第123話 メヒコ村
昨日はすいませんでした、休んだ分明日も更新します。
「あれが西2番のオアシス村、メヒコだよ」
ラクダの人、ジニの指差す方向に村が見えてくる。
砂の海に浮かぶように石組みのしっかりとした建物が並ぶ。
ほとんどの建物は四角く、屋根が平坦の1階建ての平屋だ。
いくつか2階建ての建物がそれぞれ距離をおいて建っている。
村を囲う壁なんかは見当たらなかった。
「壁は無いんだな」
ジニはここを守るために駐留していると言っていたので不思議に思い訊いてみた。
「ああ、ここじゃ壁を作ると吹き飛んでくる砂を堰き止めちゃって、掃除が面倒だってんで作らないんだよ」
「それだと不安はないのか」
「見てみな。その代わりに外側には頑丈な家を並べてあるから、問題ないのさ」
ジニが村へと視線を向ける。
再度、立ち並ぶ家々を見てみるが、石組みの壁が分厚そうで窓が小さい、さらにどの家もドアが見えない。
おそらく玄関は村の内側に向けてあるのだろう。
外敵の進入を警戒しているわけだ。
村へと近づく。
数少ない2階建ての建物へと向かう。
2階のバルコニーにはジニと同じくマントを羽織り、顔を布で覆い目だけ出した格好の人がライフルを手に持って、こちらを見下ろしていた。
片手を上げ、声を掛けてくる。
「よう、ジニ。早いな」
「ああ、途中で切り上げてきた。お客さんだ」
「そうか、ようこそメヒコへ」
こちらへと向き、手を上げた。
「どうも」
「よろしくにゃー」
ミケちゃんがバックパックから顔を出し、手を振る。
相手も戸惑いながら振り返した。
視線を俺に向け。
「重くないのか?」
「まあ、なんとか」
そう答えると不思議そうに首を傾げていた。
まあ、そうだよな。
それから村の中では武装解除するということで、ショットガンと青銅砲を預けることになった。
「こっちはいいのか?」
腰に差したリボルバーを軽く叩く。
「ああ、長物だけでいいよ。そっちは持っておきな」
そう言うとジニは預けた2丁の銃を持って2階建ての建物、検問所の中へ。
おそらく武器を預けられるかどうかが、村の中へと入るための踏み絵のようなものなのだろう。
ジニが戻ってきて、3番と書かれた紙を渡してくる。
「預り証だ、村を出るときにここの警備に見せな」
「ありがとう」
「それじゃ次はこっちだよ」
家と家の間の細い道を通って、村の中へ。
路地を抜けた先には大きな広場となっていて、そこにテントが立ち並ぶ。
テントの大きさは大人が三人横になれるぐらいだろうか。
大きいのか小さいのか、わからない。
いくつかのテントの横には二首のラクダが繋がれてあった。
「こっちだ」
ジニはラクダから降りると手綱を引いて、テントの合い間を抜けていく。
背のバックパックに収まったミケちゃんとポチ君も地面へと降りた。
クーンは砂地の移動に向いてないので、このままだ。
ジニの後をついて行くが歩いて気づく、ここは砂が薄い。
外では踏み出すたびに靴底が砂に埋まったが、ここではしっかりと足裏に反動を返してくる。
足元の砂を払えば褐色の、砂を固めたような地面が見えた。
立ち止まった俺に、前を行くジニが気づき振り返り。
「ここは地盤がしっかりしているんだ。こっちだよ」
早く来いと片手で招いた。
軽く頭を下げ、急ぐ。
着いた場所は村の真ん中にある2階建ての建物。
外にラクダを繋ぎ、中へ。
床は土間だが丁寧に砂を掃いてあり、奥に木製の大きな机があって、頭に布を巻いた壮年の男が書類仕事をしている。
日に焼けた顔をこちらへと向け、それにジニが応える。
「戻ったよ」
「早いな、どうした?」
「途中でお客さんを拾った、8000だ」
「そうか、ようこそメヒコへ。ここは初めてかな?」
「ええ、よろしくおねがいします」
俺が頭を下げると、ミケちゃんたちも挨拶をする。
男はその仕草に目を細めると手招きしてきた。
机へと寄ると一枚の紙を差す。
そこには名前を書く欄と、横に8000の文字が。
名前を書き、料金を支払う。
これで残りは1375シリング、財布が大分痩せ細った。
「ありがとう。ジニ、案内を」
「あいよ」
外へと出て行くジニについて行くと、一つのテントへと案内される。
「ここを使っていい。滞在は3日までだ。他にも聞きたい事があるだろうが……ラン!」
離れたところでラクダに水を与えていた、小柄な人影へと声を張った。
「はーいっ」
水の入ったバケツを置き、小柄な人影がこちらへと小走りにやってくる。
格好はジニたちと同じで、目以外の部分を衣服で隠しているが、声からして女の子のようだ。
「案内を頼む。あたしは巡回の続きをしなきゃならん。他にも異常が出ているかもしれんしな」
「異常?」
「ああ、ちょっとな。それじゃ」
そう言ってラクダのもとへ行き、バケツに顔を突っ込んでいるラクダの尻を抓る。
水を飲むのを邪魔されたラクダが迷惑そうな顔を向けたが、それに構わず背に飛び乗った。
手綱を引くと二つの頭が揃って口を剥き、嫌々しながらも外へと向かう。
それを4人で見送った後、横から声を掛けられた。
「それじゃ案内をするよ。食事、それともすぐ休む?」
エメラルドグリーンの大きな瞳が布のすき間で揺らめいている。




