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トーカー・イン・ザ・ダーク

「電気もう消すかんねー」


 客用布団から返事はない。

 垂れ下がった紐を2度引っ張ると、6畳の和室は薄闇に包まれる。自分の毛布を手繰り寄せ、「おやすみー」と横たわる。

 左隣を盗み見ると、カーテンから漏れ込む光に照らされた木雨雪 羽純の横顔がじっと天井を仰ぎ見ていた。さっきまで妖怪ビチャビチャ女だったくせに風呂に入ってさっぱりしたらすっかり凛々しい乙女に変身していて、美人ってお得だなあとぼんやり思いながら私は目を閉じる。すっぴんでこれとか顔面レベル高すぎるだろ。嫌んなるぜ、まったく。


 木雨雪 羽純を放っておくことができなくて家に招き入れてしまった。

 お風呂に入れて、カップ麺を食わせて、体売るのは最後の手段にしろと小言を言って、こうして寝床まで与えてしまった。この女は借りてきた猫みたいで、私の施しを言われるがまま全部受け入れていた。あまりに言われるがままだったから、踊れとか歌えとか命令しそうになったぐらいだ。

 ああ、我ながらお人好しだ。普段ならこんなこと絶対しないのに。そんな私らしくない奇行を思い出しているうちに、イライラがつのった私は大きく息を吐いて目を開くのだった。


「あのさあ」

「……」

「勘違いされたくないから言うけど、ウチ、別に優しい人じゃねーかんね。困ってる人とかほっとくコスいやつだし、お金にゃ汚いし、めっちゃ人の悪口好きだし。中学では腹黒マミカって呼ばれてたぐらい」

「……」

「でもさ、あんたはきっと忘れてるだろうけど……ウチ、八王子ダンジョンの第1層でアリに殺されそうになってたとこをあんたに助けてもらったんよ。半年前ぐらいかな。あんたが来なきゃ、肉団子にされてたん。だから、こうやって泊めてあげてんの」

「……全然覚えてない」

「んな気がしてたよマジで!」


 「マミカ、須野原 真美華」、投げやり気味に遅めの自己紹介をした私は、勢いで起こした体を再度布団へと横たえる。そうして目を瞑ると、ややもして「そうか」と木雨雪 羽純の寂しげな返事が響くのだった。

 隣から長くて重たい深呼吸が聞こえて、そうして、そいつはまるで思い出話でもするみたいにぽつぽつと語り始める。


「行く所が無いんだ。オルタナを辞めて、家を追い出された。少し厳しい家なんだ。お金は全部父が管理していて、今の私は小銭……ぐらいしか持っていない。だから、無い知恵を絞って、道行く人にお金の稼ぎ方を聞いたんだ。でもあれは間違っていたんだな。酔っ払っていたようだったし。だから、きっと君に会わなければ、私は今頃見知らぬ男の下だったのかもしれない。こうして、穏やかに布団に横になることもきっと、なかった」

「は? なに、それ。……グッロいね、それ」

「ぐろい?」

「だってそれ、厳しい家なんてもんじゃないじゃん」

「そうなのか? ……そう、だったのか?」

「そーだろ」


 はあ、という寂しそうなため息が闇の中に響いた。何が原因で仕事を辞め、家から追放されねばならなかったのかまで聞くのは野暮だと思った。

 でも……それって。


「まあさ、これであんた自由ってことじゃん」

「自由?」

「そーだよ。ヤバ(いえ)から出れたんでしょ、オルタナも辞めたんなら無職っしょ? 無職って不安だけどさあ、もう何だってできんじゃん」

「しかし……」

「何よ」

「何をしたらいいのか分からないんだ、今までは鍛錬とダンジョン攻略のためだけに生きてきたから。目標も、居場所も全部失ってしまった……」

「あっはッ、へーきへーき。気にすんなし、別に分かんないままでいいっしょ。そーゆーときって、あるよ。人生、お休みする時期みたいなさ。ウチも今そんな感じだし、そんなんでも案外生きれてるし。立ち止まんなきゃいけないときとかさ、何やってもうまくいかねーってそーゆーときゃ、休むしかないっしょ。そんで、またなんかやりてーこと見つけたら、また何だって挑戦できるよ、あんたなら、たぶん」

「……そうなのか?」

「だよ? んだからウチは今、ダンジョンでのんびりエンジョイ勢やってんのー」

「エンジョイ勢……」


 木雨雪 羽純は少し驚いた様子だったが、ようやく少し安らいだ表情になって、ごろんとこちら側に寝返りを打つのだった。端正な顔面が唐突に近くにきて、女ながらにドキッとしてしまう。


「真美華」

「な、何さ」

「お礼がしたいな。私に何か手伝えることはあるだろうか?」


 そう言ってイケメン女は、何も知らない子犬みたいに純真無垢な目で私を見つめていた。

 この状況にぽかんとしてしまう。日本でも指折りのガチ勢冒険者、殿上人のこの女が私にお礼がしたいだなんて言ってる。だけどこの女は無一文で……体で払ってもらうしかなくて……。

 そうして腹黒な私は、一瞬のうちにこの女の利用価値を計算し終える。ごろんと寝返りを打ち、見つめ合う。いいだろう、だったら働いてもらおうじゃないの。

 そうして私は、腹黒コンピュータが弾き出した結論を告げるのだった。


「じゃー、コラボ。コラボ配信撮らして」

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