第127話 出発
翌朝、外からガヤガヤと雑音が入ってくる。
大勢の砂を踏みしめる足音、食事だ!と張り上げた声。
テントの隙間から覗くが外はまだ暗く寒い。
「寒いにゃ、どうしたにゃー」
ミケちゃんが目を覚まし、バックパックから這い出てきた。
ポチ君も目を擦りながら、首を出す。
二人は寒さを凌ぐためにバックパックの中で寝ていた。
「他の人たちが出発の準備をしているみたいだ」
外では、おそらく西から来た隊商の人たちだろう。
荷物をまとめ、スープやパンを配ったりと騒々しく動いている。
「まだ暗いのに早いにゃー」
「日中は暑くなるからね」
今の内に出て距離を稼ぎたいんだろう。
これは俺たちも見習うべきか。
今日は北へと向かう予定だ。
あの後、ジニさんからこの砂漠の地図をもらい、問題の場所を書き込んでもらった。
地図は簡素なもので、交易隊の寄るキャンプ地と休憩場所しか書かれていない。
それ以外の場所は秘密らしい。
「それじゃ俺たちも朝食にしようか」
「わかったにゃ。お兄さんはご飯を用意する係にゃ。あちきは……えーっと、食べる係にゃ! 出来たら起こしてにゃ?」
そう言ってバックパックへと戻っていく。
用意すると言ってもSHOPアプリで呼び出すだけだ。
所持金が175シリングしかない今、食堂に食べに行く余裕もないしな。
ルーブルは……1372ルーブルか。
食事にしか使ってないのだが、一日に200ルーブルくらいの勢いで減ってるな。
朝食はケチるか。
「出来たよー」
ミケちゃんたちへと声を掛けるともそもそと出てきた。
出てきたのは上半身だけで、残りはバックパックの中だ。
寒いんだろう。
「今日は何にゃー?」
「ごはんー」
「はい」
二人に差し出すのはパンが2つにソーセージー1つ。
シチューの缶詰は一つで、皆で使うことになる。
シチューが少ないことにミケちゃんが不満げだが、パンでよそうようにして食べるのを教えると笑みが零れた。
「良い組み合わせにゃ、いけるにゃ♪」
「おいしいねー」
二人は食事に満足したようで安心したが、問題はクーンだ。
「クーン、まだ大丈夫か?」
「はい、電池残量はまだ6日分は残っています」
遺跡を出てから充電が出来ていない。
「マスター、残量のことでご相談が」
「なんだ」
「いただいたスパークトルマリンを付けてから情報処理が早くなったような、メモリーの電荷移動もスムーズにこなせるようになりました。
多分、私でも使えているのだと思います。ミケさんたちから、マスターが以前スパークトルマリンを暴走させて電気を纏ったと聞きました」
クーンがその横腹をスライドさせ、中から充電プラグを取り出す。
家電に付いているコンセントに差す方の部分だ。
「電気を纏った俺から充電するのか? 危なくないか」
「アーティファクトの力を使えばスムーズに充電できると思います。
一応アダプターも内蔵しているので、過電流はシャットアウト出来るので大丈夫です」
「そうか、なら…」
スパークトルマリンを暴走させ、クーンの差し出すプラグを摘むと指先で電気が走る。
おそるおそるクーンを見ると。
「充電中……電流量、問題ありません。このままで30分おねがいします」
「わかった」
安全の為、ミケちゃんたちから離れて充電をする。
感電させてはいけないからシチューは諦め、パンとソーセージだけだ。
パンを掴むと、ぶすぶすと音を立て煙が細く昇る。
相変わらず凄い電流だ。
クーンはアーティファクトのお陰で大丈夫みたいだが。
焦げがついたパンを食べる。
触れていた部分が熱くなっており、もしかしてこのまま缶詰を持てば温められるのか、と気付く。
今度やってみよう。
……
…………
食事を終え、三人をバックパックに詰め込んだら出発だ。
この時間、空気が冷えているのでクーンにはグライダーに使っている布を巻きつけてある。
これで二人が抱きついても冷えすぎるということはないだろう。
暗い砂漠をひた走る。
吐く息が蒸気のように噴き出され、後ろへと流れていく。
砂に足を取られ、思うように進まないがそれでもジョギング程度の速さで駆けて行った。
アーティファクトの力で疲れは抜けやすい。
砂地を走るのは膝に負担を掛けるので、疲れたら歩きながら水分を摂り、疲れが抜けたところでまたひた走る。
目的地は北に20km程、途中休憩を挟みながら3時間で到達した。
「この辺のはずだが……」
日が昇り、周りが明るくなったが目的地はまだ見えない。
「あ、アレじゃない?」
ポチ君が俺の肩越しに指をさす。
遠目にだが、地平線が少し盛り上がっているように見えた。
そっちに向かって進む。
徐々に近づいてくると、ポツポツと緑の点が見えてきた。
目を凝らせば、木が生えているのが見えた。
あそこで間違い無さそうだな。
ここからは慎重に。
「左右は任せるにゃ」
「うん」
二人もバックパックから顔を出し、周りを警戒し始めた。
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