第95話 依頼
通常更新再開です。
またよろしくおねがいします。
おもちゃに使うアルミパイプで出来た骨組みを作ってもらうよう頼んだ。
店主と図面を引きながら話し合う。
材料となるアルミパイプはまだ有るとの事で。
「それじゃアルミで組み立て式の槍をお願いしたいんですけど」
「長さは2mぐらいか?」
「はい、それで」
「穂先は前と同じ鉄製になるぞ。アルミじゃ強度が出ねぇ、すぐに曲がっちまう。
それと刃はどうする? 両刃の刃先を付けたスピアーか、それとも前と同じ捻り杭状のランスにするか?」
「前と同じランスでお願いします。それと解体したときにパーツが1m以内になるように揃えてもらえますか」
「わかった。1mのアルミパイプに接合部を付ければいいだろう。ちょっと待ってな」
そう言うや、すぐに作業に取り掛かる。
パイプを1mに切り揃えて、端に一回り太く短い、別のパイプを溶接し接合部を作る。
そこにもう一本の1mパイプを差し込み、2mの接合パイプが出来た。
さらに繋いだ接合部をハンマーで叩き、その部分だけを楕円形にし、さらにネジ穴を開けた。
穴に手回し式のネジを入れる。
このネジはネジ頭の部分が手で摘めるように平たい板になっていて、見た目はミニチュアの団扇みたいだ。
これで組み立て式の柄が出来た。
「出来上がりだ。ネジ穴を合わせやすいように接合部だけ楕円にしといたぞ」
「ありがとうございます」
「穂先はこれから作るか、それとも後回しにするか?」
「んー、さっきのアルミの骨組みの方を優先してもらえますか」
「わかった、両方とも明日には出来るぞ。それと代金、先にもらっていいか」
「あ、はい。いくらですか?」
合計で10200シリングだった!
あのアルミパイプ、1mで1200シリングもする高級品だったのだ。
それを8.5m、ほくほく顔の店主は穂先はサービスしてくれると言ってくれている。
大部分はあのおもちゃに使う骨組みなのだが、コレがあれば二人が喜ぶだろうから断るわけにもいかない。
それにしても今日は散財がちょっと多いかもしれない。
ここからは引き締めよう……
それからバザーを回り、布を買おうとするが……大きいのが見当たらない。
丈夫で水にも強いのが良いと、出店の店主たちに聞いて回るが無かった。
防水には蝋を塗ると良いと聞き、ろうそくだけを買っておく。
まぁ、布は拾ったカーテンを使えばいいか。
ミケちゃんに余ったのが無いか、後で聞こうと考えていたところ。
「あ! 居たにゃ、おにいさーん!」
「りーだー!」
ミケちゃんとポチ君が向こうからやってきた。
手を振りながらこちらに駈けてくるが、手に何か紙切れを持っている。
「ん、どうしたの?」
「指名依頼が入ったにゃ!」
「それで探してたんだよー」
「依頼って……どんなの?」
「コレにゃ」
ミケちゃんが依頼書を見せてくる。
なになに……市内南部下水道の調査依頼、指定の区域を巡回し巨大アメーバが居たら報告せよ、か。
報酬は1500シリング。
「受けるにゃ? 受けるならこのまま直行してくれってにゃ」
「うん、巡回するだけでお金がもらえるなら。まぁ、いいんじゃない?
それにしても指名依頼が来たのか……」
「そうにゃ。あちきがアメーバ3体獲って、そろそろお昼だからギルドに換金しに行ったにゃ。
そしたらエリザ姐さんが「ミケちゃん、暇?」って聞くから「暇にゃー」って返したら。
じゃぁ、あげるって言ってコレくれたにゃ」
エリザ姐さんと言うのは受付のおかまさんのことだ。
「えー、そんな気軽に?」
「そうにゃー。なんかBランクに上がるには指名依頼を5つこなすのが条件の一つらしいからってにゃ」
「あ、なるほど」
こんな雑用で済むような依頼で出してくれたのは、おかまさんなりに俺たちを気遣ってくれたのだろう。
なら、受けるしかない。
「それじゃ受けようか」
「やったるにゃ!」
「うん、ほどほどにねー」
それから、まずは腹ごなしにいつもの北の屋台へと。
ポチ君が早速仕留めたネズミを渡している。
お陰で今日の飯代はタダになるようだ。
ネザーさんに適当に頼んで午後からの依頼の話をする。
依頼書には下水道の地図も付いていて、赤い線に沿って見回るだけで良いらしい。
「それにしてもお兄さん、鍛冶屋に居ないから探したにゃ。ポチはいつもの川辺に居たからすぐに見つかったけどにゃ」
二人は俺を探してバザーを回っていたそうだ。
「あはは、ごめんね」
「それで何買ったにゃ?」
「まずはコレ」
そう言ってアルミパイプで出来た柄を見せる。
「棒、にゃー?」
「新しい槍の柄だよ」
「ふーん、ちょっと使ってみるにゃ」
そう言ってミケちゃんが屋台の横でまだ組み立ててないパイプを振り回す。
ビュンッ!と風切り音が鋭い。
「おお、軽いにゃ! でも、軽すぎてコレじゃ仕留めるには足りないにゃ」
ミケちゃんがパイプを手で弄びながら首を傾げる。
「まだ穂先を付けてないしね。それにコレはアレを使うための武器だしね」
「もしかしてビリビリー?」
ポチ君が正解を言い当てた。
「ほうほう、それなら使えるにゃ。午後はあちきに任せるにゃ」
ミケちゃんが俺から残りのパイプを受け取ると、いそいそとカバンに詰める。
こういうの好きだからしっぽが揺れていた。
腹ごなしをして南門近くの下水道へと。
いつもは排水溝近くにはハンターたちが屯しているのだが、今日は居ない。
「調査が終わるまで一般のハンターは出入り禁止なんだってー」
「ちゃっちゃと終わらせてやるにゃ」
「そう言えば見回りは俺たちだけでやるの?」
「下水道は広いから何人かのハンターで見回るって言ってたにゃ。
多分、他の人たちはすでに入ってるんじゃないかにゃ?」
排水溝から下水道内へと入っていく。
まずは最初の角を左へ、地図に沿って進む。
中は照明が点々と在り、かろうじて見通しが利くが念のため額に付けるタイプのライトをしておく。
都市内の下水道は定期的にメンテナンスをしているので、照明が付いている。
スラムの方はほったらかしになっているので照明が切れたままだ。
そう言えば下水道に本格的に入るのは初めてだな。
いままで入り口付近にしか行ったことがなかったからな。
アメーバが出てこないか、注意しながら進んだところ。
腰のアーティファクト探知機からピコーン……と音が鳴る。
先行していた二人が振り向く。
「鳴ったね?」
「鳴ったにゃ」
「鳴ったよー」
どうやらここにも有るようだ。
ミケちゃんとポチ君がグッと親指を立てて、しっぽを揺らす。




