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第二話 泣く子には勝てません。

「『呪われた街』が、どこにあるか、知りませんか?」


名前を名乗った後、可愛らしく舌たらずな感じで問われて、答えられない大人が二人。

そろって、乾いた笑顔を浮かべていた。

可哀相だけど、聞かれたところで今のところ、僕とヒロちゃん、二人の頭にあるのはただ一つ。


どうやって飛んできたんだ、フライングベイビーよ!


だけど、邪気のない笑顔の前に何も言えない僕ら二人は、微妙に引きつった笑顔を浮かべるしかない。

なんて言葉を返したらいいか、僕もヒロちゃんも戸惑っていると・・・


グー。


妙に間の抜けた腹の虫が、可愛い子供のお腹でなった。

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・てへ?」

思わず無言になって子供を見つめてしまった僕らに、カイは可愛らしく小首をかしげて笑いかけた。(・・・ありがちな、シチュエーションだよね)



第二話 泣く子には勝てません。



不浄の大地ディス・エンガッドの荒地の真ん中で、僕らは今ピクニックのように、かさかさな保存食を広げていた。


「わあ!本当に食べてもいいの?!」


そういいながら、カイはもう目の前の食べ物に釘付くぎづけだ。

そんなカイにヒロちゃんは、珍しく愛想良く笑う。(ヒロちゃんは、女子供に弱いんだよね。)

「ああ、どうせ私達もそろそろ食事する予定だったし、子供が遠慮するな。」

・・・僕にはいつも、遠慮を覚えろとか言うくせに。

お人好しのヒロちゃんが、腹をすかせた子供を放っておくことができるわけもなく、なけなしの食料を振舞う羽目になった。

不浄の大地(ディス・エンガッド)じゃ貴重な食料を、見ず知らず、しかも飛んできたという、明らかに怪しげな子供にあげちゃうなんて、ありえない!


・・・僕はそう訴えてみたんだけど、

「だが、あんな小さい子供一人じゃ、食べ物だって採れないだろ?幸い、次の街はすぐそこだし、それに色々話も聞いてみたいしな。」

と言って、ヒロちゃんは全く相手にしてくれない。


子供を放って置けないのと、その子供に対する興味で、もうヒロちゃんを止めるものは何もないって感じ。

大体、僕には知らない人にはついていっちゃいけないとか、言い聞かせてるくせに(まあ、言うことなんて聞いちゃいないけど)、これじゃヒロちゃんが子供をかどわかす、超怪しい知らない人だよ。(・・・この場合は、僕もそうなるのかな?)

ただ、僕的にはもちろん飛んできったいう衝撃に興味はあるんだけど、どうにもこの子供に関わらない方がいいって、僕の第六感が騒いでるんだよね。

ちなみに、こういうカンはヒロちゃんより僕の方がよく当たるんだ。

ヒロちゃんは、貧乏くじを引いて、後々後悔しまくるタイプだから。(本人は否定してるけど)

その僕がやめとけって言っているのに、この不幸体質のお人よしは、最近退屈だったからって、目の前の面白そうなネタに夢中なんだ。


・・・もう、後で後悔してもしらないからね!


「それで、カイはどうやって飛んでたんだ?親はどこにいるんだ?」

とりあえず、ヒロちゃんが聞いたのは、興味が先立ち、その後にカイの身元確認。

カイは、別に隠すことなく食べ物に食いつきながら、子供っぽい言葉で一生懸命話してくれた。


まずは、どうやって飛んでいたかだけど、聞いてみれば種のある魔法だった。

それは、ヒロちゃんが今興味深く眺めている、カイの細い足首に重そうに付いている足輪が二つ。

これを使えば、誰でも空が飛べるらしい。

「うんとね、ちょっと練習するけど、お兄ちゃんたちでも使えるよ?遊ぶ?」

しかもカイはそんな風に聞いてい来る。

ヒロちゃんは結構乗り気だったけど、僕は丁重に辞退した。

そんなアイテムがあるなんて話は聞いたことないけど、人が色々な町を行き来するだけで、命がけの不浄の大地ディス・エンガッドで、僕やヒロちゃんが行ったことのない場所などごまんとあるんだ。

聞いたこともない、知らないことがあったって、何ら不思議なことはない。


ただ、現実に目にしたことだけは確か。

カイはこの足輪を使って飛んでいたことは、現実ってだけの話だ。


しかも僕だって、不思議アイテムっていう意味じゃ、ヒロちゃんからもらった、僕の指にはまっている指輪だって、同じようなもんだ。

だって、これ瞬間移動ができるという品物なんだ。(これについては、また今度披露するよ)

空を飛ぶより、ある意味こっちのほうが、不思議だし、魔法っぽいよね。


だから、空を飛んできたっていうことについては結構簡単に片付いたんだけど、問題は親についての話だった。


「お父さんはもういないよ。お母さんはね、僕をまってるの。」


『・・・・。』

なんというか、意味を測りかねて僕もヒロちゃんも黙り込んだ。

だけど、ヒロちゃんはすぐに立ち直ると、

「そうか。そうか。」

と言いながら、カイの頭をわしゃわしゃとでてやる。

だけど、あの顔は何て言葉を返そうか思案している顔だ。

カイのほうは、ヒロちゃんに構われて嬉しそうな悲鳴を上げている。

(この子は、本当に人懐っこい子供である。いや、この場合はヒロちゃんとカイが相性がいいだけなのかな?)


それにしても父親がいないとか、母親は待っているとかリアクションをとるにも、その意味をはっきり理解するにも、何ともカイの発言は微妙だよね。

僕はたわむれる二人を無視して声をかける。

「ねえ、カイ。」

「なあに?」

僕を見上げるカイは、白い肌、黒目がちな大きな目、さらさらの黒髪と、ほんっとにラブリー。

ううん。ヒロちゃんじゃなくても、これはめろめろかも?

子供の愛らしさって、罪だよねぇ。

「お母さんが待ってるって言うのは、さっき言っていた『呪われた街』で待ってるの?だからそこに行きたいのかな?」


そう、空から降りてきたカイは挨拶をすると、まずはじめに僕らにそう聞いてきたのだ。

何でも、空を飛び続けて『呪われた街』というのを探しながら、場所が分からないから、空から人を見つけては僕たちの前に現れたように、空から降りて人に尋ねていたらしい。


フライングベイビーに遭遇した人々は、それはそれは驚いただろうなぁ。


そんな知りもしない人々のことを思いながら、僕はカイを見つめると、カイは元気よく僕の質問に答える。

「ううん。お母さんは、ヤイウリーアで僕を待ってるのぉ。」

「ヤイウリーア?」

「ヒロちゃん知ってるの?」

何か思い当たる節でもあるのかと思ったが、ヒロちゃんは首を振って僕に先を促させた。

「・・・?えっと、じゃあ、どうしてヤイウリーアにいかないの?」

「うん。だって、呪われた街に行かないと行けないから!」


『・・・。』


カイの元気な言葉に、顔を見合わせた僕とヒロちゃん。

保護者もいないのに、子供一人で空を飛んでいるとはいえ不浄の大地ディス・エンガッドで街を探させるなど聞いた事もない。

はじめは親とはぐれたのだろうかとも思っていたけど、聞いているとどうやらそういう訳でもなさそうなんだよね。


「じゃあ、どうして呪われた街に行かないといけないんだ?」

難しく聞いても幼いカイに、どれほど答えることができるか定かでもないし、ヒロちゃんは端的に尋ねる。

「うんとね、ニールティアーに会いに行くの!」

「ニールティアー?」

人の名前か?

「お母さんにね、ニールティアーを見つけられたら帰ってきていいって、それまではお家に帰れないの。だから、色んな人に聞いてたんだけど・・・。」

すると何か思い出したのか、急に涙ぐむカイ。

大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れてくる。

僕とヒロちゃんは大慌てだ。

「どおしたの!いきなり!!」


「うわーん!ニールティアーにあうのぉ!でないと、帰れないのぉ!お母さんー!」


・・・どうやら、お母さんのことを思い出したらしいが、いきなり泣き出すカイに僕もヒロちゃんも、どうしていいかわからない。

泣く子には叶わないとは聞くけど本当だよ。

だから、関わらないほうが良いって言ったのに。


それにしても、その『ニールティアー』に会うまで帰ってくるなと、こんな小さな子供を不浄の大地ディス・エンガッドに一人で放り出すなんて、なんて鬼母だ!

こんなに子供を泣かせて!!

そう思うと酷く憤慨ふんがいする気持ちが沸いて出てくるけど、それは僕だけじゃなかったらしい。

ヒロちゃんの顔を見れば、酷く硬い表情をしている。

きっと、ヒロちゃんも怒ってるんだな。

うん、うん。

でも、正直僕らには何もしてあげられないよねぇ。


「泣くな、カイ。だったら、私が連れていってやるから。」


・・・ん?


「呪われた街に行って、ニールティアーに会え。それで、さっさと母親のところに帰るんだ。こんなところでメソメソしてても、何の解決にもならないぞ。」


・・・あれれ?


「ほ・・・ほんと?」

「ああ、一人じゃ心細かったな。」

「うう〜。」

「よしよし。」


「って!よしよしじゃないでしょ、ヒロちゃん!!」

カイを抱きしめてやっているヒロちゃんに、僕はここでやっと声を上げた。

何二人で、勝手に話進めてるのよ。

そんな明らかに面倒なこと、簡単に引き受けちゃうなんて!

馬鹿馬鹿、お人よしも、ほどほどにしておかない・・・・。


「・・・お兄ちゃん?」

「・・・。」

溢れんばかりの文句は、しかして、カイの涙で赤くなった瞳に見上げられて詰まってしまう。

・・・そんな、捨てられた子犬みたいな表情で僕を見ないで、お願い。

「・・・・。」

しかし、カイは何か察しているものがあるのか、ヒロちゃんの腕の中から僕をじっと見上げてくる。


・・・はいはい、負けましたよ。

「何でもないよ。そうだね、一人じゃ心細いよね。」

僕がそういえば、明るく輝くカイの表情。

それを見て僕はガクリと、肩から力が抜けるのを感じた。



・・・泣く子には勝てないって、本当なのね。


『異邦の少年 亡国の遺産』第二話です。

本編と違い、正直あまり真剣に取り組んでないというか、気を抜いた連載なのでお目汚しにしかならないような話ですいません。(いや、多分本編のほうもお目汚しにしかなりませんね。)

第二話でわかったことは、カイの目的が『呪われた街』で『ニールティアー』に会いに行くこと。

とりあえず、このお話はそれを主軸に進めるつもりですが、のんびり、まったりとやっていく予定なので、もし、お目汚しでも読んでいてくれる奇特な方がいましたら、気長にお待ちください。

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