◆ガルベア暦四十九年 十月 サムライドッグ
◆ガルベア暦四十九年 十月 サムライドッグ
ガルベア連合王国の中心地とも言われる商いに栄えた土地、『商業都市スターランド』。
その外れに、『貴族の庭』という名前の喫茶店がある。機械技術に長けた今のガルベアには珍しい木造で、装飾の鮮やかな飲み物ばかりが目立つ昨今の喫茶店事情の中で、ブレンドコーヒーなど提供している老舗の喫茶店だ。
客足は少ないが途絶える事はなく、大きく黒字にはならないが、絶対に赤字にはならないというアイデンティティを持ち、今なお古き良きものを愛する人々に利用されている。
まさにブレンドコーヒーを注文していた大男は新聞を広げると、その記事の内容に表情を曇らせた。
いや、怒り、と表現するのが正しいだろうか。
迷彩柄のシャツにカーキ色のベスト、ダークグレーのジーンズを履き、左目を眼帯で覆い、腰に拳銃と、巨大なナックルを装備していた。彼の両手は、指貫グローブに覆われている。
その記事には、見出しに大きく一言。『エイリアンを捕獲』と書いてあった。
「――気に入らねえな」
俺の周りに居た数名の客が、彼を見るなり怯え、或いは立ち上がった。店を出て行くのだろうか。周囲に影響を与えているとは知らず、彼は罪悪感に気まずい表情になると、開いていた新聞を閉じて溜め息を付いた。
それが彼を、ガルベア連合王国――『国家守護隊』から脱退させた、忌まわしき事件だったからだ。
――だが、自分は救わなければ。
こうなってしまった以上、どんな手段を使ってもサリイ・アントーを助け出すと、彼は決めていた。新聞をテーブルに、ブレンドコーヒーがまだ半分残った状態のままで、彼は逆立てた金色の短髪を揺らして立ち上がり、コバルトブルーの瞳に確かな覚悟を持った。
愛に力を。そして、忌まわしき悪霊に裁きを。
それこそが、彼――ジオン・テイストにとって、『黒いシルクハット』の謎を解くための、一つの転機となっていた。