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第120話 休憩

すいません、遅れました。

 この砂漠に横たわる飛行機の残骸の安全を確認したので、二人を中へと運び入れる。

 クーンと手分けして担ぎ上げ、客室の奥にある通路へ。

 そこに並ぶ個室の一つを使わせてもらうことにした。


 個室には背もたれが倒れるタイプのソファーがあり、それをベッド代わりにして二人を寝かせた。

 傍に水の入ったペットボトルを置いておけば、起きた時に飲んでくれるだろう。

 荷物を壁際に置き。


「クーン、外を見回ってくる」


「わかりました、二人のことはお任せを」

 クーンにこの場を任せ、もう一度外を確かめてくる。


 個室のドアを開け、明かりの無い狭い通路を抜け、客室へと出ると。

 誰も座ることのない座席の群れに、その先に広がる赤々とした、燃え上がるような砂の海が見える。

 客室を抜け外へと出ると、夕日の最後の足掻きのような熱線が肌に降り注ぐが、その光にも翳りが差していた。

 焚き火に近寄ったように肌が熱せられる。

 熱いのではなく、温かい程度にしか感じない。


 飛行機の周りをぐるりとまわってみたが、コックピットのある前半部はあるが後半部が見当たらない。

 翼が折れた跡は見つけたのだが、それより後ろが砂に埋もれたのか、何処か別のところに落ちたのかな?

 考えられるのは飛んでいるときに何かあって、機体が折れてバラバラに落ちたのではないだろうか。

 撃墜でもされたのか?

 そうなると戦時中に落ちたって事になるなぁ。

 100年前、ここで何があったのか、そんなことに思いを寄せていたところ、声を掛けられた。


「マスター」

 クーンが中から出てきた。


「マスター?」


「ええ、皆さんマスターのことをあだ名のようなもので呼んでいるみたいなので私も、と思って。ダメでしたか?」

 そう言いながら、クーンがそのボディの前でアームをくねらせている。


「いや、良いよ。それでどうしたの?」


「ミケさんが起きられて、ご飯は? と聞かれたもので」

 もう食欲が出てきたようだ。

 さすがミケちゃん、回復が早いな。


「わかった、すぐ行く」


 個室へと戻り、ライトを点ける。

 ライトで室内を照らすが、光が一点に集中しすぎて食事や休憩には向かなさそうだ。

 部屋の隅を照らしたときに、箱の上にランタンが置かれているのを見つけた。

 残念ながら燃料が無いので使えないが、やはり誰かがここに来ているように思える。


 SHOPアプリを起動し、食品欄を。


『 

 ■食料 

 ・パン      2

 ・ソーセージ  3 

 ・缶詰     10

 ・水1L      1

 』


 ルーブルの残高は1687。

 都市遺跡でグールをかなり倒したので230ほど増えている。

 あまり消耗品でルーブルは使いたくないが、遭難している現在、そんな贅沢も言えない。

 さて、何を買うかと思うが、選択肢は少ない。

 パンは多分最初の頃に食べていた丸パンで、食パンのような味のものだと思う。

 ソーセージもあのサラミのようなドライソーセージだろうか。

 缶詰ってのがわからないな。

 とりあえず水以外で3人分買ってみるか。

 スマホを操作すると、光と共に商品が出てくる。


 丸パンに太いドライソーセージ、それと大きな缶詰が3つずつだ。

 缶詰が思ってたよりも大きい。

 みかんの缶詰ぐらいの大きさを想定していたが、それよりも2回りほど大きいぞ。

 容量は1リットルもあるようだ。

 缶詰の横に缶切りが一つ置いてあった。

 初回特典のようだ。

 缶切りで開けると食欲を誘う匂いが漂ってきた。

 鼻の奥に粘りつく様な煮詰めた肉の匂いに、香辛料の匂い。

 中身は茶色で、ビーフシチューだと判断する。

 匂いに釣られたか、ミケちゃんとポチ君も起き上がってきた。


「「ご飯?」」


「うん、ちょっと待っててね」

 スプーンと水を入れるカップを用意する。

 食べれないクーンには悪いが食事にしよう。


 ミケちゃんが立ち上がり、ふらふらとしながら寄ってこようとしたので、手振りで押し留め。

 そのままベッドで上半身だけを起こしてもらう。

 食事を手渡すが、じっとそれを見つめると。


「あーん」

 ミケちゃんが大きく口を開け、催促する。

 思わず苦笑しながらスプーンでシチューを掬い、口元へと運ぶ。

 頬を二度、三度動かすと目を見開いた。

 シチュー缶を見つめ、こちらに向きなおし。


「ん」

 目を瞑りながら口を開く。

 その口元へとスプーンを運んでいく。


「んんー♪」

 シチューを味わい、幸せそうに首を揺らす。

 その仕草が可愛く、思わず頭を撫でる。


「んー」

 撫でたその手にミケちゃんが頭を擦り付けるように動かしてきた。


 今日はずいぶん甘えん坊さんだな。

 やはりずいぶん弱っているのだろう。

 パンを千切り、食べやすく用意する。

 ポチ君の方もクーンが世話を焼いていた。


 ……

 …………

 食事を終え、二人は満腹になったか、横になり寝息を立てる。

 俺も食事を済まし、外へと見張りに出ることにした。


 日はすっかり沈み、灼熱の風景は過ぎ去り、黒いとばりが降りる。

 空には宝石箱を零したかのように星が煌いて夜空を飾り、星明りが砂漠を静かに青く染める。

 風も止まり、うって変わって肌寒さを感じる中、空を見上げた。

 時間が止まったかのような静けさの中、街で見るよりも星明りが明るく感じる。


「ここに居ましたか」

 振り返ると、クーンが居た。


「ああ、どうした?」


「どうしてるかと思いまして」

 クーンが横に来るのを待ち、口を開く。


「ずいぶん辺鄙なところまで飛ばされてきたなぁ」


「そうですね。記録上だと100年前はこの辺りは緑は少ないですが平原地帯で、砂漠ではなかったはずなのですが」


「戦争で大分荒れたのかもな」


「かもしれません。空から地上の様子を観察していましたが、全体的に緑が少なく、土が露出している部分を多く感じました」


「前の戦争は核戦争だったそうだが、それで木や植物が吹っ飛んでしまったのかな」


「それだけでは無いと思います。植物が焼けただけなら再生しますから。

 植生環境が狂ったのかもしれません。戦争が終わり、100年経っても環境の復元が遅れているのは理由があるのだと思います」


「例えば?」


「強い放射線により空気中及び地中の菌が殺菌され、減少した可能性が考えられます。

 植物はアミノ酸を作るために、根から必要な栄養素を吸収するのに、根に自生した菌の力を借りる。

 そんな共生関係を築いていますから」


「目に見えない、菌の世界までに戦争の影響が及んだって事か」


「はい、この辺りが急激に砂漠化したのもその為ではないか、と」

 思った以上にこの世界はダメージを受けていたようだ。


「うーん……、それってヤバくないか?」

 環境の復元力まで失われてるとなると、どうしようもないように思えるのだが。


「見たところ、都市の近くでは植生が盛んでした。人や動物が頻繁に通るところでは環境の回復が進んでいた気がします」


「人や動物……やはり菌の影響が大きそうだな」

 言い方は悪いが、動物の居るところほど不衛生。

 菌の繁殖が盛んなのだろう。


「そのようですね」


 確かに街の近くの土手付近では草原が広がり、緑が多い。

 それも水辺なのと人や動物の営みがあるからか。

 街といえば、明日から戦車バザーだったのだが。

 急いで戻れば間に合うかな?

 後で日程をポチ君に聞いとかないとな。



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