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謎のワイバーン

「はい、配信切ったー。おつかれさまー」


 畳の上にごろんと仰向けになる。紅花 小咲の作ってくれた編集動画は結構いい出来で、見た限りコメント欄も概ね良反応のように見えた。まだ羽純一人でやらせるより、自分が聞き手に回った方が安心できそうなのは否めないが……。


「真美華、話がある」

「んぇ?」


 唐突に声を掛けられ、間抜けな声を上げてしまった。アイス食べよっかなと立ち上がったものの、羽純が真面目な顔で私のことを見つめていたので座り直す。


「どしたん?」

「ああ、真美華には見せておこうと思って」


 そう言って、羽純はパソコンに挿さりっぱのUSBフラッシュメモリのファイルを開く。ページに「渋谷ダンジョン編集済」「渋谷ダンジョン原本」と書かれた2つのファイルが出現し、羽純は「原本」の方をダブルクリックするのだった。


「んえ、何かあったん?」

「カットした映像がある。最後のところ、私が朝食を食べてから録画を切っただろ? 実はそのあともう一度だけ撮影をした。この後の部分だ。慌てて撮影したから、手ブレが激しいのは勘弁してほしい」

「……うん」


 映像は、謎クレープを食べ終わった羽純がごちそうさまと言ったシーンが映し出されている。やがてゴソゴソという音とともに画面が揺れ、カメラがヘアバンドから取り外されて、録画ボタンを探す羽純の顔が映ったところで録画が切れた。その次の瞬間だった。

 羽純の速い息遣いがパソコンから響き出した。夕暮れの橙色のジャングルの中を駆け抜けていく映像が、ディスプレイに映っていた。


『何だ……何だあれは』


 画面は上空へパンし、南国の夕空を映し出している。その空には、何か黒いモヤのようなものがうぞうぞと蠢いていた。ぐらぐらと揺れる画角。足が止まり、GonProの自動ズームモードが起動し、やがてその一つ一つの輪郭が明らかになる。

 ドラゴン……いや、それにしては小型の翼竜が群体となって、はるか上空を飛んでいた。20、いや30は下らない。猿たちも十分恐ろしいモンスターであったが、それとは比較にならないほど強力な幻想怪物(ファンタジック)がじゃれ合うように飛んでいる。……やがてバッテリー切れの表示が出て、映像が終わる。


「これって……ドラゴン? この階層にはいないよね?」

「ワイバーン種だろう。第4層“死出の祝祭”にレッサーワイバーンが出現するから、そこからやって来た“はぐれ”の可能性が高い」


 “はぐれ”、主に下層のモンスターが上層に迷い込む現象だ。滅多に発生しないが、私が王子ダンジョン第1層で襲われたオオクロオオアリもはぐれであり、ダンジョンで発生する事故の多くの原因になっている。逆に上層モンスターが下層に迷い込むこともあるらしいが、その場合はすぐ他のモンスターに駆逐されるんだとか。


「な、なんだ……でも、はぐれだったらそんな隠すようなことしなくても……」

「違う気がするんだ、あくまで私の印象でしかないが」

「……どゆこと?」

「渋谷ダンジョンに出現するワイバーン種は2つ。一つは第4層のレッサーワイバーン、そして、もう一つが第6層“スピードボール・トルネード”に出現するワイバーンアークだ。ワイバーンアークは、たとえ1匹でも絶刀を欠いた私など相手にならない強力なモンスターでな。間違っても、第3層などにいてはいけない存在なんだ」

「え……?」


 第6層、という言葉を聞いて頭の奥が冷たくなる。中層の一番奥の奥、それも羽純も私を守れないと断言するようなモンスターだって? それが、こんなに……?


「え、こ、これレッサーワイバーンじゃなかったの!?」

「確証はないんだ。2種の外見的特徴は体表の色とサイズしかない。レッサーワイバーンは赤く中型から小型、ワイバーンアークは黒で中型だ。しかし、この映像のとおり夕焼け空の逆光で色の判別は難しく、比較対象もないためサイズも分からない。この映像はすでに渋谷ダンジョンの管理部に提出したが、結局判断が下せなかった。一応、群れの規模はレッサーワイバーンの方が大きい傾向にあるから、そちらに当てはまる可能性は高いんだが……」

「じゃ、じゃあ一応レッサーワイバーンの可能性の方が高いんだね。……でもその、聞くの怖えーんだけど……もし、こいつらワイバーンアークだったら、どーなんの?」

「それは……スタンピードの予兆、の可能性がある」

「スタンピード……って、あ、あれだろ!? 昔八王子であった! ダンジョンから、モンスターがドバーッっていう……!」

「まあモンスターがドバーで間違ってはいないが……つまりは、そういうことだ」ドバーはダンジョンブレイクだぞ。

「マジかよ……!」


 渋谷ダンジョンでスタンピードが起こる?

 スタンピード(大暴走)。あの大穴から、わらわらモンスターが這い出してきて渋谷に集う人々を襲いまくる光景を想像してしまう。

 人間は確かに神器を持っている。しかし、スキルが使えるのはダンジョンの中のみだ。地上では、冒険者なんてただの武器を持った一般人に過ぎない。それに渋谷でモンスターがドバーして、東京中にモンスターが拡散してしまえば、私たちの暮らしている高円寺だって無事ではないかもしれない。

 だから、そんなこと、絶対に起こっていいはずが……!

2/3


第6話をお楽しみいただきましてありがとうございます。

あしたは全4話更新です。加速している2人の冒険にぜひご注目ください。

コメントやブクマ、評価などお待ちしております。

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