表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第六話 恐怖!骨人間現る。

僕の背中には、ヒロちゃんに身を守るために持たされているライフルがある。

でも、この距離と間合いではライフルを構える余裕もない。


もう・・・、駄目だっ。


僕は咄嗟とっさにカイを腕の中に抱え込んで、やってくる衝撃に身を縮ませた。

そして、ザンッ・・という鈍い音が僕の耳に届く。


でも、あれ?


いつまでたっても、何の痛みもない。

僕は、恐る恐る片目を開けてみる。

「ひぃっ・・・!」

視界にいきなり飛び込んできたのは、見るからに不気味な人間の頭蓋骨ずがいこつ

見たことがない訳じゃないけど、何の心の準備もないままに、いきなり目の前に転がってきたそれに僕は驚くしかない。


「が・・・骸骨がいこつ?」

カイもそれを見て動揺しているのか、声が裏返っている。

僕らは一度目を合わせて、自分たちの見間違えじゃないと確かめると、改めてそれに目をやった。

「・・・な、何なの?」

「なんでこんな所に・・・」

と混乱しながらも、とりあえず少しだけ安心した僕らであったが・・・


「きいいいいいいいっ!」


『ぎゃぁーーーーーーっ!』


突如として、頭蓋骨ずがいこつがカタカタと動き出しながら、悲鳴のような鳴き声をあげたのだ。

それに呼応するように、僕らもこれでもかというくらい絶叫した。


なんなの、これはっ!!!



第六話 恐怖!骨人間現る。



「いやいやぁ。驚かせてしまって、すいませんでした。まさか、あんなに驚くなんて思ってなかったもので。」


そう言って、角ばった白い手をツルツルの頭に当てて、ぺこぺこと頭を下げている目の前の人物に、ヒロちゃんの背中に隠れながら僕とカイはおびえるような視線を向けていた。

そんな僕らの様子に、ヒロちゃんは少しだけ呆れるように息を一つ吐くと、僕らの代わりに先ほど僕らを襲おうとしていた人物に向き合ってくれる。


「おい、骨人間。」


・・・、またまたヒロちゃんの愉快ネーミングセンスが出たけど、でもこのネーミングは案外目の前の人物の特徴を端的たんてきに表しているのかもしれない。


骨人間。


すなわち名前の通り、骨だけでというか、骨でしか全てが形成されていない存在。

最初に振り返った時は、逆光になっていて黒い影としか僕らには見えなかったそれは、何と僕らより二倍近くはある大きさの、動いてしゃべる人間の骨だったんだ。

何か種でもあるんじゃないかと思ったけど、本当に骨だけの骨人間には、もちろん骨の中身は空っぽで、目玉だって、肺だって、それどころか心臓だってないんだ。

どうやって、動いているのか全く原理がわからないし、あごをカポカポ動かしながらしゃべっているけど、骨だけでどうやって声を出しているのかも非常に不思議である。

ともかく、骨人間は全てが非常識といっていい存在だよ。

この世界には、僕らの知らないことなんて山ほどあるっていうのは分かってはいるけど、それにしたって自分の意志を持って動く骨なんていうのは、ちょっと驚きを通り越して僕には恐怖しか感じられない。


「すいませんで済むと思っているのか?」

「すいませんっ!」


そんな世にも恐ろしい骨人間相手に、ヒロちゃんは僕らの保護者然として仁王立ちに、腕組みをして正座して、ぺこぺこと頭を下げる(多分)彼を見下ろしていた訳なんだけど、どうしてこんなにこの骨人間が僕らに腰が低いといえば、説明するには骨人間が僕らを襲おうとした時に話を戻さないといけない。

あの時、僕らに襲いかかろうとしていたこの骨人間の攻撃が僕らに及ばなかったのは、ヒロちゃんが離れた場所から骨人間に攻撃をしてくれたからで、その攻撃により骨人間の首から下が吹っ飛んでバラバラになり、頭だけが僕らの前に転がった訳なんだ。

どうやら、骨がバラバラになっても死ぬことはない骨人間みたいだけど、そりゃ体がバラバラになっちゃ何もできないらしく、『きー』と悲鳴みたいな声を上げた後、涙目になって抱き合っている僕とエヴァに幾分か申し訳なさそうな声で、


『あのぉ、申し訳ないんですが、頭を体にくっつけてくれませんか?』


と言い出したのだ。

思わず、眼が点になった僕らである。

しかして、もう何もしないと約束をさせてから、ヒロちゃんが彼の骨を拾い集めてやると(僕らは怖いから手伝いもしなかった)、何かの魔法みたいに骨たちが浮き上がりガチャガチャと音鳴らしながら骨同士がくっついて(骨同士が近くにないとくっつかないらしい)、無数の骨は骨人間になったんだ。

そういう訳で骨人間にしてみれば、ヒロちゃんは命の恩人(いや、バラバラにしたのもヒロちゃんだけど)みたいなものだし、そもそもこいつが僕らを襲うとしたのが悪いこともあり、彼はさっきからこれほどまでに僕らにぺこぺこと頭を下げているのだ。(まあ、ヒロちゃんには敵わないと、骨身(笑)にしみているというものあるかもしれないけど)


でも、腰が低い割にはヒロちゃんがどんなに骨人間に問い詰めても、『すいません』としか言わずに、どうして僕らを襲ったとか話そうとしないし、自分が何者であるかもがんとして口を割らないんだ。

ヒロちゃんはそれに対して、根気強く淡々と相手をしているけど、長い付き合いの僕だから分かる。

ヒロちゃんは多分、ものすんごい怒っている。

まず、骨人間から視線が全く外れないないし、口調もいつもと変わらないようだけど、声のトーンが微妙に低い、更に言わせてもらえればピクピクと眉毛が動いている。

これは、ヒロちゃんが何かを我慢している時の癖なんだ。


・・・相当、イライラしているな。


「おい、いい加減にしないか?」

「何をです?私には謝ることしか・・・・。」


ドンっ!

ヒロちゃんは、表情は変えないまま自分の剣を乾いた大地に突き立てた。

それから、ゆらりと一歩前に出ると、いきなり硬い骨人間の顎を掴み上げた。

「・・・・な・・・何ですかね?」

骨人間がカタカタと不気味な乾いた音を鳴らしならが、声を出す。

「これ以上、私の言うことにしらを切る気なら、こっちにも考えがある。」

そんなすごみを利かせるヒロちゃんに骨のままじゃ、表情もくそもないはずなのに、骨人間が明らかに動揺しているのが分かる。

「な・・・なんでしょう?」

ヒロちゃんは、そんな様子の骨人間に一層晴れやかに微笑んだ。


「例えば、あんたは骨をバラバラにされても死なないんだよな?なら、その骨をいっそ粉々の粉末にして風に流したりしたら、どうなるんだろうな?」


骨人間がその言葉の一瞬の間の後、バタバタと急に骨を動かし始めて、ヒロちゃんから逃げようとするけど、しっかりあごを捕まえられた彼は逃げれそうもない。

どうやら、そんなことをされたら、さすがの骨人間もひとたまりもないらしい。

ヒロちゃんは、そんな様子を楽しそうに見ながら、彼に最後通告を言い渡した。


「そうされたくなかったら、さっさと話せ。」


小心者のくせに、ヒロちゃんは切れると怖い。

僕は滅多めったに見れないヒロちゃんの切れた姿に離れた場所から見守りながら、何故だか骨人間に同情心すら覚えたりした。



それから数十分後。


「ほう、じゃあ、お前はファシジュの都の住人なのか。」

「・・・はい。まあ。」

ヒロちゃんの問いに洗いざらい話をしている骨人間がいた。


彼の話を要約すると、以下のようになる。(骨人間に話させるための、ヒロちゃんの脅しの一つ一つまで説明していると、時間がかかるから要約させてもらうね)

彼の名前(やっぱり性別は男性だった)は、ネイサン。

年齢は驚くことなかれ、推定1034歳!

あの呪われた街かもしれないファシジュの都に住む、奥さんも、子供もいる一家の大黒柱らしい。(家族も皆骨なのかな?)


とはいえ、今は骨人間の彼だけど、元はれっきとした人間だったらしいんだ。


何でも千年前、神と天使が戦い続ける人間にばつを与えようとしていることを知り、そのことに恐れおののいたファシジュの都の住人達は、天に助けを求め続け、そしてそれに答えた天は彼らの前に一人の天女をつかわしたというのだ。

そして、その天女は一つの救いの道を彼らに示した。


その末路が、この骨人間・・・という訳なんだ。


天女が示した救いの道は、住人たちを天使たちから救うものではなく、その天女の神通力によって彼らを不死の体とし、最悪の罪業たる死からの解放するというもの。

だが、その対価として天女は彼らの血肉を奪うというのだ。


僕はその話を聞いた瞬間に、その天女という人が、果たして本当に天から遣わされた存在なのかと疑問を感じた。


それでも、天女の示した救いにより彼らはちゃんとした肉体は失われるたけど、精神は永遠に世界にとどめることができ、完全なる死という恐怖から解放されるわけで、住人達は死ぬことを何より恐れていたらしく、その天女の提案に飛びついたというのだ。

そして、天女に与えられた不死の体をもって、終焉の宣告ディルト・ヴェネスを乗り切り、千年以上たった今でもファシジュの都に骨人間として生き続けているというわけだ。

彼らは骨人間になったとはいえ、その思考や感情はそのままだし、死なない代わりに、体は骨になり、物を食べることも、眠ることも必要なくなり、それはむしろ死の荒地と化した世界で生きるには適した体といえるのかもしれない。


そして、血肉と共にもう一つ、彼らが失ったものがあった。

それは、世界を自由に動き回ることができる自由。

都から遠く離れると、天女の力が及ばなくなり、骨人間はただの白骨死体になってしまうというのだ。

まあ、結果として彼らは天使たちの厳罰から逃れた訳で、千年たった今でも彼らは天使が自分たちを見つければ、神の裁きを下されるのではないかと(その辺り、天女のご加護はないのか疑問だけど)、自分たちの存在が外に漏れることを異常に恐れて続け、自分たちから外に出ようなどと思ってもいないらしいから、別にそんな自由はいらないのかもしれないけど。


と、まあ長くなったけど、そんな理由から、ファシジュの都の住人達は自分たちの存在が他に知られることのないように、この街に来た人間たちは殺してしまったり、そして、何らかの魔法によってその記憶を消したりしてきたというのだ。(だから、都に近づいた僕らを襲ったんだろう)


それが、結果として噂として広がった呪いになった・・・という訳だ。


なんか怖い話だよね。

その話を聞き終わった率直な感想は、それにつきた。

だって、死にたくないからって、骨人間までになって生きたいって、少なくとも僕は思わないよ。(話の腰を折らないように、そんなことは口にはしなかったけど)

でも、そんな怖い話も、結果として僕らにとってはすごい収穫になったんだ。

だって、その天女の名前というのが、


「ニールティアー。本当に、その天女の名前はニールティアーなんだな?」

「はあ、そうですけど。」

そして、ネイサンに聞けばその天女は未だに都にいるというのだ。

これは、間違いないよ。

きっとファシジュの都こそが、カイの求めていた『呪われた街』なんだ。

僕とカイは、二人から少し離れた場所で手を取り合って喜んだ。

でも、それも一瞬のことでヒロちゃんの言葉に二人とも固まった。


「じゃあ、ファシジュの街を案内してもらおうか。」


そうなんだ。

ニールティアーはファシジュの都にいるんだから、会うためにはあの都に行かないといけないんだ。

話によれば、ネイサンみたいな骨人間の巣窟そうくつになっている、まさにゴーストタウンに・・・。

呪われた街が見つかって喜んだはいいけど、そのことを忘れていた。

僕とカイは、喜びを表現した表情のまま、ごくりと生唾なまつばを飲み込んだ。


そして、ふいにヒロちゃんとネイサンの向こう側にファシジュの都が目に入る。

遠目に見えるそれは、さっきまでは何とも思っていなかったはずなのに、ネイサンの話を聞いてから改めて見ると、どうにもおどろおどろしい様な、なんとも言えない不気味な雰囲気を放っているではないか。

「・・・・エヴァ。」

カイも僕と同じように思っているのか、なんとも頼りなさげな声で僕を呼ぶ。

ここは、お兄さんの僕がしっかりしなくてはと、僕は不安そうに揺れるカイに、いつかヒロちゃんが僕にそうしてくれたようににっこり笑って、背中をぽんぽんと叩いてやった。


「大丈夫。僕とヒロちゃんが一緒に行ってあげるから。」


にっこり笑う僕に、カイはそこでやっと笑顔を見せてくれた。

まあ、僕も怖いんだけどね。

僕は、心の中でこっそり苦笑した。

やっぱり、もともと短めに話を進めようとすると、展開も早くて、ちゃっちゃと話が進みますね。本編とはえらい違いです。でも、それに反してこんな話でも読んでくれる奇特な読者様に言葉足りない部分や、分かりにくところがあったりしたら、本当にすみません。それは、全部私の力が及ばないためです。

余談ですが、ファンタジーと銘打ちながらあんまりそういう部分が出てこないんですよね、私の話って。今回はそのあたりを少し意識して骨人間(笑)を出してみました!(もっと夢のあるモノでも良かったとは思うんですが)エヴァとカイは、ひどく怯えていますが、まあ、骨が動いて話しているんですから、子供としては正しい反応ですよね。私は書いていて楽しかったのですが(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ