Chapter1-7
「さて、何から語った物か・・・・・?」
そういって何か思案し始めたようだ。
「こっちからいいですか?」
「ん?なんだ嬢ちゃん。」
「この世界についてまず教えてください。」
「ああ、そっから行ったほうがいいか。」
「はい。」
小暮はやっぱりこういう事はしっかり聞くんだな。
俺はもっぱら聞き手なのに。
で、移動したのはいいが・・・・・
視界に入れたらいけなさそうな物が目に入った。
しかし、俺はすごい興味がわいた。
「木下、あんたどっち向いて・・・・・あの、あれは一体・・・・・?」
俺に突っ込もうとしたらしい小暮が声を震わせながら、聞く。
「見りゃわかるだろ?ドラゴン、サラマンダーってやつだ。」
「作り物にしちゃ肌触りが・・・・・。」
「それ、生きてるから。」
俺が口の上あたりを触っていると、ぎょろりと目が開いた。
「木下ぁぁぁぁ!早くこっちに!喰われるわよ!?」
「そいつは紳士だ、生肉は食わん。」
「そう言う問題じゃないですよね!?」
「おぉ、こわいこわい。」
「のんきなリアクション取ってないで早くこっちに来て!」
小暮に物凄い速度で引っ張られてこっちに来た。
「そこまでしなくても、俺の使い魔だから命令しなきゃ襲わんぞ?」
「使い魔?」
「そのあたりもこっちで話す。」
もしかしたらあれ、ニュースやらなんやらで話題になってたやつかも。
「ま、あれに関しては置いといて、『この世界は作り物』この点はいいな・・・・・ってか話長くなりそうだな。こっち来て座れや。」
まあ、そう言われたので二人で近くにあったテーブルに座った。
「飲む物は?」
「あるんですか?」
「いや、そこに自販機。買うから。」
「ミルクティーを。」
「コーラ。」
「ほらよ。んで、話の続きだったな。お前らはどんな意味で作り物か分かるか?」
「小説のMMORPG物とかのような感じで、実はネトゲだったと思ってた方も現実で、ってやつ?」
「ちょっと違うんじゃねえか?それ?」
「木下、どう考えても今の話の流れ考えたらこっちがネトゲ世界の様な物って事でしょ。」
「半分当たりで半分ハズレだ。」
ハズレ?
「まあ、詳しく言うとだな、確かにこの世界は電子プログラムで構築された世界だが、このような物は作る理由と言うものがあるだろう?」
「理由、ね・・・・・。」
「お前らって死後の世界とか信じる方か?」
「あの、話が飛躍してるように思えるんですが。」
「いや、これはこれで話は繋がってる。で、どうなんだ。」
「非科学的です。」
「今更なセリフだな。ま、信じろってことで頼む。この世界が作られた理由ってのはな、向こう側の生前強い奴、名の有った奴とか居んだろ。そう言う奴の魂を死後、サルベージを行ってデータ化。この世界にぶち込む。で、必要な状態になったらログインするように暗示をかけてログインされて使用するって寸法だ。」
「そんな、それって・・・・・。」
「俺達、死んでたのか・・・・・。」
「ちょっと語弊があるな。この世界で純粋に生まれた奴はそうじゃ無いけどな。でもな、記憶が無いイコールぶち込まれた奴って考えてもらって構わない。不自然では無いように内容にその辺の記憶を書き換えてるからな。まあ大抵の奴は気付かんな。最もこっちで生まれた奴のほうが多いから気付くこと自体まれだが。」
どっちにしろ変わらない。
俺達二人は、この人の言う『ぶち込まれた』存在なのだから。
「・・・・・それを行ってるのは誰ですか。」
小暮が静かに聞いた。
明らかに怒気を放っている。
無理もないのかもしれない。
これが事実なら死者を冒涜してる事と何ら変わりが無いのだから。
「大体考えたら分かる物だろう。実行犯は俺じゃ無いが、作ったのは俺だ。」
「・・・・・っ!」
パンッ!っと小暮が張り手をその人に放った。
「小暮!落ち着け!気持ちはわかるが。」
「別に構わん。俺がそっち側だったらぶん殴ってる所だ。」
「で、結局誰なんですか?」
「ま、率直に言うと、神みたいな『物』だ。」
「神様気取りでやってる奴がいるって事か。」
「まあ、な・・・・・。」
何か含みを感じるが、話を続けよう。
「で、ここにあるスパコンがこの世界の管理とあちら側へ肉体の再構築を一手に行う物が、これだ。」
その人は部屋の中央にあるマザーコンピュターの様な物に視線を向ける。
「このゲームの管理サーバーだと思ってたやつが、ね・・・・・。」
「そうだ、で俺が言いたい事も大体を分かって来ただろう?」
「向こう側に行って神様ぶっ殺して来いってか?他当たってくれ。」
「そうじゃ無い。俺はただお前に向こうに行って貰いたいだけだ。」
「成り行きでぶつける気だろ?」
「否定はしない。お前が向こうに行く。それだけで向こう側の陣営は深刻なイレギュラーが発生するんでな。」
「向こう側の陣営?」
「ああ、俺はどっちかって言うと神とかって言うよりは悪魔とかそんなんに近い存在だ。」
「悪魔?」
「そう、悪魔。」
「本当ですか?それ。信じられないのですが・・・・・。」
「もうお前ら、信じられないじゃ無いだろ?お前らは、信じたく無い、だろ?」
「「・・・・・。」」
言葉に詰まる。
分かっていた。
分かっていたはずだった。
認めたくないだけで。
現実と言う虚像に縋り付きたくて。
目を逸らしていた。
あの日、あの時、あの場所から。
もう始まっていたのに。
気付こうと思えば気づけたはずなのに。
・・・・・怖かったんだ。
俺は、怖かったんだ。
気付いたり、認めたら終わってしまうと悟っていたから。
俺の、作り物の幻想に過ぎない日常が。
「まあ、そんなこと言われても信じねえだろうし決定的な証拠ぐらいは見せた方がいいだろう。」
思考が逡巡していたのを終わった様子を見計らったのか、不意に話しかけてきた。
「証拠、ですか?もう見てますけど。」
時間停止的なやつね。
あれならまあ信じるに足るけど。
「あれは単純にプログラムにハッキングを掛けてやった事だから、努力すりゃ大体の奴はできる。」
「私達でもやろうと思えばできるんですか、あれ。」
「まあな。で、この世界には魔法がある。」
「もう疑問から始めないんですね。決定事項ですか。」
「既に事実として受け止めてるだろうが、お前らは。」
「ここまで来たら手品でした、とかの方がよっぽど魔法のような出来事だよな。」
「じゃあ見せる必要も無えか。」
「ですね。」
不発で終わるのか。
見せるもんじゃないの普通。
「俺の話は終わりだ。で、最後に一つ。」
「なんですか?」
「もうお前らが行くのは決定事項だろうから言う必要も無いのだろうが、一応言っておく。タイムリミットは明日の日付が変わるまでだ。変わるまでに行かない事を選択するなら、お前らの記憶を書き換えて疑問に思ったことを忘れさせてやる。後、これ。」
そう言って俺に一枚のメモを渡された。
何らかのアドレスが書かれている。
「行くなら、それを打ち込んで画面の指示に従ってログインしろ。余計な邪魔が入らんようにしてやる。」
「普通に行くとダメなんですか。」
「監視されたいか?お前のこれからの行動を。」
「・・・・・この方法で行きます。」
「じゃあ、送ってやる。良い決断をな。」
その人は、指を鳴らしたら突如俺達の視界が歪み、元に戻ったかと思ったら、さっきまでいた喫茶店の中だった。
「あれ、ここは・・・・・。」
「喫茶店・・・・・?」
周りを見ると、何事も無かったように動いていた。
さっきの出来事など、初めから無かった様に。
「さっきの事って夢かしら・・・・・?」
「いや、夢って訳じゃ無いらしい。」
そう言って俺は小暮にメモを見せる。
「さっきの事は、やっぱり現実なのね・・・・・。」
「確か、明日の日付が変わるまでだったよな。」
「そうだったはずよ。」
「明日の放課後、ログインするぞ。」
「今じゃなくて?」
「多分課金やら何やら出来ないようにはなって無いはずだ。出来るなら万全の状態で行く。」
「出来ればそうした方が良いわね。」
店を出ながら、そんなことを話す。
「明日の放課後ね。」
「部室でな。後、送った方が良いか?」
「いい。すぐそこだし。」
「そうか。じゃあな。」
小暮を見送り、俺も帰路につく。
明日、俺の日常が本当に終わるんだな。
などと、変な感慨にふけってしまった。