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可愛らしい挨拶

ア「今回は私が主役のお話ですね。ちょっと緊張しちゃいます……」

志「…………」

ア「志輝くん?どうかしましたか?」

志「……僕はしばらく退席する。後はお前がやれ」

ア「えっ?ま、待ってください志輝くん!?」

志「…………(ガチャン)」

ア「うう、行ってしまいました……志輝くん、どうしたんでしょう?まさか今回のお話、志輝くんにとって嫌な事でもあったんでしょうか……」


ア「それでは、外伝をお楽しみください」

「こんにちは、千里ちゃん」

「アエリアさん!こんにちワンですっ」

「こ、こんにちワン……?」

授業がお休みな今日は、志輝くんのお家でお昼ご飯を食べます。

珍しく志輝くんから誘ってくれたのですが、どうやらまた「戦い」の事でのお話みたいです。

前回、私の作るご飯に毒が入っているんじゃないかと疑っていた志輝くんは、そのお詫びということで今日、誘ってくれたとの事です。

私は全然気にしていなかったんですけどね。……志輝くんは、とっても優しい人です♪

そうして今、志輝くんのお家……さくらい孤児院に来たのですが。

「千里ちゃん、“こんにちワン”って、何ですか?」

あまり聞かない挨拶なので、つい気になってしまいました。

何だか可愛らしい響きです。

「今、テレビでやってたんですっ。最近、よく見かけますよ?」

「テレビですか……」

私の部屋にあるテレビ、最後に起動したのはいつでしたっけ……

「テレビ、見ないんですかっ?」

「ニュースは、インターネットや新聞で見ているので」

「ほぇ〜、オトナのオンナですねっ!」

お、オトナのオンナ……でしょうか?

「むきゅっ!立ち話に夢中になってしまいましたっ。中へどうぞっ」

「お邪魔します」

ぺこりと頭を下げて。

いざ、志輝くんのお家の中へっ。



前に来た時も思ったのですが、この孤児院、見た目は普通の一軒家なのに、中はたくさんお部屋があって広いんですね。

その……私の今のお家は……他の方々のお家よりも、……ここよりも、もう少しだけ大きいのですが。

「お兄ちゃんは今、パパに呼ばれています。お兄ちゃんが来るまで、リビングでテレビ、一緒に見ましょーっ!」

千里ちゃんは嬉しそうに、私を案内してくれます。

聞けば、千里ちゃんは私より一つ学年が低いだけとか。最初に見た時は小学生くらいだと思ってしまったために、ちょっと申し訳なく思っちゃいます。

「えっと、今の時間は何がやってましたっけ……」

人差し指を口に当て、むーっと唸る千里ちゃん。とっても可愛いです。

リビングに通されると、テレビの前にはすでに先客が居ました。

絵本をいつも抱えている女の子、夢積ちゃんです。

「こんにちは、夢積ちゃん」

「こっ、こんにちワンっ……」

夢積ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめて、千里ちゃんと同じように可愛らしい挨拶を返してくれました。

流行っているのでしょうか……

「夢積ちゃん、何見てるんですかっ?」

千里ちゃんが夢積ちゃんに近寄って笑いかけます。こうして見ると、本当に仲の良い姉妹にみたいです。

年も似通った、と思ってしまうと、千里ちゃんには失礼かもしれませんが。

「……「いいですよ」……」

「いいですよ」って、お昼休みによくやっている、「笑っていいですよ!」って番組ですね。

私は見ませんが、そういう番組がある事は知っています。

今はちょうど、広告の時間みたいですね。

「どーぞ、座ってくださいっ!」

「……どうぞ」

気付くと、二人に座布団を敷いてもらってしまいました。

「ありがとうございます。失礼しますね」

私は二人の好意に甘えて、膝を折って座布団の上に落ち着きます。

すると、私の膝の上に夢積ちゃんがちょこんと座り、私の肩に千里ちゃんが寄り添ってきました。

「えへへ〜……アエリアさん、柔らかくていい匂いです……」

「……あったかい」

二人して、すっかり和んでしまったみたいです。

……こうして、誰かと寄り添い合うのも、久しいです。

最後に誰かと寄り添ったのは……もう、思い出せないくらい前でしょうか。

……人の身体って、本当に、温かいものですね。

あれ?そういえば最近、志輝くんと戦った時に…………ぽっ。

あれは、寄り添うとかではなくて、志輝くんが、私が怪我をしないようにと……その、抱いて、くれましたけど……ううっ。な、何を言わせるんですかぁっ。

思い出したら、途端に恥ずかしくなってきてしまいました。

だって、あんなに近くで男の子を見るの、初めてだったんですもの……神秘的な、あの銀色の瞳も。

「あーっ、始まりましたぁっ!」

急に、千里ちゃんが私の横で大声を上げました。

何が始まったんでしょう……テレビ画面に注目すると。

『こんにちワン!』

千里ちゃんや夢積ちゃんが使った、あの挨拶が聞こえてきました。

なるほど、これのことだったんですね。

童謡のような優しい歌声と可愛らしいイラストの動物達が、“挨拶”の大切さを訴えている内容でした。

そうですよね。人間は皆、優しく挨拶を交わす事ができれば、誰とでも仲良くなれるはず。

そうして、世界中の皆が仲良くなれたなら。争いなど無い、平和な世界になってくれるはずです。

「……おねーちゃん、今日は来てくれて、ありがとウサギ」

その広告が終わった後、夢積ちゃんがもじもじしながら私にそう言ってくれました。

「こちらこそ。今日はお招き頂いて、皆にありがとウサギです」

「わーいっ、アエリアさんもありがとウサギさんですっ!」

夢積ちゃんのさらさらな髪を撫でつつ広告のように返してみると、夢積ちゃんだけでなく、千里ちゃんも喜んでくれました。

私もこの挨拶、とても気に入りました。可愛らしい上に、楽しい気分になれる挨拶ですね。

こうして、しばらくテレビを三人で見ていると。

「アエリア、もう来ていたのか。待たせた。今から昼食を作る」

リビングの扉が開き、志輝くんがやってきました。

志輝くんの登場を待ち兼ねていた二人が、ぴょんと跳ねて立ち上がります。

最後に私が立ち上がると、三人で顔を見合わせて笑っちゃいます。

「……どうした」

不思議そうに尋ねてくる志輝くんに、私達三人は口を揃えて、せーので言いました。

「「「ありがとウサギっ!」」」

「……ああ、あのうんざりするコマーシャルか」

志輝くんは大きくため息をつくと、夢積ちゃんと千里ちゃんには頭を撫でて、キッチンの方に向かってしまいました。

……何で私だけ、撫でてもらえなかったんでしょう。少し寂しいです。

「お……お兄ちゃんっ」

すると、あまり大声を出さない夢積ちゃんが、向こうに行ってしまった志輝くんを呼びました。

「何かあったか?」

志輝くんはもう一度こちらに来ると、夢積ちゃんの目線に合わせるように足を折ります。

「おねーちゃんにも、なでなでしてあげて」

「「なっ!?」」

私と志輝くんは同時に驚いてしまいました。

確かに、撫でてもらえなかったのは寂しいと思いましたけど……

「おねーちゃんだけなでなでしてないの、ダメだよ、お兄ちゃん。なかまはずれはダメって、パパが言ってたよ」

珍しくたくさん喋って、夢積ちゃんは志輝くんを説教し始めました。

「……分かったよ夢積。僕が悪かった」

ついに折れて、志輝くんはわざとらしく大きなため息をつくと、私の方に向き直りました。

はわわ……まさか、本当に、志輝くんが……

「……不本意だ」

「で、ですよねー……」

恐る恐る、志輝くんの手が私の頭に近付いてきます。

少しずつ近付く度に、私の心拍数が跳ね上がっていきますっ……

「不本意だ、が」

「?」

言葉の続きが気になって、少し気が別の方向に向いた時。

ふわりと、大きくて、少し冷たい、志輝くんの手が、私の頭に乗りました。

「一応、感謝はしている……と思う。二人の相手もしていたし……とても不本意だが」

優しく、丁寧に、二、三回くらい手で撫でられると、志輝くんはすぐ手を離してしまいました。

「あっ……あ、ありがとう、ございます……」

う、嬉し恥ずかしと言いますか……私は火照った頬を冷ますように、手を頬に当ててうつむいてしまいました。

「……礼を言われるような事、僕はしていない」

志輝くんはそう言い置くと、再びキッチンの方に向かって行ってしまいました。今度は、早足で。

しばらくぽーっと、熱に浮かされたような気分で、テレビを見ていました。

そして、「いいですよ」が終わる頃、志輝くんがお昼ご飯の調理を終えました。

孤児院の子供達や、皆の父親代わりである慎次郎さんがリビングに集まり、皆が席に着きます。

「よーし、皆準備はいいかい?」

慎次郎さんが子供達に問い掛けると、子供達は一斉に元気良く返事をします。

「アエリアちゃんも、是非後に続いてね。もちろん志輝もだよ」

「はいっ」

「……ああ」

私達の返事も聞くと、慎次郎さんは満足したように大きく頷きました。

「それじゃあ皆!いただきマウス!」

『いただきマウス〜っ!』

慎次郎さんの号令に皆で続くと、楽しいお昼ご飯の時間が始まりました。

こんなに楽しい時間をくれた志輝くんに、心から、ありがとウサギ、です。



「志輝くん、ちゃんと「いただきマウス」って言いました?」

「普通に「いただきます」だ」

うう、やっぱり……

志輝くんの可愛らしい挨拶、聞きたかったです。


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