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第102話 オフの日、2日目

すいません、遅れました。

 アメーバを山盛りに積んだリアカーを引いて、またギルドへと戻ってきた。

 おかまさんにアメーバを渡す。

 数は90、倒した時は100体以上居たのだがちょっと離れてる隙にネズミたちに食い荒らされ、損傷が酷いのはそのまま打ち捨ててきた。


「それじゃ90体分で9000ねー」


「ひゅーっ! 良い稼ぎじゃなぁい?」

 代金を渡してくるおかまさんの横でミポリンさんが茶化してくる。


「いえいえ、ミポリンさんのお陰です」

 回収するか、というタイミングで巨大アメーバが出てきたからな。

 回収を諦める選択肢もあった。


「あたしたちはこの後、飲みに行くけどあんたたちはどうするー?」


「あ、すいません。今日は大事を取って早めに休もうと思います。また今度よろしくおねがいします」


「姐さん、すまんにゃー」

「ごめんねー」


「そうねー、今日はいろいろあって疲れちゃったもんねー」


「当たり前じゃない、何言ってんのよあんた」

 ミポリンさんをおかまさんが肘で突く。

 それじゃと会釈をし、おかま同士のじゃれあいを背にギルドを出る。



 外へと出るともう日は落ち、辺りは暗くなっていた。

 そのままうさぎのおばさんの屋台へと直行する。



「いらっしゃい! いつもの所、座りな」

 いつも通りカウンターに座り、注文をした。


「今日はちょっとふらふらするから少しでいいにゃー」

「ぼくもー」

 二人はネズミを煮込んだクリームシチューだけで済ませ、俺はそれにパンとから揚げを追加してガッツリと食べる。

 食べながら明日のことを話し合う。


「それで明日なんだけど、予定も無いし明日もオフってことで」


「わかったにゃー。じゃあ、あちきはアメーバ狩りに行ってくるにゃ。

 新しいアーティファクトの練習してくるにゃ」


「ぼくはどうしようかな?」


「俺はちょっと良い物を買ったんだ。明日はそれの組み立てだな」


「お、何にゃ?」


「新しいおもちゃ、かなり高かったけど多分おもしろいと思う」


「お、お、どんなにゃ?」


「それは後でのお楽しみに。それで組み立てるのに大きい布が要るんだけど、余ってるカーテンとかあるかな?」


「カーテンならこの間獲ってきたのがソファーの横に置いてあるから好きに使っていいにゃ」


「ありがとう」


「ん、ぼくもやることないから手伝うよー」


 食事を終え、宿へと戻り。

 体調を考え、早めに就寝した。




 朝、窓から生まれたての日差しが窓から柔らかく侵入してくる。

 どこかか細く、灰青色帯びた朝の光が瞼を撫でる。

 意識がうっすらと浮かび始め、いつもならそろそろ目覚める時間か、と考えるが今日はオフなので無視して寝入る。


 日差しが太く、黄色味を帯び始め、瞼を叩き始めた頃、体を揺らされた。


「朝にゃー、起きるにゃー、ごはんにゃー」

 くぅぅ……と腹の音を立てながら、ミケちゃんが押してくる。

 瞼を開ければもう着替えを済ませたミケちゃんが。

 ポチ君も大きく口を開けてあくびをしている。


「ん、今起きるよ……」

 ミケちゃんに急かされながら朝の支度を整えていく。


 着替えを済まし、久しぶりに朝のステータスチェック。


 ステータス


 Name  サトシ

 Age   20


 Hp  100

 Sp  100


 Str   205.0 (+7.0) 

 Vit   189.0 (+16.0)  

 Int   110.0 (+2.0) 

 Agi   170.0 (+26.0)

 Cap   5.8  (+1.2)


 預金    1621ルーブル  (+1605) 

 所持金  65875シリング  (+56600)


 Cap値を見ると6日ぶりのチェックということか。

 全体的に強くなった、特に速さが。

 走り回ってたからかな?

 所持金なんかもかなり増えたのだが、ルーブルの値が……思ってたよりも多い気がする。

 一体5ルーブルのアメーバとグールを倒した合計が200ほどのはずだが、それより600多い。

 ……もしかして巨大アメーバか?

 でも俺たちは手を出していないぞ。

 出してなくても倒されるときに近くに居ればカウントされるのだろうか?


「もう! 早くにゃー!」

 ミケちゃんの腹の虫が限界のようだ。

 昨日は少ししか食べてなかったからな。

 いつものうさぎのおばさんの屋台へと出かける。



「ふぅ……お腹いっぱいにゃー」

 丸く突き出たお腹をぽんぽんと叩きながら、部屋へと戻ってくる。

 昨日の分も取り戻すかのような食欲でお代わりを連発していた。

 そんなミケちゃんは戻ってきて早々ネズミの仕掛けをカバンに入れ、出かける支度だ。


「それじゃちょっとアメーバ狩りに行ってくるにゃ。お昼には戻ってくるにゃー」


「行ってらっしゃい、俺たちは部屋で準備をしておくよ」

「いってらっしゃーい」


「じゃ、また後でにゃ」


 ミケちゃんが出かけ、俺たちは今日の遊びの準備だ。

 明るい窓辺の床に材料を放り出して、ポチ君と共に作業をしていく。

 まずは鍛冶屋で作ってもらったアルミパイプを組み合わせていく。

 1本1mほどのパイプを接続具にはめて、持ち手付きのネジを回し固定、大きな三角形と小さな三角形を作る。

 大きな方は底辺が長い二等辺三角形だ。

 正三角形を縦に潰して横に長くしたような形のパイプ枠に、接続具を使って小さな三角形も繋いでいく。

 良し、枠はこれでOKだな。

 次は布の用意だ。

 ミケちゃんに貰ったカーテンを大きな三角形に合う様に切り取り、それにポチ君が紐を縫い合わせていく。

 出来た布を引っ張ってみるが……、ちょっと耐久性が低いかも?

 さらに2枚布を切り取って、重ね合わせる。

 うん、これで良さそうだ。

 出来た布をパイプで出来た枠に組み合わせれば完成だ。

 ポチ君と共にふぅ……と一息ついた頃には、窓から入る日差しは刺すような強さになっており、部屋の中から影が追い出されてしまったように明るい。

 窓から顔を出して空を見る。

 日は頂点に昇っており、もうお昼のようだ。

 背後で扉がガチャっと開けられる音が立った。


「ただいまにゃー! ごはんの時間にゃー」

 上機嫌のミケちゃんが帰ってきた。


「「おかえりー」」

 さっき出来たばかりのおもちゃを分解し、俺のバックパックに仕舞う。

 完成品は幅2m程になるが折りたためばなんとか入るな。

 そのまま屋台にお昼を取りに行き、食事を済ませ、西の土手へと向かう。




「それでおもちゃって何にゃー?」

「うん、あれって結局何なの?」


「これは空を飛ぶ道具だよ」

 再度、組み上げたハンググライダーを指差す。

 と言っても実物よりずっと小さくちゃちいものだが。


「にゃぁ?」

 ミケちゃんが訝しげにぺしぺしと叩く。


「み、ミケちゃん、爪は立てちゃダメだよ……」


「これでどうやって飛ぶにゃー?」


「うん、まずは実験から。ポチ君、ちょっと支えてくれる?」


「うん、わかったー」

 舳先を上向きにしたハンググライダーをポチ君に持ってもらい、さらにそれにロープを付ける。


「俺が呼んだら離してくれ」


「はーい」


 ポチ君に持ってもらい、俺はロープを掴んで走る!

 要は凧揚げと同じ事だ。

 ロープが手をするすると抜けて行き、助走は十分かと思えたところでグッと掴み。


「ポチ君!」


「はい!」

 ポチ君が手を離す、グライダーに繋がれたロープがビンッ!と張る。

 そのまま走りながらロープを引っ張っていく。

 手にぐいっと重みを感じ、グライダーの帆が風を孕んで丸みを帯び、グライダーが宙へと舞った。

 成功かと思えたが、ロープを繋がれた点を支点にぐるりと横に回転したと思ったら、そのまま地面に向かって急降下してしまった。

 慌てて引っ張るのを止める。


「……うーん、失敗か」


「途中までは良さそうだったにゃ」


「うん、回転するまでは良かったよね」


「姿勢制御って必要なんだな……」

 どうしたらいいんだろ、子供の時にした凧揚げの時は……


「あ、風か」

 向かい風に向かって上げた時は上手く上がったな。

 肌に当たる風を辿る、西から東へ川に沿う様に吹いている。


「今度はあちきがやるにゃ。この三角形のパイプが持ち手にゃ?

 あちきが一緒に飛んで、回らないようにするにゃ」


「いや、まだ実験だから危ないよ」


「アーティファクトで重さを消せるから大丈夫にゃ。

 おにいさんもそのつもりでコレ作ったんにゃ? 任せるにゃ」


 その通りである。

 子供の頃に夢想した凧に掴まってそのまま飛べたらというのを、アーティファクトの力を使って実現してみようというのが今回の実験だ。

 重さを完全に消しきれない俺と違って、二人はビルの上から飛び降りても平気だから多分大丈夫なんだろうとは思うが。


「危ないと思ったら低空の内に飛び降りるんだよ?」


「大丈夫にゃー。さ、やるにゃ」


 ミケちゃんがグライダーの持ち手部分に体を入れながら立ち。

 その後ろでポチ君がはらはらと見守っている。

 俺は向かい風に向かって走る、十分助走がついたところで手の中を流れるロープを握り、ロープの先に重みを感じた。

 それを背負い、前のめりになりながら引いていく。

 振り返り肩越しに覗けば、


「にゃ、にゃ……」


 ミケちゃんが必死に平衡を保ちながら、徐々に上昇している。

 それを見て、さらに加速、引っ張り上げる。

 ミケちゃんがどんどん上がって行く。

 影が俺の上に落ちる。

 俺を飛び越してさらに上昇して行った。

 そこで足を止め、ハンマー投げのようにロープを振るう。

 グライダーがゆっくりと旋回していく。

 足を止めても落ちない、風をしっかりと掴んだようだ。


「飛んだ! 飛んだにゃー!」

 どこまでも続く遠い空の中に通すように声を張り上げ。

 透き通る青空に負けないほど、ミケちゃんの目が輝いた。



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