Chapter1-2
「うわぁ・・・・・。」
帰宅後、晩飯でも作るか、と冷蔵庫を見て、その冷蔵庫の惨状を一言で言うとこんな感じだろう。
野菜が痛み切ってえらい臭いを放っている。
その上表面が半ばゲル状になっており触り難さも醸し出している。
「あーあ・・・・・。」
炊飯器炊いたまま一か月放置の悲劇は繰り返さないと誓ったってのに、またやっちまった。
とりあえず、デオドラントスプレーとホースは・・・・・外の使うか。
外に出てホースで野菜庫を洗浄する。
大家・・・・・って言うか叔父にまたやったんかい、的な顔で見られた。
ま、2,3分で洗浄も終わったので、銭湯と買い物に行く準備をする。
風呂無しと言うのがちょっと辛い所である。
それにしても、この臭いなかなか取れないなぁ・・・・・。
*****
「あれ?木下?今日お前一人で来たのか?」
「坂本か。まあな、風呂壊れたのまた伝え忘れてな。」
銭湯に来たのはいいが、番台をやってるクラスメイトからそんなことを言われた。
例によって紹介しておく。
こいつの名前は坂本譲治。
実家が銭湯を経営している。
固定客も結構いるようだ。
「アキ・・・・っつーか相模はまだ来てねーのか?あいつ風呂あるのになんか知らんが一緒に来たがってたよな。」
「おまえなぁ・・・・・鈍いっつーかなんっつーか・・・・・。」
あれはただの幼馴染みだ。
まあ、友人以上に格上げしてもいいかなとは思った事はあるが、料理の腕の問題でそれは絶対にないと思う。
「ま、とりあえず大人一枚。」
「300円な、つーかよ、相模の奴お前とおんなじ所に住んでんだろ?」
「ああ、そうだけど、それがどうかしたか?」
「いやな、お前しか帰って来たの見て無いぞ?」
は?
あいつ俺より先に帰ったはずだぞ?
どう言う事だ?
「え?ここあいつ通らなかったのか?」
「こっちは少なくともまっすぐ帰って来て番台やってたからな。それは確かだぞ?」
じゃああいつどこ行ったんだ?
ま、いいや風呂入ろう。
「おかしいな・・・・・?」
「どうしたよ?」
風呂から上がって、ちょっとゆっくりしてたら、何か坂本がうなってた。
「いやな、もう一時間ほど経つけどよ、あいつまだ帰って来ねーの。」
学校に行くにしても帰るにしてもここを通らないとかなりの遠回りになる。
「あいつどこに行ったんだマジで・・・・・。」
「どうすんだ?もうちょい待つか?」
つってもな、これ以上待ってたら湯冷めしそうだ。
「いや、もう買い物行くわ。じゃな。」
で、名は伏せさせてもらうが某郊外型大型ショッピングモールに来た。
食品売り場で何を買おうかうろうろする。
「今日は・・・・・カレーにするか。」
まあ簡単だしね。保存効くし。
「あら、木下君?」
「あ。」
買い物をしていたら、見知った年配の女性が話しかけて来た。
「ああ、鷹野君の・・・・・。」
「元気してる?今日は一人なのね?いつもは三人でいるのに・・・・・。」
そうなんだけどね?
まあ、買い物の時ぐらいは一人で・・・・・。
最近出来たためしは無いが。
「なんか先に帰ってしまったらしくて・・・・・。」
「え?陽一はまだ帰って来てないけれど?」
はい?
あいつもか!?
「じゃあやっぱゲーセンか。後で様子を見に行きます。」
「それがね、ゲームセンターのほうにも居ないのよ・・・・・どうしたのかしらね。」
?
どういう事か?
「まあ。そのうち帰ってきますよね。」
「そうよね。いつもは携帯に連絡ぐらいは入れるはずなんだけど・・・・・。」
「ほかにあいつが行きそうな場所ってありましたっけ?」
「私には何ともね・・・・・。」
そりゃそうだろう。
普通に考えたら、子供がどっかに行きそうって言うので完璧把握できるのって言ったら精々小学生までだろうし。
「こっちは買い物も終わりましたのでこのへんで。」
「そうね。陽一を見かけたら連絡するように言っておいてね。」
「わかりました。」
で、買い物を終えて、帰路につく。
それにしても、あの二人、どこに行ったんだ?
あの二人は恋人とか付き合ってるとか浮いた話ひとつ聞かないが・・・・・。
・・・・・。
ちょっと想像。
「ねえ、あたし今日お弁当作って来たんだー。食べてーたかのーん。」
「ったく、しゃーねー・・・・・な・・・・・。」
と、そこにあるのは何やら異臭の漂う弁当箱。
腐ってるわけでは無さそうだが、絶対腐ってそうな臭いを放っている。
「なあ、アキ・・・・・これ、何だ?」
「ん?酢豚。」
「・・・・・このスライムみたいなのがか?」
「うっさいわね、いいから食べなさいよ!美味しいから!」
と、無理矢理アキの料理を口に突っ込まれるたかのん。
「ちょ、おま!?むぐぅ!?・・・・・ぶへぁぁぁぁ!?」
盛大に吐き出し、気絶するたかのん。
「ちょ、たかのん!?どうしたのよ、一体!?」
と、たかのんを起こし、揺さぶり始め・・・・・。
・・・・・。
飽きた。
もういいや、さっさと帰ろう。
家のすぐ近くにある、踏切の辺り。
ふと前を見るとなんか30代くらいの変な人がこっちに歩いてくる所だった。
変な行動をとってるってわけでは無い。服も普通だし。
変な人ってのは髪の毛の色が変だからである。
赤毛である。なんと言うか茶髪に分類される赤毛ではなく、アニメとかのキャラなどにあるようにほんとに真っ赤な髪である。
しかもその髪の色が不自然なまでに自然だったから変な人だと思ってしまった。
踏切の半ばあたりまで来た所で、その人のすぐそこまで近づいた。
そして、すれ違った辺りで、不意にその人が何か喋った。
俺にしか聞こえないような大きさで。
「・・・・・まだ、夢を見たいか?」
そんな事を呟いていた。
「え?」
俺はその人をもう一度見ようとしたら、もう居なくなっていた。
走り去ったわけでもないのに、居なくなっていた。
呆然としていると、踏切が電車が近づいていること教えるカンカン、という音が鳴る。
「やべ!」
あわてて、俺は踏切を渡る。
それにしても、あの人は一体何なんだろうか?
*****
家に帰って、カレーの準備と下拵えを終え、後は煮込むだけになった物をキッチンタイマーをセットして放置しつつ、パソコンを立ち上げる。
ノートパソコンだがテレビも見られるし、場所もそこまで取らないのもいい所だ。
叔父から進学祝いに買ってもらった物だが、買った場所が・・・・・と言うよりこれを買うときに対応したのが時雨沢先輩で、そのころからの付き合いとなるが、別に今はそんな話をする必要も無い。
で、件の行方不明事件について調べてみる。
『怪奇!?突然消失する人々!?』
昨今、突然人が行方不明になる出来事、所謂神隠しが立て続けに起こっている。
行方不明になった人多くの共通点は、そのいずれもがパソコンを使用している、使用したあとに行方不明となっている。
警察は、何らかの集団催眠動画の可能性とみて捜査している。
『従業員は見た!?パソコンへ吸い込まれる人間!?』
昨日、都内某所にあるネットカフェで、パソコンに人が吸い込まれたと通報があった。
警察は当初悪戯として取り合わなかったが、その人物が数日後行方不明になっていることから、調査。
監視カメラの映像からその件の出来事が写っていた。
警察は合成による拉致事件ではないかと、従業員を捜査している。
・・・・・。
パソコンを使って、一通り調べられそうな事を片っ端から調べたが、これ以外は大した情報もなく、都市伝説的な胡散臭いサイトに繋がるのがどうも関の山だった。
「ん?」
そんな時だった。
携帯が鳴ったのは。
「はい、もしもし。」
「すみません、木下さんのお宅で間違ってませんよね?タカ兄・・・・・じゃなかった。時雨沢先輩はそちらにいらっしゃいますか?」
はい?
先輩まで帰って無いのか?
「居ませんね・・・・・というより、誰ですかあなた。」
名乗ろうね、ほんと。
誰だかわかんないから。
「あ、すみません。私は時雨沢さやかと言って、先輩の妹です。」
「先輩妹居たんだ・・・・・。で、そんな話し方しなくてもいつも通りみたいな感じでいいよ。」
「そうですか。じゃあ、タカ兄がまだ帰って来てないんですね。いつもならもう帰って来てもいい頃なのに・・・・・。」
そう言う事を言われてつられて時計を見てみる。
今8時を回った所だろうか?
「今日は部活ほとんど無しで解散になったっぽいんだけどなぁ・・・・・。」
「そうなんですか?それだったら6時までには帰って来てるはずですよね、やっぱり。」
だよな?
バイト?
いや、先輩の実家、電気屋だから違うか。
「じゃあ、どこ行ったんだ・・・・・?」
「それがわたしにも・・・・・。」
「ま、とりあえず、だ。連絡やら姿を見かけたらそっちにもう一回連絡するから。」
「お願いしますね。」
「それじゃあ、また。」
電話を切ったあたりで、キッチンタイマーのアラームが鳴った。
鍋のほうに向かいつつ、さっきまでの出来事を反芻する。
あいつら、ほんとにどこへ・・・・・?
*****
あの後、特にすることもなく、さっさと寝たのだが、ここんとこ最近、同じような夢を見る。
ここではない、どこか。
中世ファンタジーのような世界。
そこに俺は、当たり前のように存在し、生活している。
家族や、兄弟同然の友人。
いつも通りの、いつものようでは無い夢。
果たしてこれは、夢か?現実か?
おそらく夢だろうが。