Chapter1-5
授業も終わり、小暮に頼まれたと言うのもあって、部室まで来た。
パソコンも持ってきてしまったが、教室に置いておくわけにもいかないし、部室なら問題無いと思う。
さて、小暮は・・・・・もう居た。
「もう来てたのか、小暮。」
「ええ、で。そのパソコンの事なんだけど、もう触ったかしら?」
「いや、まだこれから・・・・・。」
「ちょっと起ち上げてくれる。」
「?」
で、起ち上げた。
見た感じ普通のデスクトップだが、気になるショートカットがあった。
「フロンティアハーツ・オンライン管理プログラム・EXE?」
「それよ。あの時私は少し触っただけだったんだけど、その端末でもログアウトはできなさそうだったわ。」
「無理なのか?」
「無理、でも、前と違ってとりあえずあいつ等の所在はそれで掴めたわ。」
「本当か!?」
「嘘を言うと思っているの?」
「そうだよな。で?」
「この項目を見て頂戴。」
そういって小暮はマウスを触り、ログインユーザー一覧と言う項目をクリックした。
「これよ、でも・・・・・。」
「どうやってこいつらの本名を知ったか、だよな。ログイン場所、ハンドルネームはともかく。」
その一覧には、サービス開始時からのログイン者の本名やログイン場所、ハンドルネーム、ゲーム内での詳細情報が記載されていた。
「あった。これか。」
そういって一覧をロールしつつ、探したい奴を見つけることができた。
ID0067052 対艦デザートイーグル 鷹野洋一 ログイン中
ID0083157 零式モーゼル 相模晶 ログイン中
ID0100552 SIG・ザウエル改 時雨沢天 ログイン中
「しかしこいつら、まともなハンドルネームつけて無いのか・・・・・。」
「私達も大概でしょう・・・・・。」
「確かに俺も百式メテオとかつけてるけどさ、何でこいつらのネームの元ネタ銃器なんだよ・・・・・。」
「私が知るわけないでしょう。」
「ま、いいか。詳細について調べるか。必要そうなとこ以外飛ばして・・・・・。(そのキャラ『笑』のプロフィールとかどうでもいいし。」
「木下、声に出てる。」
「え?、マジ?でも聞く奴いないから別にいいんじゃね?」
「あなたって人は・・・・・。ともあれ詳細を見たいわ。」
「だな。」
パソコンを操作し、詳細画面を開く。
ID0067052 対艦デザートイーグル 鷹野洋一 ログイン中
ネーム ウィリアム・ハーカー
種族 獣人族
クラス 重戦士
状態 移動中
ID0083157 零式モーゼル 相模晶 ログイン中
ネーム リシテア・オルブライト
種族 人魚族
クラス 盗賊
状態 移動中
ID0100552 SIG・ザウエル改 時雨沢天 ログイン中
ネーム シグムント・ヴァルト・ヴァルケンシュタイン
種族 霊人族
クラス 剣士
状態 移動中
「時雨沢先輩は何とも中二病なネームでプレイしていらっしゃる・・・・・。後ゲーム特有っぽい物もそこはかとなく・・・・・。」
「本当にね・・・・・。でも、無事が分かっただけでもましね。」
そう言って小暮は動画サイトに先ほどの情報を入力して様子を見始めた。
なぜか俺のパソコン(?)を使っているが。
「いたわ。どうやら三人とも同じ場所で今食事してるみたいね。少しは心配が和らいだわ。本当に・・・・・。」
「根本的な解決にはなってないけどな。後三人と同じような場所にいるのな。」
「そうよね、あら?」
三人の情報を確認していたら、小暮が何かに気がついたようだ。
「何か、メールの様な物が届いてるけど?多分あなた宛てに。」
「は?ちょっと見せてくれ。」
俺は小暮に頼んで、画面をこっちに向けてもらった。
確かにメールが一見届いているようだ。
「何だ?開けてみるか?」
「好きにすれば?どうなっても知らないけど。」
ウイルスが入っていたら笑えるが、どうもそんな様子ではない。
拝啓 木下智朗様
夏も近づき、貴方はいかが・・・・・(なんかここでぐちゃぐちゃな記号が書かれている。)
・・・・・固っ苦しいから適当に書く。
多分このメールを開いて見てるってことは暗号も説いたってとこだろ。
今日、会えねえか?
午後八時、駅前の喫茶店『ムーランルージュ』で待ってる。
来るのなら覚悟しろ。
お前の壊れかけの日常を完璧に壊したくないならな。
「・・・・・だって。」
「いや、私に聞かないでよ・・・・・。」
「とりあえず、行ってみるか。」
「ちょっと、本気で行く気!?」
「このまま待っててもらちがあかん。なら関係者に聞いてみるのが一番だろ?」
そういって俺はパソコンの電源を落とし、パソコンを持って待ち合わせ場所に向かおうとするが、
「待って、木下。」
「まだ何か用か?」
「私も行く。」
「お前もか?危険かもしれないけど?」
「あなたはわかってて行こうとしてるでしょう?私も知りたいの。だから。」
「分かったよ。つーか、もう七時か。」
「今から行ったら40分ぐらいね。コーヒーとか飲んでで待ってましょう。」
なんか小暮が嬉しそうだ。
「でもこう言うのってもう来てるって事多いよな。むしろ喫茶店からメール送ってるって事も。」
「・・・・・。」
なんか少し気分が沈んだような顔をしている・・・・・。
ま、ともあれ、喫茶店に二人で向かうことにした。
「思えば、さ。」
喫茶店に行く道すがら、小暮が話しかけて来た。
「私達、なんで知り合えたのかな?」
「どうした?いきなり・・・・・。」
「いえ、なんとなくね。私たち、『どうやって』知り合えたのかなって。」
「そりゃ、お前・・・・・?あれ?俺達どうやって知り合いになった?」
確か、俺違知り合ったのは多分一年の頃だったはず。
でも、『どうやって』知り合ったか、それが思い出せない。
「普通は覚えてるはずだよな、一年位前の出会いって。」
「忘れてる人もいるでしょう・・・・・。でも何で思い出せないのかしら。」
「あんま深く考えなくてもいいんじゃないか?そんだけの出会いだったってだけで。」
「そうね・・・・・。でも気になるのよね。」
「それに、もう着くぞ。」
「あ、もうこんな所まで来てたのね。」
俺は先程の話を切り上げて、喫茶店に入る。
「でも、メールで約束したにしても、誰なのか分からないんじゃないの?」
「恐らく、向こう側は俺のことは知っているはずだ。だからアプローチは基本向こう側からだろうな。」
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「二名。禁煙席でできれば窓側の席を。」
「はい、ではこちらに。」
店内を軽く見回したが、赤毛のおっさんはいなかった事から、何か飲みながら待つことにする。
「小暮、何か頼め。少し位なら奢る。」
「そう?じゃあミルクティーでも。」
「すみません、ミルクティーとココア。」
「はい、少々お待ちを。」
「木下、さっきの話なんだけど。」
注文を頼んだら、小暮が話しかけて来た。
「やっぱりおかしいのよ・・・・・。」
「何が?大して疑いもせずにこんな約束に乗った事か?」
「いやまあ、それもあるけどね・・・・・。私達やっぱり・・・・・。」
「小暮らしくないな。いつもみたいに率直に話せ。」
「そうさせてもらうわ。『私達』、やっぱり変なのよ。」
「は?何処も変じゃねえだろ?」
「ミルクティーとココアになります。」
「あ、すみません。えっと、砂糖は・・・・・。」
テーブルの端からグラニュー糖の入った瓶を取り、付属のスプーンで五杯ほど入れる。
「もう突っ込む気にもなれないけど、あいからわずよね、あなたの甘党っぷり。」
「こんぐらい入れないと苦いからな。ココア。コーヒーとか飲めたもんじゃ無い。」
「話し戻してもいいかしら?私達が変だって思える話。」
「だから変でも何でも無いだろ?」
「・・・・・試しに聞くけど、あなたの両親の顔を覚えてる?後連絡取れる?」
いきなり何を聞き出すんだこいつは。
「そんな物取れるし、顔だって覚えてるし写真だって・・・・・。あれ?」
小暮が何か確信と諦観めいた顔をしていたが、俺はそれどころじゃなかった。
俺は木下智朗。実家から県外の高校の通う高校二年生。
友人は順から幼馴染みの・・・・・
あれ?アキとは何時知り合った?
物心ついた時?
違う。俺はアキと幼い時に遊んだ覚えが『無い』。
それ以前に親の顔も思い出せない。
財布入れていたはずの家族写真を見る。
これは・・・・・誰?
俺と・・・・・こいつらは?
兄弟?家族?中学校の時の友達?
あれ?多分・・・・・この人が俺の親父だと思・・・・・あれ、これ先生?
あれ?あれ?あれ?アレ?
コノシャシンハナニ?オレト・・・・・ホカノヒトタチハ?・・・・・ソレヨリモオレハコンナシャシンッヲトッテモアラッタオボエガナイ。
アレ?
オレハダレ?
アレ?
オレハナニ?
アレ?
カゾクハ・・・・・アレ?カゾクハナンニン?オヤノカオハ?キョウダイハドンナヤツダッタ?ソモソモドコニスンデイタノカサエオモオイダセナイ・・・・・アレ、オモイデノヒトツモウカンデコナイ。オジ?ホントウニアレハオレノオジカ?ソレヨリモオレハイツカラヒトリグラシヲシテイタ?ニネンマエ?
アレ?
タシカニオボエテイルシ、ホショウモオレジシンガデキルノハニネンセイニナッテカラ。
オカシイ。
オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ!
ソレヨリモマエノキオクガナイ!オモイダセナイ!
タカノントドウヤッテシリアイニナッタ?シグサワセンパイノブカツニハイッタケイイハナニ?オレガコグレトユウジンニナッタノハイツ?オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガ、オレガオレガオレガオレガオレガオレガオレガオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレ
オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?オレハダレ?
・・・・・オレハ・・・・・ナニ?
「・・・・・っ!木下!木下っ!」
・・・・・オレハ・・・・・ナニ?
・・・・・オレハ・・・・・イッタイ・・・・・ナニ?
ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!
・・・・・タスケテ。
「・・・・・っ!木下!私が分かる?木下っ!」
ダレカタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ
・・・・・ボクハ・・・・・ナンナノ?
・・・・・ボクハ・・・・・イッタイ・・・・・ダレナノ?
「・・・・・木下っ!しっかりしなさい!」
パンッ!と俺の頬を叩く音を、俺は他人事のように感じた。
・・・・・俺は。
そうだ、俺は・・・・・。
「木下。落ち着いた?」
まだ頭がぼやけている。
俺は、さっき、何で・・・・・。
「木下!聞いてる!?」
「え!?ああ、すまん。少し取り乱したっぽい。大丈夫だ。」
「全然大丈夫そうじゃないわよ。それ飲んで少し落ち着いたらどう?」
そう言われ、ココアを飲む。
すっかり冷めてしまっていたようだ。
・・・・・いつも飲む味なのに。
何故か。
水を飲んでるかのようにしか感じられなかった。