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第121話 砂漠を歩くのはきついんにゃ

 砂の上に座り、ゆったりと星空を眺める。

 しばらくクーンと共に空を見上げていたが、徐々に冷え込んできた。


「そろそろ戻るか」

 砂漠の夜は冷えるって言うからな、休めるところが見つかって良かった。

 部屋へと戻り、横になるとそれまでの疲れが出たか、沈み込むように寝入った。



 翌朝、冷え込む空気の中、日の光を求めて外へと出る。

 空気が乾いているので体にまとわりつくような寒さはないが、渇いた冷風が肌を撫で、吐く息が白い。

 日は昇り始めたところで赤く、その光は夜空に混ざり合い、空を紫に染めていく。

 日の光が暖かい。

 夕べの厳しい熱線とはうって変わり、肌を労わるような暖かみを感じる。

 砂漠は朝と夕で、日の性格も変わるものらしい。

 目を瞑り、存分に浴びて体を温める。



 体が温まったところで食事の準備だ。

 メニューは昨日と同じで良いかな、とスマホをいじっていたところ。


「おっはようにゃー!」

 ミケちゃんが部屋から出てきた。

 挨拶を返すと、腕をビッと伸ばし、特撮のヒーローの様なポーズを取って。


「あちき復活! あちき復活にゃ! あ、昨日はありがとにゃ」

 元気良くはしゃいでいる。


 もう大丈夫そうだな。

 それに遅れてポチ君も起きてきた。


「おはよー」


「おはよう、もう大丈夫?」


「うん、大丈夫だよー」

 二人が起きてきて、この場に居ないのはクーンだけだ。


「クーンは?」


「なにか向こうの部屋を調べてくるって言ってたよー」

 そう言って、今出てきたドアの方を指す。


 向こうの部屋というのはおそらく操縦室のことだと思う。

 枯れた花に数珠のようなネックレスが飾ってあったが、他にもなにかあったかな?

 まぁいい、とりあえず食事にするか。


 昨夜と同じメニューを摂る。

 パンにソーセージに缶詰のビーフシチューだ。

 温める道具がないのでシチューが冷えているが、それでも美味い。

 口へと入れると、濃いデミグラスソースの味が舌の上を独占するかのようにドッと押し寄せ、一歩遅れてトマトの酸味が合流する。

 舌の上に陣取ったところで甘みも流れ込んできて、舌の上に広がった刺激を優しくなだめ、口の中いっぱいに風味が充満する。

 少々甘みが強くベタッとし、後味を安っぽくしていて、いかにもレトルトという味だが。

 この何十時間と煮込み、何百時間と寝かした円熟の旨みに向こうの味だなぁ、と懐かしく思う。


「うまいにゃ、うまいにゃ」

「うん、うん、そうだねー」

 二人もスプーンをカッカッと鳴らしながらかき込んでいた。

 俺も食事を楽しむが、そういえば聞く事があったなと思い出し、スプーンを止める。


「そういえばポチ君、戦車バザーって今日からだと聞いたけど、いつまでやってるの?」


「ん、確か今年は1週間じゃなかったかな」


「1週間かぁ」

 1週間で街まで戻れるのだろうか。

 徒歩だと厳しすぎる、何とかしないと。




 食事を終えたところでクーンが戻ってきた。


「おや、皆さんお食事ですか」


「ああ、クーンは大丈夫かい?」

 充電が出来る環境では無いので、それが心配だ。


「ええ、バッテリーの残量はまだあります。1週間は平気ですよ」

 裏を返せば、それが期限か。

 こちらもきついことになってきた。




 食事を済ませ、身支度を整えたらキツイ散歩の時間だ。

 日は昇り、空は青まって暖かくなってきたが、あと少しもすれば昨日のように暑くなるのだろう。

 ミケちゃんとポチ君も砂漠を嫌そうに見詰めている。


「はぁ……、歩きたくないにゃー」

「うん……、きついよねー」

 二人がもうすでに泣き言をこぼす。

 だが、昨晩のうちに対策は考えてある。


「今日は昨日とは違う方法で動くから、まずは荷物をまとめようか」




 砂漠を大荷物を背負い、滑稽な格好をした旅人が歩く。

 大きなバックパックに2つのカバンを括りつけ、長身の銃2本に手持ちの大砲を吊るす。

 さらにはハンググライダーを括りつけ、傘のように差してあった。

 2つのカバンには道具を詰め、真ん中の大きなバックパックにはロボットと犬と猫が入っている。


「冷たくてひんやりにゃー」

「そうだねー」

 二人がクーンにべったりとくっつき、感嘆の声を上げた。

 今回、歩くのは俺だけにし、三人にはバックパックの中に入ってもらったのだ。

 バックパックはクーンと道具を入れるだけでいっぱいだったが、サイドベルトを緩めることで、中の物を全部出せば3人が入れるようになった。

 ロボットのクーンは金属製なだけあって熱伝導率が高く、冷えやすい。

 だが、日の光を浴び続ければ逆に熱せられてしまう。

 その為、グライダーを日傘代わりに差すことにした。

 これが以外に涼しく、快適であった。


「おにいさん、大丈夫にゃ? 疲れてないかにゃ?」

 ミケちゃんが俺の肩越しに尋ねてくる。


「大丈夫だよ」

 アーティファクトの力で三人の重さを感じないし、俺のスタミナも自動回復だ。

 とはいえ、この熱気はきついものがあるが。



 度々、MAPアプリで位置と方角を確認しながら砂漠を歩いていく。

 熱気で体力を回復するうちからドンドン削られるので、ソーセージを齧りながら進んでいく。

 これでもう10本目だ。

 だが、満腹することなく体がさらなる栄養と塩分を求める。


「はい」

 ポチ君から手渡される水もぐびぐび飲み、挑むように砂地を踏み越えて行った。


 3時間ほど歩いただろうか。

 遠めに細い影が見えた。

 岩か何か、かと思い気にしなかったが、ポチ君からアレ動いてるよと言われ、凝視する。

 確かに熱気の向こう、揺れる空気の中で漂うような影が少しずつ大きくなってる気がするな。

 こちらへと近づいてきている。


 じっと見たが、影は一つだけなのでこちらからも歩み寄ることにした。

 念の為、三人はバックパックの中に首を引っ込め、銃を握る。

 距離が狭まり、影の姿が見えてきた。

 二つ頭のラクダに着膨れしたような格好の人物が乗っている。

 片手を挙げ、その場に止まると。

 向こうの寄ってくる速度が速まった。


「旅人かい?」

 ライフルを肩に掛けながら、馬上から声を掛けてくる。

 日除けか、顔にも布を巻きつけてあり表情は見えない。

 声は……やや高く聞こえたな


「ああ、旅人って言うより遭難者かな」


「そりゃ大変だ。助けは要るかい?」


「出来れば」


「武装を解除するのが条件だ。それと少しばかりの代金だね。

 それが出来るなら村まで案内しよう」


「ふむ……」

 悪くない条件だと思う。

 武装を解くのは怖いが、向こうだって知らない人物を受け入れるのは怖いだろうしなぁ。


「どうするにゃ?」

 ミケちゃんがひょっこりと、肩越しに顔を出してきた。

 それに釣られポチ君とクーンも出てくる。

 それを見て、ラクダの人が。


「うわぁ!? 何さ、アンタら?」

 驚いた声は以外に高く、かわいらしい声をしていた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

今週の投稿はここまで、次の投稿は金曜日になります。

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