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第117話 ガンガン足掻こう

ちょっと長いです。

 二人の居るビルから離れ、あてずっぽうに都市遺跡を走る。

 後ろからは地面を割るような足音が追いかけてきた。

 とはいえ、何処に逃げたものか。

 そう思っていると、背のクーンが。


「あ、アレです。正面に見えるマイクロウェーブ送信塔が見えますか?

 アレの30階より上まで行けば安全かと思われます」

 クーンの指差す方向に遠目ながら、大きな建物が見える。

 高さは30階以上…40階ぐらいか?

 屋上に巨大なパラボラアンテナの様な物が置かれてるのが特徴的だ。

 アンテナはかなり大きく、ビルの横幅の半分くらいある。


「安っ全な、理由は?」

 息せき切りながら尋ねる。


「あそこの30階より上は軍の管理下で厳しい警備体制が執られている筈です。

 グールが近づけば無人の警備システムで撃ち殺されることでしょう」

 グールにも多少の知恵…の様なものもある。

 死ぬとわかっていれば本能的に近づかないか。


「俺たちが近づいても大丈夫なのかっ?」

 そこが重要だ。


「警備区画に入らなければ大丈夫かと。休憩所とかトイレとか」


「なるほど……」

 グールが来ないようにトイレに篭ってガタガタ震えながらお祈りをするわけか。

 楽しくなってきた!

 やばい、ピンチが続いて感情が高ぶったかな?

 そうこうしているうちに背後に迫る足音が近づいてきた。

 ショットガンのグリップを強く握り、大きく息を吸う。

 意を決して、前に出した足を軸に振り返り、迫ってきたギガントに向けて連射!

 銃声が轟き、目の前に広がった硝煙が薄くなったところでギガントが両手で顔を隠しているのがわかった。

 指の隙間から見える目と視線が合う。

 3本目の腕を振り上げてきた!


「うおっ!」

 慌てて横に飛びのく。

 入れ替わりに巨大な平手が地面へと叩きつけられ、耳が痛くなる程の破裂音。

 トラックが高速ですぐ横を通り過ぎたよう時に起きるような、風圧で体を揺らされる。

 すぐに立ち上がろうとするが、ギガントの指の隙間からの視線が俺をじっと捕える。

 ゆっくりと腕を持ち上げた……。


「させません!」

 クーンの射撃!

 俺の渡したサイレンサー付き9mmハンドガンを撃ち込む。

 指の隙間近くに着弾したか、嫌そうにギガントが顔を背けた。

 今のうちだ。

 立ち上がり、逃げる。

 それをギガントが追いかけてくる。

 後ろを振り向く余裕すらない。

 もう学習したか、ちくしょうめ。



 とはいえ、どうしたものか。

 他に有効な手段はと模索する。

 アレ以外でギガントの意識をそらせるような攻撃は……青銅砲とガイドさんが撃った煙幕弾か。

 思いついた!


「クーン、火薬玉だけ(・・・・・)をヤツに投げてくれ」

 火薬玉とは青銅砲に使われる褐色の固めな粘土のような火薬のことだ。


「わかりました、えい!」

 すぐにクーンが用意すると、ギガントへと投げ込む。

 ギガントが用心して足を止めたのが気配でわかる。

 今だ!

 さっきと同じように振り返り、ショットガンを向ける。

 宙を舞う火薬玉はギガントの顔付近だ。

 大雑把に狙いをつけ……撃つ!

 散弾が火薬を捕え…


 爆発、閃光が走り目の前が白く染まる。

 ドッ……といった破裂音と共に衝撃波が広がり、俺の体を通り抜け、立ち並ぶビル影に木霊こだましていく。

 そして黒い煙がギガントの体を隠すぐらいに広がり、やがて上へと立ち上って行き、キノコ雲の様になった。


 目がチカチカする。

 視界の中心に緑の残光とそれを縁取る紫の残光が映る。

 端の方は見えるとはいえ、残光が残るうちは歩くのにも苦労しそうだ。

 その事にぞっとする、が向こうも同じようだ。

 ギガントが目を抑え、膝を突いた。

 指の隙間から光が入ったのだろう。

 間近で直視した分、向こうの方がきつそうだ。

 振り返り、ヨタヨタとながら歩く。


 徐々に残光が取れ、走れるようになった。

 ここで距離を稼ぐ、目標まであと少しだ。

 遠めに見えていた電波塔は徐々に膨らみ、近づいてきている。

 今走っている大通りは重要区画か、左右のビルも大きく、通りも片側3車線あり広い。

 外側の車線を埋めるような放置された車で挟まれた道を急ぐ。

 それにしても、


「ずいぶん煙が出たな」

 思っていた以上に出ていた。

 青銅砲を撃つ時はあそこまで出ていなかったと思ったが。


「おそらく密閉空間で着火しなかったので不完全燃焼を起こしたのでしょう。

 火薬は基本、閉所で着火するものですから。全体に熱が伝わる前に飛び散ったものが燃えきらずに煙となったのかと思われます」

 クーンが答えてくれた。

 砲に詰めずに撃てば、こういう反応を返すか。

 コレはコレで使えそうだ。

 そうこうしているうちにまた、後ろから地響きが響いてくる。

 もう復活したか。

 だが、距離は離した。

 もう少しだ。


 そう少し安堵するが、背後から聞こえてくる地響きが止んだ。

 そのことに不安を覚え、振り返ると。


 ギガントはまたもや手近の車やバイクを掴むや否や、振りかぶる!

 またか!


「右へ!」

 クーンから警告が走り、右へと跳躍。

 アーティファクトで強化、軽量化した体がすぐに反応を返す。

 腕を振るう風切り音が聞こえた後、今まで俺たちの居た場所を飛んできた車が、耳の痛くなるような轟音を立て、跳ねていく。


「右へ!」

 さらにクーンが警告を上げ、右へと逃げる。


「さらに右へ、ああ!」

 右へ右へと逃げるうちに反対車線まで出たが、反対車線が埋まっている!

 戦前に事故でも起こしたか、玉突き事故が連なるような形で車が放置されていた。

 野郎、誘導しやがったか。

 ギガントがバイクを掴むと、じっと俺たちを見る。

 大きく振りかぶろうとモーションを取った。


「クーン、投げろ!」


「わかりました!」

 すぐにクーンがギガントに向け火薬玉を投げ、ショットガンで狙い撃つ。

 俺たちとギガントの間で煙が立った。

 黒い煙に遮られ、ギガントの様子が見えない。

 だが、向こうも同じはずだ。

 対峙している瞬間、長く感じる。

 頬を汗が伝わり始めた頃、煙の向こうから風切り音が。

 すぐに右へ、さっき居た場所へと飛び退く!

 遅れて、煙を打ち払いながら鉄塊が飛んできた。

 けたたましい音を立て跳ねていき、電波塔近くの信号機にぶつかり止まる。


 目標を見失ったら、煙に向かって投げ込むしかないだろうと思ったのだが、正解だった。

 風切り音さえ聞き逃さなければ避けられる。


「クーン!」


「はい!」

 クーンが次々と火薬玉を投げていき、それを撃ち抜いていく。

 道路を黒い煙の帯が遮った。


「ガアァァ!」

 後ろでギガントが吼えているが、知ったことか。

 電波塔へと急ぐ。

 やがて煙が晴れ、ギガントがこちらを視界に捉えた頃には電波塔のビルは目の前だ。

 ビルは正面に割れたガラスの入り口があり、先ほどバイクの当たった信号機が折れて、側面に当たっていた。

 もうすぐという所で背後が気になり、ちらっと覗く。

 ギガントがこちらをじっと見、その視線が入り口へと。

 ギガントが近くのワゴン車のような角ばった車を手に取る。

 それを振りかぶったところで、進路を変え、折れた信号機へ。

 風切り音が聞こえ、それに遅れて車が入り口へと突っ込む。

 ガラスが飛び散り、降り注いだ。


「うぉ!」

 信号機へと大きく跳躍し、避ける。

 そのまま信号機に足を掛け、もう一飛び。

 3階の窓へと飛び込んだ。


 頭から飛び込み、フロアを転がる。

 途中、背のクーンも床へとぶつけてしまった。


「クーン、大丈夫か?」


「はい、これぐらいであれば」

 クーンの無事を確かめ、辺りを見渡す。

 このフロアは何かの窓口だろうか?

 奥に長いカウンターと大量に並んだ待合席のようなものがある。

 その席に蠢くものが。

 一人……また一人と立ち上がる。


「30階より下は市役所として使われていたのですが、説明する暇は無さそうですね」


「ああ、とはいえ相手にする気もないけどな。コレを」

 ショットガンをクーンに渡し、立ち上がったグールどもを無視して走る。

 背から弾を装填する音が聞こえてきた。

 左右に階段があるようだ。

 とりあえず左へと走る。

 途中、席のすき間からグールが襲い掛かってきたが、顔から突っ込んできたグールの喉を掴み、床へと叩きつける。

 正面から飛び掛ってきたのはアーティファクトオブシディアン・タールを解除して、肩からぶち当てた!

 解除すればこちらの方が重い、トドメを刺す間も惜しんで踏み越えていく。

 階段へと駆け上がるが、途中の踊り場にもグールが。


「できました!」

 クーンがショットガンを渡してきてくれる。

 それを受け取り、吼えながら噛み付いてこようとするグールに向かってストックで一撃!

 前歯を叩き折って押し退け、たたらを踏ませたところで肩を掴み、階下へと引きずり落とす。

 グールがギャッ?と言った悲鳴を上げて落ちていく。

 無視してさらに上へ。

 4階へと上り、手すりに手を掛け、回るように次の階段へと体を向けるが。

 目の前、5階へと繋がる途中の踊り場にグールの群れが。

 狙いもつけず、銃口が横へと流れるように連射!


「ギィェェ!?」

 散弾がグールたちを引き裂き、赤い血潮が弾ける様に飛び散り、ばたばたと倒れこむ。

 倒れたグールが階段へと滑り落ちてきた。

 その体が邪魔となり、踏み場が減る。

 その光景に舌打ちしながらも進もうとするが、さらに上からグールが下りてきた!


「向こうにもあります!」


「わかった」

 クーンの進言に従い、反対方向の階段へと走る。

 この階も受付か何かか、下の階と同じ構成のようだ。

 待合席からグールが次々と立ち上がる。

 進む邪魔になるものだけを打ち払っていく。

 グールが次々と襲い掛かってくるが、次々とストックで打ち、蹴り飛ばす。

 そうやって進む中、窓の向こうに見覚えのある青いグライダーがすいーっと横切った。

 思わず目で追い、それに乗る可愛い猫の女の子と目が合う。


「見つけたにゃー!」

 もちろんミケちゃんだ。

 グライダーにはロープが括りつけてあり、それにポチ君もしがみついている。


「リーダー!」

 ポチ君が自分もしがみついているロープの端を手繰り、見せてきた。

 端は円を描くように結ばれ、掴みやすそうだ。

 そういうことか!

 グールたちを押し退け、窓際へ。

 グライダーの動きはゆっくりとしたもので、何とか間に合いそうだ。

 ロープ目掛け、窓から飛び出そうとしたところで、


「ニャッ!?」

 ミケちゃんの悲鳴が上がるとグライダーが離れていってしまった。

 見ればグライダーに向けて手を伸ばしたギガントが。

 またコイツか!

 グライダーは正面の大通りの方へと流れると、Uターンし戻ってこようとする。

 それまでにコイツをなんとかしなければ。


「サトシさん!」

 クーンからの警告。

 振り向けばグールどもが俺たちを包囲し、階段の方からも新しいグールどもがやってくる。

 横薙ぎにショットガンを連射!

 4発撃ったところで引き金が軽い音を返す。


「クーン、2発でいい」

 ショットガンをクーンに渡し、ハンマーを抜く。

 硝煙が晴れるのと同時に襲い掛かってきたグールに向けて、持ち手の部分で一撃。

 カウンター気味に当て転げさせ、その後ろへと続いていたグールの膝に向かってハンマーをぶん回す。

 枯れ木を折るような手応えと共に打ち抜き、グールが横倒しに落ちる。


「ウォォォ!」

 さらに力の限りにぶん回し続ける。

 荒れ狂うような動きの槌頭がグールを、立ち並ぶ席を、と見境無く打ち壊していく。


「出来ました、次は?」

 クーンに声を掛けられ、ハンマーとショットガンを交換。


「火薬だ、向こうに」

 視線で階段の方を示す。

 遅れてやってきたグールの群れが10、奥を見ればさらに増える。

 そこに向けてクーンが火薬玉を投擲、それが先頭のグールに当たったところで狙い撃つ!

 カッ…と閃光が走り、遅れて爆風が吹き荒れた。

 グールどもが吹き飛ばされ、煙が室内に充満する。


 片手で目を遮りながら、流れてくる煙と粉塵をやり過ごし、窓の外を見れば。

 ギガントがこちらへと向かおうとするグライダーを待ち構えている。


「クーン、奴へ!」


「はい!」

 クーンが火薬玉を投げようとしたが、それを察したギガントが振り向き、目を塞いだ。

 指の合間もさっきの様に開いていない、完全に閉じた状態では防がれるか?

 ハッとして、慌てて指示を変える。


「頭の間だ!」


「了解」

 二つ並んだ頭のすき間に吸い込まれるように火薬玉が飛び、流れるような動きで銃口がそれを追う。

 集中したからか、ややスローモーションに見える視界の中、頭と頭の間に茶色い粘土のようなものを捉え、銃口の上に取り付けられた突起のような照準機が重なったところで引き金を引く。

 銃口からガスを噴出しながら散弾は発射され、見事目標を捕らえ着火、ギガントの首の合間で閃光が走る。

 爆発の後、ギガントが膝から崩れ落ちた。

 流石に耳から入る衝撃までは耐えられまい。

 脳震盪といったところか。

 そこへ。


「おにいさーん!」

 爆発の煙を断ち割るようにグライダーが現れる。

 ミケちゃんが煙に目を細めながら、声を上げる。


 少し下がり助走をつけると、ポチ君の差し出すロープに向かって窓から飛び出す。

 伸ばした腕がロープの端のわっかを掴み、振り子のように揺れ、宙ぶらりんになる。


「にゃにゃ!?」

 俺の動きを受けグライダーの高度がぐっと下がる。

 元々、低いところを飛んでただけに落ちそうだ。

 アーティファクトの力で荷物と共に軽減しているが、それでも重りになってしまっているか。


「にゃにおー!」

 ミケちゃんが舳先を上に向けて、何とか落ちないように操作するが。

 高度は上がらない、ゆっくりとした速度で滑るようにビルの合間を飛ぶ。


「ここ、風が弱いにゃー」

 ミケちゃんの言う事を考えるが、確かに風は弱い。

 都市遺跡の中央部は壁に囲われているので、風が入りにくいのだろう。

 このままじゃ一度下りるしかないか、と考えていたところにクーンから警告が。


「また来ましたよ」

 後ろからギガントが追ってきた。


「まだ追ってくるかよ」

 見れば左の頭はぐったりとうなだれているが、右の頭は目を吊り上げ、こちらへと強い視線を向けてくる。

 右はあの衝撃に耐えたか。

 だが、距離はある。

 逃げ切れそうなところに、ギガントが苦し紛れに近くの車を掴んだ。

 それを振りかぶり、視線が合ったところで。


「させるか」

 リボルバーを抜き、赤いレーザー光がギガントの瞳へと映る。

 瞼がピクリと動くが、閉じるよりも早く引き金を引く。

 マグナム弾が大通りに音をたなびかせながら発射され、空気を断ち割り進み、目標へと撃ち込まれる!


「ギィヤァァ!!」

 ギガントが手から車を取り落としながら、うずくまる。

 どうせ致命傷にはならないだろうが、これでしばらくは追えまい。

 ギガントを止めたところで、今度は前から問題が。


「壁が見えたにゃ」

 グライダーの進む先にこの中央区を囲う壁がそびえ立つが、こちらよりもその天辺が高い。

 このままではぶつかってしまう。

 何とかして高度を上げなければ。

 考えるが飛ぶような道具は無い、代わりは?

 何があればいい……グライダーを打ち上げる、ような?


「クーン! 青銅砲を」


「はい、……どうぞ」

 クーンに青銅砲を手渡され、砲口を上へと向ける。


「火薬だけを2つ頼む」


「はい」

 クーンが素早く2つの火薬を差し込む、俺も砲を片手で固持しながら着火剤となる空砲を差し込む。

 壁はもう目の前まで近づいてきている。

 準備が出来たところで砲を下に向け。


「二人ともごめん、飛ぶよ」


「にゃ?」

「え?」

 二人がキョトンとした表情を返す。

 それに少々罪悪感を感じながらも引き金を引く。

 雷のような砲声が轟き、その砲口からガスと火花を噴き出して、反動で砲がロケットの様に俺へと飛び込んでくる。

 それを腹で受け止めるが、


「うぐっ!」

 腹を思い切り蹴飛ばされたような痛みが走る。

 そのまま体を上へと持ち上げられ、二人へとぶつかる。


「ぎにゃ!」

「ぐぇ!」

 二人が潰されたかえるの様な声を上げる。

 そのままグライダーごと押上げ……、飛び跳ねるようにグライダーが上昇した。

 壁の手前で急上昇したグライダーは、天辺を跳び越えて行く。

 壁を越えた所で下から来る突風に呑まれ、さらに上昇。

 壁へと当たっていた風が上昇気流となったようだ。

 青空へと吸い込まれるように俺たちを乗せたグライダーが飛び上がっていく。




 この時、俺は気づかなかったが壁に座り込み狙い澄ましたかのように、こちらを見上げるネズミの姿をクーンが捉えていた。



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