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師の想い

志「今回は時雨、お前が主役だそうだ」

時「ほう……普段からあまり、こういう表舞台に立つ事はないからな。戸惑っている」

志「作者は「時雨分の補給」だと言っていたが、どういう意味だ?」

時「私の何かが足りないのだろうか?ううむ……」

志「時雨の足りないモノ……」

時「爪の長さ、なのだろうか」

志「……は?」

時「鋼縛爪を使う度に爪の先から罅が徐々に入ってくるのだ。整える為にも日頃から爪を切っているのだが……」

志「……こいつ、やはり変な奴だ」


時「風に柳、柔よく剛を制す……」

「時雨にいちゃーんっ、お茶が入ったってよーっ」

賑やかな声と共に、小学生くらいの元気な少年が私を呼びに来る。

ここの子供達は皆元気が良い。見ていて微笑ましいくらいに。

「一緒に行こーぜ、にいちゃん!」

「うむ、そうさせてもらおう」

静かな部屋で精神統一をしていたのだが、休憩にしようと思っていたからちょうどいい。

私は少年に腕を引っ張られ、部屋を後にした。

この少年はよく私に懐く。侍のようで格好いいからだそうだが……少年の歳では、まだ何か強い力に憧れを抱く頃だろう。英雄的な力を信じ、憧れる頃だ。

私にもこんな頃があったか……幼さ故に、純粋な気持ちで剣の道に思いを馳せていた。

「ねーねーにいちゃんっ!時雨にいちゃんと志輝にいちゃん、どっちが強いの?」

「私と志輝……か」

どちらが強いのだろうな。

力だけで見れば、私なのだろうが……

志輝には、底知れない何かを感じる。今はまだ目覚めていないだけで、強い潜在能力を秘めているように思えるのだ。

いざ私と志輝が戦うとすれば、彼の持つ未来眼は大きな壁となるだろう。

読み取った未来に対応できる体力を兼ね備えていたとしたら、尚更だ。攻撃の手段や範囲を見切られれば、こちらは手の打ちようがない。

「志輝、だろうな」

「本当?すっげー志輝にいちゃん!お侍さんより強いのかーっ」

少年は目を輝かせる。長い間兄を務めている志輝が強いと言われて、嬉しそうだ。

兄の尊厳の為にも、志輝と答えておいてよかった。

「時雨にいちゃんはさ、何でお侍さんなの?」

好奇心に満ちた表情で問われてしまった。

何故、侍になったのか……

「大切なモノを、壊されぬように」

「大切なモノって、宝物のこと?」

「そうだ」

地震による自然災害……抗えぬ理不尽な破壊で、私は宝物達を失ってしまった。

それは、私一人だけがいくら力を手にしても止められない事かもしれない。

でも、一人ではなかったら。

多くの人間が力を合わせ、理不尽な破壊に立ち向かっていくことができれば。

より多くの人間の命を、失わずに済むかもしれない。

だから私は、皆を導きたい。

皆が団結し、手を取り合い、一つ一つの命を護れるような世界を創りたい。

私はそれを“絶対”に望む為に、参加者となった。

「貴公にも、宝物があるだろう?」

「うん!仮面ドライバーの変身ベルトとか、ゲームとか、いっぱい!」

嬉々として指折り数える少年。幼い頃はそんなものだろうな。

「……でね、一番の宝物は、志輝にいちゃんや時雨にいちゃんがいる、さくらい孤児院ここなんだっ」

少し照れくさそうにしながら、少年は最後に付け加えた。

……そうだな。

ここはまるで宝箱のように、大切なモノが多く存在する場所だ。

「ぼく、時雨にいちゃんみたいにお侍さんになる!それで、ここにいるみんなを守ってあげるんだ!」

「そうか……強いな、少年」

そんな思いを持つ子供がいるから、ここは素晴らしい場所なのだろう。

「志輝や私がここにいない時は、貴公が皆を護ってやるのだぞ」

「うんっ!」

元気に返事をする少年は先行すると、リビングの扉を開けてくれる。

いつかは私も志輝も、ここを離れる時が来るだろう。

その時は皆を頼むぞ、少年。



「嬉しそうだな、時雨」

自室に戻ると、自分で淹れたコーヒーを飲むレイズが微笑んでいた。

「何故そうだと?」

「顔が綻んでいる」

指摘され、部屋に備え付けられた鏡を覗くと。

確かに口元に、微笑みが浮かんでいた。

「ここの子供達は、皆強い。慎次郎殿や志輝のような支えがあるからだろうが、彼らの意思はとても強く感じられる」

皆を護る為、侍になると言いだすような少年だっているのだ。皆、仲間や家族を護れる強い意思を秘めている。

「彼らなら、これから先も強く生きていけるだろう。将来に期待できる」

「ふふ……何だか父親みたいね」

父親……そう聞いて、師でもある私の父を思い出した。

志半ばで命を失ってしまった父の思いは、我が力、腰に差すこの刀となって共に在る。

この刀を以て「戦い」を生き抜き、誰も殺さないで「戦い」を終末に導く事が我が願い。

“絶対”の持つ力で、「戦い」によって失われた命を取り戻す事ができれば。そうして、真に命を懸けるべきは、己の為ではなく他人の為だと分かってもらえたなら。

我が願いは、父や道場の皆と誓った願いは、叶えられるはずだ。

人と人が分かり合うには、時間が掛かってしまうかもしれないが……

「時雨、いるか?」

不意に扉が数回叩かれ、扉の向こうから志輝の呼び声が聞こえた。

「何用だ?」

「……僕を、鍛えてほしい」

小さく、だがしっかりと、志輝の声が耳に届いた。

「珍しい。無愛想に見える志輝が、時雨に教えを請うなんて」

くすくす笑いながらレイズは扉を開けにいく。

この「戦い」の参加者の中で唯一、人を殺める能力を持たない者。

殺し合いが前提となるこの「戦い」に於いて、そのような能力が目覚めるのは異例中の異例だとレイズは言っていた。

ならばきっと、志輝には“何か”があるのだ。この「戦い」に於いて志輝という存在は、きっと大きな何かをもたらす。

その眼が、他の命を奪い己の欲望を叶える「戦い」を終わらせる鍵を秘めているように思えるのだ。

「……私で良ければ、構わないが」

レイズが志輝を目の前に連れてきた。私は志輝の眼の奥にある、力を求める意思の強さを認め、頷いた。

「恩に着る」

志輝は頭を下げ、礼を言ってくる。冷静沈着でどこか陰を落とすような少年だが、礼儀正しい。

……道場にも居たな、彼と似た少年が。

だからかもしれない。私は志輝を強くしてやると共に、その命を特に護ってやりたいと思った。

もう二度と、私の教え子を失わせはしない。

命に代えてでも、護ってやりたい。そう思った。



「私の教えは厳しいとよく言われたものだが、平気か?」

「手段を選んでいる場合ではないからな」

「……承知した」

そんなやり取りを交わした後、今の体力を見る為に市内一周を課したのだが。

五分の一も走り切れぬ内に、志輝は倒れてしまった。

根本的なところで、基礎体力から鍛えないと始まらないな……

長い戦いになりそうだ。

だが、私はお前を強くしてみせよう。

そしていつか、お前自身で、誰かの命を護ってやってほしい。

志輝の師となった私は、私の師である父と同じ事を思っていたのだった。


「だからといって……市内五周は……はあっ……無茶苦茶じゃないか……」

「休憩を挟んだら、次は各種筋力トレーニングだ」

「お前、僕を殺す気かっ……」


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