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第110話 巨人

すいません、遅れました。

 地下鉄の出入り口からそっと外に忍び出た俺たちの頭上に巨大な影が落ちる。

 不意に下りた視界の暗さにギョッとして振り返り、見上げれば……

 逆行を背に頭を2つ持つ、巨大な人影が立ち上がったところだった。


「逃げろ!」

 モルダーさんが通りを駆ける!

 俺たちもそれに続く、モルダーさんの頭が左右を見渡している。

 逃げ込めるビルを探しているのか?

 俺も駆けながら周りを見渡すが、この辺のビルは小さな雑居ビルばかりだ。

 1階はテナントとして貸し出していたのか、棚や壊れたショーケースが見える。

 何処も小さく、奥行きが無い(・・・・・・)

 そんな所に逃げ込んでも、あの巨大な腕を突きこまれたらお終いだ。

 後ろをちらりと覗けば、巨大なグールが飛び上がっている!?


 着地と同時に地を揺らす振動が。

 地面が小刻みに波打ち、足裏がずるりと滑って、たたらを踏む。

 前を行く3人も思わず立ち止まり、ミケちゃんとポチ君の二人はぺたりと膝を突いてしまった。

 それを見下しながら3本腕の巨大なグール(ギガント)が悠々と大股で迫ってくる。

 マズイ!


「サトシさん! これを!」

 背のバックパックに入ったクーンがショットガンを差し出してくる。

 受け取り、ロックを外すと同時にギガントの顔に向けて一発!

 ダンッ!とやや後を引くように銃声が立ち、散弾がばら撒かれる。

 銃口から吹き出た硝煙が視界の先を立ち上っていく。

 それが晴れた先には……両目を瞑り顔を顰めたギガントが。


 ギガントは自分の顔を確かめるように手でさすり、ゆっくりと両目を開く。

 クソ! 効かないのか!?

 ならば、連射だ。


「今の内に早く!」

 背の三人に声を上げる。

 視線と腕はギガントの左右の顔を行ったり来たり、続け様に撃ち込んでいく。

 ギガントは両手で顔を遮り、煩わしそうに俺を睨みつけてきた。


「すまんにゃ!」

 そう言って、後ろから地を蹴る音が伝わってきた。

 俺もショットガンを撃ち切り、すぐにそれを追う。

 先頭を行くモルダーさんが角を曲がる。

 俺もショットガンに弾を込めながら必死に駆けていく。

 後ろからは地を歪ませる様な大きな足音が追いかけてくる。


 先を行く三人は角を曲がった所でそのまま道路を横切り、路駐されたバスを迂回して反対側の歩道にある大きなビルを目指す。

 俺は通りを曲がったところで立ち止まり、車道に路駐されたまま放置された車の後ろに身を潜め待つ。

通りの向こうからは見えないが巨大な足音が地響きを立て迫ってきている。

 離れていても腹に響き、身の毛を竦ませる様な振動がすぐ目の前の角に落ちた。

 ギガントの巨大な頭が角から出てきたところで狙い撃った!

 びっくりしたのか、思わずたたらを踏んだギガントが後ろ足で路上に放置された別の車を蹴飛ばす。

 またもやギガントが顔を両手で庇いながら立ち止まらせた。

 だが、ギガントが指の隙間からじっと俺を見てくる。

 視線が合い、背筋に悪寒が走る。

 思わず後ずさったところ、ギガントが腰を屈めた。

 両手で顔を庇いながら、3本目の腕が後ろ手に車を掴む。


「おい、やめろ……」

 思わず後ずさる。

 ギガントがボーリング玉をぶん投げるように腕を振り上げた!

 子供がおもちゃを放り投げるように錆びだらけの鉄の塊が宙を舞う。

 慌てて振り返り、飛び込むように地を蹴って転がりながら避けた。

 今さっき俺の居た場所からゴォッォォーン!……と寺の鐘を低く鳴らしたような、アスファルトを砕き、鉄を打ち鳴らした音が響き渡る。

 地面から伝わってきた衝撃に一瞬体が縮こまりそうになるが、悠長に寝転がってる暇は無い。

 背後ではギガントがゆっくりと足を振り上げながら向かってくる。

 ゆっくりとした動きでも一歩が大きい、3mぐらいある。


「こっちにゃー!」

 ミケちゃんがビルの入り口から声を張り上げる。

 その奥からはパンッ!パンッ!と空気が弾けた様な射撃音が。

 向こうでも戦っているところか!

 3人の入っていったビルへと必死に駆けるが、


「また来ました!」

 背のクーンからの警告!

 後ろを振り返らずにそのまま右へと転がる。

 すれ違いざまに響く轟音、身を震わせる音と衝撃が俺とクーンを打ちのめす。

 だが立ち止まるわけには行かない。

 大きな足音がこちらへと迫っている。

 すぐに立ち上がり前を向くが、目の前の車道をバスが遮っている。

 迂回しようと右に駆け出したところで頭上から巨大な影が落ちてきた。

 そして目の前のアスファルトに巨大な拳が叩きつけられる!

 地を這う衝撃に転びそうになるが堪え、反転。

 今度は反対側へと向かうが、またもや目の前に巨大な腕が振り落とされる。

 左右を塞がれ、思わず止まる。

 見上げれば、腰を屈めた巨人がニタリと口を開けて笑う。

 そしてそのまま口を大きく開け、こちらへと迫ってきた。


「逃げろ!」

 そう声が聞こえると同時に大きく空気が弾けたような銃声が。

 ギガントの右の頭に当たると弾け、煙を上げる。


「ゴオオオォッ!」

 ギガントが堪らず頭を上げ、煙を振り払う。

 今の内に、と左右を見回すが巨大な腕は地面にしっかりと張り付いている。

 背を汗が一筋垂れ、腹の奥がきゅぅっとすぼまるが、腹を括るか。


「クーン、」

「こちらを」

 被せるように答え、差し出してきた物は青銅砲だ。

 バックパックの奥からすぐにこれを取り出すとは、クーンの状況把握感性は俺よりずっと早そうだ。

 受け取り、ハンマーを起こしてポケットから空砲を取り出し、差し込む。

 弾薬はすでに詰めてある。

 ロックを外し、大口を開けているギガントに向かって引き金を引く!

 ハンマーが落ち、空砲に着火、微かにバシュッと火花の飛び散る音が聞こえ一瞬後。

 ドオォォッ!と雷が落ちたような音を立て、空気を激しく震わせ、砲弾が発射される。

 ギガントの左の頭がのけ反った。

 殺ったか、と思ったがギガントは口から黒い血を垂らしながら、狂ったように首を左右に振り回している。

 無事な右の頭が目尻を吊り上げて、座り込んだ俺を睨む。

 青銅砲は反動が凄まじく、撃つと同時に砲がロケットの様にガスを吐き出し反対側へと行こうとする。

 それを抑えきれず尻餅を突いてしまった。

 すぐに立ち上がる、そこへクーンが。


「はい」

 と、次の弾薬を差し出してくる。

 すぐにそれを銃口から差し込む、本来なら褐色に練り上げられた粘土のような火薬を木の棒で押し込むのだが。

 面倒だ、火薬をぐっと握りこみ棒状に。

 それを砲の中に落とし、次に砲弾を押し込む。

 幅がぴったしの銃口に引っ掛けたところで、クーンがそのアームでぐいっと直接奥まで差し込む。

 ポケットから空砲を取り出し、装填終了。

 ギガントへと向けば、その両手を振り上げこちらへと落とそうとしていたところだった。

 だが、俺たちの方が早い!


「くたばれ!」

 豪雷一閃、空気を断ち割るような衝撃が抜け。

 白い破片が宙を舞う中、ギガントの顔がのけ反り、そのまま後ろへと反り返った。



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