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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第三章──聖者の奇跡と黒い雲

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#79 裏切り者の孫と悲劇の皇子

 ***


 李杏(りあん)の自己紹介に、劉辯(りゅうべん)が付け加える。


「李杏と李儒(りじゅ)は、余の“護衛”だ。物心ついた頃からずっとな。ここにいる李杏は、余の“仙術”の師匠でもある。“()”一族は、代々皇室に仕える宮廷仙人の血統なのだ。表向きは、ただの“文官”だがな」


 劉辯はどうだ、すごいだろうとでも言いたげに誇らしい顔をしている。

 けれどその言い方は、二人にとって少しだけ“軽過ぎた”のかもしれない。

 李儒(りじゅ)は目を伏せ、李杏(りあん)の微笑みが硬まった。

 

 ほんの一瞬だけ、空気が変わったのがわかる。

 でも、劉辯がそれに気がつかないくらい自然に、李杏がフォローする。


「李儒は“表”から、私は“裏”から劉辯さまをお支えしているの。

 李儒はね、とっても強いのよ。後宮に持ち込めるものって、ほら。限られているでしょう?

 でも李儒は、“無手”の戦いではその辺りの男じゃ相手にもならないわ。本当に、すごいんだから」


 にこにこと微笑みながら言う李杏。

 その言葉は“本心”だろう。李杏の顔に“嘘”はない。


 李儒が言った。


「姉さまは買い被り過ぎです。私は“仙術が使えません”ので」


 無表情に、淡々と。でも少しだけ低い声だ。


「そう言うな李儒。李杏の言ってることは本当だ。二人がおったからこそ、余は“まだ”ここにいられる」


 劉辯は二人の背を押してそう言った。


「なんか……本当に陛下のお姉さんみたいですね」 


 私は思わず笑ってしまった。

 李儒は無表情のまま少しだけ目を細め、李杏は嬉しそうに笑う。


「あら、嬉しいわ。そうそう、お姉さんと言えば……劉辯さまがね。この前言っていたの。『董白(とうはく)は、何だか“妹”みたいで放っておけないんだ』って。じゃあ、私たちも姉妹ってことになるのかしら?」


「こら李杏! それは……」


 劉辯が慌てて遮ろうとするが、李杏のお喋りは止まらない。


「夜会の何日か前にも、貴女の様子を見て来てほしいって頼まれて見に行ったわ。“仙術”、上手だったわよ」


「あ……」


 私には思い当たることがあった。

 文姫(ぶんき)蔡邕(さいよう)と三人で、お母さまに初めて仙術を披露した日──。

 天井から感じた誰かの視線。あれは、李杏だったのだろうか。


「おい、待て待て、いったいどこまで話すつもりなんだお前は!」


 途中で劉辯が飛び出して、李杏の口に両手で蓋をする。

 でも、ここまで聞いた感じ。劉辯は李杏を通じてずっと私の様子を心配してくれていたようだ。

 

「陛下……改めてお礼を言わせてください。これまでのことも、それに、あの夜のご助力も……大変助かりました。李儒にも、とてもお世話になったわ」


「あら、私もいたけど?」


 李杏がふふふと笑って手を上げる。


「わ、わわ……私もいましたあ!」


 背後(うしろ)から、文姫(ぶんき)も負けじと手を上げる。


「うん、知ってる。すごく綺麗な詩を書いたのは、貴女でしょう? その年で、立派だわ」


「ええええ!? ……って、あ。そうか。陛下の陰から見ていたのなら、私の“お役目”も知ってたんですね!」


 李杏の返答に、文姫がえへへと嬉しそうにしながら頭を掻く。


 それを見た皆んなが笑った。李儒の口角も、心なしか少しだけ上がった様な気がする。


「もう……文姫ったら。いまはお礼を言ってるのに。……なんか、変な感じになっちゃったじゃない」


「ああ! そうでした。すみません」


 文姫が慌てて頭を下げた。

 でも、劉辯はにこやかに首を振る。


「気にするな。余も其方たちの頑張り。そして機転には驚かされた。まさか父上の要求をあんな風に躱すなんてな。褒めこそすれ、何も謝ることはない。それで……“願い”は果たせたか?」


 劉辯の質問は当然、私たちの“肯定”を予想して放たれたものだったのだろう。

 でも、その答えは半分イエスで、もう半分はノーだ。


「それが……」


 私は一旦言葉を飲み込む。

 ここから先は、また無理なお願いになるからだ。


 言葉を探す私に、劉辯は眉を寄せる。


「まだ……“終わらないのか”」


 李杏の肩がぴくりと震える。


 それを見た時、私は悟った。


 劉辯は──もう“知っている”。


 李儒が扉に近づいて言った。


「大丈夫。“気配”はありません」


 劉辯はこくりと頷いてから、私たちを手招きして椅子を指す。

 文姫と私はそれに腰を下ろすと、改めて劉辯に向き直って尋ねる。


「いつから……。いえ、どこまで……ご存知ですか?」


「……」


 劉辯はしばらく黙り込んでいたけれど、やがて口を開いた。


「其方たちが持つ“予言”の竹簡──その“二つ目”の内容までだ」


 苦々しい顔をした劉辯から返ってきた言葉は、予想通りだった。

 李杏が私たちの周りを見張っていたのだとしたら、当然あの竹簡の中身だって見ただろう。


 もちろん、厳重に隠してはいた。いや、そのつもりだった。


 でも姿と気配を消し、音もなく近づく“仙術”の達人が相手では、私たちに気づけないのも無理はないと思った。だって私たちは、何度もあの竹簡を開いて二人で中身を見たのだから。


 肩越しにその内容を読むことくらい、李杏には簡単にできたろう。


「これまで黙っていて、申し訳ありません」


 頭を下げた私に、劉辯は言う。


「よい。約束したであろう。

 余も、其方が言うまでその秘密について尋ねる気はなかった。しかし知ってしまった以上、尋ねないわけにもいくまい。

 李杏が嘘をついているとは思わないが……余は、ちゃんとお前たちの口から聞きたいのだ。

 董白……その竹簡の予言は、“いつか本当に起きること”なのか?」


 銀の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。


 予言書の第二巻・『毒』の最後には、“この予言は回避された”と確かに書き加えられていた。


 でも、第一巻は別だ。

 ()()()()()()()()()

 一文字たりとも。


 そしてその最後には、間も無く“漢王朝は滅亡する”と、しっかり記されたままだ。


「私は“未来”を見てきました。漢王朝の滅亡は、もうすぐそこにまで迫っています」


 劉辯がひゅっと息を呑む。


「冷夏を止めなければいけないの。劉辯さま。どうかお力をお貸しください」


 劉辯の前に(ひざまず)いた瞬間、胸の奥にどうしようもない痛みが走った。

 “裏切り者”の孫が、あろうことかその被害者──“悲劇の皇子”に救いを求める。


 未来の人が見たら、なんて言うだろう。


 笑い話? ありえない? 


 でも、そんな歴史は繰り返させない。そんな未来はやって来ない。


 私が、いいえ。私たちが──ここから未来を変えるんだ。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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