第112話 シューストカ都市銀行
廃墟となったスーパーに巣くっていたグールたちを掃討した。
床に転がるグールの数は相当なものだ。
俺が入ってくる前に、3人の手で退治されたものもかなり居たらしく、100までは届かないがそれに近い数が倒れている。
いつもならコレを街まで運ぶ算段をするところだが。
ガァァーッ!!
外からギガントの呻きがまだ聞こえてくる。
「とりあえず移動しよう」
そう言ってモルダーさんが奥の方へと向かっていく。
それに付いて行く前に、
「二人はケガは無い?」
「大丈夫にゃ」
「うん」
頷く二人と共に後を追う。
裏口から出て、ビルとビルの間のすき間道を通っていく。
たまに大通りの方を眺めるが遠くに別のギガントが歩いているのを見て、一同に緊張が走る。
とにかくギガントに遭遇しない様に裏道を進み、たまに地面にグールが寝転がっているが、気づかれる前にミケちゃんが走って硬鞭で頭をポカリ!
目を回している間に俺やモルダーさんがナイフでトドメを刺す。
そうやって慎重に進み。
「ここだ」
無事、目的地となるシューストカ都市銀行に着いた。
かなり大きな銀行だ。
ビルとしては高さは4階しかないが、横幅はさっきのスーパーに近いぐらいある。
「俺の案内はここまでだ。帰りは自力で帰って来てくれ。地上に出る前に渡した紙を持っているか?」
モルダーさんにさっき渡された地下の地図を渡すと、さらさらっと描いて返してくれる。
ここまでの地図を書いてくれたようだ。
「ありがとうございます。ここまでの事とさっきギガント相手に援護射撃貰った事も含めて」
ギガントに食われかけた時、煙幕弾のようなものが飛んできていた。
おそらくモルダーさんだろう。
「いや、こちらも仕事だしな。それにグールの大群の時は俺も世話になったしな」
「ありがとにゃー」
「うん、ありがとねー」
「ああ、嬢ちゃんもさっきは銃ありがとな。それじゃ俺はもう行くがギガントには気をつけろよ。アレには生半可な攻撃は効かんから、俺もこんなのを使ってるしな」
そう言って、腰の小さなグレネード砲のようなものを叩く。
アレに煙幕弾が詰まっているのだろう。
最後に道や道具を使えばアレから逃げるのは何とかなると言って、もと来た道を戻って行った。
それを見送り。
さて、
「さ、お宝探しにゃ」
「うん、頑張らないとねー」
二人がやる気満々だ。
そっと入り口から銀行の中を覗くと、こそこそと入っていく。
俺と背負われたクーンもそれに続く。
中はイスやカウンターが壊れてたりして荒れ果てていた。
灰色に塗装されたカウンターには銃痕や切りつけた痕が残っており、戦闘があったようだ。
静かに足音を立てないように室内を探っていく。
カウンターの裏をそっと覗き、裏の事務室も窓からそっと中を覗き見るがグールの影は無い。
とりあえず1階には居ないようだ。
ポチ君がいたる所で耳を澄まし、上へと続く階段にも耳を向けるが。
「大丈夫、上からも音がまったく聞こえない」
上の方も安全そうだ。
グールがただ寝ているだけかもしれないが、起きればポチ君が気づくだろう。
安心して内部を漁れそうだ、クーンを背から降ろし、みんなで手分けして探る。
とりあえずは、と玄関フロアのカウンターを見てみるが。
20あるカウンター席の全てが棚を開けられ、金庫のようなレジもこじ開けられている。
それを見てミケちゃんも浮かぬ顔だ。
一つ一つ見てみるが、紙幣の一枚も落ちていない。
カウンターの後ろに並ぶ机には四角く切り取ったような埃の跡が残っている。
多分、パソコンとかがここに置いてあったんじゃ、と推測するが全て持ち去られている。
ここには何も無いか、と見渡せば壁際にATM。
自動振り替え機が並んでいる。
期待して覗きに行くが、画面が断ち割られていたり、引っこ抜こうとしたのか斜めに傾げてたりしていた。
それを見て、立ち尽くす。
「どうしたにゃ?」
「ここから引き出せればなぁと思ったんだけどなー」
拾った電子マネーカードやキャッシュカードが60枚近くある。
ちょっと期待していたが、まぁしょうがない。
カード類はハッキングツールを通してセキュリティ部分を壊してあるから、実際に通したら警報がなったりしたかもしれないしな。
ただ不安になってきた、カードを作る機械は大丈夫だろうか。
ここでの探索を終え、奥へと移る。
入り口付近までは外から日の光が入ってきていたが、ここからは暗い。
それぞれ頭にベルト型のライトを括りつけ探索だ。
俺とクーンは事務室のような場所を探り、ミケちゃんとポチ君は別の場所だ。
何か役立つ物はと、見回したところ。
書類や本の類は残っていた。
中には業務に携わるマニュアルもだ。
「記録しますね」
クーンが片っ端からその目に通す。
パッと見ただけで記憶出来るらしく便利なものだ。
そんな時。
「こっち来てにゃー」
ミケちゃんの呼ぶ声がした。
クーンと顔を見合わせ、急ぐ。
声の聞こえた方へと進むと、通路上に鉄格子が有り、それが開いたままになっている。
ずいぶん厳重なことだ。
途中の貸し金庫室と書かれたドアの前を過ぎ、奥へと。
その先の部屋の中には大きな円形の金属の扉が有り、金庫室みたいだ。
扉は閉まっているが隣の壁は崩れ、大きな穴が開いている。
先ほどのフロアと同じく、誰かが先に来たようだ。
壁の断面は分厚いコンクリートで1cmほどの鉄板も入っている。
よくこんなものを壊せたものだ。
「行くにゃ」
ミケちゃんが中へと顔を覗き入れる。
手にもライトを持ち、中を照らすが動くものは無い。
暗い中、順々に入っていく。
壁際へとライトを向ける。
丸く切り取られた明かりの中に埃が舞い、壁に備え付けられた棚を見ていくが。
……どれも開いているなぁ。
金属製の戸は全てこじ開けられていた。
まぁ当然か。
一応調べていくが、コインの一つも落ちていない。
この結果には二人も肩を落とす。
「がっかりにゃー、がっかりにゃー」
「うん……」
ミケちゃんが口を尖らせ、ふて腐れる。
ポチ君もしっぽが垂れ下がり、落ち込んでいるようだ。
「まぁまぁ、まだ上もあるし」
「上も荒らされてないといいけどにゃー」
「ねー」
とりあえず戻る。
途中、さっき通ったドアの前に差し掛かり。
「貸し金庫室か」
一応、ここも探っていくか。
ドアを開け、中を覗くと。
狭い部屋だ、奥にエレベーターのようなスライドドアと、その横にコンソールがあった。
とりあえず中に入り、ポチ君が奥のコンソールをいじってみる。
不意に奥のドアがスライドした。
「わっ!」
ポチ君が驚き、横に引き。
恐る恐る中を覗くが、目が点になる。
ドアのすぐ先が壁になっていた。
「これ、何にゃ?」
ミケちゃんが壁にぺたぺたと触り、俺も触れてみるが……コレ塗装だ
コンクリートのような見た目に偽装されているだけで、叩いた感触は金属のようだ。
奥に空洞のようなものを感じるが、うーん、よくわからない。
コンソールを調べてみると、小さな長方形の穴が開いている。
何かを差し込むような……。
はっとしてバックパックを降ろし、奥から小さなケースを取り出す。
中にはメモリーカードとカギが一つ入っている。
都市遺跡で最初に探索した、クーンの居たビルの金庫から手に入れたものだ。
来週の更新は中篇を書くので休みます。
続きは11/11(金)からになります。




