのログチェックとやらを回避できるみたいだからな」


「やってみる価値はあると思います」


「うーむ……」

 あの光の帯が粒子にへと変換される辺りまではまだ余裕があった。

 それ以降の情報を無理やり流され続ける辺りで頭がパンクしそうになったから、それまでに終わらせられれば……なんとかなるのか?


「私のメモリーの空き領域は8割以上残っています。それが埋まるまでにログアウト出来れば問題ありません」

 クーンがそう言うが、ミケちゃんとポチ君は不安そうに俺を見上げてくる。


「うーむ、とりあえず保留だ。必要になったらまた考えよう。他の手もあるかもしれないしな」


「わかりました」


 《オアシス》は後回しにするとして、次の問題は大サソリだ。

 アレを狩りに来たのだが、手持ちの銃は効かなかった。

 唯一、通じそうな青銅砲は火薬切れ。

 ……手詰まりだ。


「うーむ……」

 自然と視線が上に向く、遠くにはこの巨大な掘削機の胴体部分が見える。

 黒鉄色の正方形の箱型、天辺部分は半球のドーム状になっている。

 外壁には大きなパイプがいくつも這ってあって工場のように見えた。


「とりあえず……漁るか」


「お! お宝探しにゃ? どうせならコレ丸ごとあちきたちのものにするにゃ」

「それ良いねー」

 二人が今居るアーム部分の床をぺしぺしと叩く。

 丸ごとかぁ……、クーンへと視線を向ける。


「動かせそう?」


「うーむ……、わかりません。とりあえず中で資料を探してシステムを掌握しないと。

 それに燃料の問題もありますから。ただ……」

 クーンが工場の上のドーム部分を見上げた。


「もしかしたら燃料はなんとかなるかもしれません」


 みんなで工場に突撃だ。

 手分けして入り口を探し、分厚い金属のドアを1つだけ見つける。

 車のハンドルみたいなバルブ型のドアノブを引っ張るが、開かない。


「ロックが掛かっているか」


「ここ以外だと窓があったけど、全部鉄格子が掛かっていたよー」

 他に入れそうな場所は無さそうだ。

 ドアの横にはカードリーダーが備え付けてあり、その側面にケーブルを差すコネクタを見つけた。


「それじゃ先生の出番とするか」

 おなじみデュプリケイター先生だ。

 攻撃過ぎてプログラムを破壊してしまうが、これでどんなロックでもいちころだ。

 コネクタを差すと画面に、「攻撃しますか?」との選択が出てくる。

 それ以外の選択肢が無いので、もちろんイエスだ。

 すぐにカードリーダーが電子音で悲鳴を上げ、沈黙する。

 ガチャッと音が鳴り、ロックが外れた。


 中へと入る、照明が付いていないので皆、灯りを用意した。

 ヘッドライトで通路を照らすと、入ってすぐ横の壁に案内板が張ってあった。

 なになに……。


「コントロールルームに機関室、サーバールームと居住区画。あとは……工作区画か」


「最後のは何にゃ?」


「うーん、と掘り上げた土砂を撹拌したり、圧縮して整形したりする場所みたいだ。土砂を運びやすくする為なのかなあ?」


「ふーん、それで何処に行くのにゃ」


「とりあえずはコントロールルームから見て回ろう」

 目的の場所は2階の奥のようで暗い中、足元に気を付けながら移動する。




 目的の部屋の中は、奥の壁が巨大な画面となっており、その手前にハンドルやボタンの付いたコントロールユニットが置いてある。

 左右には資料の収まった棚と頑丈に固定されたパソコンらしきもの。


「お宝にゃー!」

 ミケちゃんがパソコンにしがみつく、その背ではしっぽが楽しそうに揺れていた。

 外そうとするが動かず、裏側を覗く。


「ネジで固定されてるにゃ」


「工具が要るか。これだけの大きさの施設だし、それも探せばあるだろう」


「居住部屋か機関室行ってみる?」

 ポチ君が提案してきた。


「それじゃ私はここで資料を見ておきます」

 クーンが片手を上げ、資料の棚をチェックしていく。


「頼む、それじゃまずは居住部屋から見て回るか」


「ラジャーにゃ!」



いつも読んでいただきありがとうございます。

今週の投稿はここまで、次の投稿は金曜日になります。

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