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第五話 仲直りをいたしましょう。

頭悪そうな風体だけど(こんなこと言ったら、またはたかれるな)、あれでヒロちゃんは中々博識はくしき

僕が聞くと大抵のことだったら何でも答えてくれるし、聞いてもいない僕が知らないことも色々説明してくれる。(それが鬱陶うっとうしいときもある)


詳しい話は知らないけどヒロちゃんのお父さんが学者みたいな人だったらしく、そんなお父さんの影響で意外と(しつこい?)博識なヒロちゃんに尊敬の眼差まなざしを向けると、照れた顔で親父の受け売りだけどなと笑う。

ヒロちゃんは家族のこととか、自分のことはあんまりしゃべらないけど、そういう様子からヒロちゃんがお父さんを好きなんだなっていうのは伝わってくる。

だから滅多めったに見ることはできないけど、そんなレアなヒロちゃんの表情も僕は好きなんだ。


見ているだけで、心があたたかくなったから。


だから、どうかその笑顔はカイには見せないで。

そんなことをいう資格が、僕にあるわけでもないし、必要もないはずなのに、どうしてか、そんな思いが僕を支配する。


こんな僕は・・・嫌いだ。



第五話 仲直りをいたしましょう。



街で長旅の準備を済ませると、僕らはすぐにファシジュの都を目指して、不浄の大地ディス・エンガッドに繰り出した。

そのこにあるのは照りつける太陽、乾いた空気、永遠とも思われるような一面の地平線。

それらは絶望しか、僕らに与えない。

死の荒地である不浄の大地ディス・エンガッドは相変わらず、そこを行くものに優しくなく、歩いている僕らをこばむかのように厳しいままだけど、それでも僕らは歩き続けて一週間、もうすぐ呪われた街かもしれないファシジュの都の近くまで来て、地平線の彼方かなたにぼんやりとファシジュの都の姿が見えていた。

見えた瞬間は、僕ら三人とも一週間歩いた苦労が報われたと、テンションが上がったんだけど、それから結構歩いたけどまだ到着はしていない。


そんなこんなで次第に三人とも無言になりながら歩いていたんだけど、僕は右ななめ上空をフラフラと飛び回るカイの姿をちらりと視界に入れて、すぐに外しす・・・なんてことを繰り返していた。

しかして、どうして、そんな挙動不審きょどうふしんな行動を繰り返していたといえば、カイにあんな態度をとってしまったことを謝れないものかと様子をうかがっているんだ。

だって、あれ(カイを無視したり、詰め寄ったりとか)は、どう見ても僕が悪い。

僕だって、それは分かってる。

だからモヤモヤする自分がまだいるのは確かなんだけど、何とかタイミングを見計らってカイに謝って、すっきりしてしまいたいと思っているんだけど。

なのに、そう思っているだけで、それができない自分にイライラして、ただただ時間ばかりが過ぎて、謝るタイミングを完全に僕はいっしてしまっていたりするのだ。


・・・僕は子供で、その上、馬鹿だ。


ヒロちゃんの横を黙りこくって歩きながら、そんなことばかり考えて僕はへこんでいた。

そんな僕の神経を逆撫さかなでするように、カイが飛行高度を下げてきて、僕とは逆のヒロちゃんの横にやってきた。(あれから、カイも僕をどことなく避けているような気がするのは、僕の被害妄想なのかな?)

「ねえ、ヒロちゃん。」

「ん?」

「何かお話して。」


・・・唐突。(多分、一向にファシジュの都に着かないから、退屈してきたんだろうな)


だけど、これで結構子供好きのヒロちゃんは、カイの言葉に愛想よく答える。

「何がいいだろうな?あんまり、子供むけの話は知らんのだが・・・。」

確かに、ヒロちゃんの話は小難こむずかしいものが多くて、聞いていてチンプンカンプンの時が多い。(要は、自己満足のために話している時が多いんだ。本人に自覚はないみたいだし、別にいいんだけど)

「そうだ。願いを叶えてくれるという翼の話はどうだ?」

「翼?」

カイがオウム返しに言いながら、首をかしげた。

僕も知らない話である。


「ああ。子供むけといえばこれだ。エヴァにも多分、話したことなかったよな?」

そう言って僕を振り向くヒロちゃんの表情は優しい。

僕はそれに頷こうとしたけど、ヒロちゃんの向こうにカイと目があってしまい、咄嗟とっさに僕は顔をそむけてしまった。

そんな僕の態度に、ヒロちゃんが溜息をつく気配がした。

僕だって、こんなの良くないって分かっているつもりだけど、どうしていいか分からないんだもん。

だって、そもそも僕は今までヒロちゃんとしか喧嘩したことなかったし、ヒロちゃんと喧嘩して、こんな風に気まずい思いをしたことはなかった。


「・・・。」

こうなってしまうと、僕としては沈黙を決め込むしか思いつかなくて、何とかヒロちゃんが僕とカイの間を取り成してくれるのではないかと、あわい期待を寄せたんだけど

「じゃ、続きだけどな。」

と、自分の話をし始める。


・・・ちょっと、こういう時に子供たちを取り持ってあげるのが大人でしょ?


僕は自分のことを棚に上げて、ヒロちゃんに少しだけ恨みがましい視線を送った。

ヒロちゃんは、そんな視線を受けてもどこ吹く風で話を続ける。

「そう。不浄の大地ディス・エンガッドの何処かには、どんな願いも叶えてくれるという白い翼が眠っているという話なんだ。」

「わぁ!じゃあ、僕のお願いも?」

「ああ、もしその翼を見つけることができればな。」

まるで、おとぎ話みたいな伝説。

この殺伐とした不浄の大地ディス・エンガッドには、非常に珍しい話だな。


「でも、どうしてその翼はお願いを叶えてくれるの?」

カイの質問はもっともな気がした。

大体、『翼』単体っていうのも気になるよね。

『翼』って普通、鳥とか天使とかに付いているものだもん。

「その翼は特別な翼だからな。何せ神と契約を交わし、強い力を得た天使をねたんだ悪魔が、剣で切り落としたという、いわくありげな翼なんだ。」

ヒロちゃんの顔が、俄然がぜん輝きだす。(うんちくを語り出すときのヒロちゃんは、いつもより楽しげなのだ)

「古い言葉で、翼は『エヴァ』と言う。不浄の大地ディス・エンガッドでも良く知られているこの話の中でも、切り落とされたこの翼は『エヴァ』と語り継がれていることが多い。まあ、口語伝承こうごでんしょうだから人や地域によって違いはあるがな。」

「・・・。」

こうなると、ヒロちゃんを止めることは誰にもできないだろう。


「その天使からもぎ取られたエヴァは天使と同じ魔力を秘め、まぶしいほどの純白で、美しく見るもの全てを魅了する、すごい力を持っていた。それを知った悪魔は奪ったエヴァを、天使が再び手にすることがないように、この不浄の大地ディス・エンガッドのどこかに封印してしまった。」


・・・『エヴァ』って、僕の名前と同じだ。


「さて、天使の元に帰りたいエヴァだが、封印されていては身動きがとれない。また、翼を失い飛べない翼の天使エヴァンシェッドと呼ばれるようになった天使は、天使故にけがれの象徴である不浄の大地ディス・エンガッドには踏み入ることができない。だから、エヴァは封印の場所に足を踏み入れる人間に契約を持ちかける。自分を飛べない翼の天使エヴァンシェッドのもとに返してくれるのなら、お前の願いを何でも一つだけかなえてやろう・・・とな。」


僕とは何も関係のない話だけど、何度も出てくる自分と同じ名前に何だか気恥ずかしくなった。

それにしても、自分の名前に『翼』という意味があったという新しい発見に胸が躍った。

自分の名前と関係しているか分からないけど、そんな伝説があるなんて何かドキドキしない?

それをヒロちゃんに伝えようと思ったんだけど、それはカイのはしゃぐ声にさえぎられた。


「そうなんだっ!じゃあ、エヴァはすごい翼と同じ名前なんだ。かっこいいね!!」


「・・・うん!」

カイに対してわだかまりがあったはずなのに、無邪気に言われて思わず普通に返事をしてしまった。

それに、名前以外何も覚えていない僕にとって、この名前は特別だから、カイのめちゃくちゃな理屈でだけど、褒められて嬉しいという感情が僕を素直になせた。(こんなことで、機嫌が治る僕はやっぱり子供だ)

僕とカイは笑いあった。

子どもは子ども同士、言葉はなくとも互いの笑顔一つで、それまでのぎこちなさが一瞬で吹っ飛んだ。


「それで、エヴァはどこに封印されているの?」

カイは僕のそばまで飛んでくると、肩に手をのせて、ヒロちゃんに質問をした。

そう言われてヒロちゃんは、少しだけ驚いた顔をした。

「・・・さあ、さすがに私もそれは知らないな。」

微妙な間があったのは、何でだろう?

それも気になったけど、カイとまた笑いあうことができて、気が大きくなっていた僕はヒロちゃんのその言葉にくってかかっていた。

「なに?自分で話をふっといて、結局それなの?まるで子供話じゃないかっ!」

「うんうん。そうだよぉ!僕もお願い聞いてほしいのに。」

カイがそれに同調するように、声を重ねる。

僕らは互いに、「ねー?」と顔を見合わせた。


そんな様子を見て、ヒロちゃんは苦笑して僕らを見た。

「やっと元気が出たな。」

「え?」

「街を出てから、お前たちずっと様子が変だったろ?」

やっぱり、ヒロちゃんは気が付いていたんだ。

僕を元気づけるために、この話をしてくれたのかな?

そこまで想像して、何か嬉しくて胸がいっぱいになった。

でも、そんなこと素直にヒロちゃんに言えるわけもなくて、

「そ・・・、そんなことないよ!な、カイ?」

と僕は照れながらそっぽを向く。

「うん!」

カイは、それに何の考えもなしに笑顔で頷いてみせる。(多分、カイも僕が久しぶりに話しかけているから、嬉しいのかもしれない)

「・・・そうか、それならいんだ。」

ヒロちゃんには照れている僕の心も、全部お見通しなんだろうな。

優しい声と笑顔が、それを僕に教えてくれている。

でも、ヒロちゃんがちゃんと僕を見てくれているということが、僕の不安定だった心を落ち着かせているのを感じた。


「カイ、早く行こう!ファシジュの街はすぐだよ!!」

いつもの僕を取り戻して、僕は飛んでいるカイの手を引いた。

「うん。」

カイも久々に僕が彼に構いだしたこと、それが嬉しいのか、僕を追い抜いて力を増して僕の手を引く。

つんのめりそうになりながらも、僕とカイはヒロちゃんを置いて不浄の大地ディス・エンガッドを駈け出した。

笑いながら、こんな風にこの乾いた土を踏みしめるのは初めてだった。


「ヒロちゃんっ!早く!!」

「置いてっちゃうよ?!」

僕らは肩で息をしながら、背後に遠いヒロちゃんに向かって叫んで、手を振った。

なんだか楽しくて、興奮して、ハイになっていた。


だから、油断していたんだ。


こちらを呆れ気味半分で見ていたヒロちゃんが、瞬間表情を硬くする。

「ーーーーーろっ!」

そして、何かを大声で叫んだ。

でも、遠いし、意味が分からなくてその声は聞き取りにくかった。

「なぁにぃ、ひーーーーー。」

だから、言葉を問い返そうとしたんだ。

でも、その言葉の途中に、僕とカイの真上にあるはずのない影がかかった瞬間に、やばいと思った。


「・・・・え?」


僕は後ろを振り返った。

「−−−−逃げろっ!!」

ヒロちゃんの声が、今度こそ届いた。

でも、それはもう遅いよ。

そこには、こちらに向かって大きな斧を振り上げている、大きな黒い影がいたんだから。


「うわぁぁぁぁっ!!!!」


僕とカイの叫びが、不浄の大地ディス・エンガッドの高い空に響いた。

子供の喧嘩は、すぐに仲直りした方がいいですよね?(本当は一週間くらい二人はギクシャクしてたみたいですが)まあ、仲直りというかエヴァが一方的に機嫌を損ねていただけですし。わだかまりがなくなれば、エヴァとカイは兄弟みたいな感じです。

そうして、今回少し触れた『白い翼の伝承』については、本編の方でちょっとばかし関わってくる部分でもあるので、本編も見ていただいている方は「へえ。」と思われる部分もあるかもしれないですね。

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