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第九十八話 マリッジ・バケーション

第九十八話です。今回は書いててスゲー楽しかったです。いえ、別にいつもが楽しく無い訳では無いんですが……こう、まあ楽しかったです。ですので楽しんで頂ければ幸いです。嬉しいです。

「……はい? 『フリ』?」

「せや。陛下……やなかった、ヘイカが頼んどったのは『フリ』や。カルロ=ヘイカちゅう流離の商人の彼女役、それをアヤノさんに頼みたかった、ちゅう話やねん。それやのに……ほんまに、ソニア様? ウチが言うんは不敬やとは思いますけど……女の子ですよね、ソニア様? 普通、女の子がいきなり自分の父親しばき倒しますか? 有り得へんでしょう? 女の子が暴力って……ほんまに!」

 食堂の椅子を並べた簡易ベッドに寝かされ、顎を押さえてうんうん唸るカルロス一世をみやりながらマリアは小さく溜息を吐く。プラスでジト目を向けられたソニアは小さくうっと息を漏らした。

「で、でも!」

「『でも』?」

「……す、済みません」

 腕を組んで半眼で睨むマリアに、ソニアは身を小さくする。マリアの、その『淑女の作法』としてどうか、との言は基本正しい。正しいが、思い出して欲しい。このマリア・サーチと言う女性、自身の尻を触った男性から金を取った上で顔面にケリを入れた事もある女性であるのだ。典型的な『どの口が言うのだ』或いは、『お前が言うな』である。

「で、ですが! それでしたら説明をするべきでしょう! あの様に息を荒げて詰め寄れば、すわ何事か、とも思いますわ! これこれこう云う事があり、こういう事情でアヤノさんに恋人のフリをして頂く必要があると、まずそう伝えるべきで――」

 そこまで喋り、ソニアはその小さな口を閉じる。しばし視線を中空に飛ばし、その後こくん、と首を傾げて桜色の唇を開いた。

「――……どういう事情があったらアヤノさんに恋人のフリをお願いするんです?」

「ヘイカがナンパした女の子が、面倒な子やったんですよ。『俺、彼女おるから!』『では、その子を連れて来て下さい!』って事になったんです」

 言葉もない。

「……」

「……」

「……もう一発、必要でしょうか?」

 絶対零度の視線がカルロス一世を貫く。その筋にはご褒美の視線だが、元来がノーマルなカルロス一世は風邪を引きそうな温度差に思わず体をブルリと震わす。

「ち、違うねん! こら、マリア! 説明が雑やねん! 別にナンパした訳や無いんやって!」

「じゃあ、何をしたんですか! というか、お父様! 五十を越えて何を考えておられるんですか! ソニアは……ソニアは恥ずかしいです! お母様に言いつけますから!」

「ちょ、ちょい待ち! やめて! アレクに言うのはマジ勘弁! アイツ、冗談通じへんのやから! 誤解やって!」

 両手を組んで、背中から『ゴゴゴゴッ!』と音が鳴りそうな程の威圧感を放つソニアに、カルロス一世は寝転んでいた体を起こして両手を合わせてソニアに頭を下げる。

「……ねえ」

「ん? どうしたん、アヤノさん?」

「アレクって言うのはどこのどちらさん? 話から推測するに、多分ソニアちゃんのお母さんなんだろうけど」

「アレクシア=ソルバニア。ソルバニア国王、カルロス一世陛下の正妻で、ソニア様のお母様で……まあ、ソルバニア王家でいっちゃん偉い人や」

「……ソルバニア王国、では無いのね?」

「その辺の感覚、しっかりされた方やから」

 綾乃、何も言わない。どれほど社会的地位や年収があっても、家では粗大ゴミ扱いされている世のお父様方と、何故かカルロス一世が被って見えた。ソニアに手を合わせ、殆ど頭を地面に付けるかの如く謝る姿は、威厳もへったくれもあったモノでは無い。この上なく、どうでもイイが。

「……誤解、ですか?」

「せや! 誤解やねん! こう、別にナンパした訳ちゃうくて……ほら、あるやん? こう、買い物に来たら、『お! おねーさん、別嬪さんやな~』言う事! ソニアかて言われた事、あるやろ?」

「……『お嬢ちゃん、可愛いからおまけしてあげる』と言われた事はありますね、確かに」

「ほんまにそのノリやってん! ほら、俺かて商人やし、それぐらい言うやん? セールストークや、セールストーク!」

「貴方は国王陛下でしょう!」

「だって……カルロ=ヘイカやってんもん、そんときの俺」

「……お父様のその、何でも全力な姿勢は純粋に尊敬に値するのですが……」

「何時でも本気やからな、俺!」

「胸を張って言わないで下さいまし!」

 本気の使い道がおかしい。少しだけ――訂正。とても疲れた様にソニアが右手を額に置いて、溜息を吐きながらやれやれと首を左右に振って見せた。

「……それで?」

「せやから、こう『お、おねーちゃん別嬪さんやな~。どや、この髪飾り! 今やったら安くしとくで!』『別嬪さん? 私、可愛い言う事?』『せや! おねーちゃん、めっちゃ別嬪さんやか――』『本当に、私別嬪さんじゃろうか?』『おじさん、嘘つかんって! ほんまに別嬪さんやで?』『私と付き合いたいと思う?』『つ、付き合う? お、おう! ほんまに――』『嘘じゃないじゃろな? ほんまじゃろうな?』『――』って……この辺からやばっと思ったんやけどな?」

「……」

「そのおねーちゃんってウェストリア人やってんけど……ほれ、あんまりこの辺ではウェストリア人ってみーへんやん?」

「一般人はそうでしょうが……ですが、商人だったら珍しくも無いでしょう?」

「商人の顔やったら大体分かるから」

「……お父様、テラに来て六日目ですよね? なんで商人の顔が大体分かるんです?」

 びっくりするほどの顔の――というか、社交性の高さである。元々、ソルバニア人は社交性が高い人間が多いが、それでもこの社交性の高さは異常でもある。

「国王陛下やし」

絶対関係ない。そう言って見せるカルロス一世に、ソニアがもう一度、頭を左右に振って見せた

「……それで?」

「『そう言うんじゃったら、おじさん、私とちょっとデートしようや。別嬪さんとのデートじゃで? おじさんじゃって楽しいじゃろ? 付き合いたいって言うてたがん』って……」

「……」

 カルロス一世の言葉に、ソニアが腕を組んで少しだけ考え込む。なるほど、状況は理解出来た。が、状況が理解出来たから、今度は余計に状況が理解出来なくなって来た。

「……えっと……要約すると、お父様はお店に来た綺麗なお姉さんに声を掛けた。そうすると、そのお姉さんが……その……何と言いましょうか」

「引っかかった?」

「言い方が悪いですが……まあ、そうです。そう言う事ですわよね?」

「簡単に言えばそうやな」

「お父様自身も『別嬪』と褒めたのです。多少のセールストークもありましょうが……見目自体は麗しいのでしょう?」

「まあ、間違いなく美人の部類やろうな」

「そして、向こうもそれを受け入れたのであれば」

 そう言って、首を傾げて。


「――デートすれば宜しいのではないですか?」


 そんなソニアの言葉に、本気でイヤそうにカルロス一世が顔を顰めた。

「……ソニア……お前、普通実の父親に向かって言うか? 『お父様、可愛い女の子とデートに行けば宜しいのではないですか』って。お前かてイヤやないんかい?」

「それは……まあ、確かにあまり気分の良いモノではありません。ありませんが……ですが、お父様? それほど本気で、アヤノさんに恋人のフリを依頼する……『逃げる』程のものでも無いのではありませんか? こう言っては何ですが、此処はテラですし」

 これがソルバニアだったら問題にもなる。ソルバニア自体は重婚に対して法の罰則規定はないが、それでも自国の国王陛下が白昼堂々城下で不倫、なんて余りにも世間体が悪い。だがテラで、しかも一応『変装』をしている以上、ソニアの心情を慮らなければまあ、バカンス・ラブと云う事で笑い話にもなろう。

「……ソニアの言う事も一理ある。ほいでもな? 俺にはその女の子とデート出来へん理由が三つあんねん」

 そう言って指を三本立てて見せるカルロス一世。

「まず、一つ。勝手に旅行に来て、そこで女の子引っ掛けてデートしてました、なんてアレクにバレたら本気で怒る。ちゅうか、俺の命が危ない。ソニア、見たいんか? エエ年したオトンが本気で土下座してる姿」

「……いや、それはあまり見たくはありませんが……ですが、それはアヤノさんでも同じでは無いですか? どちらにせよ、お母様は火を吹いて怒りそうですが」

「それはそうやけど……まあ、アヤノの方がまだマシや」

「……なぜ?」

「その女の子やねんけんどな? 年がちょっと若いんよ」

「……」

 もう、なんだろう。イヤな予感しかしない。あまり聞きたくはないが、これを聞かないと話が進まないと判断。ソニアは意を決して口を開く。

「……ちなみに、どれぐらいの年齢でしょうか?」

「確か……ソニアより、ちょっと上ぐらいやった――」

「アヤノさん、衛士を呼んで下さいますか? マリア、貴方は直ぐにお父様の廃位を検討するよう、フィリップに書状を」

「おっけー、ソニアちゃん」

「へ? は? は、廃位?」

「――かなって、ちょい待ち!」

 決断は早かった。テキパキと指示を出すソニアに、必死の形相でカルロス一世は喰らいつく。そんな実の父に、まるでゴミでも見る様な視線をソニアは向けた。

「誰が待ちますか! お父様、本気で何考えているんですが! 本当に――本当に、恥ずかしいです! 恥を知りなさい、恥を!」

 ソニア火山、噴火。しかし、カルロス一世も必死である。

「違うんやって! そういう意味で『別嬪さんやな~』言うた訳や無いんやって! ほら、ソニアも言われた言うてたやろ? 『お嬢ちゃん、可愛いね~』ぐらいの感じやってん!」

「今となってはその言葉も別の意味に聞こえます!」

「実の父を犯罪者扱いするの止めてくれへんかな! ちゃうんやって!」

「付き合いたいと言ったんでしょ!? 汚らわしい!」

「せやからそれは言葉のアヤやってん! あのくらいの年の子って大人扱いされたいやん! ほな、どう言うたら良かったんや! 『は? 付き合うとか自分、何言うてんの? アホちゃうん』とでも言えば良かったんかいな! 泣くぞ! 絶対泣くぞ、あの子!」

「うぐぅ……そ、それは……」

 中々に扱いの難しいのがティーンエイジャーだ。『大人』に見られたい辺りがまだまだ『子供』なのだが、こればっかりはその年代に言ってもどうなるものでもない。ちなみに、あくまで『一般的に』と注釈が付くが、これが後三十年程すると逆に『若く』見られたくなり、七十年経つともうどうでも良くなるのが女性の神秘でもある。

「……分かりました」

 自身も大人に――具体的には浩太にパートナーとして認めて貰いたい気持ちを持つソニアとしては、納得は行かないまでも理解は出来る。浩太に『ソニアさん? ああ、まだまだガキンチョですね』とか言われたら、ソニアも間違いなく泣く。わんわん泣く。

「コータ様はそんな事言わない!」

「うわ! びっくりした……なんやねん、ソニア。急に」

「な、なんでもありませんわ!」

 自身の想像に、思わず声が出た事を恥ずかしく思ってソニアは慌てて両の手を左右に振って見せ、そしてその恥ずかしさを誤魔化す様、言葉を続けた。

「そ、それで! 三つ目! 三つ目は何ですか!」

「えっと……三つ目なんやけどな? その……あんな?」

 先程までとは違い、何だか歯切れの悪いカルロス一世。その姿に、少しだけ訝しんだ表情をソニアは浮かべて見せる。

「何ですか? そう、言葉を躊躇われると何だか不安になるんですが」

「いや……まあな? 実は声掛けた時からちょっと思っててん。いや、どっかで見た事があるな~って。ほいでもホラ、女性って化粧したらマジで誰か分からへんぐらい変わるやん? その、逢った事もホントに数えるくらいしか無い訳やし? 分からへんくてもしょうがないかな~とか思うんやけどな?」

「……ああ、ああ。もうなんでしょう? イヤな予感しかしないんですが」

 カルロス一世はソルバニア王国の国王陛下である。今は『こんな』であるが、間違いなく地位も名誉もある人間で、そして、そんなカルロス一世に『数える程』逢える他国の人間となると、これはもう。


「――その、な? えっと……『マリー』やってん。ほら……ウェストリアの王女様の」


『やんごとない』身分に、決まってる。


◇◆◇◆


 ウェストリア王国は、オルケナ一男女の身分差の激しい国家である。国王陛下以下、貴族は男性以外の継承権を認めていないし、フレイム王国でいう所の『王府』に当たる行政機関を始めとした国の主要機関の構成員は全員男だ。教育、生活、商売に至るまでこのルールは厳密に適用され……歴史に『もし』は禁物であるが、もしシオンがウェストリアに生まれていたならば今の彼女の地位はないであろう。

「ウェストリアで一番尊ばれる『女性像』ちゅうんはな? 『初めは父に従い、嫁いでは夫に従い、老いては子に従う』事やねん」

 先程の『騒乱』から小一時間。場所を食堂から応接間に移した四人は、綾乃が入れた紅茶を啜りながらマリアのレクチャー――ソニアとカルロス一世については確認――を受けていた。

「……三従か」

「は?」

「なんでも無い。続けて、マリア」

「ほな、続けるで? ともかく、そう云う訳でウェストリアの女性はかなり……こう、虐げられる? まあ、あんまり自由が無いんよ」

「なるほど。ストレス溜まりそうね、それ」

「ウチやったら絶対無理やけど、本人達がどう思ってるかまではわからへんからな。そこに産まれたら、そういう考え方にもなるんちゃう?」

 育った環境は人格形成に大きな影響を与えるのは常だ。アメリカでの『常識』が日本で通じず、イジメに遭遇した綾乃的には頷ける話ではある。

「話、戻すで? そんなウェストリアの女性やねんけど、一生に一度……まあ、人に寄っては二度、三度とあるけど……ともかく、何の束縛もなく自由を謳歌する時間が与えられるんよ」

「自由を謳歌する時間?」

「婚約がなって結婚するまでの間、その間は親にも、旦那にも何の遠慮もせんでええ。好きな所に遊びに行って、好きな物を食べて、好きな事をする。まあ、不貞行為みたいな事は許されへんけど、ほいでもその間はホンマに自由やねん。『マリッジ・バケーション』って言われてるんやけどな」

「マリッジ・バケーション、ね」

 いわば、人生の夏休みだ。

「じゃあ、その……マリー王女? その人、結婚するの?」

「ローレントの王子様と結婚やったかな? せやから今、多分マリッジ・バケーション中やろ?」

 もう一度、綾乃はなるほどと頷いて見せ……そして、疑問を口にした。

「さっき、『マリッジ・バケーション中は自由だけど不貞行為はダメ』って言ってなかったっけ? 貞操観念が私のせか――じゃ無くて、ヤメートと違うかも知れないんだけど、『デート』しましょ、って不貞じゃないの? こっちでは」

「がっつり不貞行為やね。何かあったが重要やなくて、何かがあった『かも』知れないが重要やから。デートなんてトンデモない話やで」

 そう言って、マリアは溜息一つ。懇願する様な視線を綾乃に向けた。

「……なに?」

「その……せやから、ウチからもお願いするわ。アヤノさん、陛下とデート、してくれへん?」

「…………は?」

「だって! カルロ=ヘイカはサーチ商会の従業員扱いなんやで! そのヘイカが事もあろうにウェストリアの、それもマリッジ・バケーション中の王女様にコナかけたなんて知られたら……う、ウチの家、潰れてまう!」

「……」

 使用者責任という言葉がある。民法に規定があるのだが、ざっくり説明すれば『社員のミスは社長の責任』という意味だ。無論、オルケナ大陸にその様な規定はないが、そうは言ってもサーチ商会に勤務……というか間借りしている以上、カルロ=サーチの『おいた』はサーチ商会のバッテンになるであろう事は感覚でご理解頂けるかと思う。振り上げた拳は降ろさなければいけないのだから。

「その……アヤノさん。わたくしからもお願いします」

「ソニアちゃん?」

 横からの声はソニア。声と同時、頭を下げるソニアの姿が綾乃の瞳に映った。

「マリー姫殿下とローレント王子であるクリストフ殿下の婚儀は多分に政治的な意味を含んだ、一種の国事行為に御座います」

「……まあ、そうでしょうね。がっつり政略結婚でしょうし」

「両国の友好の懸け橋となるべきこの結婚が、『ソルバニア国王により破談』となれば、どの様な惨事になるか……想像に難くありません」

「……バレなきゃ問題なくない?」

「絶対に? どんなことがあっても絶対にバレませんか?」

「……そりゃ……絶対じゃないけどさ」

「何があるか分からない以上、お父様がマリー様とデートなど論の外です」

 バレなきゃいいな、なんて蓋然性に頼る理由も、その必要もない。『行かない』という選択肢が一番良いのである。

「お父様の話が本当であれば、『冗談』の範囲でおさまる事でしょう。ですが、本当に二人でデートなどした日には……冗談では済まされません。戦争になります」

「……まあ、そうかもね」

 面子を潰されたローレント・ウェストリアの両国は怒るであろう。ウェストリア側は自国の姫に問題が無い訳でも無いが、そんな道理が通るのであれば世にモンスターペアレントなんて言葉は生まれないのである。悪いのは、常に自分達以外だ。

「そして……この様な言い方は『卑怯』でしょうが……此処は『テラ』です。テラにも、責任を求めて来るかも知れません」

「その可能性もなしではない、か」

「ええ」

「……はあ」

「その……もう、本当に、本当に申し訳ないとしか言えないのですが……アヤノさん、お願いします」

 ある意味、浩太を利用する様なその言葉に自分でも、『ズルいな』と思いながらソニアはもう一度頭を下げる。それでも、形振り構っていられない。流石のソルバニアと言えど、ウェストリア・ローレントの両国を敵に回して勝てる道理はない。

「……頭をあげてよ、ソニアちゃん」

「……アヤノさん」

「……仕方ないわよね、そういう事情じゃ。私だって陛下をブッ飛ばすポンしちゃった訳だし、これでチャラにしてくれるんだったら正当な取引なんでしょうけど……」

 大陸全体で見れば綾乃の払い過ぎだが、それでも綾乃の命は一個しかない。そういう面では正当な取引と言えなくもなく、これで心の底に溜まった『もやもや』が消化出来るのであればそう悪い取引でもない。取引でもないのだが。

「でも……彼女のフリ、かぁ。流石に、アレよね? 『彼女です』『おっけー』じゃ無理よね? こう、デートっぽい事しなくちゃ納得してくれないよね?」

 納得した様でいて、煮え切らない態度。そんな綾乃に、ソニアは訝しげな表情を浮かべて見せる。

「……その、アヤノさん? 確かに、お父様はもう五十を越えていますし、お気持ちは良く分かります。私もお父様の様な年代の殿方とデートなど、ふるふる御免ですが」

「おい、ソニア! どういう意味やねん、それ!」

「ですが、そこを曲げてどうかお願いします」

「ん? ああ、そうじゃない。別に陛下と出歩くのが嫌……はイヤだけど、私の事はどうでも良くてっさ。その、そうじゃなくて……えっと……」

「……はい?」

 疑問符を頭の上に三つも四つも浮かべるソニア。そんなソニアに、幾分もじもじしながら、前髪を人差し指でちょんちょんと照れ隠しの様に触って見せて。



「その……こ、浩太に勘違いされないかなぁ、って。嫌われちゃわないかなって」



「「「――乙女か」」」

 総ツッコミが入った。綾乃さん、顔真っ赤。

「あ、あによ! だってだって、デートだよ? 私、浩太としかデートなんてした事無いんだよ? それに、それって、その、浩太に対する、こう……う、裏切りっぽいじゃん! 浩太の事、好きって言ってるのに、こう、他の人とデートなんかしたら……こう、その……」

「「「純情か」」」

「し、仕方ないでしょ! 浩太に誤解なんかされたらイヤだもん!」

「「「――――そうですね」」」

 皆の心が一つになった。それを証明するかの様、砂を噛んだ様な圧倒的な『無』な表情を見せる三人に、更に綾乃はヒートアップ。

「そんな顔しないでよ! そりゃ、私にだって非はあるし、これが取引ってのは理解しているけど……それにしたって……そ、そもそも! それが人にモノを頼む態度なの! 本気でイヤなのよ、私!」

「……そうですね。それは、イヤですわね~」

「なによ、マリア! その小馬鹿に仕切った態度! そもそも、何なのよ!」

「……何が?」

「アンタ、こないだ私に言ったわよね? 『オタクの聖女はそんな人ばっかですか!』って!」

「そら……まあ、言ったけど?」

「オルケナ大陸の王族に比べたら全然マシだと思うんですけど!」

「……ぐ」

「大体何よ、オルケナ大陸の王族は! 商人のフリして街に来る王様に、不貞行為と知りながらデートに誘う王女様? 此処の領主に至っては、幼女とガチ喧嘩して負ける王姉よ! ロクな王族いないじゃない!」

「あ、アヤノさん!? わたくし! わたくしは普通ですわよ!」

 一緒にしないで下さいと言わんばかりに叫ぶソニア。そんなソニアに、綾乃はきっとした視線を向けて。

「『貴方に付いて行きます!』なんてハートマーク飛ばして単身あんな冴えない男に付いて来る王女様なんて聞いたこと無いわよ、私は! 何処が普通だ!」

 綾乃の絶叫が響く。言ってる事は至極正論だが、綾乃は知らない。所詮綾乃が知っている王族は氷山の一角、フレイム王城にはまだ両刀使いと呼ばれる王族と、シスコンの女王陛下、故人ではあるが鉄拳制裁を心の友とする王妃様、と、人材と逸話に事欠かない人物達が控えているのだ。ジェシカ姫など、マトモな部類なのである。本当に、悲しくなる程ロクな王族がいない。

「冴えない男って……アヤノさん? その冴えない男に嫌われたくないちゅうってごねてたん違うんかいな? 嫌いなん、コータはんの事」

「大好きよ! なんか文句あるの!」

「あー……いえ、何も文句はありません」

「あ、アヤノさん! 訂正を! 訂正を求めます! わたくしは普通! 普通です! お父様と一緒にしないで下さいまし!」

「な! ちょっとまちぃな、ソニア! 俺は普通や! 普通の国王陛下やろう! そもそもアヤノ! お前かて全然普通ちゃうやん! 何処の世界に王族ブッ飛ばす聖女様がおんねん!」

「陛下やソニアちゃんほど変わって無いわよ! 私は普通!」

「だから! わたくしを一緒にしないで下さいまし! わたくしは普通です! 本当に普通なんですから!」

「ソニアかて十分変や! 大体ソニア、十歳なら十歳らしくもうちょっと可愛げを持てや! なんやお前、最近あざといねん!」

「な! あ、あざといとは何ですか、あざといとは!」

「……」

 角を突き合わせ、喧々囂々罵り合う三人を見やって小さく溜息を吐きつつ――そして、気付く。

「……ああ、そっか」

 なるほど、この『三人』やエリカ、それにエミリやシオンに比べれば――全然、浩太など『普通』の範疇だ、と云う事実に。

「……自分に無いモン持ってる人に惹かれるって言うしな。無いモンが『常識』ってどうよ、とは思うんやけど」

 まあ、色々無茶苦茶する人間ではあるが、少なくとも浩太は『常識人』だったな~、なんてしょうもない事を思いつつ、マリアは三人の仲裁に乗り出すかと、重い足取りでその輪の中に身を投じた。


『カルロス一世が家でダメ親父なんて認めない!』という方、次回に補足が入りますのでお待ち頂ければ。

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