#7 髪色
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「ありがとう文姫。良い感じだと思うわ」
「えへへ、どういたしまして小紅さま。とってもお似合いですよ。今度はこちらに座ってください」
あの後ひとしきり泣いてから、いま私は文姫に着替えを手伝ってもらっている。
いや〜。着替えなんて一人でもできるわと思ってたけど、全然無理だった。
それもそのはず。この世界には似つかわしくもなく、なんと私の服は“ドレス”だったから。ん? いや待て待てここ古代中国だよね? 私の金髪赤眼の容姿といい、何だか色々と設定がぶっ壊れてないか?
「ちょっと尋ねたいのだけれど、どうして私の髪はこんな色なの? お爺さまやお母さまの髪は真っ黒なのに」
櫛でわたしの髪をとかしてくれている文姫に聞いてみる。
「ええ、赤麗さまのお髪は黒。でも、小紅さまはお父さまに似てらっしゃいますから。阿樂さまは……遠く“西方”からこの地に来られたと聞きました。彼の地では、このような髪色は決して珍しくはないそうですよ」
赤麗は、お母さまの字。
そして阿樂は、お父さま──確か、名は『董輔』だったっけ……なんと、西洋人だったのか。
改めて部屋を見渡してみると、確かに調度品や絨毯なんかは一見して中華っぽくないものがたくさんあった。と、いうことはこの服にもお父さまの趣味がかなり入っているな。
「本当に綺麗なお髪ですが……涼州にいらっしゃった頃は、そのせいで羌族から狙われて大変だったと聞きました。怖かったでしょう」
ああ、お母さまが言っていた『羌族から隠れる』ってそういうことか。珍しい容姿だから、“戦利品”として目を付けられたと。うんうん。何となく思い出せてきたぞ。骨兜に鳥獣の毛皮を被った連中に追い回された記憶が……あ、やべぇちょっとちびりそうになった。このくらいにしておこう。
「まぁ、なんか目立つからしょうがないわね」
私は髪先を一束つかんで仕方がないと肩をすくめて見せる。
「でも、文姫の髪色も相当珍しいと思うけど? 水色の髪……って、私他に見たことないかも」
「あ〜〜、そうですね。これは何か気がついたらこうなってました。お父さまは、昔は私の“髪色”は黒だったと言うんですけれど……」
文姫は顎に手を当てて、なんだか難しい顔をしている。
「何か原因があるのかしら?」
「さぁ〜〜? お父さまの作る“お料理”のせいでしょうか? 小さな頃から植物の根を干したようなものばかり食べさせられてきましたので……」
「ん〜〜。それは……何とも言えないけどそうかもね」
私も文姫につられて顎に手を当てて難しい顔をしてみた。
……干した植物の根? 大根とか人参の漬物みたいなやつかな? なんてことを考えていると、その様子を見ていた文姫がくすりと笑う。
「どうしたの?」
「あ、いいえ、すみません。何だか嬉しくて」
文姫はハッとした顔で、手をそっと自分の口元にやる。
「何が?」
「あの。倒れられる前は、こんな風に私に気を許してはくださいませんでしたから」
「あ〜〜、そっか。本当にごめんなさい。私、多分かなり嫌なやつだったわよね」
「いえいえとんでもない! 全然、嫌なんかじゃありませんでしたよ! でも、以前の小紅さまは少々近寄り難いというか、私たちとは距離を置いていらっしゃったように見えたので。……少し、怖かったんです」
文姫は、正直にそう答えてくれた。
なるほど〜……。この身体に入っているからか、以前の小紅の気持ちが何となくわかる気がする。
ずっと羌族とか人攫いから狙われる人生を送ってきたから、あまり他人を信用できなくなってたのかもしれない。
「そっか。でも嫌いじゃないって言ってくれて嬉しいわ。これからは、もっと文姫とお話できたらいいなって思う。蔡邕とも」
「ありがとうございます。きっとお父さまも喜びます」
私の言葉を受けて文姫の顔も綻ぶ。
「さて、じゃあ着替えも済んだことだし……」
私はチラリと竹簡に目を向ける。文姫はそれに気がついてごくりと一度唾を飲んだ。
「まずは、最初に起きる騒動を何とかしないとね」
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