第百二十八話 デートの最後は。
キラキラと輝く宝石の数々。エミリとてうら若き女性、自身に飾り気こそ無いも宝飾の類に興味が無い訳ではない。文字通り、眼前で『宝石箱』の世界を繰り広げるその面々に一瞬心を奪われるも、イケないとばかりに頭を左右に強く振って見せた。
「こ、コータ様! こ、コレは……っていうか、此処は!」
「おや? 御存じありませんでしたか? 此処はフレイム一の貴金属を取り扱う商会、ロート商会の本店ですよ?」
「し、知っています! 私だってラルキア育ちです、知らない訳はないでしょう! そ、そうではなくて!」
生まれこそノーツフィルト領ではあるが、五歳の頃よりラルキア育ちのエミリだ。アンジェリカやリーゼロッテ、それにエリカやリズとも冷やかしに来た事だってある。当然、此処がロート商会である事ぐらい分かり過ぎるくらいに分かっているのだ。
「では――ああ、申し訳ありません、エミリさん。アレだけ偉そうに『ラルキアも見飽きたでしょう』といっておきながら、お連れしたのがロート商会ではエミリさんの立腹もご尤もですね」
「そ、そうでもなくて! そ、その……」
そう。重ねて言うが、エミリとてここがロート商会である事ぐらいは百も承知だ。無論、ロート商会がフレイムのみならずオルケナ大陸でも有数の『ブランド』である事も分かっているし、それに。
「……此処には……な、なにをしに来られたのでしょうか?」
「此処にですか? そんなの、決まっているじゃないですか」
そう言って浩太がにこりと微笑む。と、同時、ニーザが白手袋を手にはめて木箱を一つもって来た。
「こちら、コータ・マツシロ様からのご注文の品です。どうぞ、お確かめください」
そう言ってニーザが木箱を丁寧に開ける。カチッという蝶番の音と共に、木箱がニーザの手によってゆっくりと開けられて。
「――っ!」
姿を現したアクセサリーに息を呑む。
「私の中の勝手なイメージですが……エミリさんと言えば『黒』かと思いまして。プレゼントさせて頂きませんか?」
シルバーのチェーンに、決して大振りではないペンダントトップに置かれた小さな黒真珠のネックレスが、箱の中で主を待つかの様に楚々として鎮座していた。
「これ……は……?」
「黒真珠です。黒真珠は弔辞のイメージもありますが、本来的に『黒』とはフォーマルな色ですし、実際に披露宴や結婚式でも黒は結構用いられていますしね。今日の服装も黒が基調ですし……エミリさん、黒が好きかな? と思いまして」
嫌いでした? と、問う浩太に慌ててエミリは首を左右に振る。その仕草に少しだけ安心したか、浩太は言葉を続けた。
「黒真珠はどちらかと言えば『地味』な印象を受ける宝石だと思います。光り輝く訳でもないですし……嘘を吐いても仕方ありませんし正直に申せば、物凄く高価な宝石、という訳でもありません。ですが、黒真珠には確固たる『気品』があると私は思います」
「……」
「目立ち過ぎず、主張し過ぎず、アクセサリーがその主の座を奪う様な事をせず、それでも変わらぬ美しさを備えた宝石。それが黒真珠だと思います。エリカさんを支え、テラ領を支え、私を支えて下さったエミリさんに相応しい宝石だと……そう、思います」
そう言って、苦笑を一つ。
「……まあ、柄にもなく格好つけてしまいましたが……単純に、『エミリさんに似合いそうだ』と思ってこの宝石にしてみました」
どうぞ、お受け取り下さいと笑んで見せる。そんな浩太の笑顔に魅せられたかの様、エミリはおずおずと木箱に手を差し伸べて。
「――! だ、ダメです!」
不意にその手を思い切りよく引く。何度も言う様だが、エミリはラルキア育ち、当然にこのロート商会にも何度か足を運んだこともある。まるで目が眩む様な宝石たちに囲まれて感嘆の息を漏らした事だってある。
「……こ、この様な高価なもの……い、頂けません!」
そして、その後に『手が出ませんね』と溜息を吐いた事だってあるのだ。腐ってもラルキア育ちであるだけに、その『高価』さは身を以って知っている。
「欲しくありませんでしたか?」
「そ、その様な事は御座いません! 御座いませんが……こ、この様な高価な物、何の理由もなしに頂く訳には行きません!」
エミリは『え? くれるの? ラッキー!』という様な女性ではない。なまじ貞淑で身持ちが固いだけに、男に『貢がせている』感があるこの様なプレゼントは貰えないのだ。
「そ、それに……その……わ、私だけが……この様にコータ様に良くして頂くのは……その、も、申し訳が無いと申しましょうか……ズルいと申しましょうか……」
加えて、自ら『だけ』に降って湧いた幸せを手放しで喜べない難儀な性格でもある。自身の敬愛するエリカ、不敬ながら妹の様に可愛らしいソニア、頼りになる綾乃。浩太を愛し、浩太に愛されたいと願う人々の顔が浮かんで消え、そんな消え入りそうなエミリの声に浩太が苦笑を浮かべた。
「……ありがとうございます、と貰って頂きたい所ですが?」
「う、嬉しくない訳では無いのです! 本当に、本当に、もう、どうしようも無いほど嬉しいのです! で、ですが……」
あうあうとテンパって見せるエミリ。その姿に苦笑の色を深くして、浩太は両手を振った。
「分かりました。そういう事でしたら」
「……あ、ありがとうございます」
ほっとして、残念。そんなエミリの表情に、苦笑を微笑に変えて浩太が言葉を継いだ。
「では……先程の権利を行使させて頂きましょう」
「け、権利?」
「ホラ。さっき『賭け』をしたでしょ? 『負けた方が、勝った方のいう事を一つ聞く』って」
覚えてませんか? と問う浩太に、エミリが自身の記憶を紐解く。先程の『プレイング・ハウス』にて、確かに成立した賭け。勝者は浩太で、エミリが敗者で――
「――っ! こ、コータ様!」
「さあ、遠慮せずに受け取って下さいエミリさん。まさか……断りませんよね?」
口をポカンと開けたまま固まるエミリに、浩太は楽しそうに言葉を続けた。
「きっとエミリさんの事だから断られるだろうな、とは思っていたんですよ。どうやって受け取って貰おうかと思っていたんですが……いや、ラッキーでした。良かったです」
「こ、コータ様! ですが、そ、それは!」
「おや? まさかエミリさん、私の『お願い』を聞いて頂けないのですか? 賭けに負けたのに?」
「そ、そんな事は……で、ですが! そ、それは……」
スカートの端を握り、考え込む様にモジモジと。
「……エミリさん?」
「は、はい!」
「これは、『お願いです』
「……はい」
「私が、『無理やり』エミリさんに受け取らせるんです。本当はエミリさんが困るだろうな、という事を分かっていながら、それでも『賭け』に負けたエミリさんに受け取って頂くんですよ?」
「――あ」
「エミリさんが気になさる事は無いのです。これは、『賭け』の商品なんですから?」
だからね、と。
「――エミリさんはなにも悪くないんですよ?」
エミリの罪悪感の隙間に入り込む、一言。
「こ、コータ様」
「はい?」
「その……こ、これは『賭け』の商品なのですよね?」
児戯に等しい魔王の一言。だが、その一言はエミリの心にするりと入り込む。
「で、でしたら……そ、その」
否。
エミリが、その言葉を心に入り込ませる。
「そ、その……その!」
やがて、少しだけ熱っぽく潤んだ瞳で意を決した様にエミリは浩太を見上げた。
「……そ、その……」
「はい?」
「よ、宜しいのでしょうか?」
「勿論です。だって、私の『賭け』の商品ですから」
「こ、コータ様が勝たれたのですよ? なのに、わ、私ばっかり嬉しくなってしまうのは、なんだかとてもズルい気持ちになります」
「エミリさんは嬉しいですか?」
「あ、当たり前です! こ、コータ様が私に似合うと思って選んでくださったのでしょう? う、嬉しくない訳がありません! 天にも昇る気持ちです!」
「エミリさんに喜んで頂きたくて選びました。ですので、エミリさんが喜んで下さるのであれば」
私は十分ですよ、と。
「あ……」
「どうでしょうか?」
「そ、その……こ、コータ様?」
「はい?」
「先程は皆様に申し訳ないとか、私ばかりがズルいとか、可愛げの無い事を申しました。そ、その、い、今更ですが……」
耳まで真っ赤にし、顔を下に向けて。
「――ちょ、頂戴しても……宜しいでしょうか?」
その声に満面の笑みを浩太が浮かべて頷く。ちらりと上目遣いで見上げたエミリの視界にその仕草が映り、エミリの顔に満面の笑顔が花開いた。そのまま、おずおずと木箱に手を差し伸べた所で。
「――失礼」
その木箱がエミリの前から消える。『あっ』と小さくエミリの口から吐息が漏れ、視界に映る木箱がエミリの前から浩太の前に移された。
「ニーザさん?」
『お預け』を喰らったエミリの悲しそうな表情を視界の端に捉えながら、木箱を移動したニーザを胡乱な眼で見やる浩太。そんな視線を意に返さず、ニーザは言葉を継いだ。
「失礼。ですが、コータさん? それではいけません」
「いけない、とは?」
「無事に女性にアクセサリーをプレゼントする事が出来ました、はい、じゃあ付けて下さいね? では……なんでしょう? 流石に芸が無いかと愚考します。っていうかぶっちゃけ、エミリさん含めたコータさんの周りの方々が可哀想になって来ました。なにしてるんですか、コータさん」
呆れた様にやれやれと首を振るニーザ。そんなニーザに、憮然とした表情を浩太は浮かべて見せる。
「……芸がない、と来ましたか」
「ええ。こういうプレゼントは渡す事だけが目的ではありませんし。拝見させて頂いた所、どうやら本日のエミリさんのお召し物は幾分胸元が寂しいご様子です。どうでしょう、コータさん。折角受け取って頂いたプレゼント、此処で付けて差し上げたらいかがでしょうか?」
ニーザの言葉に、少しだけ浩太が面食らう。視界の端に映ったエミリは、先程よりも顔を真っ赤に染め上げていた。
「……ニーザさん」
「海上保険や難しい数字の話はともかく、こちらは私の『本職』ですよ?」
「……女性の扱いが、ですか?」
「女性に喜んで頂くのが、です」
「……エミリさんがアクセサリーをされて無くて良かったですね?」
「まさか。その時はその時で巧く立ち回りますよ? その為の話術は磨いていますから」
「……貴方を海上保険の責任者に任命して良かったと心の底から思いました。その口の巧さで宜しくお願いします」
「恐縮です」
全く悪びれる事のないニーザに苦笑を浮かべて肩を竦める。
「では……喜んで頂けるかどうか微妙な所ですがエミリさん? 失礼ながら付けさせていただいても構いませんか?」
◇◆◇◆◇
ありがとうございました~、と言う店内からの声を背に受けて浩太とエミリは並んでロート商会の店舗を後にする。入店前と退店後、変わったのはエミリの胸元でキラリと輝く漆黒の黒真珠と。
「――ふふ」
嬉しそうに、本当に幸せそうにその胸元の真珠を見て頬を緩ませるエミリの表情だ。何時になく『だらしない』笑みを見せるエミリに浩太も微苦笑交じりに言葉を発す。
「喜んで頂けた様でなによりです」
「それはもう! とても、とても嬉しくて……ありがとうございます、コータ様」
まるで、はじける様。通常のエミリとは一線を画すエミリの笑顔に浩太も笑顔を浮かべ掛けて……そのまま、なにかを思い出したかのように溜息を吐く。
「喜んで頂けたのは良かったですが……流石に『アレ』は勘弁願いたいです」
「アレと――あ、アレですかっ!」
「アレです」
「あ……え、えっと……」
浩太の言葉に何かを思い出したか、エミリも頬どころか耳まで真っ赤に染めて下を向く。思い出したのは『浩太にネックレスを付けて貰う』という嬉し恥ずかしイベントだ。
「……あはは」
ニーザの『付けてあげて下さい』発言。浩太的に『キャラじゃないし』とかも思ったりしたが、まあ折角と言えば折角である。雰囲気だって悪くは無いし、それではとネックレスを手に取りエミリの後ろに回った所で。
『……なにしてるんですか?』
『なにって……エミリさんに付けて差し上げようかと』
『なーにを馬鹿な事を言っているんですか! 女性にネックレスを付けるんだったら『前から』ですよ! エミリさんの眼をしっかり見つめて付けてあげて下さい!』
『ま、前から? い、いや……それはちょっと流石に恥ずかしいと言いましょうか……』
『女性にアクセサリーをプレゼントするだけで十分照れ臭いに決まってるでしょう! さあ!』
『い、いや、ちょっとニーザさん!』
……なんて会話があったりする。それでも真剣に――まあ、幾分以上に楽しそうにマシンガントークを繰り広げるニーザに根負けして、浩太がエミリの正面からネックレスを付けたのだ。
浩太もそうであるが、エミリだって男性に手自らネックレスを付けて貰った経験などない。素早く行えばそうでも無かったのであろうが――恐縮し、カチコチに固まり、照れ、恥ずかしがり、それでも嬉しがりと表情の変化に忙しいエミリがようやく自身の後ろ髪を持ち上げて付け易い体勢を取った辺りで、店内の店員と客の耳目を集める結果になった。想像してみて欲しい。好奇な視線にさらされながら、それでも期待に満ちた潤んだ瞳でこちらを見上げる美女。色んな意味で浩太も限界だったのだ。
「……こ、コータ様」
疲れた様に肩を落とす浩太の服の端を、ちょんとエミリが摘まむ。その仕草に気付いた浩太が、エミリに視線を向ける。
「失礼。デート中にする態度ではありませんでした」
「い、いえ! 私も死んでしまう程恥ずかしかったですので、お気持ちは良く分かります!」
「ですか。それは――」
「ですが!」
「――……はい?」
「ですが……死ぬほど恥ずかしかったですが……で、ですが、私は……」
――『イヤ』ではありませんでした、と。
「……う、嬉しかったです! そ、その! 本日頂いたネックレスは一生大事に致します! ありがとうございました、コータ様!」
照れ臭さを隠すように慌てて言葉を継ぐエミリに、浩太の頬も緩む。言いたい事は色々あるが、これ程可愛い仕草を見せてくれるのであれば浩太も頑張った甲斐がある。
「……それは良かったです。エミリさんの可愛らしいお姿も見れましたし。顔、真っ赤でしたものね?」
「~~っ! は、恥ずかしかったのは恥ずかしかったんですから――こ、コータ様! な、なんですかその笑顔は! わ、笑わないで下さい!」
「失礼。それにしても……視線をきょろきょろとあちらこちらに向けてお忙しそうなエミリさんは非常に可愛らしくて」
「か、からかわないで下さい!」
「済みません。ですが、エミリさんが可愛らしいのがイケないのですよ?」
「も、もう! コータ様なんて知りません!」
ぷくっと頬を膨らませて、ついっとソッポを向いて見せるエミリ。
「ああ、済みません。エミリさん、機嫌を直して下さいませんか?」
「し、知りません!」
「そう仰らずに。ね? 折角のデートですし」
そう言う浩太に、ソッポを向けていた視線をちらりと向ける。そこに映った頭を下げた浩太に、いつもなら『あ、頭を上げてください!』という所だが。
「……は、反省していますか?」
「ええ、勿論」
「では……ゆ、許して差し上げます」
いつになく、上から。そんなエミリに気分を害した風もなく胸を撫で下ろす仕草をして見せる浩太にエミリも息を吐き、浩太の手を自然に取った。
「……それで? 次は何処に連れて行って下さるのですか?」
「そうですね。良い時間ですし、晩御飯でも如何と思いまして」
「ディナーですか?」
「いいえ、晩御飯です」
浩太の言葉にエミリが首を捻る。そんなエミリに苦笑を浮かべて、浩太が言葉を継いだ。
「ラルキア育ちのエミリさんですし、ラルキアの一流処は殆ど行ったことがあるのでは?」
「それは……まあ、はい。アンジェリカ様によくお連れ頂きましたから」
「そうなると、何処のレストランも二番煎じでしょうし、だからと言って目新しさだけで酒場辺りにお連れするのも流石に、と思いまして。折角ですので、少し趣向を変えてみようかと思いました」
「えっと……?」
未だ分からず首を捻り続けるエミリに、『付いて来て下さい』と断って浩太は歩みを進める。聖王通りを抜け、王城を越えて北にしばし。
「……此処は……」
目的地近辺の見慣れた光景にエミリが思わず眉を顰める。そんなエミリに、少しだけ疲れた様に浩太は溜息を吐いた。
「……まあ、恐らくお互いに取って『諸刃の剣』だとは思います。思いますが……そうですね、ですが皆さんが『どうしても』と仰いますので」
「……皆さん、とは?」
「……もう大体想像ついているでしょう?」
そう言って浩太が歩みを止める。つられて見上げた先には、エミリも良く見知った家が一軒建っていた。豪華では無いも、造りの綺麗なその家。
「……きっと皆さん、首を長くして待っています」
そう言って、家の扉を開ける。音もせずに開いたドアの先にこの家の主である夫妻が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「おかえりー! エミリ、コータ君!」
「お帰り、二人とも。コータ君、エミリをちゃんとエスコート出来たかい?」
まるで家中に響くのではないのかという大音声を上げる女性――ビアンカと、にこやかでいながら若干威圧的な……有体に言えば『大事な妹、きちんと満足させたんだろうな?』と言わんばかりのアロイスにエミリが眼を白黒させる。
「ちょっとビアンカ! 貴方、仕事サボってないで――ああ、エミリ! やっと帰って来たのね! 貴方からもビアンカに言って貰えない? 直ぐにサボろうとするんだから!」
玄関から続く廊下の先、リビングに続く扉から顔を出した少女の姿に、エミリが先程以上に眼を白黒とさせる。
「え、エリカ様! どうしてこちらに――と言うより、ど、どうされたのですか! そのお姿は!」
「姿? え? 変かな?」
「へ、変ではありません! ありませんが……」
なぜ、『エプロン』を? と。
「料理しているからに決まってるじゃない。おかしなエミリね」
そう言って、いつもの服装の上からエプロンをしたエリカがにこやかに笑う。と、その隣からこちらもエプロン姿の綾乃が顔を出した。
「浩太!」
「ん? どうした?」
「緊急事態! 緊急事態発生! シオンが! シオンが『私も料理をする!』って!」
「はぁ!? ちょ、バカ! 止めろよ、お前!」
「止めたわよ! っていうかアンタが遊んでいる間に私はしっかり止めてました! っていうかマジで――」
「……ん? どうした、ソニア姫。目が虚ろじゃないか? 味見をしただけなのに……そんなに美味しかったか?」
「あれ~? シオンさん、双子でしたか~?」
「おかしな事を言うな、ソニア姫。私には可愛い妹がいるが年は離れているぞ?」
「あ! いま、しおんさんがさんにんになられましたぁ! がくじゅついんのしゅにんけんきゅういんはすごいですね~。そるばにあでもとりいれることにしましょう」
「……ソニア姫? 汗の量が尋常じゃないが……なんだ? 体調でも悪いのか?」
「――……」
「……」
「……手遅れね。ソニアちゃんは尊い犠牲になったのよ」
「……」
「……ムチャシヤガッテ」
「って、言ってる場合か!」
「ちょ、アヤノちゃん! それはマジで勘弁! 国際問題になるから! アロイス! 気付け薬あったでしょ! 持ってきて!」
「わ、分かった! さあ、二人とも! 早く上がって!」
慌てた様にキッチンに向かうビアンカとアロイス。その姿を呆然と見つめたままのエミリの肩に浩太がポンと手を置いた。
「……なんだか騒がしくなっていますが……まあ、こういう事です。ソニアさんも心配ですし、私達も行きましょうか」
「こ、コータ様? そ、その、わ、私達も――と言いますか、えっと、こ、これは?」
頭どころか、体中で疑問の意を示すエミリ。そんなエミリに、浩太は少しだけ困ったような笑顔を浮かべて。
「本来であれば最後まで二人っきりでデートをするべきなのでしょうが……なんでしょう? まあ皆さん、どうしてもエミリさんと一緒に居たいと申されましたので……失礼ながら、セッティングをさせて頂きました」
一息。
「デートの最後は――『皆で食事』では……ダメですかね?」




