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フレイム王国興亡記  作者: 疎陀 陽


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122/265

第百二十一話 過去の過ちと、未来へ至る道

完全にタイトル負けです。

 ニーザからの報告を受け取った浩太は、ラルキア王城内に与えられたエリカの私室を訪れていた。王姉で、第一王位継承者であるエリカに与えられた割には何の飾り気もない質素なその部屋で、浩太の報告を聞いたエリカは執務机に頬杖をついて小さく溜息を吐いた。間違いなく吉報と言って良いその報告を受けながらも浮かない顔を浮かべるエリカに、浩太の眉が小さく上がる。

「……どうしました、エリカさん。なにかご不満ですか?」

「へ? あ、ああ、ごめん。別に不満じゃないのよ」

 浩太のその言葉に、慌てた様に両手を振って見せるエリカ。あははと愛想笑いの見本の様な笑顔を浮かべて……そのままもう一度、深い深い溜息を吐いた。

「あー……その、凄く良い事だと思うのよ、本当に。ニーザはアイリスとの結婚を……まあ、条件付きとはいえ認められたし、海上保険だけじゃなくてロート商会でも頑張るって事でしょ?」

「そうですね。そういう意味合いです」

「それで、ロート商会の名声を……汚名を挽回して、元通りの、フレイム王国随一のアクセサリーを作るロート商会にするってことよね? ニーザが」

「……えっと……ええ、そういう意味ですが……エリカさん?」

「ニーザにそれを……気付かせた、でいいのかな? 取り敢えずニーザがそう思い立ったのはコータのお陰で、だからアントニオはそれを恩に感じて協力してくれるって……ざっくり言えばそういう事よね?」

「どちらかと言えば綾乃の手柄な気もしますが……まあ、そうですが……エリカさん? 本当にどうしたんですか?」

 浩太の表情が訝しむモノに変わる。エリカ自身が言ったように、間違いなく良い話で、良い話である筈なのに優れない、どちらかと言えば情けない顔を浮かべるエリカに浩太が首を捻った所で。


「いや……私は?」


 ポツリとエリカの声が聞こえた。

「はい?」

「いやね? 凄く良い話だと思うのよ? なんだっけ? アヤノの言ってた……元鞘? 元鞘に納まった訳でしょ?」

「も、元鞘? そういう使い方をするものでは……というか、いや、エリカさん? 出来ればそういう言葉を覚えては欲しくないのですが」

「違うの?」

「いや……まあ、そうですかね? 落ち着くところに落ち着いたと言う意味では」

「うん、それはとっても良い事だと思うのよ。でもでも! でもね? 今回、私結構色々と覚悟した訳よ? 『ああ、これで慣れ親しんだファンデルフェンド家ともお別れか……』とか『お母様、本当に怒っていないかな? でも……うん、エリカ、頑張る!』とか! こう、結構悩んだりした訳よ!」

「……」

「うん、分かるのよ? これが一番良い形だって。そんな事は十分分かってるのよ? でもね?」

 一息。


「――出来るんだったら最初っからやりなさいよねっ!」


 エリカの怒声が室内に響き渡った。

「え、エリカさん! 声! 声が大きいです!」

 慌てた様にエリカに近づき『どうどう』と手で制す浩太。でもまあ、エリカの気持ちも分からんではないのだ。想像してみて欲しい。例えば物語のお姉さん的なキャラが、敵の不意打ちを防ぐために殿を引き受けて『こここは私に任せて早く逃げて!』とか『これで……お別れだね。貴方達に逢えて……本当に、良かった……』みたいにガッツリ死亡フラグを立てて覚悟を決めていたのにもかかわらず、『あ、大丈夫っす! 敵、俺が全部倒しましたから! さ、早くみんなの所に戻りましょう! いや~、良かったっす!』みたいな事を少年キャラに言われた、みたいな感じだ。一体、どの面下げて逢えと言うのか、である。

「ねえ、なんだったのよ! 私の涙は、覚悟は、こう、なんか色々ぐるぐる渦まいた感情はなんだったのよ!」

「お、落ち着いて! 落ち着いて下さいエリカさん!」

「出来るんだったら最初からやりなさいよね! 悩んだ私の時間を返しなさいよね! リズとお酒とか飲んで色々動いたのがバッカみたいじゃない! 泣くわよ! 結構イイ年した王姉の私がわんわん泣くわよ!」

「本当に落ち着いて下さい! シオンさんみたいな事言ってますから!」

 うがーっと吠えるエリカ。そんな彼女に、おっかなびっくり浩太はもう一歩、歩みを進める。一向に落ち着く様子を見せないエリカに、ついつい浩太の手が伸びる。

「ほ、ほーら。落ち着いて」

 エリカの頭にゆっくりと伸ばした手を置く。さらさらと指の間を抜ける金髪を優しく、擽る様に撫ぜる浩太に、少しずつエリカの吊り上がった瞳が下がって来た。

「ふうー……うー……うー!」

「エリカさん?」

「……うー」

「大丈夫ですか?」

「う」

「……う、しか言っていませんが……本当に大丈夫です?」

「……大丈夫、落ち着いた。なんとなく、拗ねたら頭を撫でて貰うってのが子供扱いされてる気がするし、手慣れてる感じがしてイヤだけど」

「奇遇ですね。私もイヤですよ」

「頭を撫でるのが?」

「遠回しに女たらしと言われている気がして、ですよ」

 そう言って、『落ち着きましたか?』と問う笑顔の浩太に、エリカも小さく笑みを返す。その後、おずおずと、まるで幼子が懺悔する様に言葉を継いだ。

「……その、ね?」

「はい」

「本当に、本当に良かったと思ってるのよ」

「ええ、分かります」

「でもでも! こう……なんていうのかな。こう、『頑張った』って感じがしないっていうか、私にも出来る事があるって思って、頑張ったのに……こう……なんていうのかな? 報われない、はちょっと違うんだけど……ああ、違う事も無いのかな? いや、それはその、なんというか……分かりにくいと思うけど……その」

「大丈夫、分かりますよ」

 要領を得ないエリカの一人語りに、それでも浩太は表情の笑みを消さずに頷いて見せる。

「……ホント?」

「なんとなく、エリカさんは『私はなにもやっていない』って気になるんですよね?」

「……あー……う、うん。そんな感じかも。でも! 別に巧く行ってほしく無かった訳じゃ無くて、えっと……」

 尚も言い募り、巧く言えないエリカの頭をもう一度ポンポンと撫でて苦笑を一つ。少しだけ思案する様に上を向いて、浩太は小さく頬を掻き。

「……少し……まあ、情けない話なのですが」

 意を決する、というと大げさだが、それでもおずおずと浩太が口を開く。そんな浩太に『え?』という顔を浮かべるエリカに苦笑を浮かべて、浩太は言葉を続けた。

「私があちらの世界で働いていた銀行という職場は半年毎にノルマがあるんですね。『半期』という言い方をするのですが、いつだったか……ある半期に、どうしても店のノルマが達成出来なかった時があるのですよ」

「……」

「半期の締日は一日一日近づいている。なのに、店の業績は遅々として進まない。毎日毎日、上司の怒声が飛びます。私も朝早くから夜遅くまで、一日も休まずにお得意先を訪問しました。それで……まあ、運の良い事に、ある先が目標に達成するだけの融資を……ええっと、お金を借りてくれる事になったのですよ」

「……凄いじゃない」

「嬉しかったですね。店に帰るまでの間、『これでもう、怒られなくて済む』とか『店の業績もこれで達成した』とか……まあ、恥ずかしい話『これ、ヒーローじゃないか?』なんて思って帰ったんです。自分で言うのもなんですが、いい仕事をした、と思って帰って――」

 そう言って、一息。

「……当時、私の隣には綾乃が座っていたのですが……綾乃の机の上に、残りの目標金額の五倍の金額の融資の申込書が置いてありました」

「……それって」

「……ヒーローになり損ねましたね、私」

 掛ける言葉が見つからず、口をもごもごと動かすエリカに苦笑を一つ。

「次の日が休みだったこともあって、もうお祭り状態で飲み会でしたね。開放感とか安堵感とか……まあ、気分が高揚してますから皆、饒舌になって口々に綾乃を褒めるんですよ。私も当然、嬉しかったんですよ? 綾乃が獲得して来た数字は、目標どころか銀行全体でも結構な金額の数字でしたし、全体の中でも優良店として表彰して貰えるかも知れない程の数字でしたので。先日まで、ひーひー言っていたのに、一気に優良店舗が望めればそりゃ、気分も高揚します。まあそれを除いても、仲の良かった同期の活躍ですからね。喜ばしかったんですけど……やっぱり、心の何処かで思うんですよね」

『私はなにもしていない』って、と。

「本当に、自分でも呆れるほどの卑小な考えだとは思うんですよ。お店の目標は達成した。自分だって努力をした。それで納得すればいいのに、それでも……最終的に、私の努力は『無駄』だったのかって……まあ、そうも思ったりしたんですよね」

 先程よりも苦みを深めた、それでも何処か達観したような浩太に思わずエリカ。

「そんなことっ――」

「はい?」

「――そんなこと、ないと、思う……」

 上げた声は小さく、消え入る様に。浩太の話と、自らの境遇とがダブり、その上で消えた。

「そう思いますか?」

「……うん」

「では、エリカさん?」

 まるで諭す様。そう言った浩太に、エリカは両手を挙げて降参の意を示す。

「……分かった。私も、そう思うようにする」

「ご理解頂けた様でなによりです。それに……是非、そう思って下さい、エリカさん。貴方が考え、行動した事は決して無駄ではありませんから。まあ、お気持ちは良く分かりますよ。恐らく……残念ながら」

 そう言って笑って見せる浩太に、エリカも微笑を返す。

「……うん、そうする。それと……ごめん」

「なにがでしょうか?」

「その……コータ、あんまり言いたく無かったのかな~って。さっきの話」

 上目遣いで窺う様に浩太をのぞき見るエリカ。その視線に、バツの悪そうな表情を浮かべて浩太は頭を掻いて見せた。

「あー……まあ、そうですね。進んで話したい話ではないですかね。格好いい話――というか、思いっきり格好悪い話ですし」

「それなのに、そんな格好悪い話をしてくれて、私を慰めてくれて――」

 言い掛けたのは、『ごめん』

「――ありがと、コータ。ちょっと元気になった」

 出た言葉は、『ありがとう』

「……ええ。そう言って貰えれば私も話をした甲斐があったと言うモノです」

 その言葉に、浩太の顔も笑み崩れた。そんな浩太の表情の変化に少しだけ余裕が出て来たか、エリカが腕を組んでぷくっと頬を膨らまして見せた。

「……それにしても、アヤノも空気を読まないわね。コータが折角頑張って来た時に、その努力を無にする様な事するかな~、フツウ?」

「綾乃が悪くないのは百も承知ですし、勿論彼女は彼女の方法で頑張っていたのも知っています。ですが、それでも正直思いましたね。『それ、今じゃなくて良いだろ!』って」

 お道化た調子でそう言って見せる浩太。そんな、何時にない浩太の姿にエリカは声を出さずに笑って見せた。

「……なによ、それ? コータでもそんな事思うの?」

「魔王だなんだと言われていますが、そりゃ私だって思いますよ? 私と綾乃が勤務していた店は外交とか渉外とかと呼ばれる……まあ、お客様担当が数名いたのですが、皆仲間であり、同時にライバルでしたからね。特に私と綾乃は年も同じですし、良く比べられもしました。綾乃の成功は嬉しくもあり、悔しくもありましたね」

 そう言って、浩太は少しだけ懐かしむように視線を彼方に向ける。

「……ですが、綾乃はああ見えて結構努力家ですからね。一見、才能だけでやってる様に見えますけど、結構勉強熱心なんですよ。だから……まあ、そういう所は尊敬していますし、見習わなくちゃいけないと思ってます。ですから……なんでしょう? あの時に『浩太が頑張ってるから』って手を抜かれると、それはそれで多分釈然としないモノがあると思いますね。いえ、我儘な事を言っている自覚はあるんですが」

 シオンさんと一緒ですね、と尚もお道化て見せる浩太に。

「……いいわね、なんだかそういうの」

 少しだけ、憧れに似た感情がエリカに浮かんだ。

「え? いい、ですか?」

「良いわよ」

「えっと……?」

「きっと、コータは私が頑張ったら無条件で褒めてくれると思うのよね。でも……多分『悔しい』とは思ってくれないと思うのよ」

「……」

「そこに、その場所まで至っていない私がこんな事言うのはなんだけど……そのアヤノとコータの関係が純粋に『羨ましい』とも思うわ」

 エリカのその言葉を受けてなにかを言おうとして、失敗。そんな浩太を優しく見つめ、エリカがもう一歩、浩太に歩みを進めて。

「――え? え、エリカさん!?」

 そのまま、浩太に抱き付いた。

「なーんとなく悔しいし、でも、無条件に褒めて貰うのもちょっと嬉しいし、手馴れてる感がイヤだけど、此処であわあわされるよりは頭を撫でて貰う方がドキドキするし、でも何だか子供扱いは悔しいし、それでもそれはそれでアリだし……って、複雑な気分なのよ、今」

「え、っと……」

「後は……まあ、あれだけ格好つけたのに! って恥ずかしい気持ちもあるの。だから、だから、黙って――その……ぎゅ、『ぎゅっ』てされてなさい!」

 照れ隠しからか、そのまま浩太の胸に顔を埋めて両手を回す。洗濯したてなのか、清潔感の溢れる様な浩太の匂いがエリカの鼻腔を擽った。

「……はあ」

 少しだけ呆れた様な浩太の溜息が、頭上から。その溜息に一瞬ビクリと体を震わせ、それでも溜息の意味を確かめようとおずおずと上げたエリカの視線の先に、何時もの少しだけ疲れた様な、それでもとびっきり優しい浩太の笑顔があった。

「子供扱いはイヤなのでは?」

「た、たまにはいいの!」

「はいはい。全く……我儘なお姫様ですね?」

「い、いいの! お姫様は我儘なモノなんだから! エミリとソニアが言ってたもん!」

 見上げた顔に、拒絶の色が含まれていない事に安堵の吐息を漏らし、エリカはもう一度浩太の胸に顔を埋める。浩太の手が自身の背中に回った事に一層気分を良くし、浩太がしてくれているのだから良いだろうと思い、『コレ』は私のモノだと主張する様、まるで猫が匂い付けをするかの如くその綺麗な金髪を浩太の胸に擦り付ける。

「……ねえ」

「はい?」

「コータは……やっぱり、アヤノに『勝ちたい』とか思うの?」

「……難しい質問ですが……まあ、そうですかね? 少なくとも負けて悔しくないと言ったら嘘になります。ああ、別に仲が悪い訳では無いですよ?」

「分かってるわよ、そんなの」

 そんなのは分かってる。浩太と綾乃の関係は『ライバル』が相応しく、そこに親愛の情があるのはエリカも百も承知だ。だから、だからこそ切磋琢磨して二人で互いを認め合うその姿が眩しくエリカに映ったのだ。

「……仲が悪かった方が良かったケド」

 だからこそポツリと漏れた、エリカの言葉。言った後、余りにも卑小な発言だという事実に気付いてしまったと思い、おっかなびっくり顔を上げて浩太の顔を窺う。

「……一応、言っておきますが綾乃と私の仲が悪かったら、きっとテラはラルキアとライムの講和の段階で無茶苦茶になっていたと思いますよ?」

 困ったような浩太の言葉に、エリカの顔が羞恥で真っ赤に染まった。

「分かってるわよ! っていうか、コータ! こういう時は『なんですか?』って難聴発動したフリして聞こえてない顔するのがお約束でしょ!」

「……何処の世界のお約束ですか、それ」

「知らないわよ!」

「エリカさん? 無茶苦茶言ってますよ、それ」

「分かってる! でも、自分で言っておいてなんだけど、『あ、これは格好悪い』と思ったのよ! 出来れば聞いて欲しく無かったのにコータに聞かれたから、今、結構『あうあう』してるの!」

「それは失礼」

「あー! なんだかその言い方がちょっと腹立つ!」

「……どうしろと」

「分かんないわよ! でも……こう、自分で言っても腹が立つ発言でした! ごめんなさい!」

「なにに対しての謝罪か良く分かりませんが……まあ、受け取っておきましょう」

「そうして!」

 羞恥から真っ赤に染まった顔がなんだか恥ずかしく、エリカはもう一度浩太の胸に顔を埋めかけて。

「……ねえ」

「はい?」

 それでも。

「……覚えておきなさい、コータ。いつか私も貴方に言わせてやるんだから。『エリカに負けたら悔しい』って」

 これだけは言っておこう、と。決意を込めたエリカの瞳に、浩太が面食らったのは一瞬。

「……精進して下さい、エリカさん」

 なんだかその言葉が期待されている様で嬉しくて、エリカはもう一度、ゆっくりと浩太の胸に顔を埋めた。

「……うん。精進、する」


◇◆◇◆◇


「それで? これからどうするの?」

 嬉し恥ずかし抱擁イベントからしばし。『浩太分』を十分に補給して少しだけ元気になったエリカは、気分の良さから自ら入れた紅茶を浩太に振る舞いながら執務机の椅子に腰を掛ける。『ありがとうございます』とその紅茶に口を付け、対面の応接セットに腰を掛けていた浩太が口を開いた。

「先日ロッテさんから聞いた話ですと、バウムガルデン商会とリッツ商業組合、この二つの商会については通貨発行権の王府移管を認めるとの事です」

「バウムガルデンはともかく……リッツ商業組合も?」

「ご存じで?」

「小麦の商いが得意なトコロ……なんだけど、よくアソコが認めたわね。名誉欲の強い人だし、貴族どころか王族すら手を出せなかった通貨発行権を手放す様な人間には思えないけど……」

「……ああ、なるほど」

「なに?」

「ロッテさんから言われたんですよ。『リッツには通貨発行権と海上保険の責任者をさせたいと思いますが』と。事務方はニーザさんがするとの事でしたので賛同したのですよ。なるほど、そういう裏がありましたか」

 納得した様に頷く浩太に、エリカの眼が少しだけ細められる。その表情の変化に気付いた浩太が首を捻って見せた。

「どうしました?」

「なんとなく、『よく分からないけど賛成しました』ってコータっぽくない気がして」

「そうでもない……事もないですが。まあ、考えても考えなくても分からないモノは分かりませんからね。なら、良く分かる人に丸投げしておこうと思いまして」

「……そんな考え方してたっけ、コータって?」

「エリカさんと一緒ですよ。私も『精進』しようと思いまして」

「追いつけなくなるからやめて、って言うのは格好悪いわよね?」

「エリカさんなら私の進むスピード以上で進んで下さると信じていますよ? と、話が逸れました。取り敢えず、先の二つの商会に加えてロート商会も賛成です。九人委員会の三分の二が賛成して下さいましたので、後は二つを……そうですね、『口説き落とす』必要があります。一つはホテル・ラルキア。未だにアドルフ会長に逢えていないのですが……最悪、クラウスさんやエリーゼさんを巻き込んでなんとか出来ればと思っています」

「……出来るの?」

「正直、こちらは出たとこ勝負な所はありますが……まあ、今考えても仕方ありませんのでね」

 そう言って肩を竦めて見せる浩太。らしくない、『いい加減』な浩太にエリカも小さく苦笑を浮かべて見せた。

「本当に、『らしく』ないわね」

「肩肘を張らない様にしたんですよ」

「そ。それで? それじゃホテル・ラルキアは保留って訳ね?」

「そうですね」

「それじゃ、やる事は一つね。知ってる、コータ? あの子、ああ見えて結構寂しがり屋なのよ」

「存じ上げませんでしたね、それは」

「私達も忙しかったし、あまりあそこには顔出せてないし……まあ、早く行ってあげなさいな」

「そうですね」

 そう言って、浩太はうーんと体を伸ばして応接セットから立ち上った。

「それでは行ってきますね」


 ベッカー貿易商会を、『口説き』に、と。


「いってらっしゃい。期待してるわよ、『口説き落とす』の」

 そう言ってエリカはニコリと笑って。





「…………ちなみに、他所の女の子は口説き落として来たらダメよ?」

「しませんよ、そんな事! なんだと思ってるんですか、私の事!」


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