第114話 キノコ
すいません、遅れました。
干からびたキノコをしげしげと眺め、これの使い道をクーンに尋ねる。
「コレはどう使うんだ?」
クーンが書類をめくっていく。
「資料によれば肥料用に遺伝子改良した特別な品種のキノコみたいです。粉砕して畑に撒くだけで効果が出るそうですが、実際に使われたことは試験以外には無いようです」
「使われてなかった? 何故に」
「遺伝子改良したものを野に放ってはいけない等の世論や山林・農業法に接触していたみたいで、許可が下りなかったみたいですね。
それで使われずにこの金庫に仕舞われていたようで」
「なるほど」
「栽培は日の光と水、土があれば十分みたいで、ずいぶん生命力の強い種ですね。
栽培は簡単ですが一応まだ研究段階という事で、確実な繁殖をさせるならこれを作ったラボの培養機に入れたほうが良いみたいですね」
「栽培か……、ちなみにコレは他には無いのか? ここにあるだけ?」
「後はラボに保存している物……のみになるみたいですね」
クーンが書類を最後までまくっていくが、他に在り処を示す記述は無いようだ。
現状、予備は無しということか。
ヘタなことは出来ないな、そうなるとラボとやらに行く必要があるか。
「そのラボの位置は?」
「ここより北に600km、カルパティア山脈を越えた先のツベルキン工場地帯に在るようです。
ラボは化学薬品工場に隣接しているようですね」
前にも聞いた地名だ。
ここのカギを手に入れたビルから持ってきたパソコンに入ってたデータに有った。
そこに工場が建っているというのも一致している。
ただ、遠いなぁ。
歩いていくには……、一日30km移動したとしても片道20日か。
リアカーに食料と水を満載したところで片道分にも足りないな。
車が要るか。
そもそもこのキノコの扱い自体どうするか?
俺たちが使うには今のところ有効利用できそうにない。
街の中央に住み、どうも都市運営にも関わっていそうなシャーロットさんに渡せば高く買い取ってくれるだろう。
この世界の土地は荒れ地だらけだ、土は赤茶色に渇き。
チェルシーの街にしたって畑が見当たらないほどだ。
屋台のおばさんが言うには香辛料の類なら育てたりしているようだが。
土地が荒れているからきちんとした農業がおこなえていないんじゃないか?
「ポチ君、この辺では農業とかしていないのかな?」
「んー、南のメリトー市やニーコニコ市は小麦とかの農産物で有名だよ。チェルシーじゃやってる人居ないし、北の亜人集落では豆とか作ってるみたいだけど」
「あ、それ聞いた事あるにゃ。この辺は土が悪いからあんまし実らないとか聞くにゃ。あちきのお母ちゃんは昔、北で豆を育ててたって言ってたにゃ」
ミケちゃんのお母さんは現在行方不明だ。
奴隷商人に攫われたのでは、とミケちゃんは考えている。
何でもない様に話しているがミケちゃんのしっぽは縮こまり、体に巻きつくようにしている。
お母さんのことを考えて不安になったのかもしれない。
これも何とかしないと、でも手がかりがなぁ、うーん……
「二人ともありがとう。南ではちゃんと農業しているのか」
「うん、南の方が土地が豊かだって聞くよ。大量に生産するために肥料なんかは都市連合中から集めているって聞くし。
内地に繋がる連合道路を堆肥や腐葉土を積んだ車やリアカーが行き来するの見たこと有るよ」
あー、有機肥料とかはあるのね。
南の地は見たこと無いが、北でこれだけ荒れている土地だ。
肥料無しには育てるのは厳しいだろうな。
それにしても聞いたことの無い言葉が出てきたな。
「内地と連合道路というのは?」
「中央に属する都市の事だよ。有名なのは首都のキエフ、農業のメリトー、軍事のオデッサとか。豊かな土地と貴重な工場の有る場所は大体内地って呼ばれてるかな。
チェルシーとか、辺境に近い都市は外地で呼ばれてるよ」
「その二つって呼び方が違うだけ? それとも明確な違いが」
「外地は住み着くのも、移動するのも大体自由だけど。外地住みの人が内地に行くには許可が必要になったりするね。
許可を持った人が連合道路っていう指定の道路を通って内地まで行くの。それ以外の場所を通って内地へ入り込もうとすると、巡回している軍隊に撃たれるらしいよ」
ずいぶん物騒な話になってきた。
「内地はずいぶん怖いんだな」
「うん、でも向こうの方が景気良いし、物もいっぱいあるよ。商人は内地に売りつけに行けて一人前って言われてるし。
向こうでは軍隊が常に巡回してるからレイダーもあまり居ないし、安全だって聞くよー」
「向こうの方がお給料も良いって聞くにゃ」
「へー、住むには向こうの方が良いのか」
「許可は滅多な事じゃ下りないけどね」
段々と仕組みがわかってきたぞ。
江戸時代の幕府に親しい譜代大名と、それ以外の地方大名を外様と称していたような関係か。
対応はそれよりも苛烈に聞こえるが。
それにしても肥料の価値は高そうだな。
それを簡単に育てることが出来るとしたら……
都市連合内も政治的に対立していそうな部分もあるし、コレの対応は慎重に考えないと。
「コレの事は帰ってからみんなで考えようか」
そう3人に振るが返事は返ってこらず、ミケちゃんが手をあげる。
「そのキノコがあれば土地が豊かになって、北でも小麦が育てられるにゃ?」
「農業のことは詳しくないけど土地の改善は進むだろうね」
そう言うとミケちゃんとポチ君が顔を見合わせる。
「うん……」
少し考え込むように返事を返してきた。
どうしたのだろう。
とりあえず金庫の中身はいただいた。
次はカード作りだ。




