第101話 巡回依頼終了
通常更新再開です。
またよろしくおねがいします。
体調を崩した二人をバックパックに背負い入れ、ギルドへと戻ってきた。
時刻は夕方前、それぞれの探索から帰ってきたハンターたちが受付に列をなす。
「リアカー借りるにゃ?」
ミケちゃんが俺の肩に手を置きながら聞いてくる。
「まずは仕事の報告からしないとね」
ミポリンさんが受付へと向かう。
俺たちと同じおかまさんの受付だ。
相変わらず空いている。
「やっほー?」
「はーい、おかえり。どうだった?」
「でかいのが1匹、吹き飛ばしてやったわぁ」
「でしょうねぇ、話が早くて助かるわ。他には?」
「奥で見た一匹だけよー、そっちは?」
「今のところ目撃情報は入って来てないわ。ところで何でポチ君があんたのカバンに入ってるのかしら?」
「……えへへ、ちょっと失敗しちゃった。ネコちゃんとワンちゃん、まともにあたしの大砲の音聞いちゃったみたいでぶっ倒れちゃったのよぅ」
「ちょっとー、やだー! あんた、いつも気を付けなさいって言ってたじゃない!」
「あ、もう大丈夫ですよー」
そう、ポチ君がミポリンさんの肩越しにかばうが。
「えへへ、最近ソロで動いてるから忘れてたわぁ」
ミポリンさんがテヘペロっと舌を出した。
それを見たおかまさんが薄く笑う。
スッと空気が変わり、おかまさんの隣の受け付けで精算処理をしていたお姉さんがギョッと目を剥き、体を翻し奥へと駆けて行く。
「もう! ……歯ぁ喰いしばりなさい?」
そう言っておかまさんが受付のカウンターを片手で飛び越え、体が宙に舞ったと見えた瞬間。
右足が一瞬ぶれ、
「キェェェェ!!」
パンッと炸裂音、空気が震える、雷が落ちたかの如く。
気が付いた時には蹴りがミポリンさんの顔面にめり込み、2歩、3歩とたたらを踏む。
足が抜け、おかまさんが地に降り立つ。
対して、ミポリンさんの潰れた鼻からドバッと鼻血が威勢良く出るが……、ニッカリと笑った。
「てへ♪ ごめんね」
「本当よ、もうー。二人はまだちっちゃいんだから気を付けなさーい?」
「ポチ君もごめんねー」
肩越しにポチ君に語りかけるが。
「ひぇ……、はい、大丈夫です」
可哀相なほどおびえている。
全身の毛を逆立たせながらぶるぶると震え、そのままカバンの奥へと潜って行った……
ミケちゃんも俺の頭の後ろで恐る恐る二人を見ている。
「え、エリザ姐さん、ミポリン姐さんも悪気は無かったにゃ。あちきたちが不注意だったのも悪いにゃー」
「あら、ミケちゃんは優しいわね。まぁ、これもケジメだから」
「そうよぅ? これぐらいただのじゃれ合いだわぁ」
ポキッと折れた鼻を指で直しながらミポリンさんが何でもない様に言う。
「いや、鼻折れてるにゃよー?」
「この程度何でもないわ、男は背骨が折れるまで仁王立ちよ、ってやだー! あたし女の子じゃなーい!」
「もう、うっかりね♪」
クスクスとおかまさんが笑う。
「……」
ミケちゃんもついて行けなくなったか、俺のバックパックの中へと潜って行った。
「それじゃぁ精算からしましょうか。巡回依頼の報酬1500シリングよ」
代金を手渡され、受け取り際にリアカーの手配を頼む。
「バッティングさせて失敗しちゃったからね、リアカーの代金はサービスしとくわー」
「ありがとうございます」
リアカーを2台受け取り、また下水道へと戻る。
入り口にリアカーを横付けにして、ミケちゃんとポチ君に見ていてもらう。
俺とミポリンさんで奥のアメーバたちを運び出す。
アメーバの残骸に群がるハゲネズミたちを追い散らし、拾っていく。
バックパックに詰めるだけ詰めて、オブシディアン・タールで重さを吸い取る。
そうやって簡単に運んでいくが、ミポリンさんは違う。
水分の抜けた巨大アメーバに指をめり込ませ、
「ふんっ! ぬぅぅ!」
そのまま巨大アメーバを引きずり出してきた。
「……重くないんですか?」
「あらやだー、重いわよー? でも、これコツがあるの。こいつらで死ぬと水分が抜けるでしょう。
そうなると油に近い性質になるらしいのよね。だからこうやって排水路を通せば、あらびっくり!
体が浮いて軽くなるの!」
そう言ってずりずりと引きずり出していく。
確かにこいつら死ぬと水に浮くのだが、巨大アメーバに対して水の嵩が低いのでそこまで浮力はついてないと思うのだが。
何とか全て運び出し、汗の浮いたおでこを腕で拭ったときにはもう空は赤く染まっていた。
「それじゃ、さっきのお詫びにコレあげるわぁ」
そう言ってリアカーに乗った巨大アメーバを差し出してくるが。
「それはもらえないにゃ。あちきたちもハンターにゃ。他人の獲物に手を出さないにゃ」
ミケちゃんが俺たちの思ったことを代弁してくれ、俺もポチ君も頷く。
「そう……、じゃぁどうしようかしら? 飲みに行く? あたしのお友達が良い店やってんのよー」
「いや、あの、代わりに質問してもいいですか?」
「あら、何かしらー?」
「大砲担ぎさんはギガントをやっつけたことがあるそうですが、アレには弱点とかあるんですか?」
「あら! 内側に行くの? 危ないから止めときなさーい」
「いえ、探し物があるので」
「そう、なら特に弱点は無いからアレは無視しなさい。あたしの45mm砲でもアレの頭は貫通できなかったわ。
肉が異常に硬くて粘るのよね……。生半かな銃弾じゃ効かないわよ」
「小さめの大砲とかなら効きそうですか?」
「ん? もしかしてバザーのガンショップに置いてあった青銅砲のことかしら?」
「はい、俺たちもアレを見つけて」
「アレじゃ口径が小さすぎるし、火薬量も少ないから無理よ。ただ一つ助言してあげる。アイツは痛がりよ」
「痛がり?」
「後は自分たちで考えて、考えてもダメだと思ったら素直に引きなさい。装備さえ整えば何とかなる相手だし、装備はお金と筋肉があれば何とかなるわぁ」
それじゃあね、と言ってミポリンさんがリアカーを引いていく。
俺たちも急いでリアカーにアメーバを積み、その背を追っていった。




