帰路
ビーッというブザー音が響いて、アナウンスとともにバスは走りだした。バスは夕暮れの八王子の住宅街跡を緩やかに滑り出し、荒れたアスファルトの上でがたがたと震えている。運転手と私たちしかいない閑散とした車内だ。
「ぐえ。……おい、ウチの肩枕にすんなし。重たい」
「んー?」
「重めーってば」
「気にするな」
「ったく……」
羽純は断りもなく私の肩に頭を乗せ、腕組みをしたまま満足げに目を閉じるのだった。……この日本でも指折りのガチ勢冒険者だった女に肩を枕にされてる事実、未だにピンとこないな。くそ、いい匂いさせやがって。
エゴサを中断して顔を上げる。ふと脇を見ると窓の外には倒壊した家々が並んでいて、10年も前に八王子市を襲ったスタンピードの傷跡が見て取れた。見捨てられた寂しい光景を前に何だか妙に感傷的になってしまって、私はぼうっと人生のことなんかを考えてしまっている。
「羽純さあ」
「んー?」
「……あんた恋愛したいの?」
何気なくそんな言葉が口をついて出て、視線を戻してぎょっとする。
私の肩に頭を乗せたままの羽純の双眸が私を見上げていた。初めて会ったときと同じようにばかみたいに美しい顔で、だけどあのときの冷たいイメージからは想像がつかないほどに穏やかな表情だった。言葉を失ってしまう。“自由”に生まれて初めて触れたその女の顔は、あまりにのんきで、幸せそうで……。
「ああ、恋愛、したことない。やってみたいな」
「お、おぉ……そっか」
私は今、一体何を考えていたんだろう。私は混乱気味の想像を振り払って前を向き、「彼氏、できるといーな」と絞り出す。羽純はふふと微笑んだかと思うと、大きなあくびをしてまた目を瞑るのだった。
バスは瓦礫の街を走り抜けながら駅へ向かっていく。人間にしては熱すぎる羽純の体熱が、私の手の甲に乗せられた羽純の手のひらからダイレクトに伝わってくる。
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あしたは全3回更新と少ないですが、その分1パート長めでお送りします。2人の配信ライフをお楽しみに。




