第8話 ネコミミ娼婦
カーテン越しに隣のベッドから話し声が聞こえる。
「いやぁ、南の立ちんぼストリートに新しい娘入ってたよ。」
「お、どんなの?」
「北部出身で色白のおっぱいでかいのがいたわー。」
「ま、マジかぁ!うはぁ、夢がひろがりんぐ。」
「こりゃ、俺がこの町の礼儀を教えるしかないなと思って、100のところ50シリングに負けさせようとしたら、黒服が後ろから出てきて慌てて逃げてきたよ。」
「お前、最低。」
どうやら、町の南側に娼婦たちの立つ道があるようだ。
具体的な場所まではわからなかったが、この世界を知る上でこれは重要な情報だと思う。
北部と呼ばれる地域を知っている参考人も居るようだしな。
情報を得るには100シリングの経費がかかるようだが、まぁ、これは仕方ないかな!
Lv1の俺が情報を聞き出すには何度も通わないと駄目だろうし、稼がないとな。
良し!明日も頑張ろう。
あれこれ考えているうちに夜は更けていき、俺は自然と眠りについていた。
朝になり、裏の井戸で顔を洗った後、食事にする。
パンを食べながらスマホのチェックをしているとステータスに少しの変化があった。
ステータス
Name サトシ
Age 20
Hp 100
Sp 100
Str 100.5 (+0.5)
Vit 101.0 (+1.0)
Int 90.0
Agi 105.0
Cap 1.2 (+0.2)
預金 2ルーブル
ステータスが少し増えている。
昨日は結構歩き詰めだったからなぁ。
それに関連する部分が伸びたのかもしれない、Strは筋肉、Vitは体力のことだから。
Capはアーティファクトを受け入れる容量のことだがこれは何で伸びたのだろう?
この世界に暮らしていれば自然と伸びるのだろうか?
それと預金が2ルーブル増えていた。
これはおそらくハゲネズミを倒した分だろう。
あいつら1匹1ルーブルかぁ・・
2ルーブルで拳銃の弾薬1発しか買えないから銃は使えないな。
弾代にもならないのか・・哀れな。
支度をして、ロッカーの鍵を返し、宿を出る。
水筒が空になっていたので、水を安く売ってるところを知らないか?受付のおっさんに聞いたところ、宿でも煮沸消毒した水を売ってるとのこと。
5シリング払い、分けてもらう。
まずは、ギルドに行って狩りを行なっていい地域と獲物について、もう一度聞こう。
それと、武器や生活用品を売ってる店も紹介してもらえれば助かる。
こん棒持ってる人多いけど俺もちょっと欲しくなってきたんだよな。
ハゲネズミを倒すには、リーチの長いこん棒の方がナイフよりいいだろう。
それに、俺は昔ダイエットでボクシングを3ヶ月したことがあるのだが、その時に打撃のコツを少し覚えた。
それをこん棒なら生かせそうな気がする。
ギルドまで来た。
ギルドの中は、今日の仕事始めに寄るハンターたちで賑わっていた。
受付も昨日、昼に寄った時よりも増えてるようだ。
いくつか受け付け待ちの列があるのだが、長蛇の列をなしている受付の子はみんな可愛い娘ばかりだった。
背が低くピンクの髪で一生懸命受付をしてる娘や、金髪でおっぱいの大きい娘もいる。
俺もどれに並ぶか迷ってるところで、列と呼べるほど並んでない受付を見つけた。
おかまさんだ。
一人だけ哀愁が漂っている。
これはどうしようか悩んでいるところ、こちらに気づき手を振ってきたので、苦笑しながらおかまさんの受付の列に並ぶ。
「おはようございます。」
「おはよう、今日もハゲネズミ狩りかしら?」
「その事で伺いたいのですが、Fランクが狩りをしていい低警戒区域と狩っていい動物を教えてもらえますか?」
「あら、言ってなかったかしら?ごめんなさいね。
低警戒区域は町の近くのことでおすすめなのは西と東の川沿いよ。
この付近に出てくる動物なら何を狩ってもいいわ。
逆におすすめしないのが北ね、ここに出るのはアリが多いわ。
南はキエフに繋がる道を常に衛兵隊が巡回してるから獲物を探すのはむずかしいわね。」
「なるほど、それじゃ今日も西にハゲネズミ狩りに行こうと思います。
それと武器を買いたいのですが店などはどこにあるかわかりますか?」
「買い物ならバザーに行けばいいわ、大抵のものは揃ってるから。
バザーは南の門近くよ。」
ほうほう、南とは。
やはり南で情報収集する必要があるな。
「ありがとうございます、そういえば今日はこちらの受付なんですね。
昨日は向こうのガレージの受付みたいでしたけど。」
「そうなのよー、あたしだけこっちと向こうの受付を掛け持ちなのよねー。
まったく出来る女はつらいわぁ。」
俺はそれ以上は何も言わず、礼を言ってギルドを出た。
まだ朝だし、早い気がするが南に向かってみよう。
日の出てるうちにオートMAPを埋めたほうがいいだろうからな。
町の内壁に沿うようにして南へと進む。
南は北や西と違い見通しが良いのが特徴だろう。
南の大通りの左右に大きな空き地があり、そこで露天の準備をする人で賑わっていた。
「営業前でこれなら昼はよほど込むのだろうな。」
さて、買い物はまだ無理そうだから、もう一つの目標を探しに行きたいと思う。
大通りを進んでいくが、どこも露天を出すスペースで目当てのストリートはない。
左右を見渡しながら進んでいって、結局南門に突き合たってしまった。
と、いうことは南門を越えた先、スラム街?なのだろうか。
ハンター証をかざしながら南門を通る。
南のスラム街へ来て、何かが違うことに気づく。
臭いだ、他のスラムと違って不潔な臭いがしなかった。
衛兵も巡回してるし、スラムではなく壁の中の町のようだ。
左右を見渡しながら通りを歩いてみるが、お姉さん方はまだ出勤ではないようだ、残念。
まぁ、金もないし遠めにチラッと見るだけなんですがね。
そんなことを思いながら歩いていると、とんでもないものを見つける。
ネコミミだ。
建物の前をネコミミが掃除している。
思わず近づくと、向こうもこちらに気づいたのか振り返る。
ネコだ。
まごうことなきネコだ、ネコが2本足で立って掃除している。
「店はまだにゃ、こんな時間から来るなんて変態さんなんにゃねー。」
「う、ち、ちがう、これは散歩、まごうことなき散歩。」
「そういう人多いにゃ、やれやれしょうがないにゃねー。
ここはこのミケさまが相手してあげようかねー。
言っとくけどあちきは安くにゃいにゃよ?」
「いえ、結構です。」
「にゃにー!人間はみんなそういうにゃ!亜人差別反対にゃ!」
やばい、Lvの高い世界かここ?
Lv1の俺にはきびしいぞ。
俺は足早に撤退した。
さて、仕事するか。
そんなわけで西の川沿いへやって来た。
まずは川へと向かう。
昨日のアーティファクト反応が気になるので先に採っておこうと思ったのだ。
昨日、雑巾で戦闘服を拭ってたときに気づいたのだが、戦闘服は中にゴム生地が織り込まれてることもあり滑水性が高く、雑巾で拭うだけで水分のほとんどを取れたのだ。
濡れて乾きにくいのは、中に着てる肌着だ。
なので、今朝は肌着を着ずに直接戦闘服を着ている。
バックパックはジッパーを閉めると完全防水になるようだし完璧だ。
では、川に入るか。
アーティファクト探知機を手に取り、反応を見る。
・・ピコーン・・--
何箇所か反応を見たところ、やはり川の方から反応が出るようだ。
探知機で探りながら川へと入る。
途中、放射能が検出されて昨日と同じ状況になったが、今日はクリスタルエッグを付けてるから放射能対策はバッチシだ!
ガイガーカウンターがガリガリいう中、サクサクっと進み、昨日と同じ放電現象を見た。
電気の檻の中にある石を取り、川辺へ戻る。
さっそく鑑定するが、この鮮やかな水色の石柱はスパークトルマリンか?
表面を電気が走ってるし、それっぽいな。
これは、スタミナ回復と電気耐性のあるアーティファクトだ。
装備枠の埋まってる俺ではまだ付けられないので、バックパックに入ってた内装が鉛の箱に入れておくとしよう。
だが、ここで疑問がわく。
装備枠が埋まった状態でさらに付けたらどうなるのか?
もしかしたら何も無い可能性もあるかもしれないし、ちょっと試してみよう。
腰にある2つの特殊ポケットの内、空いてる方にスパークトルマリンを入れて蓋を閉めずにおく。
入れて、すぐには何も起きない。
大丈夫か?と思い始めた時、全身に電気が走る!
「あびゃびゃびゃばばばばがー!!」
痛い!痛い!痛い!
俺は痛みに耐えられなかったのと、電気で全身が収縮してうずくまってしまう。
うずくまった際に、ポケットからスパークトルマリンが転げ落ち、電気から開放された。
このことからわかったのは、アーティファクトをCap値以上に装備すると、アーティファクトが暴走するということだ。
本気で死ぬかと思ったので、これからは気をつけよう。
戦闘服と体を雑巾で拭い、肌着を着なおして、次はハゲネズミ狩りに向かう。
川辺を離れ、草原で撒き餌をまく。
餌は昨日齧られたパンだ。
ちぎったパンを置いたところから少し離れて様子をみる。5分としないうちに草を掻き分けてハゲネズミが現れた。
ハゲネズミはスンスンとパンを嗅いでいる。
ハゲネズミがパンを口に入れ、下を向いてる隙に一気に詰め寄り、頭を蹴り上げた!
衝撃で痙攣してるところに素早くナイフでトドメをいれ、血抜きをする。
これで3度目だが死体を目の前にするとやはり、心が少し重くなる。
だが昨日よりかは軽いなと思った。
慣れたのだろうか。
ハゲネズミを獲物袋に詰め込むと場所を変える為、移動する。
川辺からもう少し遠いところにパンを撒くが、場所が悪かったのか、なかなか現れない。
何箇所か場所を変えて、ようやくハゲネズミが現れた頃には1時間たっていた。
2匹目をしとめたところで、休憩にしようと一度川辺まで戻ることにした。
川辺を見ると、ミケさんがカエルを獲っているのを発見した。
亜人についてはそのうち閑話でやります。