第97話 力の入れすぎにご用心
新しいアーティファクト、ファイアオパールを手に入れた。
確か力を上げる効果と火や熱に対する耐性だったか?
とりあえず試してみるか。
スパークトルマリンと付け替え装備してみる。
オパールを認識した瞬間、全身がカッと熱くなった。
全身の温度が1度上がったような、怒りや興奮で体が熱を帯びた時のような感じだ。
肌も赤くなってきた。
まずは実験だ。
手をグー、パーしてから握りこむ。
徐々に力を入れ、いつもならここで限界というところをあっさり越えて、さらに力が入る。
どれだけ入るのだろう、と強く握りこんだ瞬間。
ミシッ……
指の関節が軋み、激痛が走る!
「痛てて!……」
力を抜くが、血の気を失い真っ白になった指は開かない。
力を入れすぎて硬直してしまったみたいだ。
左手で一本ずつ指を開いていく。
さらにブラッドルビーを使い、痛みを取っていくが……
今、軽くリミッター外れてなかったか?
「大丈夫にゃ?」
二人が手をにぎにぎしている俺に近づいてくる。
「平気だよ。力を強くするアーティファクトみたいで、入れ過ぎたらちょっと痛くなっただけだから」
「力をにゃ? あちきも試したいにゃ」
ミケちゃんが手を差し出してきた。
「気を付けてね」
オパールを渡すと、ミケちゃんは少し離れた所で硬鞭を振る。
ビュッ!と風切り音が鋭い。
太刀筋も真っ直ぐで空気を割ったような残像が見え、剛剣という感じだ。
だが、ミケちゃんは納得できないのか、首を傾げる。
「違うにゃ、こう……また違うにゃ。ここは力を入れちゃダメにゃ……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、硬鞭を振っていく。
その動きは緩急が入り、残像がいくつもの円を描き。
まるで鞭を振るうかの様に……鉄で出来た硬鞭がしなり始めた!
「ん! いけるにゃ!」
「腕、大丈夫?」
「軽く振ってただけだから平気にゃ。それより試したいにゃ、アメーバ探すにゃ!」
ミケちゃんがてけてけと先に行ってしまう。
俺とポチ君はそれを追いかけた。
十字路を左に曲がった先でミケちゃんが中腰になっている。
傍に寄ると、
「ちょうどいいのが一匹居たにゃ。ちょっとやってくるにゃ」
通路の先にはアメーバが一匹のそのそと動いていた。
それに忍び足でミケちゃんが近寄る。
アメーバが異変に気づき、足を止めるが……もう遅い。
ミケちゃんがすぐ後ろで硬鞭を上段に構えている。
「ちぇぇいっ!」
剣先がゆらりと動いた次の瞬間には残像を残して消え、スパンッ!と小気味良い音が立つ!
そのままミケちゃんが動きを止める。
どうなった、と近寄り見てみると……硬鞭が核の中にまでめり込んでいた!
いつもなら叩くだけでは仕留めきれず、突き刺すことで核まで届いていたが、今回は一撃だ。
「すごいよ! ミケちゃん!」
ポチ君も結果に興奮している。
「やったねミケちゃん! ……どうしたの?」
ミケちゃんがおとなしい……。
「……手ぇ痛いにゃー」
「うわ! ブラッドルビー使わなきゃ……あ、ミケちゃんも持ってたよね?」
「うん、今使ってるにゃ。だんだん痛みが取れてきたにゃ」
ミケちゃんの手が治ったところでアメーバを拾い、感想を聞く。
「いつもよりグッ!って入ったにゃ。グッ!て。いつもは当たると弾かれちゃうにゃ。
でも、今日はグッて押し込めたから中まで剣先が入ったにゃ。……手首痛いにゃー」
ミケちゃんが腕を振りながら力説する。
近接武器は当てたときに反作用で同じだけの衝撃がこちら側にも返ってくるからな。
打撃武器ならなおさらだ。
今までは手首がそれに耐え切れず跳ね返ってしまってたのが、今回は押し込めたようだ。
ただ、その為に腕を痛めてしまった。
やはりこのアーティファクトは筋肉のリミッターを外している気がする。
「やっぱコレは危険だね。必要な時以外はしまっておこうか」
ミケちゃんからオパールを取り上げようとするが、オパールを胸に抱えてミケちゃんが嫌々をした。
「待つにゃ! コレは使えるにゃ!」
「でもケガしちゃうよ」
「そうだよー、ミケちゃん」
「ちょっと痛めるぐらいならルビーで治るにゃ。それに痛めた部分は筋肉だから鍛えれば耐えられるようになると思うにゃ」
ミケちゃんが上目遣いで訴えてきた。
「んー……」
体を痛めるようなものは使って欲しくないが……。
「無理しちゃダメだよ?」
「もちろんにゃ!」
そう言うとミケちゃんはいそいそとアーティファクトを付け替える。
クリスタルエッグを外して、そこに入れるみたいだ。
クリスタルはスロット枠を埋めるためだけに入れてただけだからな。
ちなみに今の俺たちのアーティファクト編成はこうなる。
俺 Cap値5 (正確には5.6)
■クリスタルエッグ x2- スパークトルマリンx2 - オブシディアン・タール
予備 - オブシディアン・タール(暴走用)
計6個
ミケちゃん Cap値5
■クリスタルゴーゴン - ファイアオパール - スパークトルマリン - オブシディアン・タール - ブラッドルビー
予備 オブシディアン・タール(暴走用)
計6個
ポチ君 Cap値4
■クリスタルエッグ 2個 - スパークトルマリン - オブシディアン・タール
予備 オブシディアン・タール(暴走用)
計5個
余り
■ブラッドルビー 1個 - オブシディアン・タール 1個 - クリスタルエッグ 1個
俺とミケちゃんが5つまで装備できて、ポチ君は4つまでだ。
この違いはわからないが相性か何かだろうか?
「良し! ガンガンアメーバ叩いて練習にゃ!」
「その前にギルドにアメーバ卸しに行かないとカバンがパンパンだよー」
「そうだね、ちゃっちゃと終わらせて一度ギルドに戻ろう」
早足で残りの巡回ルートを巡り、出てきたアメーバは帯電パイプで脅し、押し退け。
入り口まで急いで戻っていく。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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