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第129話 サソリ

 巨大な掘削機械、それを支える左右のキャタピラの間の暗がり。

 砂を擦る音が相次ぎ、立ち上がった細い影が雑草のように揺れる。

 最初に出てきたのは一際大きいサソリであった。

 黄褐色の甲殻は艶が無く、風に削られた岩のような質感を感じさせ。

 胴体の横幅2m程、そこから大きなハサミを左右に広げれば倍になる。

 目の前に近づかれれば、ブルドーザーに迫られたような圧迫感を受け、ハンマーを握る手の感触を頼りなく感じた。

 さらに、その後ろからは小さなサソリが次々と続いてくる。


「やばっ……」

 すぐに振り返り、降りてきた坂道を目指して逃げる。

 ただでさえ毒を持っている相手、あの巨体相手に接近戦は無い。

 姿は確認した、一旦引いて仕切り直しだと草を掻き分け、足を急がせるが。

 後ろからカン、カン、カン……と音が響いた。


 振り向き、肩越しにちらりと見れば30以上に増えたサソリたちがそのハサミを叩き合わせ、合唱をしている。

 その音に合わせ前方でも動きがあった。


「げ、出てきたにゃ!」

 坂道沿いに開いている坑道からもサソリたちが出てきた。


 草を掻き分ける手が止まる。

 さて、どうするか。

 後ろからはサソリの大群、前方の坂道からも小さいのが続々と出てきている。

 大きなのが居ない分だけ前の方が良いか?

 いや、と上の方を向けば。


「あっちにゃ? 任せるにゃ」

 そう言ってミケちゃんがバックパックから体を出した。

 クーンがロープを渡し、それを硬鞭に結びつけている。


 そんなことをしているうちに後ろからサソリたちが迫ってきた。

 小さい方が足を忙しなく動かし、カチカチとハサミを鳴らしながら俺を捕まえようと突っ込んできた。

 足元に向かって振られたハサミを避ける、そしたら今度は別のサソリが尾を振りかぶる。


「やらせないよっ」

 ポチ君が俺の肩越しにハンドガンを連射。

 空気の抜けるような音と共に風穴を開けたサソリが、その尾を明後日の方向に振った。


「助かる!」

 ポチ君に礼を言うが、まだ急場を脱していない。

 尾の攻撃は凌げたがまだ足元にサソリがうろつき、俺を捕まえようとハサミを持って追いかける。

 捕まえられたらお終いだ、と近くにあった1mほどの岩へと飛び乗った。

 サソリたちが殺到するが岩を登れないらしい、口惜しそうにハサミを鳴らす。

 一先ず安全かと思ったところ、群がるサソリたちが左右に分かれ道を譲り、今度は巨大なサソリがやってくる。

 その左のハサミを振りかぶると、思い切り叩きつけてきた!


「うおっ!」

 慌てて後ろへと飛びのける。

 大きなハサミはそのまま岩を叩き、ビリヤードの球のように弾け飛んでいく。

 それに巻き込まれ粉々になるサソリも出た。

 避けた俺は包囲していたサソリの上へと降りるが、刺される前にすぐ飛びのく。

 包囲を脱してとにかく走っていたところ。


「出来たにゃ!」

 硬鞭にロープを括りつけ、ミケちゃんがそれをぶん回す。


「もっとアレに寄ってにゃ」

 ミケちゃんの差すアレとは巨大な掘削機械のことだ。

 アレの中二階部分、キャタピラの上に工場の様なものが乗っかったところまで逃げれれば大丈夫だろう。

 この鉱山址の底の中心にそびえる掘削機の方へと走る。

 先回りしたサソリがハサミを広げて捕まえようとしてくるが、ハンマーで軽く押し退け、道を確保。

 またキャタピラの近くへとやってきた。


「ていっ」

 ミケちゃんが上に向かってロープを投げると、外通路の手すり部分に硬鞭が上手く引っかかった。

 ぐいっと引っ張ってみるが、大丈夫そうだ。

 ミケちゃんが渡してくれたロープを急いで登る。

 その間もサソリどもが寄ってくるが、それを背の三人がハンドガンを抜いて押し留めた。

 巨大なのもやって来るが、その頃には上に辿り着いた。

 手すりを乗り越え、通路へと降り立つ。

 眼下のサソリたちも流石に登れず、ハサミを鳴らすばかりだ。


「ざまあないにゃ、ここから一方的にやってやるにゃー」

 ミケちゃんが銃口を下に向けると、それを察したか、小さなサソリたちが四方八方へと散ろうとする。

 だが、巨大なのは動じずにその尾をぺたりと地面に横たえさせた。

 なんだろう?

 この距離だとあの尾でも届くとは思えないが。

 巨大なサソリがチチチ……と鳴くと他のサソリたちの動きが止まり、尾の先へと向かい乗っかる。

 巨大なのは尾に乗せたのを確認するとこちらへと視線を送り、尾を振りかぶる!

 カタパルトの様にサソリが飛ばされてきた。


「うわっ!」

「ひぇっ!」

 俺とポチ君が小さく悲鳴を上げる。

 サソリは俺たちの頭上を通り建物に当たって、俺たちの居る外通路へと落ちてきた。

 ひっくり返って、その足を懸命に動かしている。

 今の内にトドメを刺すかとも思うが、眼下ではまた巨大サソリがその尾を垂らし、上に新たなサソリを乗せているところだった。


「ヤバイ! まだやるつもりだぞ」


「逃げるにゃ!」


 ひっくり返ったのにトドメを刺す間も惜しんで通路を駆ける。

 金属製の足場が甲高い音を立てる、後ろではサソリの落下音が続く。

 適当に走った結果、2本のアームのうち何も無い方の先端へとやって来た。

 アームの長さは50m程か、俺たちの居る天辺部はベルトコンベアになっている。

 これで土砂を流すのだろう。

 さらにおかしなことに空中から水が湧き出し、それが先端から流れ落ちていた。

 腰のアーティファクト探知機がさっきから鳴っている。

 ただ、今それを確認している暇は無い。

 俺たちを追ってサソリが次々とベルトコンベアの上を通ってくる。

 サソリたちとの距離は40mといったところか、この距離なら。


 クーンにハンマーを預け、腰のリボルバーを抜く。

 ミケちゃんとポチ君もバックパックから降り、ハンドガンを構える。

 膝立ちになってロックを解除、赤いレーザーポイントがベルトコンベアの上を流れるように進み、一直線に向かってくるサソリの顔にぴたりと止まる。

 引き金を引くとこれまでの鬱憤を晴らすかのような暴力的な音が鳴り響き、マグナム弾がサソリの頭を文字通り粉砕した。

 それを見て、口角が上がる。

 俺の横の二人も俺を真似、膝立ちになって連射していった。

 次々とサソリが頭部を撃ち抜かれ、動きを止めていく。

 残弾を気にせずとにかく撃ち続け、発砲音がやかましく鳴り立てる。

 弾が無くなればクーンが次の弾倉を渡してくれ、今も二人のハンドガン用にマガジンにせっせと弾を込めている。

 巨大なサソリはこのままじゃ埒が明かないかと、俺たちに向かって直接サソリを投げ込んできたが。

 それは横幅の細いアームの上を軽々と通り過ぎ、そのまま地面へと落下した。

 落ちた衝撃で手足がもげたようで痛そうだ。

 コントロールは良くないみたいだな。

 巨大なのもそう思ったか、本体部分の方から次々とやってくるが、それも弾幕の餌食だ。

 アームの中ほどがサソリの屍骸で埋まり始めたところで諦めたか、サソリたちは離れたところにある横幅の大きい坑道へと引いて行った。

 だが、素直に返す気も無い。


「……さっきのお返しだ」

 巨大なサソリに向かって照準をつけ、一撃!

 だが、当たったとは思うのだが反応が無い。

 そのまま、すたこらとサソリが帰っていく。


「僕もー」

 ポチ君がライフル(M1ガーランド)を構え、息を止め引き金を引く。

 サイレンサー付きの銃口がタンッ!と軽い音を立て、硝煙を噴き出す。

 ライフル弾は空気の壁を易々と貫き、目標に着弾したようで軽く埃の様なものを上げる。

 それでもサソリは意にかえさず、そのまま穴の中へと潜って行った。

 M1ガーランドはライフル弾としては大型のものを使うから、威力もそれなりにあるはずなのだがそれでも通じないか。

 とりあえずこの場は凌げたようだ。

 皆で腰を下ろし、息を吐いた。



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