第98話 巡回2回目
巡回を終えて出入り口へ。
パンパンにアメーバが詰まったバックパックを背負って、ギルドへと急ぐ。
「こんにちわー」
「あら、いらっしゃい。もう終わったの?」
いつもの受付でおかまさんが手を振りながら挨拶を返した。
「終わったにゃ。もうカバンがパンパンにゃ、買い取ってにゃー」
ミケちゃんが後ろを向き、背のカバンを見せ付ける。
「はい、はい。そっちの台車の中に出してねー」
おかまさんが壁際の大きな台車を指差し、すぐに3人で駆け寄り放り込んでいく。
「はい! 入れたにゃ。さぁ、次にゃ!」
「今、数えるからちょっとは待ちなさいな、どうしたの?」
「あはは、今日はやる気に漲っていて、ミケちゃん」
「そう、まぁやる気があるのはいいわね。……36体ねー、3600シリングそれに巡回依頼合わせて5100シリングよ」
「ありがとうございます。それと巡回の依頼はまだありますか?」
代金を受け取り、尋ねる。
ミケちゃんも俺の横でカウンターに顎を乗せながら、目が爛々と待ち構えていた。
それに対しおかまさんが手元のリストを覗く。
「ええ、巡回は……後、4区域を見回って終了だから残っているわよ」
「それじゃ一つお願いします」
「わかったわ。次はこの区域を見回ってね。それと同じ依頼で指名依頼は出ないわよ」
「はい、ところで巨大アメーバが出たらどうします? とりあえず知らせに戻ってきますけど、討伐依頼なんかは出たりするんですか?」
「依頼は今回は出ないわね。今回は指名依頼に大砲担ぎにも声を掛けてあるから、彼女に任せるわ」
聞き覚えのある名前が出てきた。
ロックさんから聞いた巨大グール、ギガントを倒したことも有ると言うハンターチームの一員。
「大砲担ぎさんですか?」
「そう。巨大系相手にはあの子が一番だからね。あの子も巡回してるからもしかしたら会うかもね?
ミポリンって言うの。ちょっと変な子だけど悪い子じゃないから仲良くしてね?」
「あ、はい。わかりました」
仲良くと言われても確かAランクだよな?
えらい目上でこちらが仲良くさせてもらえるかって立ち場なんだが。
「あ! あの姐さんにゃ、あちき見たことあるにゃ。任せるにゃ」
「僕もー」
「あらあら、二人は良い子ね。よろしくね」
おかまさんに挨拶をして、また南の下水道へと急ぐ。
今度の巡回ルートはさっき回ったところよりも奥だ。
ちょうど良い、アーティファクトを集めるのに良さそうだ。
さっき手に入れたファイアオパールには力を増強する以外に、熱耐性という能力もある。
そしてスパークトルマリンには電気耐性があり暴走させた場合、放電する。
これと同じで暴走させた場合に熱に関する現象が見られると思う。
これが有用であればトルマリンやオブシディアンと共に暴走させて使えるからな。
確かめる必要があるのだが、暴走させると耐性スキルも剥がれてしまう。
トルマリンの時はこれでえらい目に遭った。
その為、暴走させない耐性用オパールも身に着けていないといけない。
その為にはもう一つは手に入れないと。
ライトをまた付け、下水道の入り口をくぐる。
さっきオパールを手に入れた十字路をまっすぐ向かった先が次の巡回先のようだ。
駆け足で急ぎ、十字路をまっすぐと。
ここからはゆっくりと慎重に進む。
いつでも使える様、パイプを組み立て棍にし、音に敏感なポチ君を先頭に進む。
しばらく歩いたところでポチ君が立ち止まる。
首を振りながら耳を左右に回し。
「来たよ、5匹」
「ふふん! 任せるにゃ!」
ミケちゃんが硬鞭を引き抜き、俺の前へと出る。
すれ違ったときに熱気を感じたのは鼻息の荒さか、すでにアーティファクトを使っているのか?
目を凝らし、目の前の薄闇を視線で掻き分けて行くと……居た。
確かに5匹のアメーバがゆっくりとこちらへと向かってきている。
そこにミケちゃんが肩掛けに硬鞭を回しながら、大股で寄っていった。
俺とポチ君もその後を追う。
アメーバとミケちゃんの距離は2m程。
アメーバがミケちゃんを認識し、動きを止める。
そこにミケちゃんが大股に一歩踏み込んだ。
それに対応しアメーバの体が縦に伸びる、体当たりするつもりだ!
ミケちゃんがピタリと動きを止め、そこにアメーバが飛び込んできた!
だが、残像を残す様にミケちゃんの体が掻き消える……
アメーバの体が地面を離れた瞬間には腰を落とし、サイドステップ。
それから一歩前に踏み込んだ時には飛び上がったアメーバの横に、ミケちゃんの目が非常灯の灯りを反射し緑の閃光の軌跡が宙に描かれ。
ミケちゃんの体を中心に暗闇に颶風が吹き荒れる!
「ちぇぇいっ!」
宙を飛ぶアメーバに向けって一閃!
両手での振り下ろしでアメーバがパンッと弾ける。
残りのアメーバたちが地面に着地、体をべたっと地に貼り付けているところにミケちゃんが滑り込み、
「にゃー! にゃー! にゃー!」
両手突きの3連打!
あっさりと核を貫き、残り1匹。
動きを取り戻したアメーバが状況を知ったか、震える。
そこにミケちゃんが躊躇無く近づき、踏みつけた。
「終わりにゃ」
逆手に持った硬鞭を体重を掛けて硬鞭を押し込む。
切っ先が核を貫き、アメーバが収縮、水分が抜けていった。
一瞬の戦闘だった。
アメーバが飛び上がり、落ちるまで。
その隙間の様な一瞬に4匹のアメーバが殺られ、続けて最後の1匹も仕留められた。
俺ではああはいかないだろう。
「ふふん♪ どうにゃー?」
「凄かったよ、動きを追うので精一杯だった」
「凄いよー」
「そうにゃ、そうにゃぁ。ほれ」
そう言って、ミケちゃんが頭を俺へと向けてくる。
それを撫でながら、さらに褒めちぎった。
「ふっふっふー♪ 流石、あちきにゃ」
満足げなミケちゃんが顔を上げる。
「ミケちゃん、手は大丈夫?」
「うん? ちょっと痛かったけどもう大丈夫にゃ。両手で叩いたのが良かったみたいにゃ」
「軽々と突き刺してたねー」
「うん、あれは俺もびっくりした」
いつもなら最後みたいに体重を掛けて押し込まないと突き刺せないのだ。
「なんか肩の部分で支えるようにして突き込んだらあっさりと入ったにゃ。
いつもなら腕が曲がっちゃうにゃ」
「へー」
「さぁ、この調子でガンガン行くにゃー!」
ミケちゃんの体調が心配だったが、両手で使えば衝撃の反作用も緩和されるようだ。
ファイアオパールも使いようってことか。
この先で俺とポチ君の分も探さないと、奥へと進んでいく。




