第二百四十八話 託を頼みながら、じっと出来ないのがカルロス一世
ロンド・デ・テラ公爵邸応接室。この中で男女――エリカ、エミリ、シオン、綾乃、ソニア、そして浩太の六人は神妙な――訂正、神妙な顔をしていたのは浩太のみ、エリカ、エミリ、シオン、綾乃の四人は一様に冷たいまなざしを浩太に向け、ソニアのみはそんな浩太を気遣うような、それでいて嬉しいような、だが喜ぶに喜べないという微妙な表情を浮かべていた。
「……それで? コータ、貴方、カルロス一世陛下に講和会談の場所の提供の依頼に行ったのよね?」
極寒の空気の中、エリカによる浩太の身を切る様な氷の質問が飛ぶ。そんなエリカの言葉に浩太は『ひゅっ』となる。何処が、とは言わないが。
「そ、そうです! 私はカルロス一世陛下の所に講和会議の場所をお貸しいただけるようにお願いに行ったんですよ!!」
「……そう? それじゃ――」
そういってエリカはにっこりと笑い。
「――なんでソニアとデートする事が講和会議の場所を提供する見返りになるのよっ!!」
――そう。
『ちょ、陛下!?』『うん、それエエな!! それじゃ、託を……あ、待てよ? むしろ俺が直接交渉した方がポイント高いんちゃう?』『へ、陛下? 待って! 待ってください!!』『ほいじゃエリカの嬢ちゃんに早速お願いしに行こうか!!』『へ、陛下!? 急に走り出さな――って、足、速っ!! ま、まって――』『エリカの嬢ちゃん!! 講和会議の場所、貸したる!! せやけどソニアとのデート、認めたってんかぁ!』
『はぁ!? そ、ソニアとのデート!?』『ちょ、まってーー!!』みたいな会話があり、今のこの現状なのである。分かっていたことではあるが、嵐のような人である。
「……本当に、なんでこんな事になったのか……私が知りたいですよ。ただ……誓って言います。私から言い出した事では無いんですよ……」
そういって肩を落とす浩太の姿に、エリカがぐっと言葉に詰まる。まあ、エリカとて浩太の事を好いている女性であるし……嫁を複数人貰った人間に掛ける言葉では無いだろうが、そのある種の誠実さも知っているし、信じているのである。いや、まあ、嫁を複数人貰った人間の評価では無いだろうが。
「……ま、まあ……私だって、コータが自分からそんな条件出したとは思ってないわよ。その……カルロス一世陛下だし……」
エリカとて分かっている。なんせ、交渉相手が『あの』カルロス一世なのだ。どんな無理難題を出してきてもおかしくないし、タダで貸してくれるとは思ってはいないのだ。最近、なんだかんだ仲良くなった感はあれど、結局『他国の王様』なのである。取れるところで利益を取るのは至極当然であるし、そういう意味では今回の対価は随分『安い』ともいえる。言えるのだが。
「……納得は、いかないもん」
まあ、こういう事である。浩太の事を信じていない訳でもないし、無理やり言われたことであることだって分かる。それでも納得は行かないし……振り上げた拳を降ろすのには適当なのが浩太だった、というだけだ。
「……ごめん、八つ当たりだった」
心持しょぼんとするエリカ。そんなエリカに少しだけ驚いた表情を浮かべた後、優しい笑顔を浮かべて。
「……いえ。その……こういう言い方はアレですが……やきもち、焼いて貰えるのはその……ちょっと、嬉しいですから」
後、視線を逸らして頬を掻きながらそういう浩太の姿に、エリカの頬に朱が走り――
「――ちょっと待ってくださいませんか? わたくし、流石にそれはちょっと面白くないのですが」
――なんだか良いカンジの二人に『待った』が掛かった。ソニアだ。
「いえ、わたくしも『あ、これはちょっと無いかな~』とは思ったのですよ? だってわたくしから『ソルバニアに行きましょう』って言っておいて、報酬がコータ様とのデート、なんてまるでわたくしが策略したみたいだな~とは思っていましたよ? ですから、皆様が反対なさるなら、辞退させて頂こうと、そう思っていたのです。いたのですが」
そういって、拗ねた様な表情を浮かべて浩太を睨み。
「――わたくしとのデートはおイヤですか、コータ様……?」
瞳の端に涙をにじませ、そういうソニアに先ほどまで甘い雰囲気を出していた浩太の顔が引きつる。
「そ、そういう訳ではないですよ!!」
「じゃあ、流石にさっきの台詞は酷くありませんか!? なんだかわたくしとのデートが嫌で嫌で仕方ない、みたいな言い方じゃないですか!!」
ソニアの言葉に『うぐぅ』と浩太は返答に詰まる。現状のあまりの酷さにああいう言い方をしたが……確かに、聞きようによってはソニアとのデートを嫌がっているようにも聞こえるだろう。
「……すみません、そういう訳では無いのです。ソニアさんとデートに……こう、なんだか倫理観的にちょっとアウトな気もするんですが……ともかく、どこかにお出かけするのがイヤなわけでは無いんです。無いんですが……流石にこれは」
「……まあ、お気持ちは分かります。わたくしだって、強制されたデートで喜べるか、と言われると難しいですし。出来れば、コータ様から望んでお誘い頂きたいですし」
そういってため息を一つ。
「ですが……よくよく考えればわたくしだけなんですよ?」
「ソニアさんだけ?」
首を捻る浩太に『ええ』と頷き。
「――よく考えてください。コータ様、ラルキアで皆さんとデートされていないですか?」
「……」
その通りである。なんだかんだ、他の皆とはデート――というか、遊びには行っているのだ。
「わたくしだけ、コータ様とデートをしていないんです!! わたくし、色々頑張ってませんか!! なのに、わたくしだけご褒美が無いんです!! おかしくないですかぁ!!」
これを言われるとエリカ達も弱い。確かにソニアには色々とお世話になっているのである。今回だって、ソルバニアを会場として借りるのだ。そりゃ、それぐらいの見返りはあっても良いのかな、という気はしてくるものだ。
「……でも……そ、ソニアもさっき言ったじゃない。良いの、そんな……こう、報酬みたいな『デート』で」
エリカの抵抗も弱い。そんなエリカに、ソニアははーっとため息を吐く。
「……分かりました」
「……なにが分かったのよ、ソニア」
「ハードルを下げましょう。心理的な、という注釈は付きますが」
「ハードルを下げる?」
ソニアの言葉にこてん、と首を横にするエリカ。そんなエリカに、ソニアはにっこりと微笑んで。
「――わたくしにコータ様のご案内をさせてもらえませんか? 勿論、デートではありませんよ? ソルバニアはわたくしの故郷、そんなわたくしが、詳しくないコータ様にご説明して回るのは決しておかしい事では無いですよね? ああ、『デート』ではないですから」
そういってにやっと笑って。
「それぐらい、わたくしにもご褒美があってもよくありませんか? 無論、『デート』では無いので、変な事はしませんよ? 純粋に、『ご案内』です」
――絶対、嘘だ。
そう思いながら、エリカは小さくため息を吐いた。
来週、テストなんでお休みします。




