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第百三十四話 研究室での一幕

「……あれ? 私、部屋を間違えましたかね?」

「……コータさん?」

 シオンの部屋を訪ね、ノックを三度。返事の代わりにドアを開けて出て来た見知った顔――シオンの妹であるアリア・バウムガルデンが顔を出した事に浩太が首を捻る。そのまま、視線を部屋の内側にやって。

「ああ、やっぱりシオンさんの部屋ですか」

「……室内の惨状を見てお姉様の部屋と理解されるのは妹的には不本意ですが……そうですね、お姉様の部屋です」

 少しだけ疲れた様に肩を落とすアリア。なんだか不憫に見えるその姿に声を掛けかけて、なんと声を掛けていいか分からず浩太が口を噤む。そんな浩太の姿に、アリアが落とした肩と頭を上げて苦笑を浮かべて見せた。

「イイんです。お姉様の部屋が汚いのも、お姉様の部屋がゴミ溜めみたいなのも、お姉様の部屋が腐った海の様になっているのもお姉様の自業自得ですから」

「……」

「ちなみに先程、本棚の上から包丁が落ちて来ました」

「……下手なお化け屋敷より怖いですね、それ」

 デッド・オア・アライブ。普通の人よりちょっと……というか、だいぶドジなアリアが良く生き残ったと言わんばかりの表情を浮かべる浩太に気付いたか、アリアは苦笑の色を強くした。

「なぜか分かりませんが、ドジな私でもお姉様の部屋でだけは滑ったり転んだり……まあ、怪我をしないんですよ。そういう意味ではこの部屋は安全ですよ?」

「それは……なんでしょう? こう、目に見えない姉妹愛的な?」

 その浩太の言葉に、少しだけビックリした様にアリアが目を丸くした後、おかしそうにコロコロと笑って見せた。アリアの急な変化に訝し気な表情を浮かべる浩太に、『済みません』とアリアが頭を下げる。

「……失礼しました。まさかコータさんがその様な……こう、非現実的な事を仰るとは思ってもみなかったので」

「……異世界召喚に比べれば、それぐらいの『非現実』は十分現実の内ですよ。ああ、これは別に責めている訳でも皮肉でもありませんから」

「そうですか。そうですね、異世界召喚に比べれば『姉妹愛』なんて現実的かも知れません」

 そう言ってアリアは視線を後方に――酷い有様の室内に向けて。

「……出来ればその『姉妹愛』は部屋を片付ける方向に傾けて下されば良かったのですが」

 アリアの瞳のハイライトが消える。見た目は幼くとも十七歳の少女があんまり浮かべるべき表情ではないソレに、慌てた様に浩太が口を開いた。

「え、えっと! それで、アリアさん? どうしてこちらに? シオンさんは?」

「……本当に、お姉様は……なんど言っても全然聞いてくれないし……本当に、何度も何度も何度も何度も――」

「アリアさん!」

「――何度も……は! す、済みません! 少し意識が飛んでいました」

「……でしょうね」

 先程のアリア同様、少しだけ疲れた表情を浮かべる浩太に明後日の方向を向いてアハハと笑って見せるアリア。後、コホンと咳払いをして浩太に視線を向けた。

「えっと……私が此処にいる理由でしたよね? その……まあ、見たら分かると思うのですが、お姉様のは部屋はこう、その、なんと申しましょうか、その……」

「汚いですね」

「……です。まあ、お姉様の部屋が『こう』なのは今に始まった事では無いですし、本人が良いと言うのであれば私がどうこう言う問題でも無いのですが……それでも、本棚の上から包丁が落ちてくる部屋はどうかと思います。怪我をしてもイケませんし、何よりこんな部屋では健康にも悪いですしね。それで、十日に一度ぐらいは私が部屋の片づけに来ているのです――え、ええ!? ど、どうしたのですか、コータさん! そんなお爺ちゃんが孫の頭を撫でる様に優しい目をされて!」

「いや……良くできた妹だな~、と思いまして」

 余りにも健気なそのアリアの行いに、浩太もアリアの頭に手が伸びる。普段は絶対にやらないであろう浩太の行動だが、アリアの容姿も相俟ってついつい手が伸びたのだ。少しだけ頬を染めて自身の手の中であわあわするアリアを、まるで小動物を愛でる様な視線で見つめて――そして、気付く。

「……そう言えばアリアさん」

「……は、はい!? な、なんでしょう?」

「その……昔、エリカさんとこの部屋にお邪魔した時に、『此処は私の研究室だ! アリアと云えども勝手に入ったら許さん!』みたいな事をシオンさんが言っていた気がするのですが……」

 その言葉に、少しだけ首を傾げ。

「……ああ、なるほど」

 その後、ポンッと手を打って見せた。

「確かに私達『研究者』に取って自室とはある意味で研究室の意味合いもあります。学術院という組織は確かに『チーム』ではありますが、その研究成果は『個』の成果です。ですので、例え『身内』であっても自身の研究成果を盗み見られる様な気がしますので、普通はあまり室内に入られるのは好みません」

「では……」

「……『普通』は、です」

 言い掛けた浩太を遮って、たっぷり二秒。


「……だって、お姉様ですよ? 気にしないに決まってるじゃないですか、そんなの」


「……」

 言葉もない。

「確かに? きっとこの部屋の何処かにはお姉様の研究成果の幾ばくかはあるのでしょう。あるのでしょうが……まあ、それを探し出すのは非常に困難です。お姉様自身、一体何処に何があるか把握していないでしょう」

「……これが一番、分かり易いって言ってましたけど?」

「嘘に決まってるじゃないですか、そんなの。自分の白衣すら何処にあるか分からないのに」

「……」

「どうせ、『部屋を片付けなさい。出来ないならアリアにお願いしなさい!』みたいな会話の流れでしょう? それでお姉様が『この部屋は研究室だ!』みたいな事を言ったに決まってます」

「……見てました、アリアさん?」

「見なくても分かります」

 だって、と。



「……お姉様ですよ?」



「……最強ですね、その理論」

 信頼しているようで、これっぽっちも信頼してない。何とも言えないそんなアリアの言いように浩太が思わず口を閉じた。沈黙は金、である。

「話が逸れましたね。えっと……お姉さまですか?」

「いや、話が逸れたといいます――」

「お姉さま、ですか?」

「――はい」

 有無を言わさないアリアの口調に黙って浩太が頷いて見せる。その仕草に気を良くしたか、アリアがパンと手を打ってにこやかに微笑んで見せた。

「お姉さまは学術院の方で少しばかりお仕事をしていますよ?」

「学術院の方で仕事……仕事? え? 仕事ですか? シオンさんが?」

「……お気持ちは痛いほど分かりますけどね? ですが、ああ見えてお姉さまは主任研究員ですから。仕事も普通の研究員より多いですし、溜まってもいます。ですから――」

 そこまで喋り、アリアが不意に口を閉じる。その態度に首を傾げる浩太に『すみません』と頭を下げながら手を振って見せた。

「――お急ぎでしょうか、コータさん?」

「いえ……ああ、そうですね、急ぎと言えば急ぎでしょうか?」

「でしたら丁度良かったです。コータさん、折角ですから『学術院』の方に行ってみませんか?」

「……学術院の方に?」

「私もそろそろあちらに向かおうと思っていたのです。機密的なものもありますから、研究室の中にお入れする訳には行きませんが、研究室の前まででしたら構いませんので、お時間宜しければどうでしょう? 御一緒しませんか?」

「えっと……」

「お姉さまも研究に熱が入ると何日も帰ってきませんし、こちらから逢いに行った方が確実で、早いです。それに――」

 そう言って、小さくウインク。


「――お姉さまにも名誉回復のチャンス、必要でしょうし?」


◇◆◇◆◇


「おい! アレはどうなっている!」

「その資料は此処にあります! 纏めておきました!」

「助かる。そうだ! 先日の実験はどうなっている? 成功とは聞いたが?」

「大成功でした。レポートで提出していますので後で目を通しておいてください」

「でかした。それと――ああ、そうだ! 先日王府から調査依頼のあった件は?」

「それは私が。報告書はすでに王府に提出していますが……写しがいりますか?」

「そうだな……いや、良い。君の仕事は信頼している。向こうと会議があれば、その時に目を通しておく。よくやった、ありがとう」

「はい!」

 ダンスパーティーでも開けそうな大きな部屋。所狭しと並べられた机の大群の最上座に座った女性――シオンを呆然と見やる浩太を面白そうに見つめて、アリアが口を開いた。

「どうですか?」

「……どうですか、と言われましても」

 一息。

「……ええ、言われましても……」

 どう答えたらいいものか。そう思い、浩太は視線を上座に座り山の様な書類を右から左にさばき、周りにいる白衣のスタッフらしき人々に的確に指示を飛ばすシオンに向けて。

「……誰ですか、あの仕事の出来るキャリアウーマンっぽい人は?」

「……言うと思いましたけど。お姉さまですよ、お姉さま。フレイム王国学術院主任研究員、シオン・バウムガルデンです」

 苦笑交じりにそういうアリアに、浩太はもう一度視線をシオンに向ける。浩太の視線に気付く事なく、先程同様書類に目を通して難しそうな顔を浮かべているシオン。だが、不意に何かに気付いた様に顔を綻ばせ、そのままふんわりと微笑んで白衣の女性に向けたりなんかしちゃったりしている。向けられた女性の方も、嬉しそうに頬を少しだけ赤らめて笑んで見せているのが視界に入った辺りで。

「――ああ! 分かりました! そっくりさんですね!」

 浩太、結構酷い事を言う。

「……」

 今度は返答はなかった。ジトッとした目を向けてくるアリアに、慌てたように浩太は言葉を継いだ。

「いや、だって! し、シオンさんですよ? シオン・バウムガルデンさんですよ! あのシオンさんがあんな表情で笑うなんて、天地がひっくり返っても無いと思うじゃないですか!」

 天上天下唯我独尊で、傲岸不遜。世界は私の為にある、ぐらいは思っていても全然不思議じゃ無いと思っていたシオンが、部下か同僚か、ともかく一緒に仕事をしている人間に笑顔を向けて優しく手解きしているなんて。

「……なんでしょう? 眩暈すらしてくるんですが。先日飲んだお酒、まだ抜けていないんですかね、私?」

「……大概酷いですね、コータさん」

 疲れた様に溜息をつき、その後『まあ、わかっていましたけど』と諦めた様に笑ってアリアは言葉を継いだ。

「お姉様は……まあ、『ああ』ですが、それでも学術院の主任研究員です。主任研究員はお姉様を含めて三人しかいませんし、主任研究員の上となるともう、院長と副院長しかいません。つまり、お姉様はこの学術院で三番目に偉い地位についている事になります。まあ先任権はもう二人の主任研究員の方の方が上ですので、序列は五番目ですが」

「それは分かっていますよ。お聞きしましたし、シオンさんが――」


「分かっていませんよ」


「――偉い……アリアさん?」

 浩太の言葉を遮り、アリアがじっと視線を浩太に向ける。

「……コータさん、お姉様はまだ二十六歳ですよ? 敢えて言います、『たった』です。たった二十六年しか生きていない若僧が、フレイム王国の――いいえ、千年の長きに渡り続くオルケナ大陸一の研究機関の、その上から三番目の『地位』に居るのですよ? 有史以来、そんな人は居ないんです。そして、真の意味で『ただの我儘』な人がその地位まで登り詰める事が出来ると、本当に思いますか?」

「……それは」

「確かに、お姉様が陛下の指南役であった事やバウムガルデンの『血筋』に連なっている事がプラスに働いた事が無いとは言いません。此処は研究の場であり、学問の場であり、同時に政治の場でもありますから。ですが――」

 一息。


「――それでも、お姉様が優秀であり……皆に慕われている事は、見て頂ければ分かるのではないですか?」


 視線を動かすアリアに、つられる様に浩太もそちらへ。丁度、失敗の報告か何かだろう。 身を縮ませる『部下』に対して、少しだけ困った様に苦笑をしてシオンが小さく頭を小突く。もう一度頭を下げる部下に手を振って何か言葉を発すと同時、シオンの周りがどっと沸いた。叱られた部下も照れ臭そうに頭を掻き、それでもその眼に失敗に対する萎縮は浮かんでおらず、チャレンジに燃える意志の炎が宿っている。

「……ね?」

「……ええ」

「私生活では……そうですね、『どうしようもない』お姉様ですけど、職場ではああいうピリッとした態度も取ります」

「……」

「お姉様自身があまり痛痒を感じていないでしょうし、むしろどちらかと言えば楽しんでいる風もあるので、巧くは言えないですけど……こう……もう少し、お姉様を重宝と申しましょうか……取り敢えず、『粗末』に扱わないで上げて欲しいです」

「いえ、別に『粗末』に扱っている訳では……」

「冗談です」

 ペロッと舌を出すアリア。

「冗談ですが……そうですね、少しぐらいは優しくしてあげて下さい」

 そう言って、悪戯っ子の笑みを浮かべて見せる。

「――『粗末』に扱うのは私だけで十分ですので。お姉様が『どうしようもない』のは事実ですしね」

「……言いますね、アリアさん」

「イイんですよ、私は」

「妹だから? それとも、一番の被害者だから?」

「『尊敬』しているからです」

 そう言って視線を切り、アリアが『主任研究員!』と部屋の奥に届くような大声を上げる。その声にようやくこちらに気付いたか、手元の書類に落としかけていた視線をシオンが上げた。

「……ん? アリアと……コータ? 珍しい……というか初めてじゃないか、コータがこちらに来るなんて。ああ、そこから先は関係者以外立ち入り禁止だ。今行くからそこで待ってろ」

 驚いたのは、一瞬。そう言ってシオンは椅子から腰を上げて立ち、浩太とアリアの下に歩き出そうとして。

「…………どうした?」

 部屋中の音が消えた様な感覚に、訝し気に視線を左右に睥睨する。三十人程度、白衣を来た人々が一様に口をポカンと開ける様子に、眉をピクリと跳ね上げ、言葉を続けようと口を開きかけて。

「……し」

「ん?」




「「「「「「――シオンさんに、おとこぉおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?」」」」」




 室内中どころか、建物中に響き渡るんじゃなかろうかという大音声が響いた。

「し、シオン先輩に男! 男が出来た! お、おい! 誰か、ひとっ走り酒屋に行って酒買って来い! 今夜は祝杯だぞ!」

「ま、まて! あんまり期待するな! もしかしたら唯の知り合いかもしれん! シオンさんだぞ? 期待して裏切られない様にしろ!」

「で、でも! 親兄弟にすら『出来れば行きたくない。空気で病みそう』って言われて訪ねて来ない此処までわざわざ訪ねて来るって事はですよ! きっと深い仲なんですよ! だ、だってだって! あの人見知りのアリアちゃんも一緒だし、なんだか懐いてるっぽいし!」

「う、うわー! ど、どうしよう! シオン先輩の結婚式はやっぱり白いウエディングドレスかな? 先輩! 私、一緒に選びに行きます!」

「だな! あのシオンさんだぞ? 『白衣ばっかり来てるし、白は飽きた』とか言って真っ黒とか選びかねないぞ! おい、レイチェル! きちんとしたドレス選んで上げろ! 有給使っていいから!」

「それにしても……『あの』シオン主任研究員のイイヒトだろ? どんな勇者だよ、おい! あ、いや、有り難いんだけどよ? 貰ってくれるってだけで!」

「……って、あ、ああ! アレ! あの人! ロンド・デ・テラの『魔王』じゃないか!」

「『魔王』……なるほど、それならシオン先輩も御せるのか」

「いや……でも、なんにしろめでたいな! 最近、バウムガルデン教授もめっきり白髪増えてきたからさ」

「あ、知ってる知ってる! アレだろ? あの『がちゃがちゃ』が片付かないから心労が溜まってるって話だろ? 不憫だったけど……よかったな、バウムガルデン教授!」

 まるで蜂の巣をつついたかの様な大騒ぎ。その渦中、未だにポカンとしたままのシオンを取り囲むよう、白衣の女性たちが集まって来た。

「おめでとうございます、シオン先輩!」

「結構格好イイじゃないですか、シオン先輩! ちょっと眠たそうな目してるけど、優しそうだし! ココ、中々出逢いも無いんですし、早めにツバ付けておくんですよ!」

「良かったですね、シオン先輩! 式は何時です? 絶対呼んで下さいよ!」

「そうです! 早めに教えて下さいね! 一カ月前から仕事前倒しで必ず休みにしますから!」

「でも……先輩、何処で出逢ったんですか?」

「あー! それ、私も気になる! え? え? 何処で知り合ったんですか?」

「っていうか、告白はどっちからです? やっぱり向こうから情熱的な感じですか?」

「ち、ちなみにですけど……シオン先輩のカレシさん、同い年ぐらいの独身男性いませんかね? 居られたら是非、一緒に食事でも……」

「あ! ずるい! 私も! 先輩、私も!」

「私も私も!」

 およそ彼女にしては珍しく、固まっていたままのシオン。が、それも束の間。意識を取り戻したかの様に口を開いた。

「あー……いや、お前ら? なにか勘違いをしているかも知れないが、別にコータと私はそんな仲では――」

「「「きゃー!!」」」

「――な……な、なぜ? なぜ、黄色い悲鳴を上げる?」

「だって」

「ねぇ?」

「『コータと私はそんな仲では』なんて……」

 集まった面々、目を合わせて。


「「「そんなの、『照れ隠し』の常套手段じゃないですか!」」」


「……もういい。コータ、此処では話にならん。別の所に行く――」

「きゃー! 別の所だって!」

「何処? 何処に行くのかしら!」

「きっと、二人であまーい語らいとかするのよ! シオン先輩、可愛く甘えるんですよ! 『今日もお仕事、疲れたぁ。こーたぁ~、はぐぅ~。ハグして~』とか!」

「――ぞってやかましいわ! いいから早く仕事しろ!」

「はーい!」

「あ、アリアちゃん! こっち、こっち!」

「そうそう! 詳しく聞かせて!」

 シオンと入れ替わり、アリアが嬉々とした表情を浮かべて女性陣の輪の中へ。そんなアリアとは対照的、少しだけ疲れた表情を浮かべてシオンが浩太の側に歩みを進めて来た。

「……おい」

「あー……なんだか私が悪い感じですね、済みません。ですが……まさか、こんな事になるとは」

「……まあ、否定はしない。学術院は優秀な人材が多いし、研究熱心ではあるが……娯楽が少ないからな。色恋沙汰などは格好の餌食になる」

「……ご愁傷さまです」

「誰のせいで……まあ、いい。ともかく、此処では話など出来ん。場所を変えるぞ」

「私は構いませんが……宜しいので?」

「構わない。ロッテ翁に聞いているし、そろそろお前が来る頃だと思っていたからな。仕事自体はほぼ終わっている。後はウチの『優秀なスタッフ』が何とかしてくれるさ」

 そう言って、忌々しそうに室内を睨むシオン。そんなシオンに気付いたか、室内の研究員全員がピシッと直立不動の姿勢を取って。



「「「「「――今日は帰って来なくていいですから、シオンさん!!」」」」」



「やかましい! 仕事しろ、仕事!」

『優秀なスタッフ』のイイ笑顔にキレるシオンを見て。

「……ああ、やっぱりシオンさんの職場なんですね?」

「なんか言ったか!」

「……いえ、なにも」

 取り敢えず、色んな意味でシオンは慕われてるな~と、小学生みたいな感想を浩太は持った。


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