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応戦

 ダンジョンは全てを与え、全てを奪う。


(あらた)あっ、私にももっとヘイトを分けろ! まだやれる、受けてみせる! 新は、少しでもグランディンに、攻撃を!」

「戦えない女を盾にできるか! お前は警戒だけしていろ!」

「でも!」

「いいから、タンクは俺に……任せていろっ! うおおおおぉぉっ!」


 第5層“パンデモニウム”の廊下。まるでロケット花火を乱射したかのように質量を持った光弾が撒き散らされている。

 結界の向こうにはこちらを指差すグランディンに加え、緑色の軍服を着た頭部のない兵隊が一列にマスケット銃を構えており、その銃口は遠距離攻撃リソースである瀬黒 熊楠と園田 京一郎を狙っていた。泉水と木雨雪はその2人を庇うように光弾を己の神器で弾き、直撃を防いでいる。

 瀬黒と園田はその後ろから《アイシクルランス》や《サント・スパーダ》などの魔法攻撃で応戦していたが、しかし射出された氷の槍や光の剣は、グランディンの作り出した結界に触れた瞬間に先細って消えてしまうのだった。


「うわわわわ、やばいやばい! これ壁じゃねーよ! 概念結界っすよこれ! 単純に距離がめちゃくちゃに引き伸ばされてて攻撃が届かない!」

「休むな! 反撃があるってことは足止めになってるってことだ! 撃ち込み続けろ! やつに一撃でも入れば、結界が揺らぐっ!」

「っ……マナポーション追加っ! もっと強いのいくっす! 煌々照らせし魁星よ魔を射抜けっ、《サント・スパーダ・コロッソ》ぉ!」


 園田の神器である魔本・奏音(カノン)からより巨大な光の剣が出現し、グランディンに狙いをつけて発射される。結界へと飛び込んだそれは先ほどよりも長く残ったが、しかしまた景色に溶けるように消滅してしまうのだった。


 グランディンの作り出した結界とこちらの世界の境目には、侵入するものに対しては永遠とも言える距離を発生させる。一方で送り出すものに対しては一切の距離を発生させない。外界からの攻撃が届くことないが、結界内からの攻撃は無制限に送り出すことができるという“概念″によって、無敵の要塞と化していたのであった。


「ぐっ、アアアッ!」

「姐さんっ!?」

「羽純、落ち着け! 突出しすぎだ! あまり攻撃を受けるな! 死ぬぞ!」

「でも、っ、早くしないと……真美華が!」

「何を焦ってやがる! 2人は間に合ってる、最悪を考えるな!」

「だがっ、早くしないとっ……うごっ!?」

「……履き違えるなっ、お前はもうオルタナじゃない」


 蹴撃一閃。突然泉水に腹を蹴られた羽純は壁にその身を叩き付けられ、絨毯の上に転がった。泉水は羽純から視線を切ると雄叫びを上げ、電撃を撒き散らしながら槍を振るう。羽純は、震える手で絨毯を握り締め、しかし立ち上がることはできないのだった。くらくらとした頭の中に、言葉が回る。

 “ダンジョンは全てを与え、全てを奪う”、冒険者の間で昔から言われる慣用句だ。金、名誉、奇跡、何もかもを手に入れられる場所だが、一方で全てを覚悟しなければいけない場所だ。

 真美華はもっと先へ行くことを願ってここまで来た。オルタナに囲まれ、木雨雪 羽純が隣にいることを信頼して、だけどきっと死までは覚悟せずにここまで来た。何にもなれなかった自分を払拭したいと、スキルを取って証明してまで。

 そんな友達が、指の間からこぼれ落ちる砂のように連れ去られてしまった。一人でも多くの追跡者を用意するためにペトラと妙士郎を追わせたが、しかし自分自身は目の前で発生した結界の無限距離の前に阻まれてしまった。

 間に合わなかったかもしれない。だから、もしかすると今頃、真美華はあの非現実の景色の中に溶けて、食われて……。


「っ……」


 羽純はポケットの中の《《それ》》を握る。時間が過ぎれば過ぎるほど、大切なものが失われていく危険性だけが上がっていくのに、それを使う決心ができない。もしも最悪の結果が出てしまったときに、また立ち上がれる自信がない。そして、その迷いが判断を鈍らせ、ダンジョンはその隙を見逃すことはない。……これでは駄目だ、前を向かないと。


「体を、動かせ、迷いは……敵だ! うおおおぉっ!」

「羽純! この……馬鹿が!」


 パンデモニウムの細い廊下へまき散らされる無数の光弾。刃の消えた絶刀を携え、羽純はまた無謀な戦いへその身を投じてゆく。

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