第103話 飛んだ!
ミケちゃんを乗せたグライダーがすぃーっと上がっていく。
それを首を大きく後ろに傾け、見上げる。
高度は……30mといったところか。
ロープを握る手を緩める。
グライダーの動きに合わせてロープがするすると伸びていく。
このロープはビルの昇り降り用の長いやつで、3本のロープを繋ぎ合わせて100mまで伸びるようにしてある。
「ポチ君、ロープの端を俺の腰に結び付けてくれ」
「わかった!」
いそいそとポチ君が俺の腰にくくりつける。
そうこうしている内にロープも残り少しだ。
ミケちゃんも高度50mぐらいまで上がってきている。
ここからはロープを軽く握ってゆっくりとロープを手の中で滑らせる。
ミケちゃんもわかったのか、高度を一定にして俺を中心に旋回していく。
ロープを伸ばしきる手前でしっかりと握り、止める。
「おおっ!」
体が引っ張られる!
2歩分ぐらい横滑りした、ミケちゃんは!?と急いで見上げると。
ビンッ!とロープを鳴らした瞬間、グライダーが傾いた様に見えたがすぐに立て直したようだ。
そこからは自由に飛び回り始めた。
グライダーの舳先を上向き、下向きに変えて上昇下降を繰り返し、さらには急旋回!
もう慣れてきたのか、ロープの伸びる範囲内で自在に飛び始めた。
その闊達な動きは下から見てても楽しそうだ。
ポチ君と共に見上げるがしばらくして、俺の腰を突っついてきた。
「僕もやりたい」
ねぇねぇと俺の腰を揺らしてくる。
「わかったわかった、ちょっと待って。おーい!」
声を出していて気づいたがこれ届いてないな。
ミケちゃんからの反応も無い。
次に手を振ってみるが、振り返してきた。
楽しそうだ。
ポチ君がジトッ…と見てくる。
「まぁまぁ、もうちょっと待ってみようか」
「うん」
……
…………
30分後、ミケちゃんはまだ飽きないようだ。
さっきよりも慣れてアクロバティックに飛んでいる。
縦方向に旋回したときはロープを引っ掛けないか、とひやひやした。
ポチ君も俺の横で体育座りをしながら見上げている。
「わぁー……」
だんだんとポチ君の目から元気がなくなってきた。
やばい、イジけてしまいそうだ。
しょうがないロープを手繰り寄せてみるか、力を掛けて引っ張る。
「ぐっ!……」
これ、かなりの力が要るぞ!?
腕の長さ2つ分ほど手繰り寄せたところで腕がぷるぷると震えてきた。
--スパークトルマリンを起動、すぐに疲れを取りさらに手繰り寄せる。
手繰り寄せる途中でミケちゃんの方も気づいたか、スピードが落ちてきた。
旋回方向も少しずつ内側へと切れて旋回半径が縮んで行き、ロープが緩み、手繰り寄せるのが楽になってきた。
ロープの緩みに合わせてぐいぐいと手繰り寄せる。
半分ほど手繰り寄せたところで高度は20mまで下がり、スピードも大分ゆっくりとしたものになっている。
手繰り寄せながら考えるが、最後どうやって回収しようかな?
このままぐるぐると手繰り寄せたら、引き寄せ終わる前にグライダーの羽が地上にぶつかってしまいそうだ。
そんなことを考えていたところ、グライダーが急旋回!
俺の方に向かってきた。
高さも少しずつ落ちてきて……、俺の頭上すれすれを掠るようなコース取りだ。
なるほど、そういうことか。
飛んでくるのを待ち受ける。
俺の手前でミケちゃんがふわりと飛び降り、無人のグライダーが俺の頭上を飛び越えるところに合わせてジャンプ!
「よっ!と」
持ち手を掴み体重を掛ける、ガクン……と高度が落ちる。
そのまま地上へ、ザザーッと地面を横滑りしながら着地。
止まったグライダーを下ろす。
「ただいまにゃ、面白かったにゃー♪」
「おかえりー、どうだった?」
「凄かったにゃ! ぶわっ!と体が持ち上がったと思ったら、風でぶるぶるっと震えたにゃ。大丈夫にゃ、安心するにゃとコイツに心の中で声を掛け、落ち着けさせたにゃ。
震えが止まったら今度は上へ、上へと昇っていったにゃ。風が強ければ強いほど体が流されるけど、風を孕んで羽がぷっくりと膨らみどんどん昇って行くにゃ。
あちきは鳥になったにゃ、と思ったにゃ。でも、それは間違いだったにゃ。横風が強くて、それに抗うように体を傾け、羽の先っぽの尖ったところを風に当てるようにしたら……、切り込んでいったにゃ!
バタバタッとした羽の音がブルブルッとした細かい振動に変わり、風の中をスパーッと滑るように飛び込んでいったにゃ!
風はあちきの目の前で裂かれ、後ろへと流れ落ちていく。そこで気づいたにゃ、あちきは鳥ではなく流星になったのにゃ……」
ミケちゃんが近くの石に片足を掛けながら、カッコ良く力説してきた。
それに俺もポチ君もほぅ……と息を吐きながら、感心した。
ポチ君のしっぽが激しく揺れている。
もう我慢できないようだ、俺の方へと顔を向けた。
「早く、早く♪」
「ちょっと待ってロープが……よし、走るから引っ張るのに合わせて体重を消してね」
「うん!」
再度、土手沿いを駆け、ロープを引っ張り上げる。
「わぁ……」
グライダーと共にポチ君が飛び上がっていった。
きつね色のしっぽが風に抗うようにピンッと太陽を指した。
俺もミケちゃんも口を開けながら、それを見上げる。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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