真美華と羽純
「じゃー今日の配信はここまで! チャンネル登録と応援ボタンよろー。ほんじゃ、みんなバイバーイ。……よし。配信終了、切り忘れないね? うっす、おつー」
「終わったのか?」
「終わったあ~、うっわ何このスパチャ額。やっばあ」
撮丸を確認する。ここから半分ぐらいWeTubeに取られるとはいえ、史上最高額のスパチャを投げてもらっていた。チャンネル登録者数はこの瞬間にも増え続けているらしい。木雨雪 羽純という女のコンテンツパワー、恐るべしだ。
「いやー、にしてもあんたが急に機械に登ったときはびっくりしたわ。それに、口下手って言ってたくせしてダンジョンのことはめっちゃ喋んじゃん」
「ダンジョンのことしか知らないんだ。あれで問題なかったら、助かる」
「問題ないどこじゃないよ! めっちゃ良かった、みんな喜んでたし。入金されたら半額ギャラあげんね。どっか打ち上げ行こ、お腹減った~」
「真美華」
「わ、な、何だし!?」
突然名前を呼ばれて、ぎょっとして振り返る。木雨雪 羽純は柔らかな微笑みをたたえて、さざ波に立ち尽くしたまま私を見つめていた。私が何も言えずにその姿を見つめていると、木雨雪 羽純は小首を傾げて呟く。
「私は、君の友達でいいのか?」
「へ……?」
「ほら、配信の中で言ってくれただろ、友達とダンジョンで遊ぶって。だから、私は知らないうちに真美華の友達になってたんだって、あのとき嬉しかったんだ」
「あ!? や、えー……」
もちろん口から出任せだった。
あのときは木雨雪 羽純への詮索が始まって動画的に良くなかったから、そう言うしかなかったのだ。それにガチ勢冒険者とエンジョイ勢カス配信者なんて別の世界の住人だ。倫理的に、そんな気軽に友達だなんて言っていいのかとも思う。思うが。
「もっちろん、もうダチだよね! ウチら! だから……今後も出演ヨロぴく!」
……そう言うしかないのだった。
そりゃもう木雨雪 羽純が金になることを知ってしまった以上、私はこの女がシワシワになるまで配信に出し続けるべきだ。もちろん友達だなんてとても私では釣り合いが取れないし、そもそも私はあのときから友達を作らないと決めたはずだ。だけど、このチャンスを逃すわけにはいかない。私の腹黒コンピュータはそんな結論を、0.1秒の間に見事にはじき出したのだった。
「良かった、ふふ。実は、生まれて初めての友達なんだ。学校では怖がられてたというか、完全に孤立していたからな」
「そ、そーなんだ」
「それじゃあ……真美華」
「うん?」
「真美華」
「な、何……」
「真ー美ー華」
「……は、羽純?」
そう名前を呼んでやると、羽純はにこーっと幸せそうに顔をほころばせるのだった。何だか子供みたいなやつだな、おい。こいつのこと神様扱いしてる人にこんな顔見せられないぞ。
「友達に名前で呼んでもらえるの、嬉しいな……」
「あ、あっそう。キショいこと言ってないで、もうさっさと帰るよ、靴乾かしたいし。あ、そーだ、次の配信なんだけどさ、ここの第2層行ってみね? 甲種免許持ってんなら、丙種免許の同行者1人連れてけるはずだし。モンスターとババーッと戦って、解説動画とか撮ってくれたらまたスパチャ投げてもらえるっしょ」
「ん? ああ、そうだったな。真美華には話しておくよ。友達だしな」
「え、何?」
「私はこれでオルタナを辞めたんだ。絶刀、顕現!」
出し抜けに詠唱を行った羽純の手に、銀色の光が集まる。
そうしてその光は、あの日、八王子ダンジョンで私の命を救ってくれた日本刀の形になって……なって……くれなかった。
「えっ」
「これが、今の絶刀だ」
「つ……柄だけになってるーーーー!?」
木雨雪 羽純の手には、刀身の無い、見るも無惨な持ち手だけの絶刀があったのだった。
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あしたは全5回更新です。お楽しみに。




