オルタナの実力
「Hey! こっちこっちー! アハハッ!」
猛スピードで森の中を滑るペトラが、こっちに振り向きながら手を振る。『すげえええ』『元気っ娘かわいい!』『ちゃんと前見て』などとコメント欄に文字が一気に流れてゆく。枝にぶつからないようにドローン操作に集中する。あまり動きすぎると画面酔いがどうこう言われるが、しかしそんなこと気にしていられない状況だ。
今はペトラがスケート靴の神器・プリマヴェーラで地面を滑るように駆け抜けていくその後ろ姿を捉えるので精一杯なのだ。それに……。
「サービス、して、やっかっ!」
ドローンのバックモニターを起動しつつ、進行方向そのままで180度回旋。放送画面に、ペトラを追い掛けるイガミオオクロザルの群れが木々を飛び移りながら迫ってくる様子が映し出される。《隠密》でモンスターからのヘイトが薄くなっているとはいえ、ドローンも私と感覚が繋がっている。攻撃に巻き込まれれば、私の体ごと激痛を感じてしまう危険性がある。
『やばいやばいやばい』『デカい猿の集団に追われるの怖すぎ』『棒とか刃物とか持ってる!』、コメント欄の阿鼻叫喚の叫びが加速してゆく。自分の集中力がゴリゴリ削られていく感じがして、ドローンを元の体勢に戻しつつペトラの撮影に戻る。その瞬間だった。背後の園田に肩を叩かれ、私はその場でドローンを急上昇させる。
「たあぁぁぁぁーッ! 起きろッ、天月、顕現ッ!」
ペトラがバックフリップでひらりと飛び上がり、草むらから飛び出してきた少年の頭を飛び越える。次の瞬間、その少年の身体よりも遥かに大きい銀色の鎧の上半身がその場に出現し、飛び込んできた猿たちの進路をまとめて塞ぐのだった。あれがオルタナのタンク、天才少年・遠江妙志郎の鎧の神器・天月だ。
天月が両腕を大きく広げると、猿たちが一瞬足を止める。動物の本能で、突然現れた巨大な物体に警戒心が芽生える。しかし、その一瞬の躊躇をオルタナのリーダーは見逃さない。
「ギィィィッ!?」
猿が2匹まとめて震電に貫かれたかと思うと、引き返してきたペトラがフィギュアスケートのような回転ジャンプで泉水の頭上を飛び越し、プリマヴェーラの刃で猿の喉元を刈る。鮮血が飛び散り、猿が慄く。
「仲間を呼ばせるなっ、一気にいくぞ!」
泉水 新の声に合わせ、遠江とペトラが一気に掃討を始める。私はドローンをちょうど3人の中央に陣取らせ、ゆっくり回転させながらそれぞれの戦いを流し撮ってゆく。『かっこいい!』『うおおおおオルタナつえええ』『なんでお金もっと投げられないんだよ!』、コメント欄が一気にヒートアップしているみたいだ。あ、ペトラが逆立ちしながら蹴ってるあれ、カポエイラっていうんだ。ふーん。
ここは第3層“ノーマンズランド”の森林地帯最終盤、現在は第4層に入る前の安全地帯確保のために周辺のモンスターを狩ってもらっている。時間は18時ぐらいだ。私たちはこれからここで野宿を行い、夜が明けたら4層へ向かう。




