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魔獣の森のとある夫婦

作者: ピヨコ

 

 8年前にあった戦争。人と魔が戦った戦争。人たちは勇者と呼ばれる者を送り出し、それに対抗すべく魔からは王が、魔王が迎えでた。そして戦争が始まって6年目のあるとき戦争は終結を迎えた。勇者と魔王の失踪によって。



 人たちが住む街から離れ、少し歩けば人々が忌み嫌う森がありその森は魔獣の森と呼ばれていた。ある時人たちの町でこの魔獣の森に関する噂が流れていた。それは


         「魔獣の森にはとある夫婦が暮らしている」というもの



 ある森に木製の一軒家が立っていた。大きくもなく小さくもないこの家の煙突からは煙が出ており、人が住んでいることが目に見えてわかる。そんな家の表札には「ヴァインス」と書かれていた。




 「うぉ…」


 違和感を感じ男は眠気を抑え目を開ける。入ってくる光により朝だというのが見て取れた。ふと視界の一部が暗いと思い目を開けてそちらを男は覗く。そこには女が目をつぶりこちらに顔を近づけていた。


「うぉわ!?」


 驚き男は声を上げる。それに気づき女性は目を開ける。


「ん?ようやくお目覚めか。早く降りてきてくれ。朝飯だぞ?」


 軽く微笑み彼女は扉を開け出て行く、顔を少し赤く染めて。


「あいつ…き、キスしようとしてたな!?」


 男は声をあげてそういうと後に続くように扉を開け出て行った。




 下に降りると彼女が椅子に座って待ってくれていた。

それを男は確認すると彼女の前の席に座る。


「ささ、たーんと食べてくれ!」


 彼女は笑顔でそう言った。それを聞いた彼は軽く笑い目の前の料理に手をつけた。


「おっ、すごい美味いな!」


 彼がそう笑顔で言うと彼女も嬉しそうな顔になる。そんなほのぼのとした食卓があった。



 食べ終わったあと彼女は食器を片付けていく。するとふと彼女が発した。


「あのころからもう2年か…」

「いきなりどうした」

「いや…あのときは本当に熱い告白をしてくれたと思ってな…」


 彼女は頬に手を当て少しいやんいやんとカラダをくねらせる。

それを見て彼は顔を赤くし恥ずかしがる。


「いやいや!あれはだな」

「ほぉ…あれは嘘だというのか?」

「いえ、滅相もございません」


 彼女に少し威圧する雰囲気に押されたのか彼は少し縮こまって答える。

そんな彼を見て彼女は少し苦笑し


「あぁわかっている…本気だとな」


 彼女はそう言い彼のほう行き、顔を近づける。

窓から漏れる光に映る二つの影が重なっていく。



 片付けをしたあと彼は森へ出かけ、狩りをしていた。

森の中を疾走しつつ、通りすがりにいる魔物を倒し、食べ物になる動物を狩ってゆく。

その手際はなかなかのものであり、元はそういう系の仕事をやっていたかのような動きでさばいてゆく。

それから何回も繰り返し、ふと空を見ると暗くなりかけていた。


「早く帰らないと怒って魔法を連発されるな…」


 彼は少し青ざめた表情で呟く。それは過去に彼女にひとりにするなという言葉と共に森を焼くような魔法を連発されたことに関係していた。それを思い出すと同時に朝彼女が言った告白の場面の思い出が頭をよぎる。一目惚れだったことを。少し思い出して彼は顔を横に振ったあと、風を仲間につけているかのようなスピードで駆け抜けていった。





「遅い!」


 帰ってきた彼に向けられたのは非難と怒りの言葉。

急いで来て扉を開けると彼女が玄関前で仁王立ちしていた。それを確認した彼は本能的に土下座の構えを取る。


「本当にすみまs…」

「心配したのだぞ!」


 頭を下げようとした時に彼女に抱きつかれる。心配してよく見れば微かに涙を流して彼女はこちらを見てきた。それを見て彼は微かにため息を吐く。呆れなどではなく安心や微笑みのため息だ。


「すまん…」


 彼はそう言うと抱きついている彼女の頭をずっと撫でた。



 あの後、彼女が安心して歩いていき晩飯を構えたあと、いただきますを言おうとして不意に彼女がピクっと動く。それを見た彼は少し目つきを鋭くして問いかけた。


「侵入か…」

「あぁ…冒険者…ではないようだな」


 それは家の領域に張られている結界からの返答だった。家の近くに侵入しようとすれば彼女の結界に反応し彼女に情報が伝達されるというものだ。


「これは…盗賊か」

「よくこんな森に入れるものだな…」


 二人してため息を吐く。そして二人して席から立ち上がり彼女はローブ、彼は剣を取って出て行った。







 目の前で響く爆音、燃え盛る赤、飛び散る赤、鈍く光る鋼

新しく入った山賊見習いの彼の目の前は死屍累々な戦場になっていた。目の前にはローブを羽織い、魔法を駆使する女、鈍く光る鋼の剣を振り回して仲間を刻んでいく男。

山賊見習いの彼は少し足を踏み入れるだけでこれほどまでの状況を作り出すような者たちに会ってしまう自分を呪った。


 音が止み、気づけば仲間は全滅。目の前に二人が立っていた。


「ひぃぃッ!?」


 口からは無意識に悲鳴が出る。すると女のほうが口を開く


「貴様、ここがどこだとわかっているのか」


 目の前の女はそう言った。山賊見習いの彼はものすごい速さで首を何回も縦に振る。すると女のほうが軽く顔をしかめ、男のほうが剣を構え出す。


「ふむ…ならここで!…ん?いや待て…」


 殺そうと口を開こうとした女がふと静かになる。恐怖に震えていると彼女が思いついたように笑ってこちらを向き、


「お前は生かしておいてやろう。だが人の街についたらこのことを話して誰も近づけないようにしろ。いいな?」


 女が笑みを浮かべながら言う。山賊見習いの彼は助かったと思い首を縦に振った。


「そうか、なら行け!」


 女が叫ぶ。彼は驚いてすぐに後ろのたどった道を大急ぎで引き返した。



 それから人たちの街ではとある噂が流れだした。



「魔獣の森には夫婦がいて、会えば生きては帰れない」




 

 

 鳥が鳴き始める朝。山賊を滅ぼしてから家に戻ってきた彼はそのまま飯を食べて普通に寝た。それは彼女も同じようで扉の方からおはようと声が聞こえてくる。


「あぁ…おはよう」

「うむ。おはよう!」


 彼女は少し笑顔で返すとスキップ混じりに部屋を出ていこうとする。するとまたピクリっと震え、めんどくさそうな顔をした。


「騎士様達御一行のご案内か」


 彼女が呟く。すると彼が笑って言った。


「めんどうだな…それに」


彼はそう言うと笑みを少しニタリとした表情に変えて言った。


「昔のあの時みたいだな。魔王様?」


 魔王と言われた彼女は少し怒った顔をして言う。


「う、うるさいぞ!お前だって同じようなものだろうに!勇者!」


 勇者と呼ばれた彼は苦笑いしつつ立ち上がり彼女の手を取った。


「それじゃ行きますかね!」

「あぁ!」


 そう言いローブを羽織って剣を背負い、二人仲良く扉を開けた。






 魔獣の森には夫婦がいる。女の名前は「エレナ=ヴァインス」。男の名前は「ヘルベルト=ヴァインス」。そんな二人は失踪した魔王と勇者である。



初めての投稿で短編です。少し急展開などがありますが温かい目で見ていただけると嬉しいです。

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