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第131話 アーティファクトの裏側

 《オアシス》の能力を確認するためにも、もう一度アクセスするしかないか。

 両手に持ち、アクセスと念じる。

 瞬間、また時が止まったように視界が灰色になり、やがて黒へと染め上げられていく。


 暗闇の中、目の前に青い宝玉が浮かび上がる。


「また、ここか」

 さっきと同じ場所だ。

 これが発動した本人にだけ干渉する現象で、側に居た三人には関わらないとわかったので今度は腰を据えて調べる。

 宝玉へと触れた。


『エーテル変換システム《オアシス》へようこそ。

 何を望みますか』


「何が出来るのか、それを教えてくれ」


『当システムは内蔵エーテルを元に物質の生成、及び環境の回復を促します。

 物質の生成は水と空気。

 環境の回復は、エーテルを生命波動に変換し、周辺の生物の繁殖を促します。

 現在のエーテル残量は最大値の6000万、補給は毎時1エーテルとなります』


 どうも変換量に限界があるみたいだが、水を作ったり、おそらく植物の繁殖を促したりできるみたいだ。

 このアーティファクトの置いてあった地帯はジャングルみたいになってるからな。

 影響力は相当に高そうだ。

 次に実際に使って、使用感を見るとして。


「とりあえず水に変換してみるか」


『エーテルの変換量を選んでください』

 そうアナウンスが流れると目の前に数字の並んだコマンドが出た。


『___0.000』


「ふむ……」

 どうやら小数点以下まで細かく決められるようだ。


「とりあえず1で、と」

 数字の部分に触れ、1と念じると表示が書き換わった。


『了解しました。放出量毎秒1トンで開始いたします』


「は?」

 単位がおかしい。


『環境の変更は重大事象になるのでログチェックをおねがいいたします』


「へ?」

 ログチェック?


 そのアナウンスが終わると同時に目の前の宝玉から、青い冷気の様な光がたなびきながら上へと昇っていく。

 光がある程度流れたところで。


『エーテルから素粒子への変換開始……』

 その言葉と同時に光が分解され、細かな粒子へと変わっていく。

 本来小さすぎて肉眼では確認できないはずのものが、何故か見える。

 一つ一つの粒子が誕生する様がはっきりとわかる。

 目の前には大海に匹敵するほどの規模で、粒子が爆発的に広がっていく。

 それら粒子の一つ一つがはっきりと見えてしまう(・・・・・・)

 目の前の光の海、全体にピントが合ったように、1つも取りこぼし無くわかり、その情報が頭へと強制的に入り込んできた!


「あ、ああ……」

 急激な意識の膨張と情報量の多さに頭が真っ白になる。

 意識が飛びそうだが、途切れることを許されず(・・・・)

 無慈悲に情報を読み込まされ続ける。




『素粒子から原子への変換を順次開始します……』

 光の粒が寄り集まり、くっついていく。

 そうやってデコボコとした、まるでパイナップルを球形にしたような形の原子が次々と生まれていった。

 原子の周りを電子が、衛星のように飛び始める。


「や、やめ……」

 その情報も俺の頭の中に強制的に入ってくる。

 神経は過敏になり、むず痒いような感触が体の奥から流れ込んできて。

 指先などの末端は徐々に麻痺し始め、感覚が無くなってきた。




『原子から水分子への結合も順次開始します……』

 生まれた原子同士がミキサーにかけられた様に次々と衝突し、結合したものが上へと流れていく。

 空にはいつの間にか大きな穴が開いており、そこから外の風景が見えた。

 そこから結合した水分子たちが飛び出していく。


「アァ……アー……」

 意識は情報量に磨り削られせ細り、残された自我が悲鳴を上げた。

 もはや体の感覚も無くなり、目から涙がとめどなく流れる。

 ここに来てようやく今、命が削られていることに気づき、それを止めようとするが。


「アー……」

 思考も言葉も、全て情報の津波に押し流され口から先へと出ることが出来ない。

 ただ呻きだけが喉から流れる。




『……』

 情報は留まることなく流れ続け。

 それでも懸命に声を出そうとして、


「ァ……」

 声すらもう出なくなったことに気づき、







 終わった







 そう諦めかけた瞬間、テレビの電源を消したように目の前の光景がぶつりと消える。

 代わりに映ったのは眩い光景、色が付いている。

 遠くに見える灰色の岩壁に、それに張り付くような緑の草葉。

 誰かの呼びかける声。

 視界が揺れ、落ち、黒鉄色の床へと頭をぶつける。

 痛い……感覚が戻ってきたようだ。


「……にゃ! どうしたにゃ!?」

「リーダー!?」

「あわわわ、大変です。とりあえず横にしないと……って、水が!」

 3人の慌てる声が聞こえてきた辺りで意識を失った。




 ……

 …………

 後頭部に柔らかな感触を覚える。

 枕かな?

 瞼を薄っすらと開け始める。


「うっ……」


「目覚めたかにゃ」

 目を開けるとミケちゃんの顔が視界いっぱいに見えた。

 俺の顔を覗きこんでいるようだ。


「ここは……?」

 体を起こそうとするが、肩を手で押し留められる。

 どうやらミケちゃんに膝枕されているようだ。

 コート越しなのでもふもふは無い。


「無理しなくていいにゃ」


「そうだよー」

 ポチ君も覗き込んできた。


「ここはさっきの場所とは別のアームの上ですよ。あの場所は水浸しですので」

 横からクーンが説明してくる。


「水……、あ! アレはどうなった?」


「あちきの剣でぶっ叩いてやったら止まったにゃ」

 ミケちゃんがニッと笑い、硬鞭を抜いて見せた。


「止まったのはちゃんと拾ってきたよー」

 ポチ君が青い水晶玉のようなアーティファクトを見せてくる。

 それを見た瞬間に怖気が走り、


「あ、あぶない! 貸してくれ」


「う、うん」

 受け取った《オアシス》を前に顔が強張るが、側に置いてあったバックパックの中へと放り投げた。


「……何があったにゃ?」

 ミケちゃんが真剣な目で覗いてくる。


「ああ、実は……」



 ……

 …………

 さっき受けた出来事を話すと皆、押し黙ってしまった。

 その中、おずおずとクーンが手を上げる。


「原子を生成する様をずっと見せ続けられたとの事ですが、それは今でも覚えていますか?」


「ああ、思い出そうとすると頭痛がするが、記憶にこびりついた様に頭に残っている」


「そうですか……、マズイかもしれません」


「何かわかるのか?」


「現象そのものはわかりませんが、人の記憶容量は160年分だと聞いたことがあります。

 160年分の映像や音声、思考と言った膨大な記憶容量ですが、それでも限界があるのです」


「つまり……それをあの膨大な情報量が埋めてしまった、と?」


「こうやって話せている以上、空き領域を全て埋めてしまった訳では無さそうですが。

 どれくらいかわかりませんが、ある程度埋まってしまった可能性が高いです」


「……全部、埋めてしまったら?」


「空き領域が無くなるという事は、それ以上記憶できなくなることになります。

 痴呆症や最悪、脳死を招くかもしれません」


「そうか……」

 まだ頭痛が少し残っている。

 目を瞑り、これまでの事を思い出す。

 街でミケちゃんとポチ君に出会い、巨大アメーバに岩をぶつけ、都市遺跡でレイダーたちやグールと戦い、そしてクーンに出会った。

 全て覚えている。

 意識は確かだ、脳の寿命は少し使ってしまったかもしれないが。


「それにしても……、あの時どうやって助かったんだ?」


「おにいさんが突然声を上げて泣き出したからびっくりしたにゃ。水もとんでもない勢いで出てくるし」


「危ないと思って体を引っ張ったんだよー」


「そうか、ありがとうね」


「感謝するにゃ、もう心配させちゃ駄目にゃ」

 そう言ってミケちゃんが頬を突っついてくる。


「そうだよー」

 ポチ君も俺の太もも辺りにぺしぺしっとチョップしてきた。


「マスター。アレは危険なようですし、もう使わない方が……」


「ああ、そうだな。力はもの凄いが……」

 アレは人が扱うように出来ていない。

 おそらく管理者用、神が扱うことを前提に作られているのだろう。

 いや、これが本来のアーティファクトの姿かもしれない。

 魔法は神の領域に通じる力。


 人は魔法を扱えるようには出来ていない。



時々、ほのぼのを忘れるけど大体ほのぼのの作品だよ。

暗い展開にはならないので大丈夫だよ。

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