#6 友達
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「小紅さま、まだ読まないとダメですかぁ?」
文姫はもう許してくださいと言わんばかりの表情で私を見ている。机の上には、まだ他に七つの竹簡がある。それらにはいったい、どんな事が書かれているのか……
「文姫、あなたはこれをどこまで読んだの?」
「う……こ、この第一巻だけですぅ!! 怖くて続きは一人じゃ読めませんでしたぁ!!」
「ええと、じゃあこれを一つ読むのにそう時間をかけたわけではないのね」
「……はいぃ。文字は、読めますのでぇ」
(さすがは蔡文姫……小紅もそうだけれど、この歳でしっかり文字を読み書きできるなんて優秀だわ)
「そう、それじゃあ……」
文姫の方に手を伸ばすと、彼女は一瞬ビクリとしてすぐにぎゅっと目を瞑る。
(いや、だから何もしないってば! 以前の小紅ってそんな乱暴者だったのか?)
私は、ぽんぽんと頭を撫でてから、その手をしっかり握りしめた。
「あれ? お仕置きじゃ……ない?」
文姫は目をパチクリとさせて驚いている。本当に、思ったことがすぐ顔に出るな。(いや、口にもだけど……)
「ええ、お仕置きなんかしないわ。だって私たち、もう仲間じゃない。同じ秘密を共有する」
「な、仲間!? いやいやいや、私なんていつもドジして小紅さまにご迷惑をおかけしてばかりなのにそんな……召使いのままで十分です!!」
文姫は首をぶんぶん振って仲間になりたくなさそうにこっちを見ている……!!
その顔は真っ赤だが目は必死だ。これは謙遜というより、混乱と不安かな?
そりゃそうか……。いくら親の恩人の孫娘だったとしても、これまで散々自分をいびってた相手に急にこんなことを言われても信用できないよな。
「文姫……」
「は、はい」
少し怯えた目で私を見る目つきは変わらない。
「ごめんなさい。本当のこと言うと、わたしまだ何も思い出せていないの。倒れる前のこと」
「……!!」
「だから、私がこれまであなたにどんな酷いことをしてきたのか覚えていない。でも、それはこうして謝らなくてもいい理由にはならないわ」
私は今度こそしっかりと頭を下げて文姫に謝る。
「これまでのこと、全部謝るわ」
「そ……そんなっ!! 頭を上げてください!! 私なんかに頭を下げるなんておかしいです!! 小紅さまらしくありません!!」
「いいの!!」
私は強く、決意を込めて口にする。そして、右手を差し出した。
その手は勝手に震えてた。
「だから、改めてお願い。私の仲間……いえ、お友達になってはくれないかしら? あなたの力を貸して欲しい。わたしは、この予言を止めたいの」
この予言の巻に書かれている内容が、幼い私たちに何とかできるようなものなのかはわからない。
それに、この世界での小紅と文姫の関係性についても、私はまだはっきりと知らない。
だけど、私はこの子を信じたい。だって、私の“一番の親友”にそっくりなこの子が、こうして過去に来てしまった自分のそばにいる。これはもう、運命だとしか思えなかった。
「お願い“文姫”……。私を一人にしないで……」
気づけば、その名を呼んでいた。目から溢れた雫が、ポタポタと私の足元を濡らしていく。
この子は私の知っている文姫じゃない。
それに、私もこの子の知っている小紅じゃない。
でも、もしこのヘンテコな運命のイタズラに何かの縁が関係しているんだとしたら、私たちが親友になれない筈がない。
そんなのは私の勝手な思い込みだって、わかってる。
でも、どうしたら良いのかわからない。友達の作り方なんて、忘れてしまった。
こんなやり方、間違ってるのかもしれない。でも、でも……。
不安と焦りが私の胸をいっぱいに締め付ける。息が苦しい。
時間が止まったように、沈黙が永遠にも思えた。その時──
ふわりと躊躇いがちに、私の手に温かい指が触れる。
「小紅さま。何度も言いますけれど……わたしは文姫です」
小さな声で、文姫はそう言った。
「あ……ごめんなさい。わたしつい……」
ハッと私が顔を上げれば、文姫の柔らかい笑みが迎えてくれる。
「でも、小紅さまにそう呼ばれると……どうしてかわからないけど、涙が出ちゃう」
ポロポロと、彼女の目から涙が溢れていた。
「こんな私でよければ、これからもずっとずっと、お側に置いてください」
文姫はしっかりと、私の手を握り返してくれた。
「ありがとう……文姫……」
私は思わず文姫を抱きしめ、二人してわんわん泣いた。
こうして、私にこの世界で初めての友達ができた。
前世の親友と“同じ名前”の。“水色”の髪をした女の子。
破滅の予言を回避する手立てはまだ何もないし、これからどうするか何も決まっていない。
でも、私はもう一人じゃない。
必ず、未来を変えてみせる。そう心に誓った。
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